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The Mirraz

新たなフィールドへと自ら選んで進出した4人の意志と今が結実したニューアルバム

ミイラズアー写2013.1〜

The Mirraz(以下、ミイラズ)がメジャーデビュー後、初となるフルアルバムをリリースする。昨年10月の『僕らは/気持ち悪りぃ』、12月の『傷名/うるせー』という2枚の両A面シングルで、メジャーという場に移っても揺るがない“ミイラズらしさ”を見せつけてきた彼ら。そのタイトル曲を全て含む全13曲入りの今作もまた、ミイラズにしか生み出せないと断言できる傑作となった。だが『選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ』というタイトルからも明白な強い意志を持って進化し続ける彼らにとって、ここはまだ通過点にすぎないのかもしれない。そんなことを思わせるほどに良い状態の“今”が、4人の言葉からは伝わってきた。

「今回は音楽のほうが僕を選んで来てくれているという感覚が強かったんですよね」(Vo./G.畠山)

●『選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ』というタイトルからは強い意志を感じますが、これはやはりメジャーに来ての1stアルバムということを踏まえてのものなんでしょうか?

畠山:それもあるし、このアルバムを作っている途中で感じたこともあって。今まで僕が作ってきた曲は自分の頭で試行錯誤して”選んで”作っているものが多かったんですけど、今回は音楽のほうが僕を選んで来てくれているという感覚が強かったんですよね。そうやって曲が生まれてきた過程も意味合いとして込めているし、あとは人が生まれてくる理由がそういう感じだったらいいなという願いみたいなものも込めて、このタイトルにしました。

●今までとは曲が生まれてくる感覚が違った。

畠山:結構、違いましたね。歌詞に関しても、メロディに対して一番自然なものを選んでいて。歌詞自体の意味がそこまでわからなくても、メロディに対して一番ベストな歌詞だなと感じたら今回はそこで終了させたんです。意味がわからないから歌詞を変えるという作業はあまりしなかった。メロディが歌詞を選んでいるのか、歌詞がメロディを選んでいるのかは自分でもわからないですけど、そういう感覚は強かったですね。

●曲作りを始める際に、アルバム全体のイメージはあったんですか?

畠山:やっぱりメジャー1stアルバムなので、1回聴いて「ミイラズって、こういうバンドだよね」って言えるような作品にしようとは思っていましたね。ミイラズの一番わかりやすい武器を集合させたようなアルバムを作ろうっていうのは、最初からあったんです。今までの要素もちゃんと含めつつ新しい要素も入れた、ミイラズというバンドを理解できるアルバムというか。初めて聴いた人にも、ミイラズがどういうバンドなのかわかってもらえる作品を作ろうというのが一番にありました。

●メジャーデビューして初めて知った人にも自分たちらしさが伝わる作品にしようということですね。

佐藤:やっぱり無意識の内に、メジャーということを意識していたと思うんですよ。それによって、音楽をやる姿勢というのも変わってきたのかなと。

中島:メジャーに来て環境や周りの人が変わったことで、自分自身にも変化があって。ちゃんと届けようという意識をより強く持って、音楽をやるようになった部分はありますね。

関口:僕も環境が変わったことで、より音楽について考えるようになりました。“もっとこうしたほうが良いのかな”とか考えるようになったのは、個人としてもバンドとしても良い方向に向かっているんじゃないかな。

●人に伝えるということを今まで以上に意識しながら、バンドもメンバーも進化できている。

関口:去年の秋のツアーでもライブ後の移動中とかに、“もっとこうしたほうが良いんじゃないか”ということをよく話し合っていて。より良いライブをしようということを考えて、一歩ずつステップアップできた感じはしますね。あと、ツアーではM-4「僕らは」をやると、すごく盛り上がったんですよ。今までの曲もライブの反応は良かったんですけど、「僕らは」は今までとちょっと違うなっていう印象がありました。

畠山:お客さんの反応があからさまに違うんですよ。「CAN(CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい)」とか「check(check it out! check it out! check it out! check it out!)」みたいにお客さんが各々に怒りをただ発散して盛り上がっているというカオスな状況とは違って、「僕らは」では“みんなで1つの何かを共有しよう”みたいな雰囲気があって。はっきりと理由はわからないけど、曲の良さだけじゃなくて、存在自体が特別なのかなと思いましたね。

●「僕らは」は今作の中でも特別な位置付けにある?

