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流血ブリザード

少年少女をパンクの道へと引きずり込む鬼畜ロックの最新型

ryuketsu“ユダ様生誕30周年記念特別企画”として昨年9月の新宿LOFTでは、“〜30なってもようつべで女性アスリート検索してシコるもん☆編〜”と いうサブタイトルを実践するようなパフォーマンスで1つの伝説(トラウマ)を歴史に刻み込んだ流血ブリザード。ユダ様が31歳を迎える今年も当然のようにその“狂喜!! 鬼畜生誕祭”は開催されるわけだが(今回のサブタイトルは下記を参照)、それに合わせて約3年ぶりの2ndフル(チン)アルバム『イカの天プラ』も発売されることとなった。技術面での向上に加えて、メッセージ性を強く押し出したという今作の音からはキャッチーさすら感じられるだろう。核にあるリアル・パンク精神やブラック・ユーモアのセンスも鋭さを増し、大いなる進化を遂げた鬼畜ロック。今回も絶対に親には聴かせられない…そう、それこそが最高傑作の証明なのだ。

 

 

●今作『イカの天プラ』はすごくまともに“音楽”しているなと。聴きやすさすらあるというか…。

ミリー:今回はパンクスとかアングラ好きのリスナーだけを狙ったわけじゃねぇからな。これから深く音楽を聴いていくような中学生や高校生とか、一般のリスナーにも聴いてもらいたいって気持ちでこのアルバムを作ったんだよ。

●なぜそんな心境になったんですか?

ユダ:元々、俺らは1stアルバム『わしのイチモツ』の時から“わかるヤツだけわかればエエわ”みたいな気持ちで活動したことはいっぺんもないねん。ただ世間的に見たら俺らは自然とアングラ側になるし、そういうところも意識はしつつ自分らのコアな部分を守っていきたい気持ちもある。でも玄人にだけわかればエエみたいな気持ちは全然なくて。むしろハイスタとオフスプリングしか知らんような子に聴いてもらえたほうがうれしい。俺らは入門編のバンドでエエんや…ってまあ、入門編にしてはハードルが高すぎるけどな(笑)。

●ハハハ(笑)。

ミリー:パンクとか全然知らないけど、流血ブリザードは好きっていうヤツを増やしたいな。アタイらの音を聴いて「この人たちは何から影響を受けたのかな?」と思って掘り下げていってパンクとかも知った後に、「今思えば、流血ブリザードが最初のきっかけだったなぁ」って言われるバンドになりたいね。

●「あなたの初めての人になりたい」と(笑)。

ミリー:そうだな(笑)。あと『わしのイチモツ』でエログロな歌詞とかは大分やったから、今回はテイストを若干変えたいって気持ちもあったんだよ。アタイらはどうしても色モノという目線で見られがちだし、その部分は持ち味として残しつつ…もう少しわかりやすいようにちょっとだけ歩み寄ったって感じだな。

●伝わりやすさも意識して、曲を作った?

ユダ:俺らって、曲は意外とポップやからな。それも別に狙ってるわけじゃなくて自然とそうなるし、変に難しいことをしようとも思わへん。あくまで俺らはパンクに影響されてやってるだけやから。最近多いけど、電波を飛ばしてるフリした不思議ちゃんが意味わからんことを歌ってるんも嫌いやし。

●狂ったフリみたいな音楽が流行ってますよね。

ミリー:ちょっと変わった自分を演出してる“偽アーティスト”みたいなヤツらが目につくよな。

ユダ:今回のM-5「アーチス君」はそういうヤツらを意識してる。そいつらの周りにおるヤツらも「この良さがわからんの? 意味わからんのが良いんやん」みたいなことを言うけど、「いや、ごめん。わからん止まりやわ」って俺がはっきり言ったるわって。今回で個人的に一番好きな歌詞は「アーチス君」とM-7「ポリスマストダイ」やねん。ちょっと言葉がドギツい感じやけど、言ってることは間違ってないと思うから。

●「ポリスマストダイ」は実体験を元にしているとか。

ユダ:駅で私服警官に囲まれて、不当な職質を受けて。よっぽどノルマに困って切羽詰まってたのか、半分カツアゲに近いノリやったな。カバンを開けて見せるように言われたけど、強制される覚えはない。怪しいこともしてへんし、ただ電車に乗ろうとしたところを力づくで引っ張られたんやで。最初は名乗らんから警察かどうかもわからんかったし、不透明なところがいっぱいある取り調べで。「これはおかしいでしょ」って抗議したら最初は向こうも謝ってたんやけど、やりとりしてるうちにボロが出るのが嫌みたいで、会話自体を拒否する形で着信拒否みたいなことまで警察にされた。

●それはヒドいですね。

ユダ:でももっとひどいことをされてるヤツもいるし、警察がムチャクチャしてるなんてことはみんなも知ってると思うよ。ずっとそういうことをやってきたから、逆に常識がないというか。何をやっても、後ろにいる組織がかばってくれるからな。

●そういう怒りを曲で表現したと。

ミリー:でもその不当な職質がキッカケで、曲が生まれたっていうね(笑)。

ユダ:パンクの教科書に載ってるような“アンチ・コップ”ソングを遂に俺らもやっちまったな(笑)。

●M-6「ババアキーポンスタンディング」では電車でババアに席を譲らないと歌っていますが、これも実話でしょうか?

