そっと包み込むようにソフトな音像を奏でるテクニカルなインストゥルメンタルと、その上を伸びやかに浮遊するような透き通った女性ボーカル。プログレからポストロックやマスロックにまで至る難易度の高い音楽的ルーツを、J-POPを通過した柔軟なセンスで自分たちなりの“ポップ”へと、宇宙コンビニは昇華している。そのバンド名が想起させるとおり壮大さと親しみやすさを兼ね備えた独自のサウンドを生み出しているのが、京都から現れた平均年齢21歳という若者3人ということにも驚きを禁じえない。初の全国流通盤をリリースする彼らに話を訊いた。
●まずは“宇宙コンビニ”というバンド名の由来が気になるところなのですが…。
えみちょこ:これは“宇宙のように壮大で、かつコンビニで流れているような身近な音楽”という意味で付けたんです。
だいじろー:最初のコンセプトとして“壮大な音楽をやろう”というのがあったんですけど、やっぱり僕らは3人ともポップな音楽が好きやから。その2つを合わせた感じのコンセプトですね。
●そのコンセプトの下に、3人が集まった?
だいじろー:元々は同じ名前で僕がやっていたバンドがあって、当時はもっとロック色が強かったんですよ。そのバンドが解散した後に“もっと幅広い人たちに聴いてもらえる音楽をやりたいな”と思って、えみちょこを誘って2人で始めたのが今の“宇宙コンビニ”なんです。
なずお:僕は1年前くらいからサポートで参加し始めて、正式に加入したのは数ヶ月前なんですよ。好きなタイプの音楽だったので一緒にやりたいなと思っていたんですけど、その念願が叶ったというか。
●最初から今の音楽スタイルだったんですか?
だいじろー:最初はインストバンドをやろうということだったんですけど、2人とも歌モノも好きやから「ゲストボーカルを入れたりしたいな」っていう話はしていて。でもボーカルがなかなか見つからなかった時に、えみちょこが良い声をしているのに気付いて「歌ってみない?」と。寿司屋で説得して、決意してもらいました(笑)。
●寿司屋で説得したんだ(笑)。
だいじろー:そこから、歌モノもやりつつインストもやるという今の形になったんです。自分の中では最初のコンセプトがそこまで変わったとは思わないんですけど、えみちょこが歌うようになってから歌モノの比率は上がりましたね。
●えみちょこさんは歌うことに抵抗はなかった?
えみちょこ:ボーカルを担当するのは初めてだったので、最初はやっぱり抵抗がありました。自分の声に自信がなかったし、人前で歌うということにも抵抗があって…。でもやっていく中で「どうやったら良く聴こえるんやろう?」とか自分なりに研究していくと、楽しくなってきたんですよ。お客さんから感想を言ってもらったりするのもすごくうれしいし、今は楽しくやれています。
●やっていく内に楽しくなってきたと。
えみちょこ:歌いながらベースを弾くというのも初めてだったので、練習はすごくしましたけどね。感情が楽器よりも直接的に伝わるのが良いなと思っていて。歌うようになってから、“伝えたい”という気持ちが大きくなってきたんです。
だいじろー:僕らは多くの人に聴いてもらいたいという想いが強いので、聴きやすさを意識している面もあって。そういう要素はだんだん前に出てきているのかもしれないですね。
なずお:前と比べると、インストの割合は明らかに減ったかなと思います。
●元々はインストやポストロックみたいな音楽がルーツになっているんですか?
えみちょこ:私は中学校くらいから音楽を聴き始めたんですけど、その頃はポストロックとかも色々と聴いていて。でも一時期はなぜか激しい方向に行っていて、Mr.Bigのライブにも行ったりしていました(笑)。高1でベースを始めてからは、J-POPやJ-ROCKを中心に聴いていましたね。
なずお:元々は僕もJ-ROCKを中心に聴いていたんですけど、中3の時にDream Theaterに出会ってしまって。そこからハマって、プログレとかを聴き始めた感じですね。今もだいじろーさんから色んな音楽を聴かせてもらって、ちょっとずつ変わっていってはいます。
●だいじろーさんが一番ディープに聴いている?
