今まさに大阪インディーズ・シーンの中核を担っているバンド、uchuu,(ウチュウ)が満を持して初の全国流通音源を完成させた。身体を揺さぶるダンスミュージック的なグルーヴやエレクトリックな質感が印象的でありながら、その根幹にはロックミュージック的なダイナミズムとエモーションに満ちたバンドサウンドが躍動している。hare-brained unity/HIGH FLUXの和田大樹が主宰する新進気鋭のレーベル“Play decibel”からリリースされる、彼らの1stミニアルバム『Weltraum;Gate(ウェルトラムゲート)』。そこには無限に広がる宇宙のように、未知なる音体験との新鮮な出会いが待ち受けているだろう。
●バンド名や作品タイトルからはコンセプチュアルな印象も受けるんですが、最初から何かしらのビジョンがあって活動を始められたんでしょうか?
K:自分たちで“ここまで”というのは決めずに、“限りがないものになれたら”というのは最初からありましたね。サウンド的には、スケール感を重視していて。日本の人だけじゃなくて、世界中どこでも聴いてもらえることが大事というか。英詞がメインになっているのも、そういう理由からなんです。
●音楽性も結成当初から、今に近いものだった?
K:今みたいな形でやりたかったんですけど、当初はできなかったという感じですね。活動自体は2010年からやっていて、今のメンバーになったのが2013年なんです。演る人が変われば音楽も変わると思っているので、今の音楽性になったのは今のメンバーだからじゃないかなと。
●現メンバーになったことで、音楽性も変わったということ?
K:基本的に僕が曲を作っているんですけど、メンバーが活きるようにということは考えていて。僕の頭の中にある程度の完成図があって、その片鱗みたいなデモをみんなにまず聴かせるんです。そこから完成図に向けて各々が木材を持ってきたり、ドアを持ってきたり…という感じで作っていくんですよ。
●完成図は自分の中にあるけれど、そこにメンバーの手が加わることで予想外の変化も起きたりする。
K:庭に花が咲いたり、池ができたりするくらいの感じですけどね(笑)。音楽的にも信頼しているし、各々のメンバーが出してくるものはカッコ良いなと思っているんですよ。Airi(Dr./Cho.)に関してはもう、野生のカンみたいなのがあって。
●野生のカン!?
K:話を聴いてみると、彼女はそんなに音楽は聴いていないと思うんですよ。でもすごくカンが鋭いというか。僕も驚かされることが多々ありますね。
●Kさん自身は色んな音楽を聴いていそうな感じがしますが、ルーツはどのあたりなんでしょう?
K:本当に何でも聴きますね。そもそも一番最初は父親の影響でレッド・ツェッペリンを聴いたのがキッカケで、僕は音楽を始めていて。シューゲイザーやダブからフリージャズやヒップホップとかも聴くし、「良いな」と思った音楽は何でも聴きます。
●サウンド的にはデジタルな印象が強いですが、ヴィンテージのシンセを使っていたりもするんですよね。
K:機材はすごく好きなんですよ。ヴィンテージのギターやシンセみたいな古い機材には、それにしか出せない温かみがあって。そういった古き良きものにも最新の楽器にもそれぞれ良いところがあるので、ちゃんと共存できるように混ぜてあげられたらなとは思っています。
●完成図が見えているということは、デモは打ち込みで細部まで作りこんでくる感じでしょうか?
K:色んな人からそう言われるんですけど、デモは基本的にアコギの弾き語りですね(笑)。今回の曲もほとんどそうなんですよ。
●弾き語りで作っているんですね! それでは、打ち込みの音は後から足している?
