第一線で活躍するアーティストの音楽的な背景や初期衝動、そして人間としてのルーツを探る
「俺が弱っている時に人から言われたら嬉しい言葉を歌詞にしているのかもしれない」
●TAKUMA君が音楽を意識し始めたのは?
TAKUMA:やっぱりアニメソングちゃいます? マニアックなんですけど、『銀河旋風ブライガー』というのがあって。
●…?
TAKUMA:これ、誰に言ってもキャッチしてくれないんですよね(笑)。主題歌をいつも歌っていたんです。ガンダムとか、再放送のマジンガーZとかデビルマンとか。
●アニメばかり?
TAKUMA:あとは、姉貴が聴いていた近藤真彦を聴いたり。郷ひろみが歌っている「哀愁のカサブランカ」の英語バージョンとか、五木ひろし、桂銀淑、美空ひばりとか親父がよく車でかけていた音楽を聴いていました。親父がミュージジャンをかじっていたので、ギターを弾きながら唄っている姿も見ていたし…そういうところに影響されているんじゃないですかね。
●そこから音楽にのめり込むようになったのは?
TAKUMA:中学くらいからですね。楽器を始めたのは高校からなんですけど。
●中学の頃はどういう音楽を聴いていたんですか?
TAKUMA:最初はBOOWYとかZIGGYを聴いていて、だんだんヘヴィーメタルを聴くようになったんですよ。Xとかを聴いて、「もっと激しいものないかな?」と思って、それからはヘヴィーメタルにどっぷり。大学に入ったくらいからレゲエも一緒に聴き始めたんです。レゲエ、ヘヴィーメタル、ハードロック…。ヘヴィーメタルサウンドは全般的に聴いていましたね。
●(笑)。バンドはいつ頃から?
TAKUMA:高校の時ですね。メタルの影響でギターをやろうと思っていて、髪はすごいロン毛で(笑)。その頃はコピーバンドでメタリカ、メガデス、セパルトラ、パンテラ…メタルならなんでもござれという感じでしたね。でもB'zとかWANDSを聴いている自分もいたりして。裏切り者的な(笑)。
●大学ではバンド一筋だったんですか?
TAKUMA:いや、クラブ活動もやっていて。高校の時にアーチェリーでインターハイに行って、その推薦で大学に入ったんです。でもそのストレスがハンパじゃなかったですね。
●ストレス?
TAKUMA:俺は間違ってないのに怒られたりとか。1年生の時に「この時間にここを出発しろ!」と2年生のF先輩に言われてその通りに出発したら「遅い!」と怒られたんです。3年生が出てきて「なんで遅れてるんじゃ!」と言われたから、「いや、2年のF先輩に“4時に出ろ”と言われて…」と答えたら、「いや、僕が言ったのは“4時に駅を出ろ”という意味だったんだけど…って(笑)。F先輩のことはそんなに嫌いじゃなかったから、“裏切られた”というというのがめっちゃショックで。「これはダサい! カンヌダサい映画祭グランプリや!」と思って(笑)。
●(笑)。
TAKUMA:悔しいし、俺の顔も丸潰れやからこのまま引き下がるわけにはいかないと思って、寮に帰ってからF先輩のところに行ったんです。「あれ何ですか?僕言われたとおりにしたのに怒られましたよね?」と言ったんですよ。そしたら「お前何年生やねん?」「…1年生ですけど」「俺何年や?」「…2年生です」「下がれ!」って(笑)。
●完全に縦社会ですね。
TAKUMA:次の日辞めましたね(笑)。その時に“先輩だろうが上司だろうが、間違った時は絶対に謝らないとダサいし、誰もついてこない”という持論が出来て。授業もクラブであまり出ていなかったからダブっちゃったりして、結局大学も辞めてバンドに没頭するようになりました。そこから音楽がめっちゃ楽しくなってしもうて。本当にアナーキーな気持ちですよね。“この腐った社会に怒りの一撃を”ぐらいの気持ちで(笑)。
●(笑)。
TAKUMA:その頃メンバー募集でFlameというバンドに入って、俺はヴォーカルだったんですけど、ギターのやつがプロ顔負けなくらいめちゃくちゃ上手くて。そういう人が近くにいたから知識や感覚だけは研ぎ澄まされていって。技術はほとんどないんだけど、そのお陰で10-FEETを組んでからも「ドラムはこうで、ベースのフレーズはもっとこうやで!」と音楽面でリードしてきたし。本当にヘヴィーメタル様々やなって。
●Flameはどのくらい続けたんですか?
TAKUMA:1~2年くらいで解散したんですけど、そのギターを新しいバンドに誘って、ドラムはギターの友達でメジャーバンドのサポートをしていたようなバリバリ上手い人に頼んだんです。ベースは現メンバーのNAOKIだったんですけど、その4人で10-FEETを始めたんですよね。もうギターとドラムはありえなくらい上手くて、今の俺らなんかゴミですよ(笑)。
●10-FEETは当初4人だったんですね。
TAKUMA:そうなんです。それで、京都嵯峨芸術短期大学というところで学祭ライブをやったんです。その時、ギターのやつがリハーサルでコーラスをしなかったから、「なんでせえへんねん? マイクのレベル取れへんやないか!」と言ったらめちゃくちゃ怒って、スイッチ切ってどっかに行ってしまって。キャンパスの食堂近くでめっちゃ口喧嘩になって、そこで解散決定。ドラムもギターと一緒に辞めてしまいました。
●今やっている曲はその頃にはあったんですか?
