説明しよう。圧巻のラウドなサウンドにこの上なくバカバカしい歌詞を乗せるという独特の音楽性を、男性ギターヴォーカルと女性リズム隊という珍しい編成で奏でる3ピースバンド、それが打首獄門同好会だ。一見怖そうなバンド名とは裏腹に意外なまでにキャッチーなメロディと、大澤敦史(Vo./G.)の人懐っこいキャラクターで密やかに着々とファン層を広げてきている。そんな彼らが「水曜どうでしょう」好きをこじらせて番組内の人気企画「四国八十八カ所」に捧げた名曲「88」をキッカケに今年9月、遂に“水曜どうでしょう祭 UNITE2013”に出演を果たすまでに至った。そこで熱狂的な反響を得たという勢いも受けて、1年ぶりの新作ミニアルバム『一生同好会します』を10/15にリリースする。RIZEのKenKenやHEY-SMITHなど人気アーティストからの支持も発覚するなど、“もしかしたら売れるんじゃないか?”という匂いを漂わせてきた彼らに今こそ要注目! なのだ。
俺、このバンドと友達なんだぜってイチバン人に言いたいバンド。彼らが、焼き鳥と水曜どうでしょうを愛してるくらい、俺もこのバンドを愛している。(RIZE KenKen)
パワーアップした楽曲をグレードアップした縦横無尽な笑撃に乗せてお届けできたかと思います。一所懸命に真面目に頑張りましたので、マジこいつらバカじゃねーのと感じていただければバンド冥利に尽きます。一生同好会します! (Ba./Vo.junko)
ジャ ケットからタイトルから某どうでしょう的なノリですが、会長に続いて生粋のどうバカ2号の私としては、今作にして華々しくMVデビューした「88」そして 改めてどうでしょうに捧げた新曲「How do you〜」は同じどうバカであるなら楽しんでいただけると思います! (Dr./Vo.河本あす香)
●念願かなって“水曜どうでしょう祭 UNITE2013”に出演を果たしたわけですが、どういった経緯で?
大澤:キッカケとなったM-2「88」という曲を2007年に発表したんですけど、これは聴く人が聴けば完全にわかる「水曜どうでしょう」の企画に捧げた歌で。作った当時から「水曜どうでしょう」ファンの人たちは、勝手に番組に「こういう歌を作っている人たちがいるんですよ」みたいなメールを送ってくれていたらしいんです(笑)。さらにウチらも最初にデモCDを作った段階で、「こんな歌を作りました〜」という感じで送ってはいて。
●自分たちでも送っていたんですね。
大澤:でも最初は特にリアクションが得られるはずもなく、「いつか伝わればいいな〜」という感じで札幌へライブに行く度に歌っていて。北海道のお客さんはやっぱり「水曜どうでしょう」が大好きなので、喜んでくれるんですよ。ドラムの河本と2人で放送局のHTBさんへ行って局内を見させてもらって、帰りに受付で「こんな曲を作っているので、もし良かったら関係者の方に聴いて頂きたいです」と言ってCDを渡したりしていたんです。
●本当に地道な努力を続けていたと。
大澤:そこから北海道のファンが「東京にこんな歌を歌っているバンドがいるらしいぞ」という口コミを広げていってくれて、とうとう番組の主要なスタッフにまで聴いてもらえるようになって。今回の“水曜どうでしょう祭”をやる時に、「そんなに好きなら出てくれたらいいじゃない」という白羽の矢が立ったんです。
●実際に会場での反応はどうだったんですか?
大澤:すごく良かったです。「水曜どうでしょう」って元々はローカル放送で知る人ぞ知る番組だったから元々、ファン同士の仲間意識が強いんですよ。しかも「番組に捧げた歌を作った」なんて言ったら、一発で認めてくれるんです。「お前らも好きなのか。じゃあ、聴いてやろうじゃないか」と。音楽イベントではないからバンドとしてはアウェーなんですけど、歌が受け入れられている感じはすごくホームでしたね(笑)。
●物販もすごく売れたのでは?
