昨年の30周年を経て、ますます力強い音を鳴らし続けているリアルなロックンロールバンド、THE MODS。前作『LIKE OLD BOOTS』を2011年1月にリリースし、30周年を記念して開催されたツアーTHE MODS TOUR 2011 “30 STRIKES”は、3/11の東日本大震災、そしてフロントマン・森山の体調不良というアクシデントで一部延期を余儀なくされた。そんな中、ロックンロールの原点に立ち返って彼らが見たのは、30年以上前から自らの内で輝きを放ち続けているピュアな衝動だった。10/24にリリースされるTHE MODS待望のニューアルバム『JACK & JOKER』は、THE MODSという偉大なロックンロールバンドの核となる想いと音が詰め込まれた名盤だ。今月号では同作についてVo./G.森山達也とDr./Vo.佐々木周にインタビューを敢行。収録曲11曲に刻まれた彼らのメッセージを感じ取って欲しい。
●結成30周年となる昨年は、1月にアルバム『LIKE OLD BOOTS』をリリースしてツアーで全国をまわられましたね。僕は野音(2011/6/25@THE MODS 30th Anniversary SPECIAL LIVE "YA-YA-ROCK ON!!")を拝見したんですけど、その前に震災があって。
森山:そうですね。そして俺が体調を崩して。
●森山さんが体調を崩されたのは5月でしたが。
森山:ツアーは降り掛かる問題がいっぱいありました(笑)。30周年でめでたいはずだったのに、すぐに震災があったり、俺が体調を崩して公演が振り替えになったり、すんなりはいけていないですね。
●精神状態はどうだったんですか?
森山:震災が起きて、やっぱり“ライブなんてやっている場合か?”と考えるじゃないですか。あのとき俺たちは名古屋にいたんですけど、名古屋自体は何も影響がないわけですよ。いつも通りの名古屋だし、待ってくれている連中もいるんだからやるべきだと思った。ただ、そこから切り替えようと。30周年のツアーじゃなくてチャリティーに変えようと。それで義援金を集めるための募金箱を用意して、半分30周年で半分は“今できること”を考えて、とりあえず名古屋でライブをやりました。それから東京に戻って考え直すことにしたんです。
●なるほど。
森山:東北のイベンターや友達に訊いたら、「ライブをやれる状態ではない」と言われたんですよね。それなら、今すぐにその場所へ行ってやるべきではないなと。作戦を練り直して、何かやれることを考えてやっていこうと立て直しをしてからツアーの後半に臨んだんです。
●震災直後はシーン全体がすごくナイーブな空気でしたよね。
森山:俺たちは、どちらかというとやるべきだと思っていました。“直接的には政治レベルが動くべきで、市民レベル、ロックレベルはそれをやるしかないよ”と思っていたんです。でも問題なのは、現場はそうはいかないということ。ただバカみたいにやっていても迷惑になっちゃうから、そこはちゃんと理解をしないといけないんですけど、どんなことをやっても賛否両論はあるんだから、気にしていたら存在している意味がないですから。
●そうですよね。
森山:「じゃあ何をやる?」という話ですよ。それで文句を言われても俺らの方だって“ふざけるな”と思うし。ただ、俺たちは“やる”という意志がありましたね。
●そして5月には森山さんが体調を崩されたということですが。
森山:持病が悪化して、立てなくなってしまったんです。でも野音が入っていて。最低でも野音には間に合わせたいという想いはあったんですよ。ライブハウスなら謝って日程を変えてもらうこともできたかもしれないけど、野音というのはスケジュール的に替えがきかないんですよね。だから、これだけはなんとかしたいと思って、実は野音の楽屋に医者の先生を呼んでいたんです(笑)。
●え? そうだったんですか。
森山:先生に治療をしてもらってステージに出て、アンコールでは袖でケアしてもらって。
●あの日のアンコールは4回ありましたが…。
佐々木:そのたびに戻っては治療をしていましたよ。
森山:裏ではそんなことになっていました(笑)。
●満身創痍ですね…。
森山:しかも、野音で終わったわけじゃないから、ケアをしながらベストを尽くそうということで。いろいろ考えさせられたツアーでしたね。30周年のことは絶対に忘れないよ。25周年のことはもう忘れているけど(笑)、今回のことは爺さんになっても思い出すと思う。
●体調や地震のこともあり、音楽をやる上でも考えさせられることが多かったんでしょうね。周さんはどうでしたか?
