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Nothing’s Carved In Stone

何もまだ満たされてなどいない

PHOTO_NCIS7月から9月まで開催されたNothing's Carved In Stoneのアルバム『REVOLT』レコ発ツアーは過去最高の盛り上がりだった。シーン最強のアンサンブルは更に強度を増し、爆発的な感情の放出は大きな一体感を生み、人間味を溢れさせるステージングはオーディエンスを魅了した。そんな彼らが、ツアーファイナルで少しだけ披露した新曲をシングルとしてリリースし、新木場STUDIO COASTの2DAYSを含む全国ツアーを発表。彼らはまだ、何も満たされてなどいない。

 

 

 

INTERVIEW
Taku Muramatsu / Shinichi Ubukata

「理想とか夢って、本当はすごく遠いもので、近くに目標がいっぱいあるから少しずつ達成されて、自分たちも少しずつ変わっていくことで少しずつ満足していく」

●アルバム『REVOLT』レコ発ツアーは9/20のZepp Tokyoファイナルを拝見したんですが、メンバー自身がライブを楽しんでいるようなステージが印象的で。いい意味で力が抜けていて、音を出すことを楽しんでいる感じがしたんです。

村松:ツアーは、自分たちが今までできていなかった部分…内に向かっていく作業みたいなことをもう少しやりたいというところがあったんです。そういう部分もできたし、だけどちゃんと肩の力が抜けて外が見えていたという実感もあって、今までより強いエネルギーを発することができたと思います。

生形:それに客席のエネルギーがすごいなと思って。SEが鳴ったときの歓声から“あ! いつもと違うな!”と思ったんです。そうするとやっぱり俺たちもテンションが上がるし。ライブは自分たちの演奏とテンションも重要だけど、俺たちだけでやることじゃないから。今回のツアーは特に、向こう側のエネルギーがいつにも増して。そういう感触は去年のツアーくらいから感じ始めていたんですけど、それがすごく後押しになる。おかげでライブがどんどんよくなっている気がします。それは、もちろん俺らが変わったっていうのも大きいと思うんです。5年やってきてだんだんと。最初は手探りで向こう側も“どんなバンドなんだろう?”っと思いながら観ていたのが、お客さんたちにとっても自分のバンドになってきたというか。

●それはライブを観ていてすごく感じます。煽らなくても、フロアが爆発するように盛り上がったり。

生形:『REVOLT』はミドルテンポな曲が多かったんですよ。だから今回のツアーはいつもみたいに1曲目から激しい曲をやらなかったんです。正直言うとチャレンジだったしどうなるかわからなかったけど、1曲目の「Assassin」のときからすごかったんですよね。客フロアの跳び盛り上がり方だとか反応が。“1曲目は突っ立って聴いているんだろうな”って覚悟していたから、その辺は予想外でしたね。

村松:「Assassin」や「きらめきの花」とかの反応がいいのがライブで如実に伝わってきて。ツアーは、アルバムの成果や反応がいちばん見えるじゃないですか。でも本当に想像できていなかったんですよ。ライブをイメージして作品を作っておかないとダメなんでしょうけど、どれくらい精神的に追いつめられるのか、のめり込めるのかっていうのも全然わかっていなくて。

●で、いざフタを開けてみたらすごく良かったと。

村松:『REVOLT』の前でバンドの状態は一回ゼロになっているイメージで、ツアーでもう一回集まって音を出したら“やっぱりこれだな”っていう感じがしたんです。ちゃんと戻ってくるというか、自分の中に浸透していくっていう。メンバーとも音を出すだけでコミュニケーションが取れるというところに戻って来れた。規模が少しずつ変わってきて、接する人も増えているんですけど、バンドのいちばん大事な部分にツアー前に帰ることができたというか。それは不思議な感覚だったんですけどね。

●いいツアーだったんですね。そして12/18にリリースするシングル『ツバメクリムゾン』ですが、この曲はファイナルのZepp Tokyoで少しだけ披露しましたよね。

生形:やりました、イントロだけ。

●あの時に聴いた印象と、音源になったときの印象がいい意味で違っていて。ライブでイントロを聴いたときはゴリゴリで骨太な曲かなと思っていたんですが、音源で聴いたら“なにこのキャッチーさ!”みたいな。M-1「ツバメクリムゾン」はどういうきっかけでできた曲なんですか?

村松:真一のネタがまずあって、最初はちょっとスローテンポ寄りなミドルの曲だったんです。でもメロディが立っているというか、メランコリックな感じで、それをアレンジしてって感じだったよね。

生形:「もうちょいヘヴィにしようか」って。テンポも16ビートだったものを8ビートにして。最初の段階ではUKロックみたいな感じだったんです。ちょっとアコギが入ってもいいかな、みたいな。それをパワフルな曲にしようということになって。

●拓さんの声の良さがすごく映えるメロディですよね。歌がすごく入ってくる。

生形:今までにない曲を作りたいといつも思っているんですけど、そういう意味でアレンジも思い切ったものにしたし、更に言うと、M-2「It means」は俺の中では今までにない感じなんですよね。ちょっとコード進行がいなたいというか、洗練されていないというか。

●今までのインタビューでも何度もおっしゃっていましたが、生形さんは今までできる限り洗練しようとしてきましたよね?

