ex.ketchup maniaのVo.HIROを中心に結成された新バンドTHE CAT LOVES STRAWBERRIESが、8/8に待望の初音源をリリースする。
前バンドの解散以降に経験した環境の変化から、自身の目に映る世界も広がったという彼女。
スウィートかつセンチメンタルな持ち味はそのままに、より身近に感じられるようになった歌詞はその象徴だろう。
キュートな歌声を支えるROCKET Kやex.SHORT CIRCUITのメンバーたちと共に、壮大さと爽快感、そしてとことんポップなスピード感を放つ“キャラベリ”サウンドをお届け!
●結成は2009年の秋ということですが、HIROさんはketchup maniaを解散してからすぐに次のバンド活動に向かっていたんですか?
HIRO:最初はどうしようか悩んでいました。そんな時に、AKAさんと居酒屋で会って。AKAさんはROCKET Kを通じて知っていたんですけど、女性とはあまり喋らないタイプだったので、すごく怖いイメージがあったんですよ。でもその日はフリッパーズ・ギターや小沢健二とかの話で盛り上がって、そこで「バンドを始めよう」と言ってくれたんです。
●AKAさんの言葉がきっかけで、再びバンドを始めようと思った。
HIRO:一緒に飲んでいた時に、私がイライラしていたのが伝わったみたいで(笑)。「HIROちゃんは歌ったほうがいいよ」って言われたんです。
●バンドをやっていないことで、無意識のうちに溜まっていたものがあったのかもしれませんね。
AKA:だから、(バンドをやって)ストレスを解消した方がいいと思ったんですよ(笑)。そこからメンバーを集めたんですが、最初の頃はいろんな人たちが出たり入ったりしていて。
HIRO:ドラムだけでも現メンバーになるまでに4~5人の方に叩いていただきました。
AKA:「お通夜だ」という理由で、スタジオに来なかった奴もいましたからね(笑)。ちなみに今のギターとドラムは、俺と高校の同級生なんです。
●それがバンドをやる上でプラスになる部分もあった?
AKA:同級生なので、手グセを知っているんですよね。"そうくるだろう"というのが分かっているから、やりやすいんです。特にドラムのアキラは、このバンドのサウンドに合っている気がしました。めちゃめちゃハードなわけでもパンクな感じでもないけど、すごくコンテンポラリーで、あらゆるジャンルを嫌味なく叩けるのがいいなって。
●幾度もメンバーチェンジを経てきた中で、この5人が一番しっくりきたわけですね。
AKA:このメンバーが今まででベストだと思います。
●そうやって現編成になったTHE CAT LOVES STRAWBERRIES(以下、キャラベリ)ですが、すごくラブリーなバンド名ですよね。
HIRO:私って、すごくワガママなんですよ。そして歌詞はけっこう甘酸っぱいものが多いので、"ワガママな猫が甘酸っぱい苺に恋をしたら…"というイメージをバンド名で表してみました。
●そんな意味が込められていたんですね。曲作りはこのバンドを結成してから始めたんでしょうか?
HIRO:このバンドを組む前から、家で鍵盤を弾きながら歌ったものを何曲か録ってはいたんです。それに、前のバンドでも"採用されたらいいな"と思って、コツコツと曲を作ったりもしていたし。ただ、私の作る曲は割とポップスな曲調だから、激しい曲が多かったketchup maniaでは、なかなか世に出るチャンスがなかったんですよ。
●その中から生まれた曲も、今作に収録されている?
HIRO:M-6「ピンチ・アンド・チャンス」は、結成前に作っていた曲です! このバンドを組んだ時にメンバーから「何か曲はないの?」と訊かれたので聴いてもらったら、「いいじゃん」と言ってもらって採用されました。
●これはライブで一段と盛り上がりそうな曲ですね。
AKA:ketchup maniaっぽいメロコア寄りの感じが元々あった曲なので、ノリやすいかもしれませんね。
●そういえば、今作に収録したもの以外にも候補曲はあったんですか?
HIRO:今回で全てを吐き出しました…。
●つまり、現在の持ち曲は全8曲ということ!?
AKA:かなりせかさないと、全然曲を作らないという(笑)。
●マイペースな感じですね(笑)。楽曲の制作時期は、バラバラなんでしょうか?