佐々木:30周年のツアーということで、演奏する曲も“ベスト オブ ベスト”みたいな感じで、すごく楽しかったんです。でも震災が起きて、翌日からは早速義援金ボックスを置いたり、名古屋が終わってから少し延期になって、次のラウンドでは曲を変えたりして。被災地に向けた曲というわけはないんですが、今までとは違うメッセージ性の強い曲を入れてまわりました。そして森山さんが倒れて、いろんな所が延期になり。本来は6月の野音ですべてが終わる予定だったんですけど、結果的に全てが終わったのは9月末…なかなか長いツアーでしたね。忘れられない年だったと僕も思います。
●その野音のとき、森山さんが「ここでやるアニバーサリー的なライブはこれが最後かもしれない」とおっしゃったのが印象的だったんです。そのときに客席から「まだまだ行けるぞ!」と怒号のような声がたくさん上がりましたよね。独特な空気だったと思うんですけど、いろんな時代のTHE MODSのTシャツを着た人たちがいて、ファンのキャリアは違うかもしれないけど、ものすごく温かい声援と叱咤激励を飛ばされていて。そのアンコールの一幕がすごく印象的で。
森山:別に決めているわけじゃないけど、野音はそういうアニバーサリー的な企画をやる雰囲気になっていて、自分たちも“俺たちは野音かな”と思ってもいて。でも昨年野音でライブをやってみて“もう分からないよね”と思ったんです。俺たちがいつまで野音でやれるのかも分からないし、来年は見えても再来年は見えない…そういう心境があるんだよね。痛みを持っているから弱気になっていたということじゃなくて、考えさせられたからそう考えたというか。「10年先にできるかどうか分からない。今日のこのライブを本当にそう思って観てくれ! 感じてくれ!」というメッセージを伝えたくて、ああいう言葉を吐いたんだと思う。
●その場で自然に出てきたと。
森山:そうです。楽屋で治療をして、どこかを引きずりながらステージに出て行ってもライトが当たる。ロックのマジックがかかるわけですよ。でも、本当はやっぱりボロボロなわけだ。そこでちゃんと伝えなくちゃいけない。音楽だけじゃなく、言葉としても。“形のあるものには必ず終わりがあるんだ”ということを、みんなが感じてTHE MODSを観たり聴いたりしないとダメなんだ。そういうことを自分で感じたからね。やっぱりちゃんと伝えておきたいという想いはあったよね。
●なるほど。
森山:そりゃあ俺だってずっとやりたいからね。でも、そういうものじゃないから。
●そういう視点は今までになかったわけじゃないけど、震災や体調のことがあって、改めて実感したと。
森山:そうです。強く思わされたということですね。“形あるものはいつか壊れる”なんて、みんななんとなく考えていることじゃないですか。でも、それを強く考えさせられた。地震の映像もそうだったし、石巻の方へ行って実際に景色を見たときの言葉が出ない感覚。「大変でしたね」とか「元気を出してください」なんて言えないんだよね。そういう言葉が無力だと分かってしまうと、祈ることしかできなかった。“自分にできることは何なんだ?”とか“自分は何のためにいるんだ?”とか。自分に対して存在理由を考えさせられるようになって、“自分はTHE MODSをやっている”となると、今度はバンドとしてのことを考えさせられるよね。そんなことを考えていたら、おまけに身体が壊れた。身体も精神も傷め付けられるとキツいですよ。そうなると「イエーイ! ロックンロール!」ばかりは言っていられないと考えるんですよ。そういう意味では、今思うとあのツアーではいい経験ができた。やっているときは大変だったけど、終わって考えるといい体験ができたし、THE MODSのスタイルでできることはやれたんじゃないかと思う。
●先ほど話してくださったツアーで感じたこと…それは今作に直結していますよね。今作に着手したのは、今年に入ってからですか?