畠山:やっぱり中心ではありますね。メジャーで1枚目のシングル曲だし、「僕らは」自体がミイラズっていうバンドをわかりやすく1曲で表現したものだから。この曲ができてから、アルバムのイメージも決まっていって。

●そこから今回はメジャー1stアルバムを作るということで、“ミイラズとは何か?”ということを改めて考える機会でもあったんじゃないですか?

畠山:僕らは元々、そういう話をよくしているんですよ。でも今回は、特に“これだよね”っていう感覚が強くあって。今までの活動を客観的に見てみると、ミイラズっていうのは“歌詞のメッセージ性”や“言葉数の多さ”や“攻撃的な姿勢”が武器になっていると思うんです。それは確かにミイラズとしてのオリジナリティだし、他のバンドには絶対にできないことだから。自分たちでもそこの自覚はあったし、EMIに来た時点でバンドとしてやるべきことというのが見えていたんですよね。

●ミイラズにしかできないことをやるというか。

佐藤:今回のアルバムに関しては、他の誰もやっていないことをやるというのをすごく意識しました。代わりになるバンドがいない、オンリーワンなバンドを目指して制作もやっていましたね。色んな面で「こういう見え方をしているバンドはいないだろうな」というところを意識しながら、今までも活動してきたと思っていて。

関口:やっぱりミイラズには、絶対に揺るがないものがあって。常に新しいものをやりつつ、“これが今一番カッコ良いんだよ!”というものを提示する姿勢がずっとあるバンドなので、そういうものが今回のアルバムでも音や曲にすごく出ていると思います。

●実際、音もすごく良くなりましたよね。

関口:今回は音作りに関して、いつも以上にすごくこだわったんです。

中島:音作りに関しては今までで一番、時間をかけた気がしますね。

佐藤:今回は時間をちゃんと用意してもらえたというのも大きくて。こだわるところにはとことんこだわって、使う機材に関しても自分たちで選んだりしたんですよ。

畠山:やっぱりメジャーでの一発目だから、良いものを作りたいという気持ちがみんなにすごくあったと思う。個人的には、歌い方をちょっと変えてみたりもして。そういう部分でもレコーディングを今までやってきた経験値があったので、流れはスムーズでしたね。今までやってきたことをどういうふうにレベルアップさせるかという作業なので、やっていてもわかりやすかったんです。

●曲作りもスムーズにいったんですか?

畠山:「僕らは」が去年の5月くらいに完成してから3ヶ月くらいで全曲作ったんですけど、僕の中でスムーズだったという印象はなかったです。最初は(メジャー1stシングル)『僕らは』を作った時のストックでアルバムも作っちゃおうかと思っていたんですけど、そのレコーディングが終わってからも良い曲がどんどんできてきたんですよ。“こっちのほうが良いじゃん”と思えるものがどんどん増えていったので、ギリギリになって作った曲とかも結構あって。それに合わせて歌詞も書かなきゃいけなかったから、僕としては単純に忙しかったというか。

●難産だったわけではなく、良い曲が次々生まれてくることで制作がギリギリになってしまったと。

畠山:M-3「encode」とかM-9「ウ□ボ□ス」みたいに、“今回のアルバムのためにある曲だな”というものが終盤にできてきたんですよ。そういう今のモードが出ている曲はちゃんと入れなきゃいけないというところで、収録曲がどんどん変わっていって。最初にあった曲は、もっとバラバラだった気がするんですよね。

佐藤:だからレコーディングに向けてガッツリ練習した曲でも、今回は外れたものがあったりして。

●よりクオリティの高いものに差し替えていった。

畠山:やっぱりメジャーデビューして、ミイラズというバンドをわかって欲しいから。そうするために1曲1曲のクオリティを高めていきたいという気持ちが、一番強かったんじゃないかな。

●その結果、時間が足りないくらいだったわけですね。

畠山:特に僕個人としては、やりたいことがたくさんあったから。今までと違うタイプの曲も作りたいし、歌詞においてチャレンジしたいこともあったりして。サウンド面に関してはダブステップからの影響があって、最終的にアルバム全体を支配している“宇宙っぽい感じ”みたいなところに到達したんです。そういう感じをどう表現するかというところでいわゆるロックバンドというよりは、“どういうふうにロックを表現しているバンドになるか?”みたいなところを強く意識しましたね。

●“宇宙っぽい感じ”というのが、サウンド面でのコンセプトだった?