TAKUMA:「PARTY」くらいしかないですね。「LIFE LIFE LIFE」もギリギリやっていたかな? とにかくめっちゃ上手かった。ギターソロとかハンパじゃなくて。でもそこから楽器を全く知らないKOUICHIと、俺とNAOKIでバンドを組んでここまで結果を出せたということは、技術じゃなくてハートであったり、センスであったり、アイデアなんだなと。俺もギターなんかちょっと弾けるくらいで、1曲丸々弾くなんてもってのほかだったんですよ。しかも弾きながら唄うなんて「馬鹿なこと言っちゃいけないよ!」ぐらいのレベルだったんですけど、他の2人が3ピースでやりたいと言い出して。それでここまでやって来れたということは、すごく面白いことを実証出来たなと。
●10-FEETとして8年間を振り返ってみると?
TAKUMA:最初はお客さんもいなければ経験値もないし、お金も無いし、CDを出すツテもない状況で。特にCDを出したくてしょうがなかったけど、とにかくいい曲を作って、お客さんをびっくりさせることが一番楽しかったし、「誰も知らんけど良いバンドがおる」と言われるバンドになりたかったから。俺個人としても、新曲を作って、まずはメンバーが「めっちゃええやん!」と言ってくれるのが一番嬉しかったし。…今はそういう感じじゃなくなっているところがあると思うんですよね。バンドをやり始めたころのドキドキした気分というのは、大好きな女の子とデートするような気分だったし。今、経験値があって技術が向上した中で、あの感覚というのをもっと思い出していけたら、シンプルでめっちゃいい曲が書けるんじゃないかなと思う。ああいうリアルな気持ちを自分の中にもう1回見出して、肌でゾクゾク感じるような気持ちで音楽活動をしたいというのはすごく感じますね。
●でも、10ーFEETの音楽は当然技術だけじゃなくて、バンドが過ごしてきた歳月だとか、出会ってきた人であるとか、経験の上にすべてが成り立っていると思うんですよね。だから確かに初期衝動と同じことは出来ないと思いますけど、8年間の重みがいい形で出ていると思うんです。
TAKUMA:出ているんですかねえ…だったら嬉しいですね。純粋さはどんどんなくなっていくし、今も「純粋だった頃の木道で作れているかな?」と自問自答するんですよ。
●改めてそこを大事に思っているということですよね?
TAKUMA:めちゃめちゃ大事に思っていますね。とにかく純粋さを愛しまくっているというか、憧れているし、人を大好きになることに憧れているし…やっぱり欲が出てきているのかな。学習していくし、落ち込むこととか、悲しむこととか、、悔しくなることに免疫が出来ていく部分がありますね。でもとにかく優しくありたいし、純粋でありたいし、何にでもワクワクして目を輝かせている人間でありたんです。音楽に対してもそうですよね。僕の書いている詞は弱者に向けてのメッセージだから。それも、強い自分が唄っているのではなくて、自分の弱い部分で、横からみんなと同じ目線で唄っている。
●そういう想いって、“家族、仲間、酒、音楽”というテーマで、アルバム『4REST』にも表れていますよね。
TAKUMA:めちゃくちゃ表れていますね。こう言っちゃなんですけど、音楽家じゃなくて、一人のTAKUMAとしては、そうやって人間として考えることのほうが大事で。それを好きな音楽で伝えることが出来たら素敵だと思う。とにかく俺は常に悩んでいるし、落ち込んでいるし、助けてほしいんですよね。「助けてほしい」という気持ちを俺は誰よりも知っているつもりだから。苦しくなって、仕事も全部放り投げて、家に引きこもって毎日遊んでいたいという状態になっている人が投げかけてほしい言葉、必要としている気持ち、そういうものをリリックにしていきたいなと。俺が弱っている時に人から言われたら嬉しい言葉を歌詞にしているのかもしれない。
●ここまで人の内面を感じさせるような言葉って、他にないと思うんです。
TAKUMA:内面を感じさせるリリックって難しいですよね。良い言葉って冷めた言い方をすれば、市場に出回っているからサラッと流れてしまうんですよね。“泣いた数だけ強くなれる”というのも、すごくいい言葉だと思うんですけど、いろいろな人が唄っているから。そういう意味で、内容はもちろん、言葉の並べ方にはすごく気を使っていますね。“泣いた数だけ強くなれる”じゃ伝わらないから、“ハナ垂らして、汚い顔でぐしゃぐしゃになった分だけ強くなれるで”という風に変えてみたり。そういうことでリアリティが生まれてくると思うし…これ、俺のルーツの話になってるのかな?
●(笑)。では最後に今年の抱負を聞かせてください。
TAKUMA:もっといろんな人に10-FEETを知ってほしいですね。もちろん有名になりたいというのもあるけど、10-FEETを知ったら元気になるくらい疲れているヤツが、今のご時世いっぱいいると思うんですよ。もちろん10-FEETだけに限らず、他のバンドでもそういうものはあると思うんですけど、俺らは疲れている人に効く言葉を追求しているので共感してもらえる自信はあるし、そういう意味での精神的滋養強壮になるようなリリックと音楽を作っていることに誇りを持っているから。CDをもっと聴いてもらいたいし、ライブでもこういう話がしたいし、もっとみんなと会いたいですね。