ELLEGARDENのDr.高橋 宏貴が、札幌で活動するトリコンドルのG.久米優佑に声をかけて2018年に活動をスタートした2人組インストロックバンド・PAM。それぞれが東京と札幌に在住のまま、リリースとセッションとライブ(と飲み)を積み重ね、記念すべき1stフルアルバム『How have you lived?』を完成させた。毎日ギターを手に“無”からフレーズやメロディを生み出し、「コードはよくわからない」と言う感性のギタリスト・久米…高橋は、この天才を世に出すためにPAMを結成したのかもしれない。
●久米さんは札幌在住なんですよね?
久米:そうですね。
高橋:昨日まで一緒に札幌にいてそのまま移動してきて。
●そもそも久米さんは札幌でトリコンドルというバンドをやってるじゃないですか。なぜこの2人でバンドを組もうと思ったんですか?
高橋:俺が前やってたScars Boroughというバンドで北海道に行った時に対バンして、そこで知り合って誘ったんですよ。最近はLCCもあるし出来そうだったので(笑)。
●ネットもあるし。
高橋:あと、ちょっと複雑なこともやってみたくて。
●複雑なこと?
高橋:音楽の技術的にも難易度の高いことをやってみたいなと思ってたんです。
●トリコンドルもインストバンドなんですよね?
高橋:インストです。トリコンドルはPAMの比じゃないくらい複雑なんですよ。だから久米はそういう音楽に理解が出来ているから、リズムに対する説明が必要ないんです。
●ただ、決してスタンダードではない“2人組バンド”をやるということは、何かしら理由があると想像したんです。高橋さんは久米さんのどういうところに惹かれたんですか?
高橋:対バンして久米を見て、1回離れるじゃないですか。でもボーカルだと思っちゃうくらい俺の中で強烈に印象が残ってたんですよ。ギタリストなのに。自分にとって今までそんなギタリストいなかったので。そこがいちばんのポイントですね。
●記憶に残るギタリスト。
高橋:しかも俺が今まで一緒にやってきたギタリストはみんな凄腕なので、俺の中のギタリストのハードルはかなり高いんです。
●見る目が肥えている。
高橋:だから印象に残るギタリストにはなかなか出会えないというか。そういう意味で久米はバッチリだったんです。
●なるほど。一方で久米さんはScars Boroughと対バンしたわけじゃないですか。久米さんは高橋さんをどう見てたんですか?
久米:俺はELLEGARDENがど真ん中の世代なのでもちろんずっと前から知ってましたし、Scars Boroughも大好きだったんです。“すごい先輩”として見てたから、まさか誘ってもらえるとは思ってなくて。誘ってもらった時はものすごい速さで返信しましたよね?
高橋:うん(笑)。
●それくらい嬉しかった?
久米:そうですね。
●一緒にやるとなった時点から、バンドのイメージ像はあったんですか?
高橋:“インストでやる”というのは前提だったんです。あと“2人でやってみたい”というのも前提ですね。
●それってすごく特殊な形ですよね。
高橋:でも可能だと思ったんですよね。同期でベースを鳴らして、ドラムは俺が叩いて、久米がギターを弾けば成り立つんじゃないかって。
●それは、一緒に音を合わせる前に?
高橋:はい。そういう着地点が見えてるっていうのが俺にとってはすごい特殊なことで。
●合わせる前からそこまで見えていたんですか。それは特殊ですね。
高橋:今までの俺のバンドの経験だと、ELLEGARDENだったら細美さんを頼りにしていて、Scars Boroughだったら本郷さんを中心に音を組み上げていたんです。そういった中で、今度は久米に頼られる存在になりたいというビジョンが見えたのが、俺の中で初めてだった。
●何がそうさせたんですかね?
