今年デビュー35周年を迎え、約2年ぶりとなるアルバムを3/23にリリースしたロックンロールの体現者、THE MODS。Vo./G.森山達也が体調を崩して活動できなかった約1年間を経て、その音楽は更に研ぎ澄まされ、その言葉は普遍的な輝きを帯び、THE MODSというロックンロールを更に進化させた。今回初めて今までの活動の軌跡を意識して制作された記念すべきアルバムは、彼らの“強さ”と“痛み”、そして“弱さ”をも内包する、バンドだけではなくファンにとってもマイルストーン的な作品になったと言える。THE MODSデビュー35周年を飾るアルバム『HAIL MARY』について、その想いを森山に訊いた。
●約2年ぶりのアルバム『HAIL MARY』ですが、このタイトルは“アヴェ・マリア”という意味らしいですね。タイトルの意味を知ったときに、なんとなく腑に落ちた感じがあったんです。
森山:ほう。
●THE MODSは今年が35年目ですが、例えばM-3「STAY CRAZY」の歌詞…“世界が笑っても 俺達は曲げなかった”とか“時代が終わっても 俺達は逃げない”というフレーズなどからも、すごく強いバンドの意志を感じたんですね。それは一方で、祈りにも近いような感覚なのかなと想像したんです。たぶん自分自身が信じていることに対する“信仰心”のような、強い想いが意志になっているのかなと。それがロックを鳴らし続ける動機やモチベーションになっているというか。
森山:そういう意味もあるし、“HAIL MARY”には“試合終了間際のイチかバチかのラストパス”という意味もあるんですよ。それも結局はアヴェ・マリアからきているんだけど、“祈りを込めてパスをする”ということらしいんです。これはアメフトでよく使う言葉なんですけど、その2つの意味を込めたタイトルにしたんです。
●言われてみると確かに、ラストパスというニュアンスの歌詞が多いですね。
森山:それによって意味が深くなるでしょ? 不安も感じるし。そこまで大袈裟には考えていないんですけど、響きも良かったし、そういう2つの意味があっておもしろいかなって。
●いつもアルバムについては「“どういうアルバムにしようか?”と考ると可能性を限定してしまうので、コンセプトをしっかりと固めずに作り始める」とおっしゃっていましたけど、今作もそんな感じだったんですか?
森山:基本はそうしたつもりなんですけど、でもやっぱり考えたよね。自然に35周年というのが、今まで以上にはあった。
●30周年のときは「アニバーサリーということをあまり考えなかった」とおっしゃっていましたが…。
森山:今回は考えさせられたっていうのがちょっとあった。ひとつは、2年前くらいに自分が身体を壊して、約1年間何もできなかったという経験をしたことが大きくて。そのときに“もう35年は来ないな”という弱気な気持ちにもなったし。ちゃんと活動をやっているときに振り返ることはあまりないけど、病気のせいで確実にストップさせられたら、考えてしまうよね。時間はたっぷりあるし、余計なことも考える。
●確かにそうでしょうね。
森山:ギターも持てなくて、歌詞も書けない状態になったとき、“このまま終わるのかもしれないな”って。もちろんこんな中途半端な感覚では終わりたくないけど、逆に終りをリアルに痛感した瞬間でもあったよね。何とか病気が治まってツアーに出て、ツアーも上手くいったから“よかった、やっと戻れた”という意識になって、今作の制作に入っていって。そういうことを背負ってしまったから“決して永遠じゃないんだ”、“いつか終わりが来るんだ”ということが完璧にわかったし。
●なるほど。現実的な実感として。
