ソリッドかつ骨太なロックンロールを鳴らしてきたScars Boroughの新作は、誤解を恐れずに言えばとてもセンセーショナルだ。2008年の結成以来、常に進化しつづけ、変わり続けることを自らに課してきた彼らが行き着いたのは、洗練されたスタイリッシュさと“自分らしさ”を浮き彫りにしたガーリーかつポップ&キャッチーな世界観。バンドとしての核を固めた上で、ジャンルや言語などロックの既成概念に縛られることなく描いた自由なサウンドは、驚くほどナチュラルに飛び込んでくる。現在進行形のScars Boroughが詰まった2ndアルバム『which one?』。このセンセーショナルなロックアルバムを我々は心から歓迎する。
●いきなりですけど、今回リリースされる2ndアルバム『which one?』はとてもセンセーショナルな作品だと思うんです。
Kyoko:おっ!
●2010年4月に1stフルアルバム『Stroke』をリリースして同年7月末にツアーが終わりましたが、ツアーが終わってから今作に着手したんですか?
本郷:そうですね。俺の中でなんとなくイメージがあって、ツアーが終わってから曲を書き始めたんですよ。でも、9月の頭にバンドでミーティングをしたんですけど、そこで作りたいモノのイメージが出てきて、それまで作っていた10曲を全部捨てたんです。そこからまた曲を書き始めたという。
●あ、それまでに作っていた曲を1度全部ボツにしたんですね。
本郷:新しい方向性というか、"こういう曲を作りたい"というものが出てきたので、それまで作っていた曲だとちょっと方向性が違ったんですよね。
●なるほど。そのバンドミーティングではどういう話が出たんですか?
Kyoko:「前作と同じことをしてもおもしろくないね」という話になったんです。それで、「こういうのやりたい」「ああいうのやりたい」っていう感じで拡げるような話をしていったら作品のコンセプトがまとまっちゃった、みたいな。それまでもなんとなくはイメージがあったんだよね?
本郷:うん。なんとなくは。
Kyoko:なんとなくはあったんだけど、話しているうちにもっと明確なものが出てきた。で、やるんだったら今までの曲と雰囲気が似ているようなものじゃなくて、違うものをやった方がおもしろいじゃんという話になったんです。
●それは単に「前作と比べて」という話ではなくて、2008年11月から始まったScars Boroughというバンドの歴史の中で見ても新しいものをやろう、という視点ですよね?
Kyoko:うん。
高橋:"新しいものを見せたい"というのは、ミュージシャンである以上は当たり前の考え方だと思うんですよね。普通のことだし。ツアーが終わって、次の作品に向かうことも当たり前のことで、その中で"新しいものを見せたい"とか"進化したい"という想いも当然出てくるわけで。
●なるほど。先に感想を言いますと、今作を最初聴いてびっくりしたんですよね。僕が今までScars Boroughに対して持っていたイメージは色で言えば"黒"、時間で言えば"夜"、嗜好品で言えば"タバコとお酒"、みたいな感じなんですよ。
一同:ハハハハ(笑)。
MARCH:タバコとお酒(笑)。
Kyoko:間違ってないね(笑)。
●でも今作の第一印象としては肌触りがすごく滑らかだし、とてもポップに聴こえて。極端に言えば、何も前情報がないままで聴いたらScars Boroughだとは一瞬わからないんじゃないかというくらい、今まで抱いていた印象とガラッと変わったんです。でも一方で、聴けば聴くほどScars Boroughらしさを感じるんですけど。
本郷:今回、Scars Boroughはずっと進化し続けていくバンドなんだろうなっていうのがわかったんですよ。変わることを前提として、成長していくことを前提として進んでいるというか。それも意識してそうしているわけじゃなくて、なんとなくメンバーが気付いていくというか。
●はい。
本郷:だから今まで作ってきた音楽を否定するつもりは全くないし、むしろすごく満足したものを作ってきたんです。でも満足したものを作っちゃうと、同じことをやってもしょうがないと思っちゃうんです。だったら今のScars Boroughを更に進化させることに力を注ごうっていう。
●ああ~。