畠山:制作している途中から、そういうふうになっていきましたね。最初はダブステップっぽい要素を取り入れようとしていたところから、途中で宇宙っぽい感じだなと感じるようになって。M-2「スーパーフレア」は“『(機動戦士)ガンダム』のオープニングの映像をバックに流したら、すごく宇宙っぽいよね”というイメージからだったんですよ(笑)。
中島:「僕らは」の音作りをしている時から“宇宙っぽい感じ”というのはあった気がするんですけど、それをさらに特化させたのが「スーパーフレア」かなと。

●「スーパーフレア」の歌詞は終末論的な感じですが、これは昨年末に話題になったマヤ暦のこと?

畠山:言われてみればそうなんですけど、この歌詞自体はもっと前に書いてありましたね。元々は“スーパーフレア”という言葉が話題になった時期があって、その時に作りました。確か(佐藤)真彦がiPhoneでニュースを見ている時にその言葉を言っているのを聞いて、“スーパーフレアって何? バカみたいじゃない?”っていうところからで(笑)。そういうタイトルの曲があったら面白いんじゃないかということで作った感じです。

●言葉ありきだったと。そういう意味ではM-8「De La Warr」の“歩いた分の土地を購入”っていう歌詞が意味不明ながら、何か耳に引っかかります…。

畠山:レコーディングしている時に「こんな歌詞を歌うヤツ、他にいないよね?」って自分たちでも言っていました(笑)。「デラウェア」で検索すると出てくるんですけど、これは異国の人が先住民から土地を奪い取ったっていう歴史上の出来事が元になっていて。

●アメリカのデラウェア州で本当に起こった事件なんですよね。異国の人が「自分たちが一日半で歩いて回れるだけの土地を売ってくれ」と先住民に持ちかけて承諾を得ておきながら、実際はたくさんの運動選手を歩かせて結果的に大規模な土地を奪い取ったという…。

畠山:その話を元にして“歴史は繰り返す”みたいな内容で、人を騙して何かを奪うっていうことに対する皮肉を込めています。あとは、デラウェアっていうブドウの名前にかけたジョーク的な部分もありますね。

●言葉遊び的な要素も入っている。

畠山:最初は“デラウェア”と“メラすげーな”というところの韻を踏んだメロディが生まれた瞬間からだったんですよね。今回のアルバムでは特にサビとかで、発音を重視していたんです。聴いた人に意味がわかるかどうかはわからないけど、それよりも音楽として意味がないと(曲自体に)意味がないなというのがあって。音楽として聴いた時に楽しくないと、全く意味をなさないなと思ったんですよ。メロディ重視にしていくと意味がわかりにくかったり謎めいた部分が増えてしまうんですけど、音楽として聴く上ではそれこそがむしろ良いというか。

●歌詞の意味を伝えることよりも、言葉としての響きを重視した?
畠山:わかりやすい言葉が入ってしまうことで、その曲の持っているよくわからないクレイジーな感じとかが消えちゃうと思うんですよね。ブドウを食べながら種がないことに対して「すげーな」と言っているヤツが、いつの間にか歴史を紐解いてどんどんキレていくっていう様が根本的に“おかしい”わけで。それをリアルに感じ取られてしまっても違うと思うし、曲の世界観を大事にするなら歌詞の意味はわかりにくいほうが良かったんです。

●わかりやすい言葉を使うことが良いとは限らない。

畠山:あまりにわかりやすすぎると、チープになってしまうから。たとえばタイトルを検索して“これは歴史上の話だったんだ”と知ってくれても面白いし、一番最後の“D.M.O.B”っていうのが何なのか考えてくれるのも僕は嬉しくて。何も考えずに聴いても楽しめる曲にはなっているんですけど、自分の中ではそういう面白い要素をいっぱい隠してあるんですよ。

●だから何回も聴いている内に色んな発見がある。

畠山:僕らもそういう話を聴いてみて、“こんな受け取り方もできるんだ”と思うことがあるから。それは、それだけ色々とヒネって曲を作っているということなんですよ。長く聴き続けていく内にちょっとずつ謎が解けていくようなところもあるだろうし、そこは音楽的な遊びをどれだけ用意しているかというところだと思うから。ミイラズの音楽はそういうものになっているという自信があるので、そこは楽しんでもらえると思いますね。

●聴く人それぞれの答えを見つける楽しさもある。

畠山:今回は特に、こちら側から答えを出してしまうのは面白くないなと思っていたんです。答えを用意するんじゃなくて、問題の提示で止めるというか。今までのミイラズは問題を提示後に、答えまで出していたから。そういうものだけじゃなくて、もっとリスナーに考えさせるものを作りたいなと思っていたので、そこは結構考えながらやっていましたね。