森山:今まではイメージはあったとしても、現実は経験しないとわからないというか。でも俺だけじゃなくて誰かがそうなることもあるし、バンドはいつか終わる。そういうことを考えて35周年にたどり着いたときに、どうしてもその想いが曲作りというか、特に歌詞の世界には強く入るよね。
●なるほど。
森山:だから、今までの周年とはまったく違ってた。基本的には“今回は特別にこうしよう”とかじゃなくて、いつも通り湧き出るものを押さえつけずにやろうとしたんです。でも湧き出るものがそうだったという。
●今作のサウンド面の全体的なイメージとして、アンサンブルの強度がものすごく高い印象があったんです。イントロから曲が終わるまで1音も聴き逃せない。ライブで聴いたら自然と身体が動き出すような、血が沸きたつ感覚というか。先ほど「想いが歌詞に強く入った」とおっしゃいましたけど、でも強いメッセージ性があるというわけでもなく、記号的に歌詞がすっと入ってきたんです。
森山:俺個人じゃなくて、みんな“35周年のアルバムだから”という意識はどこかにあったと思うわけよ。考えないかもしれないけど、あると思う。そういう意味で、いつもより想いは込めやすいよね。
●はい。
森山:ひとつ前のアルバムには想いを込めていないとかいうことじゃなくて、そういう部分は絶対あっただろうし。病気をした1年間というのがあったから、要するに久し振りのレコーディングだったんです。今まで勢いで持っていけた部分も、ある程度は勢いで持っていけなくなって、いろいろ考え、いい意味でも悪い意味でも試行錯誤したというか。
●そうだったんですね。
森山:それに加えて、メンバーみんな、個人個人が過去や今後のいろんなことを考えた時間でもあったと思うわけです。あくまでも俺は自分のことしかわかんないから、自分のことは言えるけど、きっとメンバーも活動できない…活動してもいいんだけど、THE MODS以上の活動が自分にできないっていう風には思っていただろうし。そういういろんな想いを持ったアルバムだから、想いがどうしても自然に強くなるよね。
●そうでしょうね。頭でわかっているのと、肌で実感するのとは違うだろうし。
森山:唯一この作品にはそういう想いが出ている。そういう経験は今までしたことがなかったからね。今回初めて“ひょっとしたらラストかもしれない”という意識が生まれるレコーディングだったから。
●ということは、1年間お休みをされたのは、かなりギリギリの状態だったんですね。
森山:そういうことですね。そういう経験はもう二度としたくない(笑)。毎年上手くやりたいけど、今回はたまたまそういうタイミングがこのアルバムになったという。忘れられない作品にはなるよね。
●過去にも体調を崩されて少し…ということはありましたが。
森山:でも変な話、前のときは1ヶ月寝ていればすぐ戻れるっていうのが見えていたから、気分的には楽というか。でも今回は期限も見えないし、医者の先生にも「これ以上のことはできない」と言われて。
●え!
森山:「薬でとりあえずどこまで治せるかは私にもわからない。最悪手術もあるけど、それも100パーセントというわけじゃない。その決断をしてください」みたいな状況だったから。やっぱり考えるじゃないですか。“これで終わるのかな”とか。
●それほどだったんですか。
森山:結果こうやって戻れたから“良かったな”と思って話せるけど、戻れない可能性もあった。それを思うと、やっぱり“良い曲を作りたい”って、普段思っているけど、それ以上の想いは出るんじゃないかな。
●先ほど「初めて“ひょっとしたらラストかもしれない”という意識が生まれるレコーディングだった」とおっしゃいましたけど、曲作りの段階ではどういう感じだったんですか?