本郷:さっき言われましたけど、"黒"とか"夜"っぽいイメージって、そういう風にだけ思われてるのも癪だしね(笑)。「じゃあ昼間のイメージでやってやろうか!」っていうくらいの(笑)。
●ハハハハ(笑)。今作はちょっと"朝"も入ってる気がしますけど(笑)。
Kyoko:素直なところをもっと出せるんじゃないかなと思ったし。もちろん今までやってきたことも素直なんだけど、やっぱりバンドは人間がやってることだから色んな面を持っているわけだし。だから今回は"こういう面もScars Boroughにはあるんだよ"というところを作品にした感じだよね。イケイケなところもあれば、センチメンタルなところもあったりとか。そういうところをもっともっと素直に出していこうと。
高橋:おそらく今までは、メンバーがお互いの個性を理解しようとしていたんですよ。それが今回は、解り合えたところでお互いの個性を活かせるような段階になったというか、バンドとしてより深くなったような気がするんです。より理解し合えている状態で作品を作ることができたんじゃないかな。人間性とか、考え方とか。
●ああ~、なるほど。
高橋:Kyokoとかイメージがバカっぽいけど(笑)、実はそうじゃない一面も持っているし。そういうところを理解して、解釈した上でできた作品じゃないかなと思うんですよね。
●例えば、過去のインタビューでよくKyokoさんは「ウチらのバンドは女子力が少ない」みたいな発言をされてきたじゃないですか(笑)。
Kyoko:うんうん。
●でも今作は女性らしさが溢れてますよね。
Kyoko:でしょ(笑)。もちろんものすごく女らしい子から比べたら全然だと思うけど(笑)、でもそのギャップというか。私にとってはギャップを出したいなっていうのはありました。
高橋:あと挑戦もありましたよね。
本郷:うん。それは大きいね。バンドとしての挑戦もあったし、各個人の挑戦もあったし。なんかそれぞれがそれぞれに挑戦して、1回脱皮した4人が合わさることによってバンドとして力強くなっていくんじゃないかな。そういった意味では、今作は各個人がすごく挑戦したよね。
高橋:"自分らしさ"って、自分で解釈したままで進むとすごくミニマムなものになると思うんですよ。だから "自分らしさ"という枠を自分で壊さないと始まらないんだなっていうところがスタートでしたね。たぶん4人ともそうだったと思う。
本郷:今回はそれがすごく大きなテーマだった。
●"自分らしさ"が?
本郷:うん。ミュージシャンってずっとやっていくと、自分のフィールドの中に収まった方が気持ちよくなるっていうか。その方が楽だし。
●はいはい。
本郷:それをぶち破るのは結構怖いんだけど、それができたら"まだ俺は進化できるな"っていう自信にもなるし。そういう部分はすごく意識しましたね。だって今回チョーキングしなかったもんね、俺。
高橋:今までからすると意味わかんないですよね(笑)。
●ハハハ(笑)。
本郷:チョーキングってね、ギタリストからするとある意味、楽なんですよ。"これやっとけばOK"みたいな。でもそれを敢えて封印するとか、今回は色んな細かいルールを自分の中で実は作ってて。自分の手癖で済まされないようなものを出そうと思ったんですよね。
●なるほど。最初のミーティングでは具体的にどういうキーワードが出てきたんですか?
本郷:すごく陳腐な表現ですよ(笑)。「もっとオシャレな感じで」とか「もっとキュートな」みたいな。
一同:ハハハハハ(笑)。
●あ、そこまで明確なキーワードだったんですね。
Kyoko:そう、わかりやすかった。難しい表現とかだったら共有できないし。
高橋:「もっとキュートにいってみようよ」とか、「俺たちなりの"オシャレ"って何なんだろうね?」とか言って。
Kyoko:突っ走っているのは今までと変わらないけど、その突っ走り方を変えたいっていうね。だからイケイケじゃなくて、違う感じでどうなんだろう? って。なんか、中学生レベルくらいの会話してたよね(笑)。
本郷:うん。陳腐な言葉だった。
Kyoko:「朝が見えるような感じでさぁ」とか、そういう感じのことをずっと話してたら、だんだんみんなが一緒になってきて。
MARCH:でも、ミーティングはすごく長かったですね。
本郷:うん。
MARCH:そのときのミーティング自体の時間も長かったし、その後もマメに「これはどうしようか?」みたいな、イメージを共有するためのミーティングも何度もして。
●それは過去の作品と比べても?
