2016 年、とある企業が「音楽をやっている社員を応援する」という異色のプロジェクトを立ち上げた。その会社は、コールセンターなどのサービスを提供する大手企業・KDDI エボルバ。音楽をやっている社員が希望すれば、その楽曲を配信サービスに登録し、手数料なども会社が負担するという異色の企画「エボルバで、あなたの夢かなえませんか」プロジェクト第1弾「ハタラク」×「オンガク」。先月号ではKDDI エボルバの代表取締役社長・中澤氏と同プロジェクトに応募したookubofactoryの大久保氏との対談を行ったが、特集vol.2 となる今月号では、KDDI エボルバで働き始めてから結成したという直美ズの関根直美氏にインタビューを行った。
※今回のインタビューは、Evolcity(ITソリューション事業本部)にて実施しました。
直美ズ
立花と関根により約5 年前に東京で結成。メンバー全員が「直美」を名乗るスタイルを取り入れ、メンバーそれぞれのルーツとヴォーカル立花の強烈な個性が融合し、圧倒的パフォーマンスでオーディエンスを魅了する。
L-R
Dr. 関根直美
Vo./G. 立花直美
Key. 田部井“直美”チヒロ
Ba. 石山直美
http://naomizzz.tumblr.com/
●関根さんはいつバンド活動を始めたんですか?
高校のときにドラムセットを買って、大学では音楽サークルに入って趣味でやっていこうと思っていたんですけど、そのサークルがかなり本格的で、追い込まれるように練習して追い込まれるように曲を覚えていったら、だんだん音楽にハマるようになっていって。とは言うものの、周りのレベルが高くて自分はそれほどでもないので、就職して音楽は趣味でやっていこうと思っていたんです。
●はい。
それで大学を卒業して就職したんですが、それまで趣味で一緒にバンドをやっていた友達と「やっぱりちゃんとやろう」という話になって、働いていた職場を辞めたんです。
●仕事を辞めたということは、バンドで食っていこうと思っていたんですね。
そうですね。プロを目指そうと。そのバンドは下北沢などを中心に5 年くらい活動していたんですけど、当時一緒にやっていたヴォーカルが家庭の事情でバンドを続けられなくなってしまって、解散したんです。
●その後どうしたんですか?
音楽を辞めるかどうかと考えたとき、もう少し続けたいなと。それでサポートをしていたルーツミュージック系の“ルノワール”というバンドに正式加入したんですけど、そのバンドも2〜3 年で解散してしまったんです。それでしばらくブラブラしていたんですけど、直美ズのヴォーカルである立花に「一緒にバンドをやろう」と誘われたんです。
●なるほど。
直美ズは僕と立花の2 人で始めたんですけど、1回ライブをやってみたら「ベースも欲しいよね」という話になって。それでルノワールのメンバーだった石山を誘い、3人でしばらく活動していたんですけど、もともと直美ズはキーボードをメインにした曲作りをしていたので、「キーボードも欲しいよね」という話になり、田部井を誘って現メンバーが揃ったんです。
●直美ズ結成は5年くらい前ということですが、関根さんはKDDI エボルバの仕事を5 年以上やっているんですよね? ということは直美ズ結成のときはもう今の仕事をしていた?
そうですね。今の職場に入って半年くらい経ったときにルーツミュージックのバンドが解散して落ち込んでいて、同僚によくそういう話をしていました。
●関根さんの中では、バンドをやるとか音楽をやるということは生きがいというか、人生の中で重要な要素になっていたんですね。
なっていましたし、今の職場のおかげで直美ズがあるというと言いすぎかもしれないですけど、前のバンドが解散して落ち込んでいたときも助けてもらったし、職場があるおかげで持ちこたえて、今の直美ズがあると思っています。
●かなり落ち込んでいたんですね。
そうですね。最初に下北沢でやっていたバンドは若さもあって甘えていたと思うんですけど、次に入ったルノワールはメンバーみんな本気でやっていたし、ツアーをやったりCD をレコード会社に送ったりしていたんです。だから逆に本気でやりすぎて、「ワンマンで100人集められなかったら解散する」みたいなことを自分たちで決めて。
●たまにそういうバンドいますね(笑)。
でも実際には10 人くらいしか集められなくて。だからストイックすぎて解散したんでしょうね。
●KDDI エボルバに入ったときはルノワールで活動していたんですよね? ということは、KDDI エボルバを職場に選んだのは何か理由があったんですか?
シフトの融通が効くというのがいちばんの理由ですね。実際に入ってみるとライブとかも問題なく活動できるし、音楽活動がすごくしやすい職場なんですよね。
●というと?
月に何十本もライブをやっている人は別ですけど、ある程度シフトの融通が効くし、急なライブが入ったときも調整していただけるんです。だから両立がしやすいですよね。実際、リーダーやチーフクラスの人でもバンドをやっている方もいらっしゃいますし、僕が働いているセンターはバンドをやっている人がめちゃくちゃ多いんですよ。
●何人くらいいらっしゃるんですか?
センターは100 人くらいの職場なんですけど、たぶんバンドマンは30 人くらいいます。
●めちゃくちゃ多いですね。
もちろん比重は人それぞれですけどね。バンドに重きを置いているのか、仕事に重きを置いているのか。
●関根さんご自身は、音楽を辞めるという選択は今までなかったんですか?
ルノワールが解散したのは30 歳くらいの頃だったんですけど、そのときに少し悩んだんですよね。でも今から考えると、そのときにいくつかのバンドに声をかけてもらったのが大きかったと思います。直美ズ以外にも加入したバンドがあったんですけど、やっているウチにどんどん音楽にのめり込んでいったというか。
●関根さんにとって、音楽の魅力は何ですか?
