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THE冠

諦めることを自らの手で消し去った漢の闘う魂・貫く心

 2003年にTHE冠としてソロ活動をスタートさせた冠徹弥。

昨年生誕40周年を迎え、ヘビーメタルの鋭いサウンドで歴史にその名を刻んできた漢(おとこ)が、記念すべき3rdアルバム『死にぞこないのヘビーメタル』を完成させた。

笑いあり、涙あり、怒りあり、哀愁あり…これぞ“THE冠の生き様”と呼べる全10曲は、ひとりの漢が貫いてきた闘う魂と貫く心の結晶。
THE冠のヘビーメタル人生に“諦める”という文字はない。

Interview

「"ヘビーメタルをやっている冠徹弥"を求められて色んな人や仕事に出会えたりするんです。"もう無理やろ。辞めようかな"と考えているときに限って"お前のシャウトがないとあかんねん"と言葉をもらったりする」

●"THE冠"の名義になってそろそろ9年くらいですよね。

THE冠:9年…うっわ! 長いことやってるなぁ!

●今回のアルバム『死にぞこないのヘビーメタル』を聴いて、2011年に生誕40周年を迎えられたことが大きく影響している作品なのかなと思ったんです。メタルといいつつ「これはブルースちゃうか?」というくらいの味があって。

THE冠:ヘビーメタルに乗せたムード歌謡というか、演歌的な要素がありますよね。ジャパニーズブルースみたいなもんです。

●昨年生誕40周年を迎え、自身の人生を振り返ってみるとどうですか?

THE冠:今は30歳のときとは感覚が全然違いますね。30代はまだいろんな可能性があって、"音楽じゃない人生もあるのかな?"と迷う余地がありましたけど、40歳は全然売れていなくても"これしかない"という。

●ああ~。

THE冠:40歳になると選択肢が勝手に狭まって、潰しがきかなくなってくるので自然と"これで生きていくしかない"っていう感じになります。今からサラリーマンになるといっても、就職活動も大変でしょうし。

●徐々にそういう感覚になっていったんですか?

THE冠:40歳を迎えるにあたって、一度考えました。去年の生誕祭のときに、"自分を振り返る"っていうテーマのインタビューに答えていると"あ、僕ってそういう風になってたんや"と思って。自分の音楽人生を改めて振り返ってみて、やっぱりこれしかないと思いました。それがヘビーメタルということなんですけど。

●そもそも冠さんはなぜ"ヘビーメタル"を選んだんですか?

THE冠:僕も"なんでヘビーメタルなんやろう?"って思うことが今でもあるんです。

●今でもあるんですか(笑)。

THE冠:中学のときにヴァン・ヘイレンでハードロックに目覚めたんですけど、そのときはそういう音楽が流行っていたので、「これをやってたらモテるんちゃうか?」っていう不純な動機からギターを買って。高校まではそのモチベーションだけでやれたんですけど、いざデビューすると日本のヘビメタって、中学のときに思っていた雰囲気と全然違ったんです。

●ああ~。

THE冠:改めて"なんで今もやってるんだろう?"と振り返ってみると、結局は中学のときに受けたあの衝撃を超えるものがないということなのかもしれないです。初めてヘビメタを聴いたときの衝撃が強かったんです。

●よほど強かったと。

THE冠:"こんなに燃える音楽があるのか"という。その後もいろんな音楽を好きになったんですけど、あれくらい燃えるものはないなと。やっているうちに、ヘビーメタルという音楽を続けることに対する"やりきる勇気"といいますか、"音数も多ければギャーギャー騒ぐ、あんなしんどい音楽をなんでやっているんだ?"というところで自分自身がおもしろくなってきて。マラソンやトライアスロンに近い精神状態かもしれないです。