MARCH:うん、全然多かった。
●今作はミーティングでイメージを共有して始まったということですが。
本郷:まあでも実際の話、「もっとオシャレな感じで」とか「もっとキュートな」と言っても、それを実際どうやって音楽に落とし込んだらいいのかっていうのはすごく悩みましたけどね(笑)。1ヶ月くらいずーっと悩んでた。
高橋:本郷さん1回迷宮入りしましたよね(笑)。
本郷:そりゃそうだよね(笑)。"オシャレ"とか"キュート"ってただの言葉だから(笑)。
Kyoko:それぞれの解釈っていうか好みもあるからね。そういうイメージを音楽として1つにするのがすごく難しかったんじゃないかな。でもできてからは速かった。
本郷:最初の1ヶ月くらいは自分の中で答えを出すのにすごく苦労して、とりあえず3曲作ってきたんですよ。その中の1曲がM-8「セマシャンブル」なんです。「とりあえず俺の"オシャレ"の答えはこれだ!」って(笑)。
●あ、PVにもなっている「セマシャンブル」がかなり早い段階でできたんですね。
本郷:そう。最初に持ってきたのが「セマシャンブル」とM-2「Comouflage」とM-5「ユキニサク花」なんです。「こういうことだよね?」みたいな。
Kyoko:そしたら私たちも「そういうこと!」みたいな(笑)。それに今回は今までと違って、本郷が細かいアレンジまでガッツリ作ってくるという感じじゃなかったよね。
高橋:うん。弾き語りみたいな状態の曲もあった。
Kyoko:だから逆に私は入りやすかった。その分難しいけど入りやすい。原曲の段階でイメージを固定しすぎていないから。
●なるほど。
本郷:曲作りの途中くらいからプリプロも同時進行していたので、曲を書いてはスタジオに入ってアレンジを詰めて、みたいな状態だったんです。だからだんだん曲作りが追われていって、後半はラジカセで録った弾き語りの原曲をメンバーに聴かせる、みたいな。
Kyoko:その分、メンバーそれぞれの個性というか素直さが出たのかもしれないよね。決まったことが少ない分、自由な空間があるから。
高橋:作業的にはアレンジなんですけど、作曲に参加したような感覚になれたんですよ。本郷さんに「どういうイメージですか?」って訊いたら「ない」って言われたことも多かったし、なんとなくノリやテンポ感が決まってるだけの場合もあったし。だから「これはどうなんだろう?」「これはどうなんだろう?」ってリズムアレンジをゼロに近い段階から入っていけたので、なんか不思議な感覚でしたね。
●なるほど。想像するに、おそらくそういう進め方だったからこそ、曲を形にしていく中で"オシャレ"だったり"キュートな"というイメージをバンドで音楽的に共有していけたんでしょうね。
高橋:そうですね。
本郷:最初に曲を作るときは俺の野太い声で歌っているわけですから(笑)、実際にバンドで合わせてみるまでなかなかイメージしづらいですよね。ひたすらKyokoが歌っている姿をイメージしながら作って、スタジオで合わせてみたときに「バッチリだ」っていう手応えを感じたというか。
●最初に作ったという3曲中の2曲「Comouflage」と「セマシャンブル」がそうですけど、今作のひとつの大きなポイントとしてはフランス語詞ですよね(収録10曲中4曲の歌詞にフランス語が使用されている)。最初に本郷さんが曲を作った時点からそういうイメージがあったんですか?
Kyoko:"フランス語"というキーワードはなかったよね?
本郷:うん。ミーティングしたときに"フレンチ"というテーマは出ていたけど、まさかフランス語で詞を書くとは思わなかった(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
●それがなぜフランス語で?
Kyoko:語感がすごくいいなっていうのと、それにフランス語はあまりロックと結びつかないじゃないですか。
●はい。ロックの表現方法の選択肢として"フランス語"という発想自体がなかったです。
Kyoko:そういう意味でもいいかなと思って。
高橋:それもさっき言ってたチャレンジですよね。英語で歌っているロックなんて多いじゃないですか。
Kyoko:そう。今作にも英語詞はあるけど、そこを一生懸命追求するというよりやったことがないことをやりたかった。私は周りに色んな国の仲間がいるんですけど、聴こえてくる言葉の中で英語よりも敏感に入ってくるのがフランス語だったりドイツ語だっていう印象が前からあったんです。
●ああ~。
Kyoko:でもドイツ語だとちょっと気が強く聞こえるし(笑)、聴こえがいいのはフランス語だった。「Comouflage」とか特にそうなんですけど、そもそもこの曲はサウンド的にちょっと強いイメージじゃないですか。でもその尖ったままで形にするんじゃなくて、私が歌を乗せるときに何かが欲しいと思ったんです。そのイメージのまま強い言葉を乗せたらもっと熱くなっちゃうような気がして。
