傑作1stフルアルバム『SEVEN LOVERS』から4年、進化を続けるSpecialThanks渾身の2ndフルアルバムが遂に発売される。その間もライブはもちろん、何らかの形で作品は継続的にリリースしてきた彼ら。昨年には先輩バンドMIX MARKETとのスプリット盤&ツアーや、初の日本語詞となる「LOVE GOOD TIME」のシングルリリースなどで幅も広げつつ経験値を積み重ねた。その結晶とも言える今作『missa』にはライブでの盛り上がり必至のメロディックパンクチューンから、普遍的なテーマとスケール感を備えた日本語詞楽曲まで全15曲を搭載。変化を見せながらも決してファンを裏切らない、新たなる名盤の誕生だ。
●今作『missa』でMV曲になっているM-4「Love begets love」は日本語詞ですが、これは昨年12月にリリースしたシングル曲「LOVE GOOD TIME」で日本語詞に初チャレンジしたことがキッカケになったのかなと。
Misaki:「LOVE GOOD TIME」で日本語詞に初めて挑戦した時に、みんなが「良いね」と言ってくれたのがキッカケになって。せっかくの経験をSpecialThanksでも活かしたいなと思って、日本語詞でやってみようと思いました。「Love begets love」は最初から日本語の曲を作ろうと決めて、作っていったんですよ。
●最初から日本語詞を想定しているからか、メロディも今までとは少し違うように感じます。
Misaki:この曲は歌詞を先に書いて、メロディを乗せていったんです。いつもはメロディを先に作ってから歌詞を乗せていたんですけど、今回は言いたいことや伝えたいことをまず歌詞にしてからメロディを考えていって。だから、今までとはだいぶ違うものになったと思います。
●「LOVE GOOD TIME」では初めて恋愛の歌詞にもチャレンジしたわけですが、「Love begets love」ではもっと普遍的な愛について歌っている感じがしました。
Misaki:見方によっては恋愛に取れるところもあるかもしれないんですけど、もっと大きなテーマを歌っていて。タイトルは“愛は愛を生む”という意味なんです。
●そういうテーマを歌おうと思った理由とは?
Misaki:今までは自分のことばかりを歌詞にしていたので、それが(日本語だと)ストレートに伝わりすぎるのが恥ずかしくて英詞でずっと書いていたんです。でも日本語詞で書くということの意味を考えたら、“みんなにちゃんと伝わりやすいストレートな歌詞にしないとな”と思って。“伝わる歌詞”というものを考えた時に、今までみたいに日常的なことばかり書いてもあまり面白くないかなと。
●みんなに伝わる歌詞を意識したわけですね。
Misaki:それで最近、何かで心が動いたことがあったかなと考えた時に、ちょうど周りの友だちが出産ラッシュだったりして。その子どもたちが将来大きくなった時に、“母親はこういうことを考えるだろうな”とか“自分の母親もこういう気持ちで私のことを思ってくれたのかな”といったことを考えながら書いていきました。自分も誰かから生まれてきているわけだから、そういうのって誰でも経験することじゃないですか。
●誰もが経験することをテーマにした。
Misaki:みんなが通る道だから、これをテーマにしようと思いました。たとえばサビの“心を尽くして聴いてみて 言葉にならぬ言葉とかも”だったり、こういうことをするのがすごく大事なんじゃないかなと思って。実際にはできていない部分もたくさんあるんですけど、自分が親になった時にもそういうのが大事なんだろうなと。家族の間で不仲になるようなことが起きたとしても、“ありがとう ごめんね 愛しているよ”という言葉さえあればまた仲良くなれるんじゃないかなとか、色んな想いがありましたね。
●ここまでメッセージ性が強いものは、今までになかったのでは?
Misaki:“伝えたいこと”が前面に出ていますね。今までは自分の(中にあるものの)発散だったり、日記みたいな感じだったから。そういう意味では日本語でやると決めたことで、歌詞でも新たな挑戦になったなと思います。
●ちなみに歌詞で言うと、M-8「feel your life」の“Our Father, who art in heaven”というのはキリスト教の言葉ですよね?
Misaki:“天にまします我らの父よ”という意味ですね。そういう歌詞ができたことも、今回の『missa』というタイトルにつながっているんです。ミサが行われる教会には救いを求める人や平和を願う人たちが集まってくるというイメージがあるんですけど、SpecialThanksにとっての“ミサ”はライブハウスのステージに立つことで。そこに来たお客さんたちが救われたり、みんなで楽しい気持ちになろうと思い合えたりするような空間を作れたらなという想いで、このタイトルにしました。あと、私が子どもの頃から友だちに“ミサ”と呼ばれていたというのもあるんですけど(笑)。
●自分の名前にもかかっている。
Misaki:自分大好きみたいに思われちゃうとアレなんですけど(笑)、今回のアルバムはすごく大切な作品になったので特別なタイトルを付けたかったんです。
●そういう意味があったんですね。M-3「Hey!you!」でも“Everything is the hand of God(全て神様のお導き)”という歌詞があったりして、今作の歌詞には“神”がよく出てくる気が…。
Misaki:最後のM-15「Present♡」の歌詞(“God gives me as a present”)もそうですね。『missa』というアルバムタイトルが決まってから、歌詞にそういう部分を増やしたところはあります。『missa』というタイトルに合うような歌詞にしたいなというところで、統一感を意識したりもして。
●アルバムとしての統一感を出すために、そういった要素を後から加えたと。
Misaki:1stフルアルバム『SEVEN LOVERS』(2011年)の時もタイトルを決めてから、(歌詞に)いっぱい“LOVE”を入れたりして。それと同じようなことをした感じですね。
●前作から4年ぶりのフルアルバムということで、良いものを作らないといけないという気持ちも強かったのでは?