森山:曲を作ろうとしてペンとギターを持ったのは今年の2月くらいから。周年のときにはいつも言っているんだけど、本人たちはファンが思っているほど“何十周年”という意識は強くないんだよね。だって“間違いなく31周年が来る”という意識があって、常にライブがあるし、常にアルバムを作って…というひとつのスタイルは、そんなに大きく変わることがないと知っているから。“今年たまたま30周年なんだね”という意識というか。
●はい。
森山:ただ、区切りは区切りだから。そういう意味での影響はあるのかもしれないけど、今作については30周年の次にどうするということよりも、震災の影響のほうが大きかったよね。ミュージシャン云々よりも、自分自身というか。
●なるほど。
森山:勇気づけるためにも元気な曲を作りたいと思ったし、感じたものを伝えていきたくて。でも、大まかなイメージは出るんだけど、言葉を選ぶのが大変で、歌詞は今回いちばん手こずった部分です。自分に嘘はつきたくないし、分かったようなことを分かったふりをして書きたくはないし、かといって当事者でもないし。ある意味ただのロッカーなわけですよ。でも、伝えるべきことは伝えたい。思うことは記したい。結果的にそれがどういう捉え方をされるのかもこの際は置いておいて、今感じることを書かなくちゃいけない…それが俺にとっての100%の正解だろうと思って書いたんです。最初は震災について自分の目で見たものを書き留めておかないとダメだと思った一方で、“俺は当事者じゃないじゃん。簡単に「元気を出せ」とは歌えないし書けないよ”と思って、なかなか進まなかったです。
●テレビなんかを観ると、軽い感じでメッセージを発している人はたくさんいましたけど。
森山:俺にはそれは難しかったんだよね。だからどんどん悩んで“なんで俺は歌っているんだろう?”というところまでいってしまって。でもそこで“俺はずっと感じたことを歌ってきたんだから書くしかないじゃないか。人からどう思われようが関係ないんだ”と思って、最終的には納得するものが書けたと思う。今回は、何を書くべきかというところで選ばされました。
●例えばM-5「あの日に」は、結論が出ていない歌詞だと思うんです。その瞬間の感情というか。これこそがまさにリアルな想いだと思ったんです。
森山:結論なんか歌えないもんね。俺はね、当事者同士で「がんばろう」と言うのは正解だと思うんだよ。でも、テレビのブラウン管を通してしか観ていない奴らが「がんばろう」と言うのは難しいと思う。きっと答えは「がんばろう」しかないと思うんですけど、無力だから「がんばってね」とか「がんばろうね」とか言えない。“ロックをして、プレイをして、その場所に行かないと書けないな”と。その歌詞がどんな内容であろうとね。喜ばせるってそういうことだと思う。
●はい。
森山:スポーツ選手だって何だって、自分ができることは、みんなそれしかないんだよね。だから、下手なメッセージなんて歌えないと思ったときに、答えのない歌詞、“僕はこう感じたんだ”という歌詞。自分の無力さを感じる歌詞になった。でも、それを聴いて誰かが何かを感じてくれて、動きがあるかもしれない…そういう形でしかできないんですよね。結局ロックというフィルターをかけないとできないんですよ。もちろん個人レベルで、友達サイドでは直接的なことはできるけど、政治レベルが動かないと大きく変わらない問題だから。まだまだ現在進行形だし、進んでいない部分もあるし、そこに対する苛つきも歌える。それがロックの在り方というか。
●今作は最初の4曲、M-4「OPERATION BOP」までの4曲は“ロック”というものが持つ有無を言わさないエネルギーに溢れていて、すごくパワフルだと感じたんです。それは“ロック”というフィルターを通して作られているからで。アルバムの後半に行くに従ってバラエティ感は出ているんですが、シンプルな力強さとか、ロックが持つエネルギーが作品の全体的な印象として強いんです。
森山:さっき歌詞の話をしたけど、結局はバンドだから、ビートなりサウンドなりで言葉は要らないわけだよね。音が鳴ればみんなが喜んだり元気になったりするということ。それがロックのパワーでマジックだと思うので、そこを感じてほしい。そこに加えて言葉が引っかかってほしい。俺たちは詩人でもないし、インストバンドでもない。やっぱりロックバンドなんです。それは忘れちゃいけないし、どんな時代でもあっていいことだと思う。だから何も変わっていないですよね。くたばるのはまだ早い。正直くたばりそうでも“いや、まだ早い”と思う。そういうことなんだと思うよ。東北でも「THE MODSは元気をもらえる」と言われるのを信じて作っている。
●そういう曲が多いですね。作曲者それぞれでアルバム全体像のすり合わせはあったんですか?