●ランナーズハイ的な。

THE冠:こんなしんどい音楽をやり続けたら、それはかっこええんちゃうかなと思って。

●男の美学みたいな感じでしょうか。

THE冠:そうですね。僕は「ヘビーメタルというのはジャンルじゃなくて闘う魂・貫く心だ」とずっと言っているんですけど、ひとつのことを貫く勇気とか力を見せていけたらっていうのがあります。"この先どうしよう?"と思いながらも、38~9歳くらいの頃に"この道でいくしかない"と割り切れた瞬間があったんですよね。

●大人になって年を取るにつれて、自分が描く理想の未来と現実のギャップに気付く瞬間があると思うんですよ。

THE冠:めっちゃありますね。小学生のときは30歳くらいで家を持ってると思ってましたもんね。でも現実は30歳で家賃5万円のアパートに住んで、バイトばっかりしていましたから。そのお金でライブをやって赤字になり、消費者金融からお金を借りての繰り返し。32~3歳まではホンマにそんな感じやったので、理想とは全然違いました。子供の頃は、30代で嫁と子供もいると思っていましたから。

●でもそこで諦めるんじゃなくて、現実を受け入れつつ次の一歩を踏み出すにはすごく勇気がいるし、しんどいことだと思うんです。今作というか冠さんの姿を見ていると、それを真っ正面から受け入れているような感じがするんですよね。むしろ"笑われてナンボ"的な悟りにまで昇華させていて。

THE冠:笑っていただいてナンボやと思っています。ヘビーメタルを世の中に伝えるというよりも、ヘビーメタルを使って楽しんで笑ってもらうという。

●素晴らしいですね。

THE冠:ヘビーメタルを軽く見ているんじゃなくて、好きやけど笑ける感じがあるし。ヘビーメタルを僕の歌詞と独特な歌唱スタイルで楽しんでもらおうと。音楽を伝えるというよりも、そっちの方が大きいです。

●「笑っていただいてナンボ」とおっしゃっていましたが、ライブ会場限定シングルにもなっているM-1「NEW WORLD ~果てしなき鋼鉄の彼方へ~」は笑いもなく、音楽が持つ根源的な部分に真正面から向き合っている曲ですよね。

THE冠:そうですね。去年は震災とか色々ありましたけど、震災後にまず何を歌おう? と考えたとき、最初の1曲目は思っていることをストレートに書いてみようと思ったんです。それでできたのがこの曲。ここから始めたというか、これを歌わないことにはふざけた曲を書けないなと。一旦ストレートなものを作ってからふざけてやろうと思ったんです。

●なるほど。

THE冠:それに、ひとつに捉われたくないというか、アルバムだから色んな自分を見せたいんですよね。"この曲ではひたすらふざけている姿を見せたい"というのもありますし、"この曲ではしっかりとメッセージを伝えたい"という気持ちもある。その時々で自分の感覚が違うんですよね。M-7「海」という曲もすごく爽やかなんですけど、めちゃめちゃメッセージ性がある。

●そうですね。「海」は軽快なサウンドに反して重いことを歌っている。

THE冠:だからこそ"逆にすごくポップな曲に乗せてやれ"ということで。

●M-2「何で言うたんや」とかもそうですけど、「海」は結構政治的な歌詞でもありますよね。日常で生まれる怒りみたいなものが原動力にもなっている?

THE冠:やっぱりヘビーメタルなのでそこがないとね。日常の不条理、矛盾を怒りで表現するバンドって多かったりするんですけど、僕は怒りをおもしろく転じて伝えるという風にしています。基本的には怒っていることが多いですけど、怒りや悲しみって端から見たら笑けたりするんですよね。それを上手く表現したいなと思っています。