AKA:2・4・5・6・8曲目は初期のメンバーで作った曲。そこから1年を隔てて残りの曲を今のメンバーで作ったんです。初期に作った曲のアレンジには、今のメンバーからは出ないようなアイデアもありますね。
●曲の制作時期がバラバラということは、歌詞も様々な時期に書いた?
HIRO:そうですね。M-5「オリジナルストーリー」は、このバンドを組んだばかりで試行錯誤している状況の時に書いたんです。前のバンドが解散して普通の仕事を始めた時期だったんですけど…、基本的に私ってすごくマイナス思考なんですよ(笑)。隣の芝生が青く見えてしまうし、このままでいいのかと落ち込んだりしていた自分をプラスに持っていきたいなと思って。自分応援ソングでありながら、"自分が思うことは他の人も思っているんじゃないか"と考えて、みんなを応援できる曲を作れたらなと思って書きました。
●最初は自分に向けた応援ソングだったと。
HIRO:そうなんですよ。だから、自分で聴いていても"よし、頑張ろう!"っていう気持ちになります。
●この曲は、サウンド面からも背中を押してくれるような強いパワーを感じました。
AKA:すごくダイナミックな曲になっていますよね。
HIRO:どの曲もそうなんですけど、ジョージさんのギターが入ると一気に広がりが出るんですよ。
●たしかに!
AKA:ジョージは、感動的なくらいの爽やかさを初めから持っている人なんですよ(笑)。すごくドライで爽やかなフレーズを弾くし、SHORT CIRCUITの頃からちょっとしたキメのところも爽やかで小奇麗にまとめるのが上手くて。
HIRO:私は学生の頃、SHORT CIRCUITが大好きだったので、一緒にバンドを組めて「うわあ!」って、感激しています!
●SHORT CIRCUIT節のようなものも、曲の節々に出ていますよね。
AKA:そうなんですよね。最初から、"ここにジョージっぽいフレーズが入るだろうな"と考えながら作っているんですよ。余白の部分を残しておくと、そこへ思っていた通りのフレーズを入れてくれる。それは同級生のなせる技かなと。
●1曲目の「SUPER STAR」もキラキラしたサマーチューンで、すごく爽やかですよね。歌詞では片想いのもどかしさが描かれている"まさに青春!"な1曲ですが、実際に自分の青春時代と重ね合わせている部分があるんでしょうか?
HIRO:私、1年前にTVドラマの『美男ですね』を見て、チャン・グンソクに恋をしてしまったんですよ。そこからイメージを膨らませて、この歌詞を書いてみました。
●…ということは、チャン・グンソクへの想いを綴った歌なんですか!?
HIRO:でもチャン・グンソクのイメージがあまりにも強すぎたらヤバいと思ったのでその延長線上から、クラスで一番かっこいい男の子に想いを寄せる女の子の片想いソングにしてみました。
●ちなみに、この曲はPVも撮影されたそうですね。
AKA:HIROちゃんは行きもしない代官山の本屋で、読んだこともない洋書を読むシーンを撮ったのが、恥ずかしすぎて精神的にやられていましたね(笑)。
●あははは(笑)。この曲でPVを撮ろうと決めたのは?
AKA:イントロからドラマティックで、一番パンチがあるからですね。
●あのイントロはインパクトがありますよね! いきなり不穏な雰囲気を醸し出す雷のような音から始まるので、一体どうなるのかと思っていたんですよ。でも、歌が乗ると一気に爽やかに開けて。
AKA:実を言うと、1曲目じゃなかったら「HIROちゃんは、スーパースターに憧れているのかい?」っていうナレーションから始めるつもりだったんです。でも1曲目に決まったので、こういう形になりました。
●アレンジも試行錯誤したんでしょうか?
AKA:「SUPER STAR」は、初期にメインでアレンジをやっていたメンバーが抜けた後に入った新しいドラマーと、やり方が見えないまま作ったんですよ。だから、アレンジもなかなか決まらなくて。
HIRO:"これでいいかな?"と一度決まったものを「やっぱり違う!」と、白紙に戻したりもして。リズムも含めて、色々と考えました。
AKA:コード進行がダイナミックだったので、すごくメリハリを付けた方がいいなと思って。その分、余計に時間がかかりましたね。
●M-3「thank you my friend!」は、レーベルの社長のKOGAさんが作った曲ですが。
AKA:1人がメインで作っていると、曲の構造パターンが一定になってしまう恐れがあって。それだと聴いている人の耳に引っかからなくなるんじゃないかと思ったので、変化を付けたかったんです。
●歌詞では、友達への感謝が綴られていますが。
HIRO:ちょうどこの曲の歌詞を書いた頃、女友達が急に増加したんです。
AKA:増加って(笑)。
●あはは(笑)。どうして急に増えたんですか?