ユダ:それはご想像におまかせするわ(笑)。この曲は単なる悪ふざけ的な感じやけど、ナメた老人のマナーの悪さには実際ムカついてる。こんなことを歌うと目くじら立てて怒るアホなヤツがおるかもしれんけど、そういう観点で聴く曲じゃないから。

ミリー:実はほとんどメッセージ性がないっていう…。

●歌詞自体にはあまり意味がない?

ユダ:これはフィンランドのハードコアを意識して、言葉の響きだけで作った歌詞やねん。よく聴いたらメチャクチャしょうもないことを歌ってるっていう、ギャグみたいな曲やから。

ミリー:“立っとれ”って言葉がフィンランド語っぽく聞こえるから、そういう曲を作りたかっただけだよな(笑)。

●監禁とか変態的な性癖をうかがわせるM-11「ユートピア」の歌詞も実話ではないんですよね?

ミリー:この曲のコーラスには元メンバーのアトランティスってヤツが参加してるんだけど、そいつの性癖が前面に出てる歌詞なんだよ。

ユダ:俺自身は監禁したいとか思わへんけど、あいつはホンマに鬼畜やからな。今回久々に呼び寄せてシャウトさせたりしたけど、おかげで異常感がホンマに出てて…。ブラックな感じでフザけてる曲なんやけど、音楽面では一番壮大な感じもあるな。

●音楽的な表現力も向上したのでは?

ミリー:今回はツインギターで録ったりもしてるからね。

ユダ:実はドラムのキャットフード★TOJIKOMEはめっちゃギターが上手いねん。だから今回のレコーディングではサポートメンバーにドラムを叩いてもらって、ツインギターの5人編成で録ったという。

●編成もいつもと違ったと。

ミリー:今回ツインギターでやったことによって、今後は編成を変えてもいいかなと思ったくらい。光が見えたようなレコーディングだったな。

●新しい挑戦もしている。

ユダ:特にM-3「ジェノサイドノイズ」とM-10「邪悪インマイハート」は、今までにはなかった感じで。「流血ブリザードがカッコつけて歌っても…」と思われるかもしれへんけど、この2曲が入ったのは新しい境地やな。

●言葉も聞き取りやすいし、歌い方もちょっと変わった気がします。

ミリー:今回はボーカルがすごく聞こえやすいようなミックス・バランスにしてるんだよね。あと、ユダの声も変わったんじゃない?

ユダ:昔よりもドスの利いた野太いシャウトになったなと。自分で聴いても「エエ声出してるな」と思うわ(笑)。

●楽曲がバラエティに富んでいるのも、聞きやすさの理由かなと。

ミリー:今回はかなりバラエティに富んでるんだよね。コーラスで色んな人に参加してもらったり、友達のトラックメーカーに協力してもらったりもしたから。M-13「愛暴動」がそうなんだけど、なかなか良いだろ?

●打ち込みを使った異色の曲だけど、すごくポップで。

ミリー:これはマイナス人生オーケストラのHaLくん(Vo.栗山“HaL”ヰヱス)にコーラスで参加してもらって、友だちの悪魔大根がトラックを作ってくれた曲なんだ。昔のギグではバンドでやってたんだけど、これは打ち込みにした方が良さが出そうって話して今回はこういう形になったんだよ。

●“お前とジントニック飲みDISCHARGE聴きたい”って、すごい歌詞ですよね(笑)。

ユダ:これはギャグやな。“そんなことしたいか?”っていう。「浅いパンク観やな!」ってツッコみながら聴いてほしい(笑)。メッセージ性もあるけど、笑いの要素も散りばめてるので色々とツッコみながら楽しんでくれたらなと。「またアホなこと言ってるな」っていう中にも、よく見たら「これはわかるな」っていうものがあったり、核心を突いてたりもするのを楽しんでほしいから。

●ジャケットをアメコミ調にしたのも遊び心から?

ユダ:俺らはキャラクターっぽい要素も強いから、メンバーをアメコミっぽく描いたようなグッズが欲しいなと前から思ってて。前回のジャケットでは写真を使ったし、今回はマンガにしてみようかなと。

ミリー:カナダ人の友達が流血ブリザードのことを“COMIC SHOCK PUNK”と言ってて。その言葉がスゲーいいと思ったから、今回のジャケットに入れてみたんだよ。自分でも、流血ブリザードはマンガに出てくるようなバンドだと思ってるから。

●前作よりも手に取りやすい感じもあります。

ミリー:これだったら、親に見られても安心かもな(笑)。

●ミリーさんの尻には“売女”と書かれてますが(笑)。

ユダ:でも親に見られたら困るようなCDを聴くっていうのも大事なことやけどな。

ミリー:親が完全に認めるようなもんはロックじゃねぇ。やっぱり思春期の頃って、親が嫌がりそうなものをあえて聴いたりするもんだし、親が嫌がれば嫌がるほど逆に聴いてやろうって思ってた。昔、セックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』を買って帰った時にウチの親が最高に嫌がってて、それを見て余計にパンクを聴いてやろうと思ったな。

●そういう気持ちが今も根底にある。

ユダ:反抗心というか。パンクに関しては特に“大いなる中二病”みたいなのが大事やと思うから。俺らが警察に反抗したっていう話を聞いて「そんなことしても勝てるわけないのに、ガキやな」と思うヤツもおるやろうけど、そういうことをやらなアカンと思う。やっぱり、パンクはトガってないと。

ミリー:前作よりもポップになってるとはいえ、やっぱり堂々と自分の親には聴かせられねぇな。でもこれからもそこは守っていきたいね(笑)。

Interview:IMAI

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