森山:やっぱりサウンドにも歌詞にも、病気をしたときに考えたことが自然に出るよね。不安もあるし、“絶対に治すんだ”という強い意志もあるけど、それが日によって違うわけ。そういうときにふと“やることをやったから後悔はないかな?”とか、“逆にいいタイミングなのかな?”とも思うし、“こんな感じで終わるのは絶対に違う!”という強い意識もあって。その繰り返しの日々だったわけよ。
●なるほど。
森山:そういうことが曲を作るとき、特に詞を書くときは出てしまうよね。“これじゃないんだ、まだ違うんだ”というのもあれば、“俺たちはこういうことをやってきたからいろいろ背負ってやっていくしかないんだ”と思ったりとか。だからいろんな意味での弱さも書けるというか。だからそのときの気分の等身大だとは思う。
●例えば「STAY CRAZY」は本当にTHE MODSというバンドを物語っているというか、35年間走ってこられた今の心境がすごく表れているように感じたんです。まさに今おっしゃっていたような心境が出ているというか。
森山:そうですね。これも病気がなかったら書けない詞だろうし、いろいろ考えて振り返えらざるをえない時間があって、ペンが走って。サビなんかは自分達が思うことや感じることを信じてやっていくしかないという意思表示でもあるし。
●ただ、歌詞にはリアルな心境が表れていると思うんですけど、それがそのままメッセージ性に繋がっているわけではなく、サウンドと一体になって普遍的なロックンロールに昇華していますよね。例えばM-5「4 BRONCOS」には“ワンスプーンほどの明日に賭け”という歌詞がありますが、言葉だけを見るとものすごくギリギリな心境だと思うんです。でもメロディとサウンドと一体になったら悲壮感がないんですよね。音楽として入ってくる。
森山:“その通り!”という気がするでしょ(笑)。
●今回はそういう曲が多いですよね。歌詞と音楽の距離がすごく近い。
森山:結局、明日とかチャンスとかって、考え方ひとつなわけじゃないですか。それがまったくないという状態がいちばん良くないことで、大きなチャンスがあっても逃すやつは気付いていないし。だから“ワンスプーン程のチャンスがあれば十分なんだよ”と。何もないときは何もないし、何もできないときもあるし。要するにそこのギリギリを知ってしまうと、少しでもチャンスがあるということが、どれだけ素敵なことかということがわかるんですよね。
●なるほど。見方の違いですね。
森山:結局はそういうことなんだよね。
●今回収録曲は11曲ですが、他にも候補曲はあったんですか?
森山:何曲かはありましたよ。でも“35周年という意味での意識じゃないよな”というのはやっぱり外れるね。悪い曲ということじゃなくて、今じゃないという感じの曲は何曲かはあったけど、いずれきっと出すだろうし。やっぱりここまでくると難しいよね、選曲というのも。
●どれを入れようか? と。
森山:もちろんバラエティにも富んだものにしたいし。俺たちはロック一筋という感じではなくて“これはTHE MODSなんだ”という意識でやってきたし、かといってこのアルバムの伝えたいトータル性というのもある程度はないとダメだろうし。その辺のバランスが最近はすごく難しく感じる。
●どの曲を入れるべきかというところで悩むんですか?
森山:サウンドはあまりそうでもないわけ。どっちかというと歌詞の世界だよね。曲によって言っていることが違ったら、作品の中で矛盾が生じるし。でも曲によっては違ってもいいわけで。激しい曲と優しい曲の在り方は全然違っていいんだけど、それがバラバラになるようじゃダメだなっていう部分が大変になる。全部似通ってきてもつまんないし、そういう組み合わせが若干難しいかな。
●その歌詞についてですが、かなりストレートで直接的なメッセージだと思ったのはM-10「MUZZLE FASH DANCER」なんです。今の社会に対して、鋭い視点がズバッと入っていて。
森山:これはずっとやってきたことだよね。毎回テレビを観て“何だコイツ”と思ったら、それを言葉にしておきたい。その時々で、自分が思う気持ちを伝えておきたいというのはあるよね。The Clashのポール・シムノンが「パンクは“WHY”ということを歌うんだ」と言っていたんですよ。ただの反逆じゃなくて。ただ「ぶち壊せ!」という歌もあるんですけど、「“WHY”と疑問を持ったら、それをちゃんと見つけていかなくちゃダメだ、声にしていかなきゃダメだ、それがパンクの強いところだ」ということを聞いたことがあって。そういう意味で、日本人というのは“WHY”が少ないと思ったんです。「はい」とか「僕は関係ないです」という、国民性なのかわからないですけど、そういう風潮ではあるよね。