森山:基本的にはないです。とりあえずみんなが今感じているものを持ってきて、「これはいいね」とチョイスしていくうちに像が見えてくるというか。だからすごくいい曲があっても「今回はこれじゃないよね」ということで外れる場合もあるんです。
●なるほど。
森山:それは後々に絶対活かされる曲なんですけど、そんな感じであまり決めるとおもしろくないんだよね。“こういうアルバムを作ろう”と考えると小さくなるというか、そういうアルバムになってしまうから。ひょっとしたら違う雰囲気のアルバムになるかもしれないのに、決めることによって小さくなることもあるから難しいよね。逆に“こんなアルバムを作るんだ”っていう前提を作ったら、スタジオワークを変えていくという方法もある。ビートルズでいう『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』みたいな、いわゆる作り込んでいくもの。スタジオのワークですよね。でも今はロックバンドとして音を叩きつけたいから、バンド感がいちばんある楽曲を中心に選んでいます。
●その“バンド感がある楽曲”という部分ですが、ロックサウンドなんですけど絶対的な聴きやすさがあると思うんです。それは今作に始まったことではなくて、THE MODSというバンドサウンドの核だと思うんですが。
森山:ラウド感は国内外問わずに今の若い子たちがすごく得意じゃないですか。でも俺たちはもっとタイトなバンドというか、60年代の音楽から始まっているんですよね。それってすごくシンプルで、すごくちゃちな音なんです。でもちゃちな感じでガチャガチャとやっているのがロックだった。そのDNAはずっとあると思うわけ。だからどんなことをやっても聴きやすい。俺の好きなバンド、みんな歌ありきなんですよ。ビートルズにしても、ザ・ローリング・ストーンズにしても、パンクロックもそうで、みんな鮮明に言葉が入ってくる。
●そうですね。
森山:俺はあれがバンドなんだと思う。それは自然に俺たちの中に染み付いているものであって、それがなければ“こいつらはなにを歌っているんだ?”となってダメなんですよ。
●ああ〜、なるほど。
森山:それありきでバンドがあるわけだから、そうじゃないならバンドをする必要がないんですよね。
●そういう考えが根底にあるから、自然と今のサウンドに磨かれていったと。
森山:そうですね。狙ってそれをやったわけじゃなくて、そういうバンドをずっと聴いてきているから、俺たちの血となり肉となっているんですよね。
●現段階で音作りに悩んだり迷ったりすることはないんですか?
森山:基本的にはないです。ただ、ちょっとアコギっぽいアルバムを作ろうとなると、話は変わってきますけどね。実際、俺もギタリストだけど、アコギなんてそんなに弾いていないから、アコギの良さの出し方を分かっているわけじゃないから、エンジニアと相談して。そこから「こうなるとキーボードがほしいよね」という話になったら、ゲストを入れて、ちゃんと話し込んでやる。それはそれでおもしろいし、自分たちにないものを出せるから、もっと「こうすればおもしろいよね」というアイディアも出てくると思うんです。でもそれはロッカーじゃなくてミュージシャンだよね。
●そうですよね。
森山:一応、俺たちもその2つは持っているんです。でも基本的に“THE MODSはバンドなんだ”という意識が強いから、自ずとそうなるよね。ガチャガチャしながらも、明確に言葉とメロディがしっかりしていたいと思う。英語で「ガーッ!」「ワーッ!」と歌った方がロックっぽいけど。
●一般的なイメージのロックっぽさというか。
森山:でも“っぽさ”じゃなくて、ちゃんと伝えたいんです。それは60年代のパンクロックやロックのバンドから学んだことなんだよね。はっきりと言葉を、想いを、叫びを伝えようとしているもん。だからそういう音を好きになっているんです。ビートがあって、言葉がはっきりと聴こえたら、当時のティーンエイジャーなんておしっこを漏らすし(笑)。あまりにもサウンド重視でラウドにやるのは、俺はダメだ。ヘヴィメタにはいけなかったし。
一同:ハハハ(笑)。
●あくまでリスナー目線のロック好きだと。
森山:そうなんですよね。ハードロックとかヘヴィメタルを1回は聴いても、違ったんだよね。ポップスまでいくとそれも違うけど、ポップチューンを持ったロックバンドは嫌いじゃない。メッセージや想いも含めてがロックという音楽で、THE MODSに関してはそうじゃないと意味がない気がします。
●M-1「ARE YOU READY」は、作曲クレジットが“THE MODS”となっているじゃないですか。これはセッションのような形で作ったんですか?
森山:そうですね。まず元ネタをスタジオに持って行って。
●それはリフか何か?
森山:コード進行もメロディも、なんとなくの世界観ですね。「こんな感じでやってみよう」と言って、みんなで崩していって、最終的に出来上がった。対して、例えばM-4「OPERATION BOP」とかはギターのイントロがあって、苣木に「こう弾いて」と言って「ドラムはこういう風に叩いて」「ベースはこういう感じ」みたいな、オープニングからケツまでのビジョンが自分の中であったんですよ。
●はい。
森山:でも「ARE YOU READY」は漠然としかなかったんですよね。どう変わるかが分からないから、やっているうちに「ここはこう変えよう」とか「ソロはどうする?」とか、スタジオのその場で最終的に作り上げる。それがバンドのおもしろいところだよね。譜面もないし。
●意図的にそういう作り方をしたんですか?