高橋:直感的なものがあったんですよ。“2人でやりたい”と思った理由は、2人の方がうまくいくと思ったというのもあるし、確認に時間がかからないですよね。それは俺の中で魅力的だなと。「着地点が見えてた」と言ったけど、実際にバンドを組んでみるとやっぱり見えていなかった難関もあるわけじゃないですか。でも実際にやってみたら距離的な問題は全然難しくなかったです。ドラムはドラムで重ねてアレンジを考えて、そこに久米がどんどんアイデアを盛り込んで、更にアレンジしてくれる。
●2人の関係性の中で生まれる音楽や空気感が、すごくかけがえのないものというか。
高橋:“バイブスが合う”ってこういうことなんだなって。年齢も離れているんですけど、才能もあるし、努力もするし。
●それと今作はクラウドファンディングで作られましたが、「レコーディング現場見学」というリターンがあってびっくりしたんです。
高橋:まずクラウドファンディングにした理由が、「レコーディング現場を見てみたい」という声が実際にたくさんあったからなんです。そこがメインというか。
●そうだったんですね。お客さんからの要望があった。
高橋:でもちょっとスタジオ見学だけで満足するのかと思ってたら、ギターの録りが1曲スケジュール的に間に合わなかったんですよ。だからお客さんがいる前で本当のレコーディングをしたという(笑)。
●マジですか。
高橋:俺は結構そういう状況に動じちゃうタイプなんですけど、久米は鉄の心臓で何も感じていないという(笑)。
●鉄の心臓のギタリスト。
高橋:久米の自宅にレコーディングできる環境があるので、「間に合わなかったら自宅で録ろうか」という話をしていたんですよ。だからレコーディングのスケジュールが押した時点で、俺はもうそのつもりだったんです。なのに久米は「何言ってるんですか。録りますよ」って(笑)。俺が弾くわけじゃないから全然いいんですけど(笑)。
●ハハハ(笑)。
久米:全然平気ですね。集中しちゃえば関係無いです。
●久米さん、天才なんですかね。
高橋:久米が“変わってるな”と思うのは、一緒に曲を作ったりレコーディングしてる時は、食事やタバコを吸うことすら忘れちゃうんですよ。
●集中すると没頭するというか、他が何も見えなくなるタイプ?
高橋:そうですね。そこが面白いなって。「じゃあ飯行こうか」と言っても「はい。じゃあ次のフレーズ録りますね」って。全然俺の話聞いてない(笑)。
●ハハハハハ(笑)。
久米:自分の中での区切りは一応あって、その区切りまでいっちゃえばシカトはしないんですけど(笑)。
●トリコンドルとPAMで、久米さんにとってのアウトプットの違いはあるんですか?
久米:さっき高橋さんも言ってましたけど、トリコンドルというバンドはめちゃくちゃ複雑なんですよ。でもPAMは「聴きやすいインストをやりたい」っていう話を高橋さんとずっとしてたんです。とりあえず大筋はキャッチーという。
●ふむふむ。
久米:俺は本来はそっちのほうが得意なんですよ。めちゃくちゃ複雑で変拍子すぎるとわかんなくなっちゃう。
高橋:ハハハ(笑)。
久米:なのでトリコンドルは身体で覚えていく感じですね。拍を数えるというよりフレーズを身体に覚えさせる。
高橋:ライブを観たけど相当な事やってますよ。俺も何をやってるか全然わかんないですもん(笑)。
●PAMの曲作りはどうやっているんですか?
高橋:基本的には久米がデモを作って送ってきて、それにドラムを合わせるんです。今回のアルバムに関してはだいたいそうやって頭の中で考えましたね。譜面書いて。
●ジャムセッションしたわけではなく。
高橋:“アレンジをこうしたほうがいいんじゃないかな?”とか、そういうのを考えるのが楽しかったんです。住んでいる場所が遠いからこそ、ジャムって作るのはなかなか難しくて。
●なるほど。
高橋:一緒にいる時はセッションをして、それを久米が発展させてデモを送ってきてくれたりとか、俺がその時に叩いていたドラムを反映させてくれたりとかするんです。ただ、なかなか全部合わせて作るのは難しいから、そういう難関も頭で考えたり譜面を書いたりすることで突破出来た。今ままでだったら感覚でやってたことを理論的にして、更に感覚を反映させることが出来たというか。だからアルバム制作はすごく面白かったですね。
●クリエイティブな作業が面白いということが、音に表れている。
高橋:久米はずっと作ってるんですよ(笑)。創作意欲がすごい。別に本人は無意識にやってるんでしょうけど、かなりペースは速いと思いますね。
●曲のきっかけは久米さんから生まれたもので、そこに高橋さんがリズムを入れると。
高橋:そうですね。軽い打ち込みは入ってるんですけど、今作に関してはデモの段階から結構ヒントが散りばめられていて。
●ヒントというと?
高橋:俺だったら絶対入れないところにフィルが入っていたり、細かいところはデモと全然違いますけど、リズムに対するヒントがデモの段階からいっぱいあったんです。それを結構反映させる作業が面白かった。“きっとここで何かが欲しいから普通入れないようなところから入れたんだろうな”みたいに、感性や感覚を読み取って完成させるというか。
●久米さんの中で、最初のアイディアはどうやって生まれるんですか?