K:そうですね。でもアコギを弾いている段階から、その音が頭の中では鳴っているんです。シンセサイザーってすごく面白い楽器で、何でもできてしまうと言えば何でもできてしまうんですよ。頭の中にある音を具現化しやすい楽器だと思いますね。
●頭の中でイメージが明確にあるからこそ、音へのこだわりも強そうな気がします。
K:今回は自分が好きなエンジニアさんや、“そこで録りたい”と思っていたスタジオを使えて。半分を自分で録って、残り半分を奈良のエンジニアの方に録ってもらったんですけど、信頼できる人に信頼できる音で録ってもらえたと思います。
●曲によってスタジオも使い分けている。
K:たとえばSTUDIO HORYUJIで録った音源に関しては、あのスタジオじゃないと絶対に録れない音なんですよ。自分がイメージする音には、あのスタジオが一番合っていて。使っている機材も関係しているんですけど、エンジニアさんの人柄もあったりするし、その場所で鳴る音は他と全然違うんです。その(求めている)空気感は、その場所が一番録れるというか。
●そこまでイメージが見えているんですね。
K:曲を作っている段階で“音源にするなら、このスタジオやな”というのは見えています。やっぱり、消耗品になって欲しくないというか。10年後や100年後に聴いても“良い”と思ってもらえるものじゃないといけないと思うんです。消費されるものではなく、“残る”ものが作りたいんですよね。
●去年リリースした1st EP『Re;Welt』を期間限定でリリースしたのも、そういう理由から?
K:CDって売り始めたら、そこから永遠に売り続けられてしまうというか。終わりがない感じがするんですよ。だから“終わっていく儚さを知って欲しいな”というところで、期間を決めてライブ会場限定で売ってみたんです。
●音源はアートワークまで含めて、リアルな“物”にこだわって作られている感じがします。
K:やっぱり五感で楽しんで欲しいというか。楽しみ方は自由なので配信とかで買ってもらっても別に良いんですけど、手元にアートワークがあればそこでもう1つ楽しめるわけで。そこはどれくらいの度合いで楽しむかっていうことなんですけど、僕はせっかく全体で100あるのなら100全てを楽しんで欲しいなと思うんです。ジャケットのアートワークや歌詞カードの字間1つや行間1つまで楽しんでもらえるように作っているので、そこはぜひ見て欲しいですね。
●こだわって作っているからこそ、ちゃんとCDを手に取って欲しい。
K:僕としては、歌詞を見て初めて「そういうふうにつながっていたんや!」と気付いたりして欲しいんですよ。活字になって初めて意味がわかるというか。パッと聴いただけでも意味がわかるといえばわかるんでしょうけど、言葉と言葉の因果関係とかは歌詞カードを見ないとわからないと思うんです。
●でも何となく耳に残るし、気になる言葉が入っている。曲名やタイトルがちょっと変わった表記になっているのも、そこを意図しているんじゃないですか?
K:そうですね。引っかかりになって欲しいというか。意味はもちろんあるんですけど、実は意味がなかったとしてもそこに引っかかって欲しいんです。結局は“考えて欲しい”というのが一番にあるんじゃないかな。
●歌詞にはメッセージ性が込められていたりもするんでしょうか?
K:伝えたいことは明確にありますね。ただ、“◯(マル)”をそのままの“◯”として受け取って欲しいというわけじゃないんです。今回のアルバムで1曲目を「view」にしたのは、“景色”を見せたいという意図があるからで。景色を見た時には「暗いな」とか「キレイやな」だったり、「青いな」とか人それぞれに色んな感じ方ができると思うんですよ。僕らはたとえば「青い」と伝えるんじゃなくて、景色を伝えることで聴く人に委ねているというか。それぞれの想いを持ってもらえたらなと思っています。
●人それぞれの捉え方に委ねている。
K:“考えて欲しい”というのが一番ですね。僕らが「Aです」と言ったら「Aなんだな」とそのまま受け取るんじゃなくて、「いや、Bじゃない?」と思ってくれてもいいんです。そこで哲学して欲しいというか、やっぱり考えて欲しいというのがありますね。
●自分自身も普段から色々と考えている?