だいじろー:僕個人はかなりゴチャ混ぜな感じで、昔のプログレみたいなものからHellaやtera melosみたいな最近のマスロックまで色々と聴いています。そういうルーツもありつつJ-POPだったりポップス的なものも好きなので、バンドでは自分がやりたいことを日本のリスナーにも聴いてもらいやすい形に当てはめて表現している感じですね。
●曲や歌詞を通して、リスナーに伝えたいメッセージ性のようなものもあるんでしょうか?
だいじろー:メッセージ性というよりも、“コンセプト”というほうがニュアンス的に近いかな。コンセプトは明確にあるんですけど、伝わりにくい部分もあって。1人1人で感じてもらうことも違うだろうから、それぞれで解釈してもらえば良いかなと最近は思っています。
●歌詞の表現もあえて曖昧にすることで、リスナーの想像力を喚起する感じというか。
だいじろー:あんまり直接的に書いてはいないと思いますね。あと、最終的にはどの曲も前向きな形で完結するようには意識していて。それは歌詞というよりも、曲作りの時点で意識していることなんですけど。後半のアウトロとかも、前向きな感じのする展開やコード進行を意識して作っていたりするんです。
●そのせいか曲を聴いていると、光を感じさせるものが多い気がします。
だいじろー:まさにそうだと思います。光を感じさせるようなイメージはすごく近い気がしますね。
えみちょこ:私もそういうものを意識して、ベースラインを付けたりはしています。
なずお:音を聴いた時に「きれいやな」っていう印象はありますね。
●歌と楽器を使って情景を描くように、音を奏でているといったイメージが近いでしょうか?
だいじろー:そういう印象が感覚的にはかなり近いと思います。僕は曲を持ってきた時点である程度のイメージがあるんですけど、この3人で音を合わせると変わってくるんですよ。それによって「とんでもなく良い曲ができたな」と思うこともあって。
●だいじろーさんの持ってきた原曲にメンバー2人の音が加わることで、大化けしたりもする。
だいじろー:一緒に音を合わせた時点で確実に2人の色は入ってきているから、自分が作った曲でも僕の色だけに比重が偏っているとは思わないんですよ。3人でバランス良く作っている感じが出ていると思います。この3人でしか出せないものがあるということを今は感じられているので、すごく満足していますね。
●それは、えみちょこさんとなずおさんが共に独自の色を持ったプレイヤーだからこそでしょうね。
だいじろー:そうだと思います。なずおは自分では個性がないとかよく言うんですけど、実はすごくクセの強いドラムで。なずおが叩いたら“なずおっぽく”なるし、同じ曲を叩いていても他の人とは全然違うんですよね。えみちょこのベースもたとえば運指的にメチャクチャ難しいことをしているわけじゃなくても、すごくメロディアスなので聴かせる感じがあって。2人ともすごく特徴的で、クセの強いプレイヤーですね。
●それは、だいじろーさんのギターも同様では?
だいじろー:そうですね(笑)。逆に僕は普通のギターが弾けないから…。
●タッピングやアルペジオが多いですよね。
だいじろー:耳に残りそうな部分はそういう奏法をしていて、ボーカルを立たせたいサビの部分とかではバッキング的にコードを弾いたりもしています。
●今回の1stミニアルバム『染まる音を確認したら』で、技術的に新しい挑戦をした曲もあったりする?
だいじろー:M-5「strings」はアコースティックギターの曲で、ギリギリにできてレコーディングに何とか間に合ったんです。僕自身も挑戦しているし、ドラムにも新しいことに挑戦してもらった曲ですね。ベースとボーカルに関しては僕から言うことが少ないので、あまりわからないんですけど(笑)。
えみちょこ:そこは私がわりと勝手にやっています(笑)。でもベースラインを付ける時は、2人の演奏に雰囲気を合わせることが多いんですよ。だからベースでそんなに新しいことをしているわけじゃないんですけど、曲全体としては新しいと思いますね。
●他の6曲はライブでもよくやっているような曲?