森山:この曲は、作っているときに“これはスタジオで作ろう”と思いました。“今ここできっちりと決めるよりも、これはスタジオで作った方が絶対に上手くいくな”と。でもビジョンが見えている曲の場合は、まず自分で全部作ってみようと。じゃないと時間がかかるばかりだからね。
●「ARE YOU READY」はTHE MODSの色がすごく強く出ていると感じたので、セッション的に作ったというのはちょっと意外だったんです。
森山:本当に「せーの!」で作った感じ。大きい幹は俺が持ってきたにせよ、それはあくまで幹であって、そこからどうなるのかは、バンドのその瞬間が左右したというか。最初はイントロもなかったですけど、作っているうちに“こうやろう”というアイディアが出てきたし、スタジオでガチャガチャとやっているときに生まれたから、より一層THE MODSらしくなるんだろうね。
●そうか、自然に4人で出したものだからこそTHE MODSらしさに繋がると。そういう作り方でらしさが出るって素晴らしいことですよね。
森山:俺としては楽です(笑)。
●ところで今作の推し曲はM-3「ロックをトメルナ」ということですが。
森山:別にタイアップとかになるわけじゃないから、俺たちには推し曲なんて関係ないんだけどね(笑)。今の時代のTHE MODSというバンドの立ち位置として、メッセージ的な意味を込めたというところかな。
●今日おっしゃっていたことが集約されている曲ですよね。現時点のTHE MODSが詰まっているというか。
森山:次のツアーでライブのキーポイントになる曲を作りたいという想いがあって、サウンドやビートは十八番で作るべきだと思ったので、その辺はすんなりとできました。でもどういう世界観を持った曲にするべきなのかを考えたときに、単純に“俺は止まっていたらダメだ”と思って“ロックをトメルナ”という言葉が出てきたんです。そこから一気に書き上げました。
●タイトルがきっかけになったんですね。
森山:そうですね。そこから“世界がフリーズされても”というサビの歌詞が出てきた。震災の瞬間はフリーズ状態だったと思う。みんなが感じていたと思うんだよね。
●そうですね。
森山:でも、ロックは止めちゃいけないんだと。俺たちにとってはロックだったけど、みんな一緒なんだよね。自分の大切なものを止めちゃダメだよ。それをTHE MODSらしく伝えていけたらいいなということで。ロックっぽくしているから、何かかっこいいことを書いているような気がするけど。テレビで警告音ってしょっちゅうあったじゃない?
●ありましたね。緊急地震速報でしたっけ。
森山:苦情が来て途中からなくなったけど、ドキドキしたわけよ。しょっちゅう鳴って“うわっ!”って。東京に住んでいた俺でもそうだったから、東北の人たちなんてトラウマになるくらいの恐怖感だったと思うんです。そういう風に感じたことを書いておきたいと思ってさ。いつかこの歌を歌わなくてよくなることがベストなんだけど、風化するのはよくないというか。だってまだ何も解決していないじゃん。原発だって酷くなっているだけだし。
●そうですよね。テレビからの情報だけだともう終わったような感じになっていますけど。
森山:政治家は自分のイス取りゲームに精一杯でしょ。ふざけるなと思うよね。だからそういう意味の歌はこれからも作っていくと思うよ(苦笑)。
●JUNGLE☆LIFEはライブハウス界隈のバンドを取り上げさせていただくことが多いんですけど、そういうところから感じるのは、演者側も観る側も「がんばれ」みたいな取って付けたようなメッセージではなく、本当にリアルなものやピュアなものが響く人たちがライブハウスに居ると思うんです。特に震災以降、それが顕著になっているというか。ライブハウスは狭くて閉じられた空間ですけど、そこに真実があるような実感があるんです。
森山:そうあるべきだよ。例えば有名なバンドはバンドで、自分たちなりのメッセージがちゃんとあるんだよね。それはそれでいいと思う。でもマイノリティで少数派の奴もいるじゃない。マジョリティに行けない奴や、マジョリティとは世界観が違うから同じように感じることができない奴もいっぱいいると思う。
●そうですね。
森山:THE MODSというバンドはそういう部分があったんですよ。ロックがそんなにポピュラーじゃない頃にデビューしているから、いろんな反感も買ったし、テレビに出るだけでいろんなことも言われたし。そういうことも経験して辿り着いたことは、自分たちの思うことを書いて、自分たちの思うプレイをやろうということ。いちばんシンプルなことだったよね。それは何も恐れがないからできるわけだよ。もし“お金がほしい”とか“ヒットしたい”みたいな気持ちがあればこんな曲は書かない(笑)。こんな曲は作っちゃだめだよ(笑)。「俺はTHE MODSみたいなバンドを作りたいんです」と言う若い奴がいたら、俺は絶対に言うもん。「THE MODSみたいなバンドは絶対に作らないほうがいいよ」って。だって、儲からないからね(笑)。
●でも、それってすごくかっこいいじゃないですか。
森山:儲かりたいならTHE MODSはやめた方がいい。でもかっこいいバンドを作りたいのなら、いいんじゃないかな。
●自分の信じるところを。
森山:そういうところだよね。自分でちゃんとビジョンを持っている奴は強いよね。
●ところで「OPERATION BOP」で言うところの“BOP”とはどういうイメージなんですか?