●確かにそうですね。
森山:ロックシーンにしてもそれをキチンと表現している人は少なかった。もちろんメッセージをガンガン吐く人もいたけど、そういう人たちはなかなか売れ辛いというか、大衆にはなり辛いよね。でも、それでも言わなくちゃいけない。それはやっぱりミュージシャンの特権だから。人の前に立って“WHY”と思ったことを伝えるという。それが良いとか悪いとかじゃなくて、その人の主張として正解なわけだから。その主張に対して「NO」と言う人も自由だし、「聴かない」というのも自由だから。
●はい。
森山:でもあまりにも言わない。ラブソングを歌っていた方が金になるとか、簡単だとか。“何で?”と言うのは大変なことなんだけど、それがパンクの強いところなんだよ。自分も考えさせられる。どういうことでも自分が疑問に思うことは“何で?”と思って、そこから“じゃあ自分はどう思うんだろう?”と考えて、“こう思うからこう伝えよう”となる。
●過去にもそういう曲はたくさんありましたよね。ただ、疑問を口にすることは、特に今の世の中では非常に勇気が要ることでもあると思うんです。
森山:日本の国民性的な意味ではそうだよね。特に音楽業界でめちゃめちゃ売れている人は言いにくいとは思う。大きいレコード会社がバックについているし、そういう人たちは言葉にピリピリしているところもある。でも俺たちは、感じたことは歌っていくべきだろうと思ってる。だってせっかく人前で歌えるというチャンスがあるのに。
●それが聴いてくれる人に対する誠意でもあるというか。
森山:俺も結局、例えばThe Rolling Stonesが歌っていることを聴いて「そりゃそうだぜ!」とか思っていた。若い頃は勘違いもするだろうけど、でも自分の背中を押してくれたのはロックだったから、自分もどこかでそうありたい。決して激しい曲だけじゃなくて、ラブソングだって本当はそうだよね。俺が言いたいのはそういうことなんだよ。
●そのスタンスは以前からずっと変わらないですよね。
森山:いろんな時代に合わせたり、そろばん勘定が入ったりすると、俺はつまんないなと思う。ロックする意味がないというか、音楽をやるのが苦痛になってくると思う。だから変な話だけど、いちばん売れていていちばんテレビに出なきゃいけないときに、俺達は出ずに断ったからね(笑)。テレビがつまんなかったから。
●ハハハ(笑)。“WHY”といえばまさにM-6「WHY WHY WHY」という曲がありますよね。少し自虐的な歌詞の内容に対して、めちゃくちゃライブ感のあるサウンドがマッチしていますが。
森山:レコーディングでもノッてるからね(笑)。レコーディングの段階でそういうノリでやっているから、きっとライブでやっても絶対にノるだろうっていうのはわかるし。歌詞はヘロヘロな状態のことを書いているけど、いい意味でちゃかしているわけ(笑)。俺達の中の感覚でもあるんだけど、ビートが全部明るくしてくれるんです。自分の痛いところとか弱いところを笑い飛ばすことが出来るっていうのは、ロックの面白いところだよね。
●本当にそうですよね。ロックは悲しみを笑いに変えられる力がある。ライブでも、笑いながら泣いている人って居るじゃないですか。あれはすごく不思議な現象だと思うんです。
森山:でも、究極的にはそこじゃないかなと思う。泣きながら笑ったり、“笑いながら泣く”というのは、普通に泣いたり、普通に笑ったりすることのもうひとつ向こうにある人間の感情なんじゃないかなと思うけどね。
●心が裸になっているということですよね。
森山:そういう気はするね。
●この曲は歌詞とサウンドのコントラストが素晴らしいですね。
森山:ヘロヘロの状態なんでだけど(笑)、全然ノッているんだよね。根拠はないけど希望はある。それでいいんじゃないかな。
●こういう曲が、最初におっしゃっていた“このまま終わるのかもしれない”という心境の末に生まれるということ自体が、素晴らしい現象だと思うんですが。
森山:これがロックバンドなんですよ。もし俺が普通の詩人だったら、ビートがないからただの暗い詞ですよね。でもここにあのビートが入ればロックバンドになって、ロックの歌詞になる。そこはある程度想定して作っているからね。
●明るいサウンドに少し暗めの歌詞を当てるというか。
森山:だから俺達にとっては、めちゃめちゃノる楽しい曲のひとつなんです。“カスな俺”と平気で歌ってもいいっていう。それがロックのおもしろいマジックというか。だからずっと夢中でいられるし、飽きないし、もっとおもしろいことがないかなって思ってしまうよね。
●飽きないですか?
