音楽メディア・フリーマガジン

SPECIAL LIVE REPORT:後藤まりこ

とてもナチュラルで、音楽に乗せた言葉はより素直で、行動は相変わらず暴力的で、そしてキュートで、どこまでも自由な、後藤まりこ。

2011/12/27@渋谷O-EAST “Don't Disturb Me!!” 後藤まりこ / 篠原ともえ / 女王蜂

Review

鮮烈な個性を放ち続けたミドリというライブバンドは2010年12月30日、恵比寿LIQUIDROOMのライブを最後に解散した。ステージで「無理心中したいわけじゃない。僕の投身自殺や。見といてほしい」という後藤まりこの言葉のまま、僕らはミドリの最後を見届けた。

あれから1年、後藤まりこが主催するイベント“Don't Disturb Me!!”が渋谷O-EASTで開催された。共演は篠原ともえと女王蜂。いったいどんなライブになるのか…敢えて想像力を働かせずにO-EASTのドアを開けた。

篠原ともえはDr.あらきゆうこ、Per.スティーヴ エトウ、Key.ホッピー神山、Ba.坂出雅海(ヒカシュー)、G.三田超人(ヒカシュー)というバンドを従えて登場。女の子らしさを前面に出した堂々たるステージングと芸術性の高いサウンドは強引に一体感を生み出して会場を支配。続く女王蜂はジェンダーを超越した神々しいほどのカリスマとステージで、観る者の心をビシビシと射抜いていく。2組のライブが終わり、上気した頬のオーディエンスは後藤まりこのステージを今かと待った。

ピンボーカルをぐるっと囲むようにG.AxSxE、Dr.千住宗臣、Ba.仲俣和宏、Key.渡辺シュンスケという垂涎モノの楽器隊が配置につく。バンドが音を合わせ始めたところで白いワンピースの上に赤いカーディガンをまとった裸足の後藤まりこが登場。「はじめまして、後藤まりこです」と言い、ステージ最前まで迫り出して大きな声で「はじめまして、後藤まりこです」と叫ぶ。マイクの位置まで戻ろうとしてモニターかシールドかに足をかけてコケる。千住の顔を見て笑う。

ライブはYouTubeで発表されている「あたしの衝動」から始まった。ステージで身体をよじらせたりしながら一瞬たりとも立ち止まらない後藤まりこ。と思えばステージとフロアを仕切る柵に足をかけ、客の上に立とうとし、すぐに戻ってくる。
今さら説明不要かもしれないが、ミドリの後藤まりこは強烈だった。刺々しくて儚くて、まるで限界まで張り詰めた弓の震える弦のように、自らが作った壁を壊そうと必死でもがいているように見えた。対して、この日の後藤まりこは、行動の節々から破天荒さを感じさせるものの、ミドリのそれとはどこかが違う。表情はナチュラルで、「ありがとう」とつぶやき、客席からの「待ってたよー」という声援に笑顔を見せる

「うーちゃん」の途中、後藤まりこはステージ下手のスピーカーの上に登って歌い、ぴょんとステージ戻る。メンバー1人1人の名前を呼び、そして「大好きな人と好きな音楽できててめっちゃ嬉しい」と言って見せた満面の笑み。飾らない純度の高い感情は、その向きが内側だろうが外側だろうが心を震わせる。

そしてその後、この日いちばんのキュートな曲を披露。“ゆうびんやさん”と繰り返しながら、まるで少女が散歩するかのようにステージを歩きまわり、バンドの演奏に合わせて「ジャン♪」と言って曲を締め括り、「こんなんミドリやったら絶対にできひん。めっちゃ楽しい」と笑う。このときの後藤まりこの表情は、過去にミドリのステージで見た姿よりも、もっと素の彼女に近いような気がした。

そんな姿にドギマギする我々を尻目に、バンドは激しさを加速させて後半へ。「まやく」の暴力的なまでのサウンドがオーディエンスの興奮に火をつけ、後藤まりこは早々にフロアへとダイブ。暗い照明の中、まるで海を泳ぐように客の上を行き来してステージへと戻る。次の曲で感情を爆発させた後藤まりこは狂ったように歌い、呼応するようにバンドメンバーの演奏もますます激しくなる。そのステージからは、各々が自由奔放に音を放ちつつ、目に見えない一体感のようなものを感じ取ることができる。おそらくそれは、ソロになったとはいえ後藤まりこがバンドマンだからだ。目まぐるしく展開する狂乱は、メンバーとの信頼関係の上に成り立っているのだ。

曲が終わればスタスタスタとステージを去って本編終了、そしてアンコールではまたスタスタスタとステージに戻ってきて「ありがとう、またね」「1曲だけやります」と後藤まりこ。バンドが音を合わせ、その静かな始まりに雄大な曲を想像したが、すぐにそれは裏切られる。楽器隊が爆音というか爆発のような音を鳴らす中、後藤まりこはすぐにフロアへとダイブ。渡辺シュンスケはキーボードの上に立ち、他のメンバーも狂ったように激情を音に込めてスパークさせる。ステージに戻った後藤まりこがバスドラの上に乗ってジャンプして終演。ものすごく短い曲で後藤まりこはステージを去り、O-EASTを歓声が埋め尽くす。

篠原ともえ、女王蜂、後藤まりこ。この3組に共通するのは、それぞれが持つ“女性”という“性”を、それぞれが自分の方法で“音楽”と“ライブ”として表現していたこと。
久々に見た後藤まりこの表情はとてもナチュラルで、音楽に乗せた言葉はより素直で、行動は相変わらず暴力的で、そしてキュートで、どこまでも自由に見えた。ライブ中に「CD…きっと出します」と言っていた後藤まりこに次はいつどのような形で会えるのかわからないが、約1年ぶりに観たステージの後藤まりこは、とても元気に生きていた。

TEXT:Takeshi.Yamanaka
PHOTO:Masayoshi Akutsu

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