大澤:そこでウチらは失敗したんですよね。“水曜どうでしょう祭”のために会場限定CDを作ったんですけど、音楽イベントじゃないからそんなに売れないだろうと思って500枚だけ持って行ったら1時間弱でなくなって。ライブが終わったら物販に列が一気にできて、途中で「もうなくなりました。すいません!」と(笑)。
●予想以上の反響があった。
大澤:僕らは1日目に出たんですけど、2日目以降も「打首獄門同好会のCDはないか?」という問い合わせがあったらしくて。完全に想定を超えていましたね(笑)。
●会場限定盤にも収録のM-7「How do you like the pie?」は、イベントに向けて作ったんですよね?
大澤:そうです。これはもう「水曜どうでしょう」ファンにしかわからないような曲になっていて。いつかこういう曲を作ろうと思っていたんですよ。でも本当に好きなものって本当に納得いく出来じゃないと出せないなというのがあって、今まで作らずにいたんです。そこに今回のお話が来たので「今しかない」と思って作りました。
●これは番組内で出た名言を歌詞にしているわけですが、意味的につながっていたりもするんですか?
大澤:これは俺と河本の“どうバカ”(「水曜どうでしょう」ファンのこと)2人が、それぞれ好きな言葉を良い語呂で並べただけですね。名言が並んでいるという以外に、意味はないです(笑)。M-3「ヤキトリズム」で「もも ねぎま なんこつ ぼんじり」と並べているのと、ノリは一緒ですね。
●タイトルにもつながっている「オイパイ食わねえか」が特に好きな名言?
大澤:好きですね。あと、「ギアいじったっけローはいっちゃってもうウィリーさ」もすごく好きです。これは両方とも1999年の放送で出たものなんですけど、そのあたりからちょうどウチらは見始めたので特に思い入れの深い名言という感じで。あと、単に上手くリズムに乗せやすかったというのもありますけどね(笑)。
●ネット上にも名言集が色々と上がっていますね。
大澤:今回の“水曜どうでしょう祭”でもどの名言が好きかというランキングが発表されたんですけど、それがもう異様な光景なんですよ。たとえば「奥さん知ってるでしょう」と発表しようとすると、もう2文字目くらいからお客さんみんなで合唱が始まるんです(笑)。
●覚えてしまうくらい、みんな繰り返し見ている。
大澤:見ます。もう飽きることなく、毎回同じシーンで笑うんです(笑)。ライブ中は会場の大スクリーンに歌詞の言葉を映していたんですけど、他の物販に並んでいるような人たちまで1つ1つの言葉が出る度に爆笑していて。「それが来たか〜!」みたいな(笑)。本当に“どうバカ”しか集まっていない、すごい空間でしたね。
●そして今回のことがキッカケで、「88」も実際にお遍路をまわってMVを撮影したんですよね。
大澤:祭に出演が決まったからというのもありますけど…、元々行きたかったんです(笑)。でも時間もお金もかかるから、プライベートで行くにはハードルが高いなと思っていて。そこにこういうキッカケができたので、「今しかない」ということになりました。
●4日で全88ヶ所のお寺をまわるというのは、かなりの強行軍だったのでは?
大澤:あれは無茶でしたね…。ただ日程的にそこしか無理だったというのもありますし、実際の「水曜どうでしょう」でもそのくらいの日程でまわっていたので本家へのリスペクトも込めてやってみました(笑)。
●1つ1つのお寺の前で決めているポーズも、本家を真似ているんですよね?