うーん。僕はステージに上がったときが結構好きなんです。こうやってしゃべっているとぼーっとしている風に見えると思うんですが…。
●いや、別にぼーっとしているとは思っていなかったですけど、テンションが低いとは思ってました(笑)。
でも、知り合いが言うにはステージ上の僕は全然違うらしいんですよ。ライブではずーっと笑いながら、ヘンなカオして演奏しているらしいんです。
●え! 想像できない!
それは自分の中で個性というか、自分にしかできないことじゃないかなと。だからバンド活動をやっていく中で、それを追求したいという気持ちがどんどん強くなっていって。
●演奏や技術はもちろんだけど、自己表現を追求したいと。
●以前からそういう自覚はあったんですか?
最初にやっていたバンドでライブハウスの店長とかに「君のパフォーマンス良いからもっとやれ」みたいなアドバイスをもらっていて、次に入ったルノワールでもっと振り切ってやってみたんです。そしたらそれが良くて、でもやり過ぎたら演奏がついていかないので演奏とパフォーマンスを両立させるようにして、今がいちばんいいバランスなってきたと思っています。
●ほう。
それに直美ズには合ってるんですよね。僕がどれだけ振り切ってパフォーマンスをしようが、ヴォーカルの立花がそれ以上のステージをやってくれるので、ちょうどいいんです。
●居心地がいいというか、関根さんの居場所がある。
●自分の中ではどちらが本当の自分ですか?
どっちも自分なんですけど、楽しいのはやっぱりステージの上ですよね。やってて気持ちいいし、緊張感やスリルも含めてステージは楽しいです。かと言って、仕事をやっている自分も本当の自分だし、KDDI エボルバのオペレーター業務にも入り込んでしまうというか。電話でお客様と話しているときも雰囲気が違うらしいんです。
●というと?
すごく丁寧で優しい雰囲気になっているようです。電話応対中は、楽しく明るく話していますね。
●スイッチが入るんでしょうね。
●関根さんにとって、音楽をやるということはかなり重要なんですね。
はい。音楽は、年齢を重ねていくにつれて引くに引けない感じがどんどん強くなっているんですけど、引くに引けないなら押すしかないかなと思っていて。もちろん葛藤はありますけど、自分の中では今がいちばんいいメンバーが揃っていると思っているので、やるなら今しかないと思っているし、なるべく直美ズを長く続けることができたらいいなと思っています。
●ところで、直美ズは今回「ハタラク」×「オンガク」に応募されましたけど、KDDI エボルバが音楽をやっている社員を応援するというプロジェクトをやることについては、どう思いました?
“エボルバでこういうことやるんだ”と少し驚いたんですけど、でも自分の職場には30人くらいバンドマンがいるし、職場では繋がりがなかったけどライブハウスで偶然知り合ったKDDI エボルバのスタッフも結構いるんですよ。
●ええっ!
だから他の職場でもそういうことが結構あるんじゃないかなと。コールセンターはシフトに融通が効くし、給料も安定しているので、とにかくバンドマンや芸術をやっている人にとっては働きやすいと思うんです。そう考えると必然的に、「ハタラク」×「オンガク」のようなプロジェクトが生まれてもおかしくないかなと。
●今回直美ズが同プロジェクトに参加した楽曲「Friday Focus Frash」はどういう経緯でできた曲なんですか?
立花が直美ズ結成以前に弾き語りをやっていたんですけど、たまたま僕と石山が立花のライブを観たんです。立花はそれまでガレージバンドをやっていたんですけど、その弾き語りライブで急に「Friday Focus Frash」を歌って、それがすごく印象的で。だからこの曲は、自分たちが直美ズをやるきっかけになったというか。
●楽曲の真ん中には立花さんの歌がありつつ、ファンクやジャズなどの要素を採り入れたグルーヴィーなサウンドが特徴ですね。
僕らの時代って音楽の裾野が広かった時代なので、メタルから横ノリ系まで幅広く聴いている人が多いんです。僕はルーツミュージック系ではあるんですけど、立花はガレージバンドをやっていて基本的には洋楽の70s〜80s のロック全般が好きなんです。だからルーツミュージックもよく聴いていて、カッティングが好きらしいので、今のような音楽性になっています。
●ただ、他の曲も聴かせていただきましたけど、バラエティに富んでいるというか、1 曲1 曲が全然タイプの違う曲で。
今は本気でやっていますけど、直美ズを結成した頃は、今までバンドをやるだけやったメンバーが集まったということもあって、ちょっと“夢が終わった”という雰囲気があったんですよ。
●夢を1回諦めた人たちが集まったと。
はい。だからジャンルや縛りにこだわらずに、1曲1曲にやりたいことを込めて作っていった結果、それぞれが全然違う雰囲気の曲になったんでしょうね。
●今回の企画は、”エボルバで、あなたの夢かなえませんかプロジェクト”ということですが、関根さんの今の"夢"は何なんですか?
直美ズでもっと売れたいし、もっと大きなステージでライブをしたいですね。それが夢かな。直美ズはそれぞれが週4か週5で働いていて、それぞれ運良くバンド活動をさせていただける職場環境のメンバーが揃っているので、仕事や生活に支障がない範囲で、出来る限り本気で、長くやりたいと思っています。
取材/文:山中 毅、写真:美澄
関根直美
下北沢屋根裏パンク系のバンドに始まり、ルノワールや鼻ホームランの森などでの活動を経て現在は直美ズのドラムを担当。KDDIエボルバでは電話でお客様をサポートするコールセンターの業務を担当している。
次回予告
次号では、圧倒的なパフォーマンスに定評のある直美ズのライブレポートを敢行予定!! 直美ズのライブの魅力と、Dr. 関根直美の“ヘンなカオ”に迫る!!