谷山浩子とROLLY(THE 卍)によるコラボレーションが再び実現! 昨年に発表して好評を呼んだ『ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団』に続き、第2弾となるアルバム『暴虐のからくり人形楽団』がリリースされる。THE 卍のメンバー・Ba.佐藤研二とDr.高橋ロジャー和久も前作に続いて参加した今作では、うなりをあげるROLLYのギターと共にまるでハードロックの如きサウンドを展開。谷山浩子のファンタジックな世界観を持つ楽曲とカオティックに融合し、シュールかつダーク、そして耽美的なプログレッシヴ・ワールドへと今、禁断の扉が開かれる…。
●今回はROLLYさんとの『からくり人形楽団』シリーズの2作目となりますが、そもそもお2人が一緒にやられるようになったキッカケは何だったんでしょう?
谷山:私は毎年9月に8日間連続くらいで“猫森集会”というライブをやっていて、そこに色んなゲストをお呼びしているんです。ある年、どんなゲストを呼ぼうかという会議で、スタッフから「ROLLYさんはどうですか?」という話が出て。私が知っていたROLLYさんのイメージは、TVのバラエティ番組に厚塗りの化粧で出て何か変なことを言っている人という感じで…。ギターも弾くイロモノ系の人というイメージだったので、「どうですか? と言われてもちょっと…」みたいな(笑)。それにあまりにも接点がないから向こうも困るだろうと思って、3回くらい却下していたんですよ。
●最初は却下していたんですね(笑)。
谷山:それでもスタッフがめげずに何度も言ってくるので、とりあえず様子を見てみようということでROLLYさんが出演した舞台『三文オペラ』(2007年)を観に行ったんです。終わってから楽屋でお会いしてみたら、思っていた印象とは全然違って。すごくシャイな人で、拾ってきたばかりの捨て猫みたいな感じというか(笑)。その時に「この人だったら大丈夫かも」と思いました。
●人間性を知って、安心したというか。
谷山:それで思い切って、次の年にゲスト出演をお願いしてみたんです。最初の打合せからROLLYさんはギターを持ってこられたんですけど、すごく意外だったのが…ギターがものすごく上手いっていう(笑)。しかもすごくセンスの良いギターを弾かれる方で、今までも色んなギタリストの方々とご一緒してきましたけど、感覚的に…ちょっと異次元でしたね。
●異次元というのは?
谷山:今までご一緒した方は過去に出した私の音源のイメージをあまり壊さない形でやって下さる場合が多かったんですが、ROLLYさんは曲に対するアプローチが思いもかけないところからやってくる感じで。しかも、まるで最初からそうだったみたいな感じで弾くんです。曲自体のカッコ良さも倍くらいになりつつ、もう最初からそうだったみたいに違和感がない。本当にROLLYさんのギターには驚いたし、奇跡のように思いました。
●TVで見ていたイメージとは全然違ったと。
谷山:ステージではものすごくハードに演奏したりするんですけど、曲に対してはものすごく真面目に考えて下さって。悩んで悩んですごく良いものを出してくるっていう方だったので、「これはスタッフが薦めるだけのことはあったな」と思いました。
●結果的にすごく良い出会いだったわけですね。
谷山:運命の出会いだったなと思いました。ROLLYさんも私の曲をすごく気に入ってくれて、「自分が好きだけど今まではなかなか出せなかった世界がここにある!」みたいな感じで興奮していて。すごく聴いてきて楽曲に入り込んで下さったので、とても良い感じでご一緒できました。
●そこから一緒に作品を作ろうという話になった?
谷山:その後、ROLLYさんが“猫森集会”によくゲストで出て下さるようになって。普通は、同じ人があまり続けてゲストに出ることはないんです。でもROLLYさんにはまず2008年に出て頂いて、次の年には佐藤研二さん(THE 卍)と2人で出て頂いて、2011年にはTHE 卍として出て頂いて…ものすごい頻度でゲストに来てくれたんですよ(笑)。そういう中でファンの人からも「一緒にアルバムを作ってほしい」という要望がすごく多かったので、元々ROLLYさん推しだったディレクターがノリノリになって「ぜひ作りましょう!」と。
●作品を作るとなった時に、“からくり人形楽団”というコンセプトは最初からあったんでしょうか?