森山:飽きないね。ツアーの途中とか、ルーティン的な意味では飽きるよ。最初の3本は新鮮でも、4本目からはそういう意味での新鮮さはないもんね。逆に慣れているから、もっとい感じにできたりもするわけ。で、最後で馬力が入るとか。
●はいはい。
森山:いつも一緒ではないよね。だからライブは面白いわけ。もし大阪の頃にへたっていたとして、その次の次くらいで調子が上がってきたら大阪の人に本当に申し訳ないと思う。でもその逆もあるわけで、だからライブって面白い。“今日は歌詞をよく間違えた”ということをおもしろがるファンもいるわけで、それが生モノというか、全部含めてライブなんだよね。そういう楽しみ方をしてくれたらベストかな。俺達もいつも同じ状態を出したいと思うけど、不可能なんだもん。
●確かに不可能ですね(笑)。
森山:だからやれることはキッチリやって、その中で自分達がどうアプローチしていくかだよね。それをやれば、あとは個人のモチベーションの持っていき方だけというか。それはメンバーそれぞれ違うだろうし。ステージに上がったら逆にファンからのエネルギーでアガるというか。あの声援でへたっているのが一発で無くなるから。本当にファンと俺達の関係性が最終的なアドレナリンになっているのは事実だよ。
●そういう意味で、今作はコール&レスポンスやかけ声が入っている曲も多くて、ライブがすごく楽しみになります。
森山:俺もまだよくわからないけど、たぶん上手くいくんじゃないかなと信じていますけどね(笑)。
●最初に言いましたけど、今作はアンサンブルの強度がものすごく高くて、イメージとしては職人的というか、磨き抜いたサウンドのような肌触りがするんです。
森山:それはあるかもしれない(笑)。もう少しコンピューターを使って作れば…っていうのもわかるよ。手っ取り早くやるという意味では。それが最先端ならアリだと思う。でも違うんだよね。俺達がギターの弦を巻いてアンプを繋いで、「この音が好きなんよね」って思うのはどうしようもないところがあるわけ。「ドラムは生じゃないと絶対ダメ」という。もちろんコンピューターでやった方が早いよ。でも絶対違うんだ。一緒にプレイするためには、振動が要るわけよ。ノリとかグルーヴの。ヘッドフォンだけの音じゃなくて、振動でビートを揺らされてやっているんだから。それがバンドのグルーヴだから、コンピューターを使うとかまずありえないという。これが楽しいわけだから。
●考え方的には、ごくシンプルなんですね。
森山:うん。極めてシンプル。でもバンドだけじゃなくて、何でもガチャガチャと始めたときなんてそんなもんじゃん。「野球やろうぜ!」「でも4人しかいないよ」と言いながらガチャガチャやることが楽しいわけで、それをずっとやり続けて、ちゃんとしたものが出来上がっていく。そしたらもっと楽しくなるとか…結局はそういうことじゃないかなって思う。
●そしてアルバムの最後にはM-11「NOT FADE AWAY」という、アルバム唯一のしっとりとした曲がありますが。
森山:スローですよね。でも最後の曲にしようと思って作ったわけではないんです。普通に作って、この曲たちどう並べるかと考えたときに、おのずとしっくりきただけ。ただそれだけですね。
●この「NOT FADE AWAY」はどういう心境で作ったんですか?