生形:そうなんです。そこは排除していたんですけど、今回やってみようかなって。いろんな人にうちのバンドのイメージを言われることがあって、それが自分が思っているのとは違うときもあるんですよね。「アメリカっぽいね」とか「イギリスっぽいね」とか「人間味があるね」と言われることもあれば「人間味がないね」って言われることもあって。

●バラバラっていうか、真逆ですね(笑)。

生形:そうなんですよ。俺はすごくコード進行が大事だと思っていて。もちろんなにもかもが大事ですけど、コード進行でくさクサくもできるんですよね。で、「It means」は家で弾いていたそのままのコード進行なんですけど、いつもだったらもうちょっと考えるんです。自分がかっこいいと思うもうちょっと違うパターンのコード進行もを探すというか。でもさっき言ったように、人から見たらそこまで大きな違いはないのかなと思いつつ、イントロの進行で“このままやってみようかな”っていう気になった。イメージできたというか、かっこよくなるかもって。それにみんながこの曲に反応したというのもあって。

●ということは「It means」も生形さんのネタから?

生形:そうです。今回は本当に時間がなかったので。俺がバーッと持ってきて、それをみんなで聴いて「これとこれをやろう」って。

●「ツバメクリムゾン」はほぼ日本語詞ですけど、元々そうするつもりだったんですか?

村松:メンバーで曲を作っているときに「もっとストレートに、いけるところまでいこう」みたいな話をしていて。で、「日本語でいいじゃん。たぶん乗るよね」って。

●「ツバメクリムゾン」の歌詞は、拓さんの“色をモチーフにする”という傾向が現れていますけど、そもそも“ツバメクリムゾン”という言葉は?

村松:俺もよくわかんないんですけど(笑)。

●え? よくわかんない?

村松:語感ですね。“言ったら気持ちいいシリーズ”のタイトルを作りたくて。というか俺の考えを言うと、歌詞でいろいろと書いてるけど、それを一個の言葉でまとめるのってすごく難しいと思っていて。あまり必要がないと思うんです。

●タイトルに深い意味を持たせる必要はあまりないと。

村松:そうです。だから、語感がいいとかかっこいいとか、イメージが伝わるような言葉がいいんじゃないかなと思って“ツバメクリムゾン”にしたんです。

●なるほど。

村松:クリムゾンっていう色がすごく情熱的だから入れたくて。赤とか血っぽい色なんです。この歌詞は色々と悩んで時間をかけて書いたんですけど、“ツバメ”という言葉が出てきてから、なんか印象的だと思ったのでそこから広げようかなと。この曲はツバメが主人公みたいなところがあって。ツバメって、幸せを運んでくるとか、春を運んでくるイメージがありますよね。この曲の歌詞ではツバメが主人公になっていますけど、それが自分なのか来てくれる人なのかっていうのは明らかにしていないんです。自分が春を運んで誰かを幸せにするとか、誰かが来てくれることで明るい気持ちになるとか。それは好きに取ってもらえればいいかなと。

●拓さんらしい歌詞ですよね。曖昧なところも含めて。

村松:すごく前向きだと思うんです。“消え行くまで”なんですよ、要するに。いいことってずっと続かないじゃないですか。物事も上り下がりがあって、すごく上手くいっている時期があって、終わりも途中から見える。なんでもそうなんですけど、終わりが見える中でやっていくからがんばるし燃え尽きていく、みたいな。

●歌詞の中で印象的だったのが、“何もまだ 満たされないように願う”っていう部分なんです。

村松:夢が叶ったら終わりじゃないですか。でも理想とか夢って、本当はすごく遠いもので、近くに目標がいっぱいあるから少しずつ達成されて、自分たちも少しずつ変わっていくことで少しずつ満足していく。でも、新しいものが作り出せなくなるんじゃないかっていう不安は結構誰でもあると思っていて。“何もまだ 満たされないように願う”というような言葉を自分で言うことで、もうちょっと先を見たいなと思ったんです。

●「It means」も抽象的というか、歌詞は曲調とも相まって内に向かっているベクトルを感じたんです。

村松:これは、バンドが持っている影の部分だと思って書いたんです。自分だけじゃなくて。すごく衝動的になったり、そのときだけ満たされたくて駆けていく気持ちがいくつになってもある人たちが居て。そうやっていくと、いつのまにか瞬間的に空っぽになっているような気持ちがある。そんなことばかり繰り返してるなと思って。

●確かに繰り返しですね。

村松:だから「ツバメクリムゾン」の“からっぽの夜に叫べ”っていうのも、そこに繋がっていたりするんです。でも結局は、繰り返しでいいんじゃないかなっていう気はしていて。ずっとバンドをやると言っても、バンドのことがどうでもよくなるときもあるし。諦めることはないけど、瞬間的にね。でもそれがすごいエネルギーというか、俺たちを動かしている原動力になったりしていて。そういうことを歌いたかったんです。でも結局それで失うものもいっぱいあるんですよ。自分だけのことを考えていると気付かないけど、誰かが遠ざかったりするのを見たりすると、相手も同じ気持ちでいるんだろうなって。そういうところも含めたくて書いたんです。