森山:要するにロックンロールというか、所謂8ビートのジャズものというか。
●40年代辺りの。
森山:そう。あの辺のスウィングのことを“バップミュージック”と言うんですよ。ジャンルというか、そういう呼び名があったんです。でも形態のことを指しているというより、イメージとしては跳ねている感じなんですよね。“ロックンロールで跳ねさせる”みたいな。
●なるほど。この曲からもロックのエネルギッシュさを感じたんですが、歌詞は決して100%ハッピーというわけではないですよね。“全てのBlue 泣いている心を踊らせろ”と。でもサウンド的には、一聴したらすごく踊りたくなる。
佐々木:楽しいですよね。
●そういう一見矛盾したところが、すごく泣けるというか笑えるというか。
森山:「笑える」というのは正解だと思います。バンドは絶対にシビアな部分とユーモアの部分を忘れたらつまらなくなるんです。シビアだけだとやっている方も嫌になるし。かと言って、全部が全部ユーモアというのは、お笑いの道の人に任せたらいいわけでロックでやる必要はない。両方を持っていて初めてロックだと思う。それをいろんなバンドから教えてもらったと思うわけ。一見楽しいし馬鹿なことを歌っているけど、引っかかることがある。その1行があれば冗談でもいいわけよ。楽しいだけでいいんだけど、どこか引っかかるところがある。それがロックのユーモアだと思うんですよね
●なんとも言えないロックの良さですよね。
森山:全部なくしたらつまらないんだよ。やれ戦争がどうのって言っているだけだと、それはつまらないんだよね。
●そういう意味では、アルバムの後半にいくに従って音楽的なユーモアが幅広く出ていますね。
森山:そうですね。難しいところではあるけど、楽しませながら感じて考えてほしい。もちろん頭から考えてほしい曲もあるけど、楽しませながら何か考えてほしい。昔からそれはやっているんだけど、好きは好きだね。俺たちの「ゴキゲンRADIO」(1981年アルバム『NEWS BEAT』収録)という曲も、町は火事で大騒ぎなのにサビは“GO GO ゴキゲンRADIO”だよ。
●ハハハ(笑)。
森山:そういうことなんだよね。逆にシビアなことを歌っておいてサビで笑わせることもある。そこでフックが絶対にあるんだよね。引っ掛かるものというか。それがない曲はつまらないと思う。
●相反するものがあってこそ深みが出ると。
森山:両方を持っていて、それが成立したときにバンドとしておもしろいかなと。俺はTHE MODSで声を発するスピーカーなんだよね。俺1人ならソロでやってバックバンドをつければいいんだけど、バンドっていうのはみんなの意志がないと言葉を発せないよね。自分が詞を書くから自分の考えが大きくなっているのはあるけれど、それはみんなが共感してくれているものでないと。誰かが違うというなら歌っちゃダメだと思っているので、その両方を持っていないとヴォーカリストとしてダメだと思う。
●周さんは今作の歌詞で何か思ったことはありましたか?
佐々木:後々歌詞を見せてもらうんですけど、やっぱり「あの日に」の歌詞はジーンときましたね。あと、M-11「少年の頃」とかも。
森山:スロー好きだな(笑)。
●確かに(笑)。ドラムとしてはなかなか難しそうな曲ですけど。
佐々木:書いてあることがすごくリアルだからなかなか難しいけど、それでも楽しんでやらないと聴く人にも失礼だと思うんです。色々と考えながらも楽しんで叩きました。
●ドラムを叩くときには、歌詞の内容も意識するんですか?
