再び4人編成となり生まれ変わった新生・SpecialThanksが、現メンバーでは初作品となるニューミニアルバム『MOVE ON』をリリースする。2011年には1stフルアルバム『SEVEN LOVERS』リリース直後に東日本大震災が発生し、同年12月にはメンバー2人が脱退。Misaki(Vo./G.)自身も精神的に落ち込んでいたというバンドの危機的状況を乗り越えて、新メンバー2人を迎えた盤石の4人体制でリスタートを切った。これまでのスペサンらしさも健在ながら、新境地も垣間見せるなど着実に表現の幅を広げた今作。バンド史上で今が最も充実していることを物語るような自信に満ち溢れた全5曲は、2014年夏に予定されている2ndフルアルバムへと続く道のりを確かな希望の光で照らしているかのようだ。
●1stフルアルバム『SEVEN LOVERS』(2011年1月)をリリースして以降で、紆余曲折があったんですよね。
Misaki:まず『SEVEN LOVERS』を出してツアーをまわった年に、メンバーが2人辞めるということがあって。東日本大震災もあったし、色んなことが重なったというのもあって、自分の気持ち的に落ち込んでいた時期ではありました。そこから『Campanula e.p.』(ミニアルバム/2012年12月)を作るまでには、すごく勇気が要ったというか。
●震災が起こった当時は、音楽活動を続けることに迷いが生じたりもした?
Misaki:「(音楽を)やっていても良いのかな?」という気持ちがあって…、悩みました。やっぱりステージに立つというのは華やかなことだし、自分にとってライブをするのは幸せなことだから、そういうことを(その状況で)するのが良いことなのかなと思ったんです。「音楽をやることでみんなを元気にしたい」という想いもあるんですけど、それによって自分の音楽を宣伝したりするのはイヤだなと思っている時期がありましたね。
●ツアー自体は予定通りまわったんですよね。
Misaki:全箇所やりました。東北にも行ったし、ツアーに関しては決まっているものは全部やりきろうと思って。でもそこでちょうど自分の気持ちが落ちている時にメンバーが脱退するという話もあって、さらに落ち込んで。バンドをやめる気は全くなかったんですけど、歌う気になれなかった。だから、曲を作る気にもなれず…。
●精神的に落ち込んでいて、曲を作れる状況ではなかった。
Misaki:作る気が起きなかったし、作っても暗い曲になっちゃって。そういう中で、『Campanula e.p.』の「were humming」がようやくできた曲だったんです。だからこの曲は気持ち的に重すぎて、今は歌えないんですよね。
●『Campanula e.p.』は何がキッカケで作り始めたんですか?
Misaki:その当時ちょうど、メンバーが3人になったんです。メンバーが2人抜けて「もう活動できないんじゃないか?」と思っていた時に、Junpei(Dr.)が新たに入ってくれて。バンドを終わりにしたくないから、「何かやらなきゃ!」という気持ちはあったんですよ。そこから「3人でもやるぞ!」と思って、作り始めました。
●新メンバーが入ったことがキッカケになったと。
Misaki:元々3ピースのバンドも好きで、自分もいつか3ピースで音源を出したいという気持ちは前からあったんです。でも私は基本的に、誰かに言われないと動かないタイプなので…(笑)。親からも「何かやりなよ」と言われたし、Hiromu(Ba./Cho.)くんも「何か出そうよ」という意志はいつもある人だから、私もやっと「じゃあ、やるか」という気持ちになれた。それは周りの人たちに色々と言ってもらえたことが一番大きかったのかな。
●Junpeiくんが加入したのはいつ頃?
Misaki:2011年の12月末で前のメンバーが脱退した後にすぐ入ってもらって、2012年の1月頃からはもう3人で活動していましたね。Hiromuくんが探してきてくれたんですけど、私は全く探す気も起きていなくて(笑)。ボーッとしていたところに、周りが「やるぞ!」と言ってくれたからその流れに乗れたというか。自分1人だったら、家でグウタラして落ち込んだままだったかもしれない(笑)。
●メンバーが救ってくれたと(笑)。
Misaki:3ピースになってから1ヶ月後くらいには、もうライブをしていて。それは周りに「3ピースになっても(イベントに)出てほしい」という人たちがいたからこそで、そのことに感動して「じゃあ、やるか!」という気になったんです。
●3ピースでのライブはどうでしたか?
Misaki:それまではライブで緊張しなかったんですけど、まだギターに自信がなかったのもあって毎回すごく緊張しましたね。今までは真剣にギターを弾きながら歌うというよりも、遊びも入れながら楽しんでライブをしている感じだったんですよ。でも3ピースになったら、それができないというのはちょっと苦しかったです。
●でもそこで成長できた部分もあるのでは?