●ふむふむ。
Kyoko:でもそうじゃなくて、もっと違う表現がしたいと思ったとき、フランス語だったら言葉はわかんなくても雰囲気として伝わりやすいんじゃないかなって。これもチャレンジでした。前だったらそのまま熱く歌ってストレートな楽曲になったと思うんですけど、今回は聴いたときに真逆な印象を与えたかった。
●ああ~、なるほど。
Kyoko:もちろんフランス語はしゃべれないんですけど、仲間に教えてもらって。レコーディングのときは誰も発音が間違ってることに気付かないじゃないですか、みんなフランス語わからないから。
●確かに。
Kyoko:だからレコーディングまでにパーフェクトな状態にしとかなきゃいけなくて、何度も何度も練習して。
高橋:歌詞カード見てもわかんないもんね(笑)。
MARCH:そうそう(笑)。
Kyoko:最初のミーティングで出てきたイメージからフランス語に行き着いたけど、逆を言えばフランス語の曲が形になったときにアルバム全体のイメージがより明確になったのかもしれないね。
3人:うんうん。
本郷:最後に書いたのがM-7「Chocolat」なんだけど、そのときは完全にフランス語のイメージで作ってたからね。
●今作はフランス語だけじゃなくて、ヴォーカルの叫びがなかったり、ギターのチョーキングがなかったりと今までの違いも多いですけど、アンサンブルの心地よさをすごく感じる作品でもあると感じたんです。音が立体的だし、隙間を活かした作りになっていて。だから最初に言いましたけど、聴けば聴くほどScars Boroughらしさを感じるんですよね。
高橋:レコーディングはドラムとベースを一緒に録った曲もあるし、ドラムだけを最初に録った曲もあったんですよ。当然最初に録るわけだから曲の全体像が明確に見えているわけじゃないんだけど、ドラム単体を録ったときにいい予感がするときがあるんです。ドラムを録ったときに奥行きが出てるんですよね。スケール感というか。"必ず広がるな"っていう手応えを感じる瞬間があるというか。
●ああ~、なるほど。そういう個々の手応えがバンドとしてのアンサンブルにも繋がっていると。
高橋:それに今回はものすごくいい音でドラムを録れたという感触があったんです。今まで俺の人生でしてきたレコーディングの中でいちばんいい音で録れたなっていう。今まで俺は1曲1曲楽器を変える癖があったんですよ。その曲に合っていると思う楽器に変えることで、その楽曲にキャラを持たせることができるという考えだったんですけど、それを今回はやめたんです。
●それはどういう理由で?
高橋:いい音なんだからこれでいいじゃん、っていう。チューニングを変えてみたりヘッドを変えてみたり、叩き方を変えてその曲に合わせてみようっていう、心の部分でのゆとりというか変化が表れたのかな。要するに、今まで"自分らしさ"だと思っていたものをぶっ壊しても"自分らしさ"はなくならないっていう自信が付いたんでしょうね。
●楽器を変えることが自分らしさではなくて、自分がどう叩くかが重要だと。
高橋:そうですね。とにかくドラムに関する満足度が半端ないです。
MARCH:ずーっと言ってたもんね(笑)。
高橋:うん。
MARCH:今まででいちばん高橋くんが生で叩いている感じがありましたね。今までは曲のキャラクターに合わせて楽器を変えていたからそこまで感じなかったけど、今回はライブで私の後ろで鳴っているのと同じくらいの圧力がすべての曲にありました。
●なるほど。
本郷:それにさっき言われたことですけど、今回のギターは三次元的なアレンジをしちゃってもいいんじゃないかなと思って。今まではどっちかというともっと力技っぽいようなアンサンブルでやってたんですけど、今回はより繊細なやり方でしたね。曲調もそうだし、方向性もそうだったから。
●それぞれもチャレンジしたという話がありましたが、それぞれ苦労した楽曲はどれですか?
Kyoko:M-3「ラブスーベニア」ですね。
●この曲に限った話ではないですけど、ヴォーカルがウィスパーな感じですよね。それが難しかった?
Kyoko:難しかったですね、サビが特に。感情を入れ過ぎちゃうと力強くなっちゃって、それが自分的には気に入らなくて。暑苦しく聴こえるっていうか。どうしても歌詞の世界に入り込むと感情が出てしまうんですよね。そのコントロールが難しかった。
●曲としては平熱感で歌った方がベターなんだけど、歌うと感情がどうしても入ってしまうという。
Kyoko:そうそう。だから何回も歌ったんです。今回は雰囲気をどう表現しようか? っていうところが重要だったから。
高橋:声を張る方が楽なんだよね。ドラムもそうで。でもやりたいこととやるべきことは違うっていうか。
●うんうん。
Kyoko:みんな難しかった曲は違うの?