佐々木:THE MODSに入る前は全然意識していなかったです。加入した辺りも、森山さんが何を歌っているのかよく分かっていなかったかもしれません。
●そうだったんですか。
佐々木:ファンの頃は歌詞カードを見ていたんですけど、加入した当初はそれよりも自分のことで手一杯だったということが大きかったですし。でも後々少しずつ慣れてきて、歌詞から感じる森山さんの想いがドラムのフレーズに変わっていくようになりました。
森山:やっぱり入った当初は自分のポジションのことしか考えられないですよね。そこに一生懸命やってくれていたけど、一応「こんなことを歌っているんだよ」とザックリ説明すると「なるほど」ということになって、そこからどう昇華するのかは最初の頃にやったよね。やっぱり加入当初はプレッシャーもあるだろうし、THE MODSの中にいきなり入れられたわけだから、考えられなかったと思うよ(笑)。歌入れのときに「ああ〜、そういうこと歌っていたんですか!」みたいなことは結構あった。
佐々木:そうですね(笑)。
●周さんの話にもあった「少年の頃」ですが、この曲はミドルチューン…バラードではないと思うんですけど、アルバムの締め括りにすごくしっくりくるというか。
森山:自分をもう1回見つめ直したときにこの曲ができました。“結局どうやっていけばいいのか?”とか“俺はなんの力になれるのか?”と考えたときに、難しくなって。“ロックしかない”という答えは簡単に出るけど、そのロックがなぜこんなに好きで、身体が痛いのにやる価値があるのかを考えたら、ガキの頃を思い出したんですよ。
●なるほど。
森山:あの頃はいちばん辛かったはずなんですよね。お金もないし、学校も勉強もダメだった。働いてもダメだった。そんな中で見つけたのがロックだった。でも当時はプロなんて夢のまた夢だったんです。それでもロックを好きになってしまった。そのときの自分はいちばん先が見えていたんじゃないかと思ったんです。
●いちばん先が見えていた?
森山:いや、先は見えていないんですよ。無職だし、今日の金も無かったんだもん(笑)。でも、そのときは馬鹿みたいに夢を見ていたかもしれないんだよね。
●ああ、なるほど。
森山:何もないのに。よく「何になりたいの?」とか友達の会話としてあるじゃん。そんなとき、俺はもっと小さい頃は「野球の選手になりたい」とか言っていたわけ。でも俺より100倍上手い連中を見たときにその夢は消えたわけよ。その頃にロックと出会ったんだけど、そういう話をするとき、俺は常に「ジーパンを履ける仕事がしたい」と言っていたんですよ。たぶんその究極がロックだった。
●象徴みたいなものが。
森山:うん。ただ、あまりにもハードルが高すぎるし、その才能があるのかも分からないから「ロックバンドをやりたい」とはなかなか答えられなかったんですよね。でも馬鹿みたいに夢を見ていた。結局、その頃の想いが今も変わっていないんだろうね。
●なるほど。
森山:たしかにあの頃よりもいろんなことを知って、知らなくていいことも知らされてきて、利口にもなれるし、便利な味を覚えるとそれを使いこなすこともできる。それはすごいことだけど、汚れていくこともある。これは止めようがないよね。それを止めようと思ったら時代から離れるしかなくて、ロックをしている限りは無理だから。自分がフィードバックしたことや思い描いたことを思い知らされたんだよね。それでこの歌詞が出てきた。あの頃の俺は、未来に対して輝く何かがあることを感じていたなって。それをもう1回この年で感じられるようになれば最高だなって。もちろん少年には戻れないからね。そういう自分へのメッセージ。
●語弊があるかもしれませんが、こうやってリリースごとに話を聞かせていただいていると、THE MODSのメッセージはどんどんピュアになっている気がするんです。そういう意味では、大人になったからこそ初期衝動を持てるのかなという気もしていまして。
森山:最初はロックバンドとしてプロになって飯を食いたかったんですよね。それがリアルな夢だと思うんです。そのために上手くなって、レコード会社の人にどうのこうのと言われることがある。そこで初めて足元を見る。でも、それ以前の話があると思うんです。ロックがなくてもちゃんと考えられることってあると思うんですよ。それは内にあるいちばんピュアなこと。それを忘れたらダメだと思う。最終的には年じゃない。俺らが30周年やってもまだロックをやっているのはそこだと思うんですよね。
●ああ〜。
森山:だから身体を痛めて、楽屋で治療をしてまでやるんですよね。辞めることだってできるんだけど、俺はそこに囚われているというか。少年のときに思っていたような気持ちが未だあると思うから、先が見えなくても進もうと思うんです。そこで何をしたいかは戦略じゃない。想いが変えていくんだと思うんですよ。人の気持ちやバンドの気持ちが見えたときには、やっぱりいいものができる。
●そうですね。
森山:俺たちはただロックがやりたくて博多から出てきたわけで、何が成功かなんて分かっていなかったんですよね。チャートで1位を取ることが成功かと思えばそれは違った。もちろん売れないよりは売れたいけど、1位とかに興味はなかった。テレビに出ると要らないしがらみだったり、要らない上下関係だったりがあって、テレビに出たくないと思った。そこで何をしたのかというと100ヵ所のツアーだったんです。100ヵ所まわればテレビなんか出られないですからね(笑)。
●そんな時間はないですもんね(笑)。
森山:お茶の間で観てもらうより、田舎の町に行こうと思ったんですよ。それこそ1県の中で3ヵ所とか。
●というか、100ヵ所のツアーってすごいと思うんですが。
森山:やっぱり俺たちはライブバンドなんだという意識があったし、ヒットチャートとかそういうバンドじゃないよねと覚悟した瞬間でした。そういう覚悟が今日まであって、どんどん痛めつけられるところもあるし、擦り切れるものもあるけど、そんなときに過去を振り返ると、なんでここまでやっているのかが見えてくるときがあるんですよ。
●だから「少年の頃」のような曲ができたんですね。
森山:そうですね。たぶん3〜4年前ならこんなタイトルは付けないよ。
●そうなんですか?