●きっと、そこに答えは必要ないんでしょうね。

村松:そうですね、まさに。今のところは。

●歌っていることの根本はそこかもしれない。

村松:それでいいかなと思っているし、すごくいいこともいっぱいあるじゃないですか。でも同時に、すごく寂しいとも思うんです。

●さっきも言いましたけど、この2曲を聴いて、改めて拓さんのヴォーカリストとしての…あまり褒めてばかりでも癪なんですが。

村松:もっと褒めてください(笑)。

●いい声だなと思いました。こういうメロディは彼の声が映えますね。

生形:今回は特にそうですね。「It means」も、なにをどうしたって歌が出てくるので。

村松:でも本当に、力が抜けましたよ。俺のスタイルは、なにがあっても声を張っていくというところだと思っていたんです。声質もあるけど、他のことができないと思っていた。だけどもっともっと自分の声質を利用して、広げていってもいいかなと思えたというか。凝り固まっていたせいでできていなかったこともいっぱいあったんです。

●さっきの生形さんの曲作りの話と近い感覚かもしれないけど、“自分はこうするべきだ”というイメージが自分を縛っていたというか。

村松:そうですね。“もっと鼻にかけて歌いたい”とか思っていたし。やっぱり憧れがあるんですよね。自分のなりたい姿を想像していたところに偏り過ぎていた。

●自分のヴォーカルに対してはどう思っていたんですか?

村松:変に新しいことに手を出してダサくなりたくないし、“自分らしくない”と思いたくない。あと、自分のなりたいイメージに凝り固まっていたせいで、どうやって他の歌い方をするのか、喉の使い方がまったくわからなかった。

●ああ〜。そういうことか。

村松:でも最近アコギで歌ったりしていたおかげで、知らない間にできるようになっていたところもあって。

●より自由に歌えることができた。

村松:そうですね。以前は、「It means」のようなあまり声を張って歌いたくない曲でも張って歌っていたんです。いろいろ恐くなくなったっていうことですかね。

●たぶん、心境の変化が大きいんじゃないですか?

村松:そうですね。やってみようという気持ちが生まれたのが大きい。今までと同じことをやりたくないっていうのは、結局いつも思っていて。自分のスタイルを持っていくということと、アルバム毎に違うものを作るっていうメンタルの振り幅が、俺はまったくゼロに近かった。以前、ちょっと憧れている人みたいに歌ってみよう”と思ってやってみたことがあったんですよ。そのときは自分で“俺、世界一かっこいい”と思って、すげえ満足したんです。でも最近、改めてその音源を聴いてみたら、“あれ? 全然だな”と思って。拍子抜けしたというか。そこで、もっとたくさん見ないといけないことがあるんだって気付いたんです。やっているつもりでも全然ゼロだったし、だから“もっと先に行かなきゃ”と。

●今だからこそできた曲ということですね。こういう曲ができたことによって、今後の可能性も大きくなるし。

村松:本当そうなんですよね。この歌い方って、すごくクサいじゃないですか。俺的にはStingとかの、空気だけを鳴らしている歌い方みたいなところまでいってみたくて。まあ全然ダメなんですけど、切なさとか寂しさとか渋さとか…ある程度物事を知った後の声ってあると思うんです。

●ありますね。

村松:だからそういう声を出したかったんです。まだまだだとは思いますけど、今回、現時点では結構満足しています。“俺世界一だ”と思いました。

●すぐ世界一になりますね(笑)。

村松:とりあえず一回は思っておかないと(笑)。

●年明けは“Dive Into The Crimson Tour”があって、新木場STUDIO COASTで2daysを行うと。

村松:おもしろいことをしたいと思ってます。2daysというだけでもおもしろいことになりそうなんですけど。

生形:ホールみたいに席があるところでやるのもおもしろそうですけど、今はまだ違うかなっていう。

村松:最高のツアーにしたいです。オーディエンスも今まで以上に期待してくれているんじゃないかなという気もしているし。でもそれ以上に、俺は同じ会場で2daysでやるのが初めてなんですよ。2日間通して来る人もいるだろうし、1日だけの人もいるだろうけど、セットリストの考え方がまだわかんないんです。考えてはいるんですけど。今までツアーでしかやっていない曲をやるとか、いろいろ選択肢はあるなと思っていて。

●いろんなことができますね。

村松:だからすごく楽しみだなっていう。どうなるかわかんないですけどね。最初に真一が話していたけど、お客さんが変わってきているのを本当に感じていて。一緒に気持ちも変わってきているんだろうなと思うんですけど、このツアーもお客さんと一緒に通過点にして、また次に繋がるようなものにしたい。とにかく最高のものにします。そこにいるみんなと、今を楽しんで。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

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