高橋:俺は「セマシャンブル」かな。アレンジに手こずったし、アレンジが固まってからも叩くのが難しかった。リズムがちょっと複雑で、こういうのは自分の引き出しにはなかったので。でも曲にはハマってると思う。
本郷:俺は曲作りでまずかなり苦労したんだけど(笑)、ギター的にはM-4「アナタノイズ」かな。ギターソロが全然ハマらなくて、10パターンくらい作ったんです。ああでもない、こうでもないって。
●「アナタノイズ」もそうなんですけど、今作のギターソロはどれも曲の世界観を増幅させている印象があって。歌とはまた違う方法で曲に寄り添った景色を描いているような感じがするんです。
本郷:今までだとギターソロは"ここは俺のパートだからぶちかますぜ"みたいな感じだったんですけど、今回はアンサンブルのひとつというか、ドラマを作っていく中での役割として付けたソロですよね。ある意味、メロディ的な解釈で作ったんです。そんな中でも「アナタノイズ」のソロはどうにもハマらなくて、最終的には何本も重ねて構成する形に行き着いたんです。
●「アナタノイズ」を聴いててすごくドキッとしたんですけど、不特定多数に対して歌っていると思っていたミュージシャンが自分1人に歌いかけてきたという錯覚に陥ったんですよね。歌詞に"ヘッドフォンの中キミともっと踊りたいの"とありますけど、ヘッドフォンで聴いてて、まるで耳元で自分に言われているような感覚があった。
MARCH:まさにそういう感じで作った曲だよね。
Kyoko:うん。電車とか乗っててヘッドフォンで音楽を聴いてる人って最近多いじゃないですか。で、電車から降りてみんな現実に戻って行くんだけど、その瞬間だけ…その曲の中だけは私とあなただけだということをすごく伝えたくて。だから難しい説明は要らなくて、ただそういう風に私は思ってるわよっていうことを書いたんです。
●ミュージシャンと聴き手との関係性が1対1になる瞬間がすごく新鮮でした。MARCHさんはどの曲で苦労したんですか?
MARCH:M-1「X-kiss」ですね。レコーディング中に震災があったんですけど、すごく時間が空いて、この曲は私だけ後から録ったんです。だからテンション的な部分ですごく苦労して。
本郷:精神的な部分でのテンションを保つのが難しいよね。
●それに、噂によるとMARCHさんはレコーディング中に怪我をしたらしいですね。自転車でコケたとか(笑)。
MARCH:そうですね。怪我を繰り返しました。
高橋:もう血の量がすごいんですよ。膝をぶつけて、脛から血がブワーッて流れたままスタジオに来るんです。しかも毎日のように怪我するから、ズボンがズタズタに切れていくんですよ(笑)。
●え? 1回じゃないんですか?
高橋:2~3回あったよね?
MARCH:合計3回コケました。で、同じところをまた打つから治りかけてたのにまた怪我して。
●というか、なぜ何度も自転車でコケたんですか?
MARCH:いや、すごくぼんやりしてたんです。
一同:アハハハハ(笑)。
●今日話を聞いていて発言のひとつひとつから伝わってくるんですけど、それぞれのチャレンジや苦労も実になって、満足度の高い作品になったんですね。
高橋:そうですね。今のScars Boroughの最高が出せたと思います。
Kyoko:聴いてもらった人から「すごく変わったね」とか「めっちゃ良くなったね」って言って貰えるんですけど、ずっとそれを続けていきたいんですよね。今まで出した作品がいいとか悪いとかじゃなくて、「前の方が良かったね」って言われるのがいちばん悔しいじゃないですか。
●確かにそうでしょうね。
Kyoko:「今回なにこれ? めっちゃいいじゃん!」とか「全然違うじゃん!」「でしょ?」っていうのが次に繋がると思うんですよ。次回は同じかというと絶対に違うものになると思うし。
本郷:違うね。絶対に違うだろうね。
Kyoko:またそこで苦しむと思うけど、でもその積み重ねだなって思うんです。
高橋:ドMなんだよね。
Kyoko:そうだね(笑)。
●実際の話、次はどうなるんでしょうか?
本郷:まだわかんないですよ。リリースして実際にツアーをまわっていく中でまた何か沸々と見えてくるものがあるんでしょうけど、同じことはやらないでしょうね。同じような作品は作らないと思います、このバンドは。
高橋:わかんないからおもしろいんですよね。常に変化を求めていくっていう。
●結成して約3年、Scars Boroughというバンドは今どういう時期にきていると思いますか?
高橋:ちょうど今はジャンプしようとしてしゃがんでいるところじゃないですか。この新しいCDを持って、全力でしゃがんでいる感じがします。俺は個人的にいつもそういう状態でありたいと思ってるんです。だから願望かもしれないですけど(笑)。
●でもその発言からはバンドのいい状態が伺えます。
高橋:うん、満足度と充実度がすごく高いです。
Interview:Takeshi.Yamanaka