谷山:お互いに好きなモチーフとして“人形”があったので、自然発生的に出てきました。前作に「そっくり人形展覧会」という曲があって、ああいう感じで“そっくり人形”とか“からくり人形”を使ったタイトルがいいとROLLYさんが言っていたんですよ。私はビートルズが好きなので『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(1967年)みたいな感じで、アルバムタイトルと1曲目が同じものを前からやりたくて。だから『ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団』というタイトルを考えて、1曲目も同じタイトルにしたんです。
●確かに、1作目を聴いた時に『Sgt. Pepper's〜』っぽいなと思いました。
谷山:うれしい! ビートルズが大好きで思春期の頃に聴きまくっていたので、いつかそういうアルバムを作りたかったんですよ。ROLLYさんに出会ったことで、それが可能になったというか。前作の時にROLLYさんは「クィーンだ!」と言っていたんですけど、私にとってはビートルズのメンバーが揃ったような感覚で。おこがましいんですけど、たとえばポール・マッカートニーがソロでやっているところにジョン(・レノン)やジョージ(・ハリスン)たちが入ってきたみたいな感じでしたね。
●それに続く2作目となる今作『暴虐のからくり人形楽団』は1曲目からギターがうなりをあげていたりと、ハードロック色が増しましたよね。
谷山:そうなんです。このキッカケになったのは、今年の3月に赤坂BLITZと横浜BLITZでやった“ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団 The First Live”で。その選曲とリハーサルをしていた時に、佐藤研二(THE 卍)さんがいくつかの曲に対して「これをバリバリのハードロックでやったら面白いんじゃない? お客さんもビックリするよね」と言い出したんです。
●『暴虐の〜』というタイトルは、そういうハードな音を反映しているのかなと思いました。
谷山:ROLLYさんが一番好きなギタリストがウルリッヒ・ロートさんだそうなんです。だから、スコーピオンズの『暴虐の蠍団』(1977年)からなんじゃないかなって。
●あ、単純にスコーピオンズのアルバムタイトルから取っただけなんですか。
谷山:そんなに深く考えてはいないと思います(笑)。他にも『華麗なるからくり人形楽団の世界』とか『魅惑のからくり人形楽団』とか適当なタイトルをいっぱい並べていたので(笑)。
●ハハハ(笑)。その中から、これを選んだ決め手とは?
谷山:いっぱい考えたんですけど、どれも決め手に欠けたんですよ。「これにしようかな」と決めかけたものにディレクターから「谷山浩子さんらしいですよね」と言われたので、そう言われるのもどうかなと思って。そこで一度リセットして、「これは絶対にないな」と思っていたものの中から『暴虐の〜』を選びました。あとは、ラジオでNHKのアナウンサーの人に“それでは聴いて頂きましょう。アルバム『暴虐のからくり人形楽団』の中から、「しっぽのきもち」”と言ってもらいたかったんです(笑)。
●タイトルと曲名のギャップがすごい(笑)。
谷山:ラジオを聞いている人が、椅子からズリ落ちるような感じがいいなと思って(笑)。だから、CDのジャケット写真には「ぼうぎゃく」というイタズラ書きがしてあるんですよ。その横には“ぼうぎゃくドラゴン”がいて(笑)。
●あれは谷山さんが書かれたんですか?
谷山:はい。パソコンのマウスで書きました(笑)。「たとえばこんな感じで」とデザイナーさんに伝えるために書いたものがそのまま採用されてしまって…。だから、間違ったところを消した跡も残っているんです(笑)。でもあれによってストレートな“暴虐”というイメージではなく、“暴虐(笑)”みたいな味が出せたかなって思います。
●字面通りの怖そうなイメージではないと。でも曲によってはホラーっぽい感じもありますよね。
谷山:今回でホラーなのはM-7「KARA-KURI-BOY」の伴奏だけですね。あれは(石井)AQが1人で作ったんですけど、思いっ切りイッちゃっていて(笑)。映画の『サスペリア』(1977年)みたいな雰囲気があって、怖いんですよ。ヘッドホンで聴きたくないです(笑)。
●M-6「歯ぎしりがとまらない」も怖い気がします。
谷山:そっち方面に持って行っちゃいました(笑)。これはTHE 卍の曲で、ROLLYさんが「谷山さんが歌うといいかも」と薦めてくれた候補の中から選んだんです。原曲に“マリオネット”と“ティーチャーズペット”というシャウトが繰り返し入っていたので、そこからお話を広げてセリフを作った感じで。ある意味、合作ですね。「きっとROLLYさんはこういうことを言いたかったんだろうな」って思いつつ。
●ROLLYさんのイメージを代弁したような感じですね。ちなみに、M-10「からくり人形楽団ソレントへ」からM-11「ある楽団員の回想」、M-12「王国」までの3曲はつながっている印象があったんですが。
谷山:海の音と水鳥の声でつなげています。こういうつなぎをずっとやってみたかったんですよ。中2の5月に初めてビートルズの『Abbey Road』(1969年)を聴いて、学校を休んで1日中聴き続けた時以来ずっとああいうアルバムを作りたくて。ROLLYさんとTHE 卍のおかげでそれが実現したので、3曲だけでもつなげてみたいなと。実はROLLYさんがいない時に勝手につないじゃったんですけど(笑)、絶妙なつなぎになったんじゃないかなと思っています。
●「ある楽団員の回想」の歌詞に“ムガール帝国から船で旅立ち ミシシッピ川をさかのぼり ソレントに着いた”というくだりがありますが、インドから北米を通ってイタリアに着くという地理的にはムチャクチャな道のりに…。
谷山:そこが、からくり人形楽団たる所以です(笑)。しかも途中で「あ〜!」とか言いながら、1人ずつ船から落ちちゃっているんですよ。そして誰も乗っていない船がソレントに着く、と私は勝手に思っています(笑)。
●幽霊船(笑)。でも、どこに辿り着くのかわからない予測不能感みたいなものがあるから、次作もまた楽しみになるというか。
谷山:次も早く作りたいですね。1作目の見世物小屋っぽい感じに戻したい気はしていて。今作ではそういう感じは薄まった気がしているので、また新曲も入れて作りたいなと思っています。だからYouTubeでもなくレンタルでもなく、ぜひお買い上げ頂いて…(笑)。買って欲しいと思うのは、ひとえに次のアルバムを作るためなんです。もうカンパのつもりで買って下さい! (笑)。
一同:ハハハ(笑)。
Interview:IMAI