森山:以前だったらサビの「Long time ago」とかにすると思う。でも今回はいろんなことがあって、日本語について考えたのかな。このタイトルはいいと思ったし、ポーンと出たよね。
●そしてリリース後はツアーがあるわけですが、さっきおっしゃったように「ロックをトメルナ」はライブでキーになるような曲という発想で作られたんですよね。ツアーがどうなるか楽しみです。
森山:やってみないと分かんないんだけど、きっと定番になるんじゃないかと思います。でも最近は、周が入って昔の曲を手直ししてもいるんです。周が「あの曲やりましょうよ」って言うんですよ。
●元ファンですからね(笑)。
森山:特に入った頃はそうでしたね。もう20年以上やっていないような曲も「やりましょうよ」と。でもそこで「やってみる?」と言って改めてアレンジすると、ライブですごくウケたりするんです。そういうことがあるからね(笑)。俺たち3人で凝り固まっている部分も周はフラットな目線で言ってくれるから、それが良かったりするんです。“今だからいいよね”と思う曲もあるし。
●自分たちとしては、曲に対して当時の記憶しかないんでしょうね。
森山:そうそう。でも周が入ってくれたお陰で何曲か呼び起こしてくれて。自分たちでもやるのが嬉しいというか、新鮮に感じることがある。今までになかったパターンだからすごく助かっているよ。
佐々木:具体例を挙げると「GARAGE WONDERLAND」(1986年アルバム『CORNER』収録)とかがそうなんですけど、山形で一緒にいるときにたまたま流れたから「これをやりたいんですよ!」って言ったんです。そうしたら「俺はもう忘れたわ」と言われて「え〜!?」と(笑)。
森山:そんな曲があったことも忘れていましたからね(笑)。でも、いざ歌詞を読み返してみたら「いいじゃん」って。普段自分たちの曲なんて聴かなくなっているしね。
●なるほど。
森山:そう言われたりして改めて聴いたら“今だからいいんだろうな”という曲がたまにある。定番曲は染み付いているから聴く必要もないけど、当時はそうでもなかった隠れた名曲があるんだよね。
●何年も前に作った曲が今いい曲に聴こえるって、おもしろいですね。
森山:それはファンにとってもそうみたい。俺は「昔やったときにはウケなかったもん」とかはっきり言うわけよ。でもやってみたら…周の方が当たっているという(笑)。
●ツアー楽しみにしています。ちなみに来年以降のことは何か考えているんですか?
森山:レコーディングをしてもいいかなと思うけど、まずは曲作りでしょうね。今回は、まだ震災に考えさせられて引きずっていた部分がありましたけど、次はもっと落ち着いて冷静な部分も感じられるかもしれないし。そこで何が出てくるのかも楽しみだし…決めるよりも分からないままの方が楽しいと思う。
●このツアーで感じることも含めて。
森山:そうですね。来年はどういうアルバムを作ってどういうツアーをやるかなんて、想像がつかないもん。
●いいことですね。
森山:メジャーじゃないからね。3ボールまでは投げられますから。後はがんばってストライクを3つ取ればいいだけです。
●では最後に周さんからツアーの意気込みを。
森山:周はツアーが好きだもんね。
佐々木:大好きです! ずっとやっていたいくらい!
●何が好きなんですか?
佐々木:何が好きかと言われると分からないんですけど、家にいるときよりメンバー4人でいた方が気持ちが落ち着くというか。1人だと不安になるんですよね。ライブ前とかに“失敗したらどうしよう?”とか“間違えたら嫌だな”と考え過ぎるというか。でもメンバーが4人揃うと楽になるんです。たぶんモードが切り替わると思うんですけど。
森山:周は単純にツアーが好きだよね。いつも「少ないですね」と言われるし。
●そうなんですか(笑)。
佐々木:そういえば、今回も少ないんじゃないですか?
森山:俺たちは一杯一杯だよ!
●ハハハ(笑)。
佐々木:とにかくツアーが大好きなんです。今回のツアーはアルバムからいっぱいやると思うので、ぜひアルバムをいっぱい聴いて来てもらえたら嬉しいですね。
●周さんも思う存分楽しむと。
佐々木:もちろんです!
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M