●それは関西人的な発想という気がします。自虐というか、悲劇が喜劇になりうるというか。

THE冠:まさにそうです。自分はすごく怒っていたり悲しんでいたりすることでも、端から見たら笑けたりするという。M-5「マスカラ」もまさにそんな感じですね。

●そういうTHE冠さんのスタンスは、単純に怒りや悲しみといったネガティブな感情だけを音楽に吐き出すよりも、聴き手に力を与えると思うんです。

THE冠:でも特に意識しているわけでもないんですけどね。恥ずかしがり屋だからというのもあると思います。逆にストレートに書けへんところがある。

●恥ずかしいからちょっとふざけるんですか(笑)。

THE冠:違う言い回しにして表現するっていうのは子供の頃からあったんじゃないですかね。真面目に告白すればいいのに、ふざけたりするという。

●子供の頃ってそういうのありますよね。もう40歳すぎてますけど。

THE冠:でも一方で、今回は逆にまったくボケたりふざけたりしていないM-9「此処に」のようなバラードもあるんです。あれはあれで"やりきる"おもろさがあるんですよね。"こいつ歌いきりよった!"と。今までにない衝撃も喰らわしたかったんです。

●衝撃を喰らわせたかったので歌いきったと。

THE冠:最近はフェスやイベントでも"誰もバラードをやらないな"と思っていて、だからライブはこれからバンバン入れていったろうかなと。3曲目でいきなりバラードとか入れて「お前らとはちゃうねんぞ!」っていうのを見せたい。

●基本的に聴く人を飽きさせないというか、媚びてないけどサービス精神が旺盛ですよね。笑わせたいというベクトルの楽曲もあれば、元気にしたいというベクトルの楽曲もある。まさにこのアルバムが"今の冠徹弥"そのものみたいな作品ですね。

THE冠:今の僕ですね。M-10「登坂車線」なんて40歳になったからこそ書ける歌詞だし。

●そうですね。「登坂車線」を20代のときに書いていてたら「もっとグイグイ行けよ!」とか言われそうですね(笑)。

THE冠:そうそう。今もグイグイ行っているんですけど、自分のやっていることもペースも理解しているというか。若いやつがどんどん先に行くことも受け入れて、今の自分がやるべきことをやっていくという。

●アルバムタイトルを『死にぞこないのヘビーメタル』にしたのはどうしてですか?

THE冠:低空飛行をずっと続けているような僕のこのギリギリ感を表現しています。1stアルバムが『傷だらけのヘビーメタル』、2ndアルバムが『最後のヘビーメタル』というタイトルだったんですけど、"ヘビーメタルシリーズ"はまだ続けたいと思っていたんです。何かいい表現がないかな? と考えたときに、死にかけているけどずっと続けているというのにピッタリな表現を探していたら、このタイトルに行き着いたんですよね。

●なるほど。

THE冠:死にぞこないだけど、まだ死んでいないですからね。結局、簡単に言えば「諦めたらあかん」ということです。"死にぞこない"って、"諦めることを自分の中から消し去った"という意味なんですけど。

●諦めることを消し去った?

THE冠:"諦める"という言葉が頭にないです。

●お。

THE冠:ヘビーメタルに関してはその感情を捨てた気がします。

●それすごい境地ですね。そういう心境になれたのは何か理由があるんですか?

THE冠:いろんなきっかけがあったんですけど…音楽以外にも舞台の仕事に呼ばれたりして、"ヘビーメタルをやっている冠徹弥"を求められて色んな人や仕事に出会えたりするんです。"もう無理やろ。辞めようかな"と考えているときに限って「お前のシャウトがないとあかんねん」とかいう言葉をもらったりする。だからヘビーメタルに助けていただいて生きてきたんです。自分でも"僕はヘビーメタルで生きてきたんだ"って思いましたもん。それが30代後半ですね。求められている実感を持ったときに"これで行くしかないな"と思いました。

●め、めちゃくちゃいい話だ!

THE冠:「ヘビメタを発揮して全力で叫んでほしい」という仕事しか来ないんですよ。ナレーションとかでも「例の一発お願いしますよ!」と言われてシャウトしたり。だから"これが僕の存在意義なんだ"と。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

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