Misaki:(それをやることで)自分の成長にもつながるかなという気持ちはあって。前のメンバーが弾いていたギターソロも練習して、今ではだいぶ弾けるようになりました。それが自分の理想の姿というか、いつかソロとかも弾けるようなギタリストになりたいという想いもあったから。3人でやったことでそうなれたから、今となっては良かったのかなと思います。
●3人になったことでギタリストとしても成長できた。Heisukeくんが加わって、今の4人になったのはいつ頃?
Misaki:『Campanula e.p.』のレコ発ツアーでも、途中からゲストみたいな感じで参加してもらっていて。その頃から4人でのライブをやり始めていました。
●Heisukeくんの加入はどんな経緯で?
Misaki:ホームページで募集していたら、応募してきてくれたんです。最初に会った時に3人での音源を渡して、「これにギターを付けてきてほしい」と頼んだんですよ。それで実際にギターを付けてもらった音源を聴いてみたら、自分もどんどん曲ができるようになって…。「ワー!」となって気分がアガったし、「ということは(自分と)合うんだな」と思ったので入ってもらいました。
●Heisukeくんのギターに刺激されて、楽曲も生まれるようになったんですね。
Misaki:その音源を聴いた日に3〜4曲くらい一気にできたから、自分でもビックリしました。『Campanula e.p.』を作り終えた後も何とか頑張って曲を作っている状態だったところから、ようやくバーッと一気に作れる時が来たなと。
●落ち込んでいる時期に、そういう気持ちを曲にしたりはしなかったんですか?
Misaki:それはしないです。発散したい時は(形にして)残さない曲で、1人でガーッと歌います(笑)。発散するだけの曲からは、元気はもらえないと思うから。それよりも、何年後かに自分が聴いた時にも励まされるようなものというか。いつかの自分や聴いてくれる人が「あの時頑張っていたから今もまた頑張らなきゃ」と思えるような、プラスのイメージの曲にしたいんですよ。
●自分も含めて、聴いた人がポジティブになれる曲を作りたい。
Misaki:そうですね。だから、落ち込んでいる時は本当に曲を作りたくない。その時の気持ちを残したくないんですよ。そういう曲を作ったこともあるんですけど、後々で結局は聴かなくなるから。
●今回の5曲はどれもそういうものではないですよね?
Misaki:ないです。いつ聴いても元気になれます。今回の曲に、イヤな思い出は入れなかったから。
●バンドとして充実している今の感じも曲に出ているのかなと。
Misaki:充実しているという感覚はありますね。ライブの回数を重ねる度に、毎回カッコ良くなっていっていると思うんです。だから、今はライブをやるのもすごく楽しくて。
●M-1「Try it out」は、まさにバンドとして楽しそうな雰囲気が感じられます。
Misaki:これは「オープニング用に楽しい曲を作ろう」と言って、みんなで作ったんですよ。元々はフルアルバムを目指して曲作りをしていたんですけど、途中で今回は5曲入りにするということが決まって。そこから前半の3曲ができたんです。私の中にある「ミニアルバムだったらこう」というイメージに合わせて、一気にこの3曲を作りました。元々作っていた曲はミニアルバムのイメージとは違ったので、今回収録した中の半分以上は5曲入りになると決まってから新たに作った曲ですね。
●「Try it out」を1曲目に持ってきたのには、何かメッセージ性があったりする?
Misaki:「SpecialThanksを試してみなよ」っていう感じですね。試聴機でも1曲目って必ず聴いてもらえるものだから、歌もなるべく早く始まるようにして。最後の「試してくれたのね ありがとう」という歌詞は、「最後まで聴いてくれてありがとう」という意味を込めて書きました。
●ライブで一緒に盛り上がれそうな感じがありますよね。
Misaki:今回はライブでみんなが歌えたりして、一緒に楽しめる曲ということを意識して作ったんですよ。
●M-2「After FIVE」のコーラスもそういう感じかなと。
Misaki:そうですね。私は曲を作ると、基本的に自分で全部歌いたくなっちゃうんですよ。「コーラスも歌わせないぜ。私に歌わせろ!」みたいな(笑)。だから、掛け合いとかの曲がなかなか作れなくて…。今のメンバーはしっかりとコーラスができる人が多いので、今回みたいな掛け合いの曲もできたのかなと思います。
●「After FIVE」というタイトルは、実際にMisakiさんが働いている経験に基づいている?
Misaki:そうです。…私は6時あがりなんですけど(笑)、よく“アフター5”っていうから。「ワーク・ライフ・バランスを大切に」という想いを込めて書きました。
●会社にも馴染んできたのでは?
Misaki:社会人5年目なので職場には馴染んでいますけど、1つの仕事に慣れた頃に新しい仕事がどんどん来るから「社会人って大変だな」って毎日思っています(笑)。
●職場の人もバンド活動を応援してくれている?