森山:歌詞の最初の1行に“倒れ 立ち上がった夜”とありますけど、病気をしたときに感じたことをそのまま書こうと思ったんです。結局はこうやってまたやっているわけだから、“消えないよ”というその心境を書いていった。俺は病気というのがあったけれど、その間メンバーも辛かったと思う。病気じゃないけど、やりたくてもバンドをやれないジレンマもきっとあっただろうし。その部分の想いを書こうかなと。
●「STAY CRAZY」や「4 BRONCOS」にも通ずる心境ですね。
森山:そうですね。結局自分がやってきたこととか、自分が病気になって感じたことを含めて、「これからどうやって進もうか?」と確かめたんだよね。それが結果的に35年というポイントと重なったんだと思う。結局、俺達は“STAY CRAZY”している“4 BRONCOS”で、これからも“NOT FADE AWAY”なんだという。
●繋がっていますね。メンバーに対しての意識とか、改めて感じたことはあったんですか?
森山:病気してほとんど会っていない時間もあったんだけど、久し振りに顔を見たらいい意味で何にも変わっていなくて、いつも通り迎えてくれたというか。それが俺にとって最高だったわけよ。変な話「大丈夫?」とかもないわけ。大丈夫じゃないのはわかっているからね(笑)。
●確かに「大丈夫?」と言えないかも。
森山:ただニコッと笑って、いつも通り。
●それ、最高ですね。
森山:それがあったから「NOT FADE AWAY」では“いつも通り”という歌詞にもなっていて。そのまま何も飾らず書いている。考えさせられたこともあったし、不安にも弱気にもなった。それでも結局“俺達はNot Fade Away”だっていう。
●まさに35周年を迎えた今の想いがそのまま詰まっているということですね。
森山:詰まらせられてしまっているという(笑)。
●ハハハハ(笑)。
森山:今までの周年とは違うよね。今までは別に考えていないで“いつも通りですよ”みたいなね(笑)。
●今までの周年も、そうじゃないタイミングの作品も、当然ながらそのときに思っていたことは詰め込まれているんですけど、背景とか濃度が濃くなりましたね。
森山:凝縮されているよね(笑)。
●そしてリリース後ですが、4月から秋の日比谷野外大音楽堂までツアーが控えていますよね。前回の野音は30周年のときで、「ここでやるのは最後かもしれない」とMCでおっしゃっていて。
森山:あのときも体調が悪かったんだよね。どうしても身体が痛いわけよ。この痛みを持ったまま次の5年後はないかもなっていう心境が自然と出たんだよね。アニバーサリー的な意味ではないかもねっていう。
●当然ファンの人は嬉しいでしょうね。
森山:精神的には全然大丈夫っていう感じだから、こうなってくると身体との勝負だよね。俺だけじゃなくメンバーもだんだん歳を取ってきたから、あちこち痛いのも事実だし。それを上手く抱えつつも、上手く処理していかないと。キツいとか痛いということを受け入れることも覚悟している。そうじゃないともうできない。痛くて当たり前ってある程度思っておかないと。楽しみながらやっていきたいなと思っています。
●楽しみにしてます。最初に「今回のアルバムにかける熱量や想いは今までと違った」とおっしゃいましたけど、完成した現時点での満足度はどうですか?
森山:ホッとしているというのがいちばん強い。もちろん満足しているからだろうけど、とりあえずできあがって良かったというのがまずあるし、自分がぼんやりだけど描くものがちゃんとできたのかなと。ファンが何と言おうと、自分達が納得できないことがいちばん辛いじゃないですか。それができるかどうかがいちばんの不安だったけど、自分達を納得させられるアルバムになったから、自信を持ってファンに送れるし、自信を持ってライブができるよね。
●そういう意味では、バンドにはゴールがないんでしょうね。
森山:そうだと思うよ。俺があと何年バンドを続けるかわからないけど、おのずとレコーディングしたくもなるだろうし、曲が湧き出る瞬間もあるだろうし、苦しんで書かなくちゃいけないときもあるだろうし。でもそれが嫌いならとっくに辞めているもん。結局好きなわけだから。わかんないよ、どこにたどり着くかも、いつどうなるかもね。
interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子