HIRO:下北沢とかで飲んでいたら、自然と女友達が増えていったんです。今は働きながらバンドをやっているので、現実的な生活の中で"しんどいなあ"と思うことも多かったんですよね。でもそこで知り合った彼女たちは、みんな社会人なのにすごくアグレッシヴなんですよ。毎日のように夜遅くまで遊んで、でも朝から仕事をして…みたいな。しかも、私より年上な人も多くて。"私ももっとガンガンいかないと!"という若い頃の気持ちを思い出させてくれた女友達に「ありがとう」と言いたくて、この歌詞を書きました。
●生活環境の変化によって生まれた内面の変化が歌詞にも表れたんですね。
HIRO:前のバンドをやっていた時に名古屋から上京してきたので、東京にはバンドマンの知り合いがほとんどだったんですよね。しかもバンドマンって男の子が多いし、女性ボーカル同士だとちょっと牽制しちゃう部分もあって、あまり女友達の広がりがなくて。でも働き始めてからは、いろんな所でいろんなジャンルの友達が増えていって、すごく楽しいです!
●バンドだけじゃなくて、普通の生活を始めたことでも見えたものがあると。
HIRO:音楽1本だと、その世界の中しか見えていなかったというか。今は朝から電車に乗って仕事に行って、夜は友達と遊んで…っていう、いわゆる普通の生活を送っていて。そこから世界観が変わってきたと思うし、歌詞もより現実的になったと思うんです。生々しいというか。
●その分、普通の生活を送っている人にも届くような、より幅広い歌詞になった気がします。
HIRO:OLさんの話を聞いて、"ああ、そういう感じなのか"と思うこともあって。いろんな人と会話をするようになって、表現の幅が広がった感じはあると思います。
●そんな今の心境で作った今作に、ketchup mania時代の代表曲であるM-9「姫の想い」をアコースティックバージョンで収録したのはなぜ?
HIRO:18歳の時に初めて作った曲なんですけど、これがきっかけでラジオのグランプリを獲ったこともあって、思い出の曲なんです。だから何回もいろんな音源に収録していて…レコーディングするのは4、5回目になりますね。
●そんなにも!
HIRO:ketchup maniaをやめた後も、「またバンドを始めてほしい」という温かい言葉をいただいていたので、ありがとうの気持ちを込めて今作にも入れたいなと。
●原曲は勢いよく駆け抜けるようなパンク色の強い印象でしたが、今回のバージョンはすごく爽やかで草原が似合う壮大な雰囲気ですよね。
AKA:草原っぽさは、ジョージのテイストですね。ちょうどこの頃、彼はボブ・ディランにハマっていて、デビュー30周年記念コンサートでの、ロジャー・マッギン(ザ・バーズ)のギターソロに影響を受けたみたいです(笑)。ジョージはギタリスト兼サンプラーという感じで、そういう影響を本当に上手く消化するんですよ。だから洋楽好きな人が今作を聴いたら、"まさかこれは!?"と思う部分がいっぱいあるんじゃないかな。タネを明かしてから聴いてみても、また面白いと思います。
●古い洋楽を知っている人も楽しめるし、逆に知らない人にとっては新鮮に聴こえると思います。今作は、1曲1曲はもちろん、アルバム全体を通しても、本当に色んな世代の人が楽しめる作品になっていますよね。
AKA:そうなっていると、うれしいですね。
●今作をリリース後、レコ発イベントや初の大阪公演を含むツアーも控えていますが、どんなライブにしたいですか?
HIRO:メンバーと一緒にお酒を飲んで楽しめることもそうだし、キャラベリを始めてから"こんなにくだけた感じでバンドをやってもいいんだ"って思うことが多くて。ketchup maniaを解散する頃、KOGAさんから「音楽は音を楽しんでこそだよ」と言われて、"私は楽しめていたのかな?"と思ったんです。私はだらしないし、ダメ人間だけど、このバンドでは背伸びをせずに今の自分ができることを自由に出していきたいなと。"柔らかくて温かい、だけど熱い"という感じのライブができたらいいなと思います!
Interview:Hirase.M