久米:例えばM-4「Sunpiazza」は、今作には入っていないですけど「Sei」という曲のMVを撮った札幌の“サンピアザ水族館”で作ったんです。撮影の合間に完璧に適当に弾いたフレーズがきっかけで。だから何も考えてなかったですね。指を動かしてみて“なんかかっこいいな”って。そしたら高橋さんがドラムを叩いてくれて。あれは“無”ですね。
●“無”って。
久米:今回のアルバムはわりと“無”な曲が多いですね。“曲を作ろう”とか何も思わずにギターを弾いてて1つフレーズ作って、そこからはちょっと考えますけど。
●無意識に弾く中で出てくるアイディアが曲のきっかけになっている。
久米:そうですね。
高橋:よくあるのが、ライブのリハの時。ドラムもそうなんですけど普通のギタリストって、リハで弾くフレーズはだいたい決まってるんですよ。お決まりのパターンで自分の音とか確認するために。
●普通はそういうイメージがありますよね。
高橋:でも久米はいつも違うんです。100%違うわけじゃないけど基本的には違う。多分本当に“無”で、無意識に弾いてると思うんですけど。
久米:言われてみればそうですね。本当に何も考えてないですね。
●ギターが身体の一部になってるんでしょうか?
久米:うーん、気付いたらギターを持ってる感じですね。
●毎日必ず弾くんですか?
久米:はい。出来ない日もありますけど、毎日曲を作るようにしてるので。
●毎日曲作ってるんですか!
高橋:今作のアルバムを作り終わって“ツアーのリハどうしようかな?”とか色々考えてたら、「新しい曲出来ました」って(笑)。まだツアーやってないのに(笑)。
久米:ちょっと新しいフレーズが出来ちゃうと最後までやらないと気が済まないんですよ(笑)。時間置いちゃうと別のものになっちゃう気がして。
●毎日作った曲がPAMになるのかトリコンドルになるのか、そういう違いあるんですか?
久米:そこは少しだけ意識しますね。最初に出来上がったフレーズによって「これはPAM寄りだな」とか。
●PAMは踊らせるタイプのインストというより、メロディや歌心があるインストという印象を受けて。歌と言葉がないから情報量は少ないですけど、楽器で描こうとしているものがあるというか。なんとなく聴いた感覚としては、情景や物語、感情の展開だったり。だから久米さんが最初にイメージしている絵なり風景なり映像みたいなイメージがあるのかと思いました。
高橋:久米の場合、“無”と言っても無意識の“無”な気がする。
●ゼロではない。
高橋:サンピアザで作った「Sunpiazza」は水族館の景色が反映されてる。美しさとか。
●キラキラとしていて、メロウですよね。
高橋:その時の状況に左右されているところはあるんでしょうね。
●じゃあ例えばM-10「Ray〜How have you lived?~」はすごく展開が付いていて、ストーリー性がありますよね。これはどういう状況で?
久米:高橋さんとジャムって作った曲ですね。最初のフレーズをジャムで作って、そこから発展させた。俺の中では雨っぽい感じ。多分雨とか降ってたんでしょうね。あんまり覚えてないですけど(笑)。
●覚えてないって(笑)。でも展開の中には爆発点というか、後半につれて盛り上がる場面がどの曲にもあると思うんです。そういうところは、発展させる中で作って行くんですか?
久米:そうですね。爆発点がないと気が済まないんですよ。
●インストバンドって、ひたすら繰り返すような曲が多いイメージもあるんですが。
久米:紆余曲折が必要というか、爆発したり急に下がったりするところがないと落ち着かないんですよね。自分で聴いてて飽きちゃうんです。
●飽きる、なるほど。
久米:要するに飽きないものが作りたくて。そうなると爆発点か、完全に終息するようなものになっちゃうんです。
●あと、先程高橋さんは「譜面に落として理論的に考えた」とおっしゃっていたじゃないですか。そこでどういうものを作っていったんですか?
高橋:全体的な構成というか。久米が作ってくれたデモそのままでいける場合もあれば、「ちょっとこうしたほうがいいんじゃないかな」というものもあるので。だから譜面は地図みたいなものですね。
●なるほど。地図。
高橋:全体の地図を書いて「ここから近道したほうがいいんじゃないかな」とか、自分たちの地図を完成させる。そうしたほうが全体が見渡せやすいんです。本来のバンドだったらそういう作業は合わせてやるんですけど、離れてるからしょうがない。でもそれも楽しいです。
●あとライブを観てめちゃくちゃ印象的だったのが、2人の演奏している姿がすごくエネルギッシュで楽しそうだったことなんです。音と一緒に気持ちが溢れているようなライブ。
高橋:そうですね。PAMの場合は「闘う」とか「立ち向かう」というより、「遊んでいる」という感覚ですね。ライブ中も普通に笑ってますし(笑)。
久米:僕もそうですね。
●音で遊んでいる感覚、いいですね。
高橋:ライブではベースを同期で流してるんですけど、いきなりベースのフレーズを口ずさんでドラム叩くのやめちゃったりとか(笑)。それに久米はアドリブが結構多いんです。全然約束と違うフレーズ弾くからわけがわかんなくなちゃって(笑)。
久米:“今このフレーズ弾いたら高橋さんどんな顔するかな?”と思って弾くことありますね(笑)。
●なかなかやばいですね(笑)。
高橋:それが楽しいんですよ。
●M-8「Mirage」は今作の中でいちばんメロディが立っていて、展開のダイナミックも兼ね備えていると思うんですが、この曲はどうやって作ったんですか?