中島:今回の曲は、1つのイメージだけを想像できないんですよね。過去の曲ではイメージしやすかったのは、単純に固有名詞が多かったからで。固有名詞が入るとイメージが1つに絞りやすいから、曲自体のイメージと密接に結びつくんですよ。でも今回は聴き終わった時に、何かフワッとした不思議な感覚がありましたね。

関口:僕も今回の歌詞を読んでいて、受け手が考える余白みたいなものがすごくあるなと感じました。でも曲の雰囲気と歌詞は、すごく合っている印象があって。ミイラズが持っているユーモアの部分も曲の中にもちろんありつつ、今回は特に雰囲気がすごくカッコ良いなと思ったんです。

●雰囲気や言葉の響きがカッコ良いというのは、音楽を聴く上でキッカケになる部分ですからね。歌詞をちゃんと読んで意味を考えたりするのは、そこから一歩先に踏み込んだところなわけで。

畠山:そうなんですよね。歌詞に関しては、表現力をもっと磨きたいなという部分があって。ミイラズというバンドが表現している代表的な感情の1つが“怒り”なんですけど、それを単純に歌うんじゃなくて違う形でより良く伝えたいということだったりとか。そのためには、あえてわかりやすくしない部分も必要だと思うんです。

●M-5「HELL’S DRIVE」も一見、意味不明な歌詞かなと思うんですが…。

畠山:他の人からもよく言われるんですけど自分の中ではシンプルで、去年よく話題になった通り魔とかいじめの事件に対する怒りなんですよ。「HELL’S DRIVE」というタイトルどおり、“死神が地獄へ連れて行く”っていうだけの意味で。いじめっ子も通り魔も全然罰せられないというところに問題があると、僕は思っていて。“生きている間に罰せられないとしても地獄では罰せられるといいな”という、僕の願いも込めています。

●そういう明確なメッセージがある。

畠山:メッセージ性がすごく強い曲ですね。通り魔やいじめの事件も世の中ではあっという間に忘れ去られてしまうと思うんですけど、僕にとってはどちらもいつまでも消えないものだから。やられた側の人からしたら、この曲はすごく勇気の出る曲じゃないかと思いますね。

●ミイラズの歌詞は世のタブーみたいなものに触れながらも、それがリスナーにとっても共感できるものだから受け入れられている気がします。言いたいけど言えないことを代弁してくれている感じというか。

佐藤:そこなんですよね。ただの言いっぱなしだったら単にメチャクチャな人という感じなんですけど、起承転結がしっかりしていてポップな表現に変えられているから作品として残っていくわけで。そういうことができる人はなかなか他にいないし、すごく勇気のある人だなと思います。自分には絶対できない表現をしている人というか、自分の想像を超えてくるので歌詞を読むのがいつも楽しみなんですよ。

●そんな歌詞の面も含めて今作は、ミイラズにしか作れないアルバムになっていますよね。

関口:すごくカッコ良いものができましたね。どの曲もカッコ良くて、“これがミイラズです”と言えるアルバムになったと思います。

中島:ミイラズの今一番カッコ良い部分や武器を特化したアルバムになっていると思いますね。根底は変わっていないんですけど、どこか変わったなという印象も持たれるアルバムに仕上がっているというか。

佐藤:メジャー1stアルバムというものに、一番ふさわしい作品ができたんじゃないかな。あとは、これをどれだけの人に届けられるかというところですね。

●そのための1つとして、ツアーがあるわけですが。

佐藤:今作を聴いてカッコ良いと思ってくれた人がライブにも来ると思うので、しっかりとアルバムの曲を伝えられるように頑張ります。アルバムを作ったからなのかはわからないですけど、今はライブがすごく良くなっている実感があって。

畠山:今回は“ミイラズというものをわかって欲しい”というアルバムだし、そういうものになっている自信があるんです。今作で初めて聴いたという人もライブに来れば、もちろん昔の曲もやるのでミイラズのことがよりわかると思うんですよ。ツアーでは“ミイラズっていうバンドがどういうふうに音楽を楽しませるのか”というものをわかりやすく演出したいと思っていて。お客さんにとってはミイラズを純粋に楽しめるツアーになると思うし、自分たち自身もミイラズっていうものをちゃんと楽しんでやりたいなという気持ちがすごくありますね。

Interview:IMAI

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