Misaki:すごく応援してくれています。CDを発売したと言ったら、みんなでCD屋さんに行って何十枚も買ってくれたりして(笑)。私がバンドをやっていると会社のみんなが知っているからこそバンドも頑張らなきゃと思うし、「バンドをやっているから仕事がダメなんだよ」と言われたくないから仕事も頑張れるんです。どちらにもプライドを持ってやれているので、今はバランスが良いのかなと思っています。
●曲作りのペースは就職してからも変わらない?
Misaki:曲作りのペースは変わっていないんですけど、歌詞は前よりも遅いですね。学生時代は授業中に書いたりもできたけど(笑)、今はその時間がないから「よし、書くぞ!」という感じになって書かなきゃいけなくて。昔は歌詞のストックがいっぱいある中から、どれかをイメージして曲を歌うという形が多かったんです。でも今はそれが逆転していますね。
●曲はあっても、歌詞がまだできていなかったりする。
Misaki:「歌詞をどうしよう? もう伝えたいことがあんまりない…」ってなります(笑)。歌詞ってやっぱり自分がすごく伝えたいことを書くわけだから、そんなにも伝えたいことっていくつもないんですよね。だから、悩んじゃう。
●確かに、本当に伝えたいことって多くはないですよね。
Misaki:M-3「Getting on」でも、「私何度も言うけど、今の私は一度きりの使いきり」という歌詞があって。他の曲でも「人生は一度きりだから楽しまなくちゃ」というような歌詞があるから「また使っちゃうな」と思ったので、「何度も言うけど」というのを付け加えたんです(笑)。
●後半のM-4「OVER AGAIN」とM-5「move on」というミドル〜バラード系の2曲もすごく良いなと思いました。
Misaki:ありがとうございます! 実は私もこういう感じのほうが好きなんです(笑)。だから普通にしていたら、こういう曲がたくさんできちゃうんですよ。でもライブでやることを考えると、前半の曲みたいな感じで「楽しみたい」という気持ちが昔からあって。そういう曲も好きだからやりつつ、でも自然とできるのはこっちっていう。
●しっとりした曲が自然にできるようになったのも、バンドとして表現力の幅が広がったからでは?
Misaki:それはあるかもしれない。あと、後半の2曲ではヘイちゃん(Heisuke)のギターの味がすごく出ていると思っていて。新しいギターが入って、良いふうに変わったなという感じが出ている曲だと思います。
●今の充実しているバンドの状況がM-5「move on」の歌詞には出ているのかなと。
Misaki:それはすごくありますね。次のフルアルバムに向けて、「どんどん進んでいくぞ」という意味も込めていて。最後にギターの音がガーッと上がっていくのも、「次につなげるぞ」という想いを込めて入れました。
●それがアルバムタイトルにもつながっている。
Misaki:意味としては「次の段階へと進んでいきたい」という気持ちが今の自分たちに近かったから、曲のタイトルから取って「『MOVE ON』にしようかな?」と言ったらメンバーも「良いんじゃない」と言ってくれて。
●メンバーとも意識が一致した。
Misaki:今のメンバーとは考え方や感覚が似ているのかな? 今回の曲順を私が出した時も、みんなが「これで良いんじゃない」という感じですんなりと決まって。そういうところの意見も合わない人とは絶対に合わないから、すごくありがたいことだなと。今は「カッコ良いライブをしようぜ」とか「カッコ良い曲を作ろうぜ」みたいな感じでみんなが同じ方向を見つめられているから、すごく理想的な状態だと思います。
●今回はそんな充実した音源に、初ワンマンの映像を収録したライブDVDまで付いているわけですが。
Misaki:ワンマンはすごく楽しかったです。始まる前は色々と不安もあったんですけど、当日にライブハウスへ着いたら自分たちしかいないし、お客さんも自分たちが好きで観に来てくれている人しかいないから、すごく気が楽になって楽しめました。
●良いライブになったという実感もある?
Misaki:良いライブというか…、精一杯でした(笑)。でも終わった時に「ダメだったな」とかは全然思わなかったから、それが良かったということなのかなと。やりきった感じはあります。
●選曲的にも、初めてスペサンを聴く人に向けたベスト的な内容かなと。
Misaki:そうなっていると思います。今作で初めて聴く人にも、昔の曲を聴いてもらえるようにという気持ちはありました。
●今回で新たなスタートを切りつつ、今は次に向かって動き始めているわけですよね。
Misaki:もう次のアルバムのレコーディング日程も決まったので、そこに向けて曲を作っています。元になる曲はあるんですけど、自分がイメージしているものに辿り着くまでにはやっぱり時間がかかるんですよ。そこでイメージどおりに行くまで、今は繰り返し作業している感じですね。
●12月からは今作のレコ発ツアーも控えています。
Misaki:新しい曲をツアーで早くやるのが楽しみですね。ツアーで色々と人生経験を積んだ私がまた新たな曲を作り、メンバーと一緒に完成させたものをレコーディングして次のフルアルバムに入れられたらなと思っているんです。そのためにもツアーを頑張ります!
Interview:IMAI