K:考えるのが趣味というか(笑)。考えたり研究したりするのが好きなんです。だから僕らが普段使っている専用のスタジオも、“Sound Laboratory”と呼んでいて。
●“laboratory”とは“研究室“という意味ですよね。
K:たとえばバスドラの位置をちょっと変えるだけで、キックの音も全然変わるんですよ。そういうことを日々、研究したりしていますね。それに近いことを聴いてくれる人たちにもやってもらえたらなと。ちょっと考えるだけでたぶん、みんなが良い方向に行くと思うんです。
●今回の『Weltraum;Gate』というタイトル自体も、意味を考えさせる感じがします。
K:そうですね。“Weltraum”はドイツ語で“Gate”は英語なんですけど、気になった人は調べてくれると思うから。そこで調べて“Weltraum”はドイツ語だということがわかるだけでも、ちょっとはみんなのプラスになるんじゃないかなと。
●新しいことに出会うキッカケにもなる。
K:あくまでも僕らはキッカケでしかないのかなと常々思っているんです。僕らが良いキッカケになって、その人たちの暮らしがちょっとでも良い方向に動けばいいなとは思っています。
●uchuu,の音源をキッカケに、新しい音楽との出会いが生まれて欲しいという気持ちもあるのでは?
K:ありますね。自分たちにはルーツがしっかりとあるので、僕らが好きなアーティストをここから掘って欲しいというか。そこにはまた素晴らしい音楽との出会いがあるから。
●実際『Weltraum;Gate』というタイトルに込めた意味とは?
K:直訳すると“宇宙の扉”という意味なんですけど、1stミニアルバムなので僕らを知ってもらうための扉でもあるし、そこから1歩踏み込むも2歩踏み込むもその人次第だと思うんです。僕は“世間は狭い、世界は広い”ということを常々思っていて。でも世界と世界の間隔はすごく狭いと思うんですよね。たとえばCDショップの棚でも1枚のCDと別のCDを隔てる隙間はすごく狭いんですけど、それぞれの中では全然違う深い世界が広がっている。そこで、ちょっと一歩踏み込んで欲しいなと。
●まずは今作で“uchuu,”の音楽へと入ってきて欲しいということですよね。
K:これが今のuchuu,だとは思います。今の4人で作った曲だけを入れた音源だし、そこの“鮮度”っていうものがすごく大事やなと僕は思っていて。野菜もみずみずしいほうが美味しいわけで、音楽も一緒だろうなと(笑)。
●今、一番鮮度の良いものを聴いて欲しいと。
K:そして、世界から見ても“新しい”音源であって欲しいんです。日本人から見て新しいというだけじゃなくて、どこの国に行っても「新しいね」と言ってもらいたいなという想いはあります。
●斬新さも意識している。確かに何かに似ているわけではないので、ジャンル分けが難しい気はします。
K:逆に言うと、僕らはどこでも良くて。J-ROCKバンドともやりたいし、アングラなバンドともやりたい。もちろんクラブでもやりたいし、場所はどこでも良いんですよね。
●色んなジャンルを昇華して独自の音楽をやりつつ、今作の楽曲はあくまでもキャッチーなものになっていると思うんです。
K:“キャッチー”ということは、僕の中でずっとテーマになっていて。どんな難しいことをやっていても、何に対してもキャッチーではいたいなと思っているんです。キャッチーであり続けるということは意識していますね。
●今後のビジョンも見えていたりはする?
K:もう既に新しい曲もたくさんできているし、次に見せたい世界というものがあるんですよ。自分の中ではハッキリと見えているので、これからも周りに流されず自分たちの伝えたいことをブレずにしっかりやっていきたいなと思います。
●そこに向けて、まずは納得できる作品が1枚できたということですね。
K:それは間違いないです。とりあえず何度も聴いて欲しいし、自分でも何度も聴きたいと思える作品になりましたね。
●ライブではまた印象が違うんでしょうか?
K:たぶん、全然違うと思います。ライブをしている僕らは芸術家ではないので。そこでの僕らはバンドマンでありミュージシャンであって、ライブは感情だったり目には見えない想いを僕らの音楽に乗せて届けるものなんです。だから僕の中では、作品とはまた別物というか。良い意味で、2回楽しんでもらえると思います。
Interview:IMAI