久米:この曲は始めから「明るい曲を作ろう」と意識していて。これは“無”じゃないですね(笑)。今作は全体的にダークな曲が多いので、意図して明るく聴きやすい感じにしようと。
●意識したのはそこだけですか?
久米:そこだけです。コード進行も少しだけ明るめなんですけど、俺はコードがよくわからないので、“明るい雰囲気だな~”くらいにしか思ってないんですけど。
●コードもわかってないんですか(笑)。物語性がすごく高いので、何かしらモチーフがあると思ったんですが。
久米:「明るい」という言葉ただ1つです。
高橋:ハハハ(笑)。
●久米さんの中には言語化されてない何かがあるんでしょうね。そういったものを、高橋さんはデモから読み取る。
高橋:そうですね。「Mirage」の仮タイトルは「2ビート」だったんですよ。おそらく久米は疾走感が欲しかったからそのタイトルにしたと思うんですけど、俺は2ビートじゃないほうがいいなと思ったんです。だから「こういうのだったらどう?」と提案して。言葉は無いけどその読み合いが面白いですよね。
●バンド組んで1年くらいなのに、その感覚が通ずるのがすごいですね。
高橋:本当にそう思います。俺がドラムを付ける時、デモ以上のものにならなきゃ意味が無いじゃないですか。アイディアやフレーズや見える景色とかを超えて行きたいし、久米が思いつかないようなことをしたいんです。それが今回は出来たんじゃないかなって思います。
●ちなみに曲名は誰が考えるんですか?
高橋:全部俺です。曲に受けた印象から付けてます。「Do-Chi-Touch」は久米が「ドチドチ」という仮タイトルを付けていたからで、「Dimension」はなんか空間的な感じがしたから“次元”という言葉が合うかなと。
●なるほど。
高橋:「Friday's Messenger」は初めてデモを聴いた時に展開が予測不能で、だから「ドラえもん」という意味で付けたんです、金曜日の使者っていう(笑)。M-7「K's Blow」はアルバムに入れるか入れないか最後まで悩んだんです。入れたほうがいいんだけど「難しくてツアーで俺出来んのかな?」って(笑)。なので“久米の一撃”という意味です(笑)。
●ハハハ(笑)。この1年の2人の歩みが“どう生きたか?”というタイトルの今作に詰まってると思うんですけど、想像するにかなり濃厚な1年を送ってこられたんでしょうね。
高橋:かなり濃厚だったと思います。今回の作品で俺たちのバランスがやっと成立したかもしれないなって。さっき俺が言った「着地点が見えていた」というのは、見えていてもそこに着地するかどうかはまた別の問題じゃないですか。
●確かにそうですね。
高橋:だから実際にやる前に見えた着地点に向かってみて、俺たちの進み方が見えた作品になったんじゃないかなと。俺たちの道標みたいなものを形に出来た。
●久米さんはどうですか?
久米:この1年は濃密というか、めちゃくちゃ一緒にお酒飲んだなって思います(笑)。
●久米さん、音や経歴からすごくテクニカルな人を想像していたんですけど、発言からするとすごく感覚的かつ人間くさい人なんですね(笑)。
高橋:そうなんです。人間関係を構築したかったから、練習するより飲みに行くことのほうが重要だったんです。そのほうが次のライブは良くなるし、俺たちの未来は明るくなるような気がしていた。俺、本来は練習すごく好きなんです。でもめちゃくちゃ飲み行ったよね。
久米:はい。でも俺もそういう時間は必要だったと思います。
●既にツアーは始まっていますが、札幌と恵比寿はワンマンですよね。これだけ本数があると日々ギターは変わっていくんでしょうか?
高橋:絶対変わります。ドラムも変わっちゃいます。そうやってもっと進化してワンマンを迎えたいですね。
interview:Takeshi.Yamanaka
assistant:Yuina.Hiramoto
リリース情報 1stフルアルバム 『How have you lived?』 Understanding Label POCS-1829 ¥2,500+税 2019/9/4 Release |
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