大澤:あれは番組内で実際に大泉洋さんがポーズを決めていたのをある程度は拾って、ある程度は自由にやりました(笑)。あえて完コピはしなかったんですけど、覚えているところははっきり覚えているんですよね。
●それもすごい。
大澤:やっぱり何度も何度も見ていますからね。出演者の方たちが苦しんでいるところを何度も何度も見て、同じところで毎回笑っているわけですよ(笑)。そうじゃないとああいう映像はできないということもファンの方たちは知っているから、「お前らもファンなんだな。じゃあ、仲間だ!」という盛り上がりが生まれたというか。
●MVやドキュメントの映像を見れば、ファンとしての本気度がよくわかると。
大澤:それを評価してもらっているんですよ。祭でライブの本番前に出演者紹介で「88」のMVが流された時に、お客さんがスクリーンを食い入るように見ていて、終わったら拍手が起きましたからね(笑)。その時にもう「受け入れられたな」と思いました。
●受け入れられた瞬間を目の当たりにしたと。
大澤:みんなやりたいとは思っているんですけど、実際にはなかなかできないですからね。それをやったヤツらがいたというところに「よくやった!」という感じで、盛り上がってくれたんだと思います。
●しかも曲の中では1拍半くらいの間に1つの寺の映像を入れなくてはいけないから、物理的にも編集が大変そうな…。
大澤:あの1拍半の映像を撮るために100km走ったりしていますからね(笑)。
●既にYouTube上にドキュメント映像が上がっていますが、初回購入特典のDVDにも同じものが入っているんですか?
大澤:それに色々と追加されているんですけど、これまた「水曜どうでしょう」リスペクトになっていて。「水曜どうでしょう」のDVDには副音声が入っていて、映像を見ながら出演者が好き勝手に喋っているというものなんですよ。それがファンの間では人気の名物になっているので、じゃあ俺たちもやろうじゃないかと。参加したスタッフと一緒に酒を飲みながら適当に喋ったものが、特典DVDには副音声として収録されています(笑)。
●同時に発売されるタワーレコード限定盤の特典DVDはまた違う内容になっている?
大澤:タワーレコード限定盤はCDにも1曲追加収録しつつ、DVDの中身は全然違っていて。ワンマンライブ(2013/6/8@渋谷O-WEST)の映像を何曲かと、その会場でしか見られなかったオープニング映像が収録されています。アイドル商法みたいになって申し訳ないんですけど、ファンは両方買うしかないと(笑)。
●タワレコ限定盤にだけ、M-8「塔」が収録されているんですよね。
大澤:ボーナストラック的なものだから悪ふざけしちゃおうということで、ヒップホップ的なノリで普段はやらないような16ビートのアレンジをしてみたらもうメンバーが全然できないっていう…。レコーディング中も(ドラムの)キックとベースのタイミングが全然合わなくて、何度も何度もやり直しました(笑)。
●新しいことにチャレンジもしている。
大澤:毎回1枚につき1曲くらいは自分たちがいるのとは違うフィールドのアレンジや曲調を持ってきては、苦しんでいて(笑)。そうやって、1つ1つ引き出しを増やしていっているんです。でも今回は思いのほか、苦労しましたね。しかもそういう困難を乗り越えてできたのが、「聴きたいヤツだけ聴いてくれ」みたいな曲っていう(笑)。本当に良いボーナストラックになったと思います。
●ちゃんとタワレコとのコラボ感もありますからね。
大澤:あと、M-1「音楽依存症生活」でも「No Music No Life」と歌っていて。元々はこの曲もタワレコ限定盤用に意識して作ったんだけど、ウチにしてみたら真面目に歌っているタイプの曲で。いたずらっぽく歌っている「塔」と2つの方向性がある中で、結果的に「塔」のほうが選ばれたという。でもこちらも捨てがたいということで形にしたので、その名残が残っているんですよ。
●歌詞の「あー朝の起きたくなさ 満員電車の乗りたくなさ」だったり、音楽好きじゃなくても共感できる部分がある曲かなと。
大澤:結構、本音を歌っているんですよ(笑)。「みんなこういうことを思っているんじゃないかな」ということを歌っています。
●一見、意味がないようなことを歌いながらも、誰もが共感できる部分も織り込んでいるというか。
大澤:食べ物についての歌はまさにそうですね。「ヤキトリズム」なんて、焼き鳥が好きな人は絶対に共感すると思う。一昨年くらいに1回、焼き鳥にすごくハマったことがあって。朝イチに起きて、まず市場に向かうんですよ。
●そこまで本格的に!?