Misaki:それはすごく思いました。絶対に良いものを作ろうって。
●前作から今作までの期間の集大成的なところもあるのかなと。
Misaki:その間に「LOVE GOOD TIME」があったおかげで「Love begets love」ができたし、他にもMIX MARKETとのスプリットCD『ROCK'N'ROLL』を出して一緒にツアーをまわったことでできた曲もあるので、本当に集大成ですね。
●その間にはMisakiさんが骨折したりというアクシデントもあったわけですが…。
Misaki:1〜2曲目は私がケガをした日に作った曲なんですよ。ケガをするとは知らずにその日の朝に作った曲なので、「SpecialDay」とか言っちゃって(笑)。
●ある意味、“特別な日”にはなったという…。
Misaki:そうなんですよ(笑)。「SpecialDay」は私の中で、最初からアルバムの1曲目を意識して作った曲なんです。M-2「Straight Edge」もそこからの流れで作ったので、2曲一緒にできたような感じでした。その2曲はわりと前からできていたのでアルバムの入りは決まっていて、そこから他の曲を書いていきましたね。
●アルバムの冒頭は先に決まっていたと。「Straight Edge」の歌詞はどういうイメージで?
Misaki:高校3年生の時にアメリカの“SXSW”に行ったんですけど、これはその時の実体験を歌詞に書いているんです。(未成年が)夜にステージに立つ場合は、手の甲に黒色のX印を書かれるんですよね。そういうのを“ストレートエッジ”というんだと教えてもらったんでけど、後から調べて“こういう意味だったんだ”と知ったりもして。そのことをずっと覚えていて、歌詞にしたいとはずっと思っていたんですよ。
●実体験を元にしている。
Misaki:“何度もデスメタルピザを食べたの”という(意味の)歌詞があるんですけど、本当にその時はそれしか食べていなくて。すごく美味しかったので、それをひたすら食べていたんです(笑)。
●そこも実話だと(笑)。そして、M-7「7COLORS -Over The Rainbow-」(以下「7COLORS」)はPERSONZのカバーですが、元から好きだったんですか?
Misaki:幼稚園くらいの頃から、車の中でずっと歌ったりしていました。ライブにも3歳くらいの時から連れて行ってもらっていて、JILLさんにステージ上からタオルをもらったこともあるんですよ。そういうことを今でもずっと覚えていて。ずっと好きで歌っていたものを、今回は入れることになりました。
●カバー曲を作品に入れるのは初めて?
Misaki:今までも(ライブ等で)カバー曲はやっていたんですけど、自分たちの単独音源に他人の曲を入れるのは嫌だっていう想いから1回も入れていなかったんですよ。でもSpecialThanksにとって新しくて面白いことを何かしたいなと思った時に、カバーを入れようかという話が出て。「たとえば入れるとしたら何にしよう?」と考えたら、すぐに「7COLORS」が浮かんだんです。
●「7COLORS」なら入れても良いと思えた?
Misaki:「7COLORS」だったらSpecialThanksの曲以上に、“自分の曲”になっているくらい歌ってきたから。「この曲だったら入れたい!」となりましたね。
●子どもの頃から歌ってきたから、歌録りもスムーズだったのでは?
Misaki:歌いやすかったですね。ちっちゃい頃にJILLさんのモノマネをして、ずっと歌っていたんです。昔は人の歌をモノマネするのが好きだったんですけど、最近はカラオケでも全部が自分流になってきていて。モノマネしていた時の感じと自分流しか出なくなってきている部分が合体して、そこのバランスがちょうど良い感じになっているんじゃないかなと思います。
●今作は歌い方も多彩で、歌の表現力も幅が広がっている感じがします。
Misaki:そうかもしれない。昔の音源を自分で聴いても、全然違うなって思います。ずっと歌ってきて、声変わりしたのかな…(笑)。
●自分でも成長を実感できる作品になったのでは?
Misaki:はい。経験してきたことや、気持ちや考え方の部分で変わったところをちゃんと作品に入れ込めたのかなって。基本的に変わるのは苦手なんですけど、変わることを恐れずにやれたと思います。
●最初の1stミニアルバムから着実に進化し続けているというか。
Misaki:「今の作品が一番良い」って、自分でも思います。ライブでは昔の作品の曲も歌い続けているんですけど、それもお客さんには(音源と)全然違うふうに聞こえているんだろうなって。だから、今の自分でもう1回録ってみたいという気持ちはありますね。
●ちなみに今年の4月頭にTwitterで“バンドをやる理由はどんどん変化していくんやなあ”とつぶやいていましたが。
Misaki:その頃からバンドに対する自分の気持ちが、前向きな方向に変わり始めて。骨折してから1年間くらいは、ちょっと(精神的に)落ちていた時期だったんですよ。前は自分のためにバンドをやっていたんですけど、今はそれこそ『missa』というタイトルに込めた意味でもあるように“ほんのちょっとだけでも誰かを救うことができたら良いな”っていう感じで。“誰かのために”という気持ちが少しずつ芽生えてきました。
●リリース後にはツアーもありますが、ライブに向かう気持ちも変わってきているのでは?
Misaki:今までは自分が楽しければ良いと思っていたんですけど(笑)、今はみんなで楽しみたい。ライブに来て元気になって、ライブが終わった後も余韻に浸って…というのをみんなでやりたいという気持ちが強くなったんです。自分が大切に思っている『missa』というアルバムを好きになってくれた人たちの目の前で演奏して、同じ空間で気持ちや感情とかそこでしか味わえないものを一緒に作っていけたら嬉しいなって思います。
Interview:IMAI