なずお:ほぼ毎回、ライブでやっている曲ですね。だから、セットリストみたいなところもあって(笑)。
だいじろー:ライブでは特にM-1「Pyramid」が代表曲というか、勝負曲みたいな印象が強いです。
●MVになっているM-3「tobira」は、今作で唯一えみちょこさんが歌詞を書いているわけですが。
えみちょこ:他にも書いたんですけど、ボツになったんです(笑)。個人的には歌詞を書き貯めたりもしているんですけど、だいじろーさんが曲を持ってくる時点で歌詞とメロディが出来上がっていることが多いので、宇宙コンビニではまだ1曲しか歌詞を書いていなくて。
●だいじろーさんが歌詞まで書いてくることが多いのは、曲ができた時点でイメージが見えているからでしょうか?
だいじろー:まさにそうですね。そのことは、えみちょこにも話していて。「tobira」に関しては、えみちょこの歌詞から曲を作っているんですよ。歌詞からメロディを当てはめていったので、曲ができた時点ですごくきれいにハマっていて。“奇跡の1曲”と僕は呼んでいます。
●今後もえみちょこさんが先に歌詞を書いてから、だいじろーさんが曲を付けるというパターンはありえるわけですね。
だいじろー:そういう感じもあるでしょうね。でも僕としては、えみちょこが1曲まるまる書いてくるというパターンが理想ですね。
●歌詞だけじゃなく曲も全部、えみちょこさんが1人で書いてくるのが理想だと。
だいじろー:ただ、えみちょこは曲を作った経験があまりないと思うので、そのへんをガンガンできるようになってくれたら新境地の宇宙コンビニが見れるんじゃないかなと。
えみちょこ:(小声で)…がんばります。
一同:ハハハ(笑)。
●今回が初の全国流通盤となるわけですが、自分たちではどんな作品になったと思いますか?
なずお:僕的には、この1年間のまとめみたいな感じがしますね。
えみちょこ:“宇宙コンビニはこういうバンドです”という自己紹介的な部分もありつつ、“ここから”という感じのする作品になったかなと思います。
だいじろー:現段階での音楽的な方向性をいくつか明確に提示したつもりなんですけど、今後はそれらをさらに尖らせていくぞっていうような…“激おこプンプン”している感じですね(笑)。
●なぜ怒っているんですか…?
だいじろー:“今の僕らを聴いて下さい”という作品に仕上がっているんですけど、“このままでは収まりがつきまへんで!”っていう感じもあるんです(笑)。
●もっとやれるぞと(笑)。『染まる音を確認したら』というタイトルはどんなイメージで?
だいじろー:これはアルバム全体のイメージから付けました。リスナー1人1人が、僕らの音で染まってほしいなという想いを込めています。“確認したら”というのは、リスナー1人1人が僕らの音に染まってくれているのをメンバー3人が“確信”しているという意味なんですよね。意味としては“確信”が近いんですけど、言葉としては“確認”のほうがしっくりきたのでそっちにしました。
●自分たちでも自信の持てる作品ができた。
えみちょこ:ものすごくこだわって今回のアルバムを作ったので、本当にたくさんの人に聴いてほしいです。ライブは音源とはまた違う感じになっているので、ぜひレコ発イベントにも来てほしいですね。
なずお:宇宙コンビニはライブバンドやと思っているので、ライブにもぜひ観に来てほしいです。
だいじろー:宇宙コンビニを一言で言うと、好奇心の化け物やと僕は思っているんです。それを多くの方にも感じて頂きたいので、ぜひライブにも遊びに来て下さい。ライブを観てもらえたら、僕らの音に染まって頂けると確信しています。
Interview:IMAI