大澤:“せせり”ってスーパーにはあまり売っていないんですよ。それを市場で買ってきて、自分で串を打って。近所の河原にガスコンロを持って行って、自分で焼いて食べながら焼酎を飲むっていうのをやっていました。曲にしたのは最近、ハマっている美味しい焼き鳥屋さんがあるからなんですけどね。そのお店で「歌にする」と宣言しちゃったので、最初にハマってから2年越しで焼き鳥の歌ができたっていう。
●そういう経緯で形になったんだ。
大澤:食べ物の歌ができる時はわかりやすいんですよ。要は俺のマイブームなんです。うまい棒の歌を作った時期には、実際にうまい棒をよく食べているっていう(笑)。
●M-5「マイクロウェーブアタック」も食べ物系の歌ですよね?
大澤:これもそうですね。実は元々、ある女性アーティストに提供するために作った曲だったんです。でも使われなかったので、もったいないからウチでやっちゃおうと。そうやってイレギュラーな形で戻ってきた曲は普段とはちょっと違う空気になるので、そういうものが1曲くらいCDに入っていると面白いかなって。だから、この曲は女性ボーカルがメインになっているんですよ。
●元々は他人に提供するはずの曲だったと。
大澤:そこから自分たちの曲として作ることになった時に、食べ物系にしようと思って。…何か「たこ焼き」って叫びたかったんですよね(笑)。たまたま一番最近に食べたたこ焼きが冷凍のものだったので、「レンジでチンする」っていうフレーズが浮かんで(笑)。ただ、たこ焼きだけを掘り下げるには知識が足りなかったので、色んな冷凍食品のことを歌っています。「マイクロウェーブアタック」という曲名だけを見ると何の歌かという感じなんですけど、「電子レンジかい!?」っていう(笑)。
●タイトルだけだと、攻撃的な曲に聞こえます(笑)。
大澤:実際、サビのビートは「モッシュしろ」と言わんばかりになっていて。「600ワットで3分間」と叫んでいる時にみんながワーッと盛り上がっているバカバカしい画が見たいですね(笑)。
●ハハハ(笑)。M-4「A.G.A.」も曲名だけだと意味がわからないですが。
大澤:これは何の曲かというのを説明しないと、なかなかわからないですね。「お医者さんに相談だ♪」っていうCMのことを話したら、「あれか!」ってなります。
●「男性型脱毛症」のことですよね。これも実体験?
大澤:俺はもう何年間も、専用の薬で持ちこたえているんですよ。ウチの家系はもう…。兄貴がキちゃった時に俺もヤバいと思って色々調べたり、実際お医者さんに相談したりもして。もしあのまま放置していたら、バンドのフロントマンとしてはふさわしくない髪型になっていたと思いますね(笑)。
●ラストの「髪よ生えたまえ」にも本気感が…。
大澤:切実ですよ! リアルですから(笑)。心を込めて歌っています。
●M-6「ちょい獄おやじ」は、おやじギャグの曲?
大澤:そうですね。これは結構前に作った曲なんで、細かい経緯は覚えていないんですけど。確かギターリフが先に浮かんでいて、そこに適当な言葉を当てはめたらこうなったという。本当に意味なし系の曲です(笑)。
●意味なし系の曲もありつつ、今回もバラエティに富んでいて全く捨て曲がない作品になっています。
大澤:それは嬉しいですね。歌詞はもちろんなんですけど、アレンジにも遊び心を加えているからじゃないかな。ウチらは音楽的に雑食であることが許されるバンドだと思うんですよ。モロにブルース系の曲を作ったとしても、歌詞がこうだからウチの曲だって言える。だから遊びやすいんです。そうやって遊べるだけの資質や引き出しを持っているかというのが大事だと、今回のアレンジで苦戦したことでもわかって。もっと色んなことができるだろうと思うところはあるので、やっぱり引き出しを増やすのを頑張らないとなと。
●『一生同好会します』というタイトルには、今後も遊び心を持って活動を続けていくという決意も込められているのでは?
大澤:「水曜どうでしょう」の大泉洋さんも「一生どうでしょうします」という名言について、「勢いで言っちゃったけど、とんでもないことを言っちゃったな…」みたいなことを後で言っているんですよ。俺もそういう感じですね(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
Interview:IMAI