昨年7月、自身が成長していく中で生じた様々な想いを綴った1stアルバム『*(NOTES)』をリリースしたシンガーソングライター、NIKIIE。
4歳のころからピアノを始め、16歳でバンド活動、17歳からソロのシンガーソングライターとして活動を始めた彼女は、その中で少しずつ人間としての成長を遂げ、自分の気持ちの変化に驚きつつもそれを受け入れて歌にした。
前作のツアーで感じた様々なことを昇華して“今、自分が感じること / 歌いたいこと”を素直に出したミニアルバム『hachimitsu e.p.』。今まで以上に近くで響く同作は、NIKIIEの体温を感じさせる。
「透明の分厚い壁の部屋の中で叫んでいる感覚が強かったんです。でも前回はその壁をなくしたいと思ったツアーでした」
「私は完璧であろうとしていたところがあったんですけど、欠けているからこそ人と人とが共有していけるもの、想いがあるんだなって」
●前作の1stアルバム『*(NOTES)』でインタビューをさせていただいたとき、NIKIIEさんはすごくしっかりしている人だという印象を受けたんです。質問に対して「こうなんだ」という答えがはっきりしていて、何度も自問を繰り返してきた結果なんだということも伺えたし、インタビュー中に返答に悩むこともなかった。あまり感情に左右されないというか、自制がある人という印象を受けたんです。でも一方で、曲によってはネガティブな心情を出していることもあって、取材が終わった後も"一体どんな人なのかな?"と少し疑問に思っていたんです。
NIKIIE:はい。
●でもその後、ライブを観て"なるほど"と思いました。NIKIIEさんのステージの振る舞いはすごくロックで、エンターテインメントとしての演者というより、表現者として感情を爆発させているというか。自分の内面をダイレクトに出している瞬間があるからバランスを保てているのかなと。
NIKIIE:それはありますね。ライブや音楽がなければきっと保てていないと思うんです。あと「自制がある」と言われたのは、1stアルバムはすごく自分と向き合ってストイックに作った曲が多かったので、自分で自分を分かりながら制作したからだと思うんです。だから取材でスラスラ答えたように見えたのかも。
●ということは、あのときがたまたまそうだったということ?
NIKIIE:分からないです。その時々で変化していくので、これから"あれ? こういう人だったかな?"と思うことはいっぱい出てくると思いますよ。
●それは出した音源ごとになのか、人間としてのバイオリズムなのか。
NIKIIE:人間としてですね。乱れるときはすごく乱れます(笑)。
●今後の取材が楽しみですね(笑)。前作のツアーは振り返ってみるとどんなツアーでしたか?
NIKIIE:すごくやりきれたというか。アルバムに関しては、1枚目だし自己紹介的な作品を作ろうと思ったから、自分がどう感じて、どういう風にもがいて、どうやって答えを見つけて、どうやってまた頑張ろうというパワーにしているのか…を自分なりにちゃんと完成させることができたんです。
●はい。
NIKIIE:そこからまわったツアーだったので、ステージに立って自分と向き合っている姿だけを見せるよりも、自分から歩み寄りたいなという気持ちが生まれていて。
●歩み寄りたいというのは、聴き手に対して?
NIKIIE:はい。そのきっかけになったのは去年3月の震災が大きかったと思うんです。いろんな人に支えてもらって自分がそこに在ったという実感がすごく大きかったんですね。自分の中に隠している自分がいて、その隠している自分を受け止めると壊れてしまいそうな気がしていて。あのときは世の中のみんなが自分のいる場所でできることを探していて、私も自分にできることを考えたときに"歌しかない"と決めて歌うことへの決意が固まったにも関わらず、1人になった瞬間に涙が出てきたり、普通に生活ができないくらいに気持ちが揺れていて。
●そうだったんですね。
NIKIIE:そんな中でも「歌に励まされた」という言葉をもらうことですごく背中を押してもらったし、歌への決意を固めることができたから、ツアーでやっと会えるみんなとなるべく近くに感じられるライブにしたいと思ったんです。それに、その時々で感じることを出しきるライブにしたいなと。頭で考えて配分していくのではなく、とにかく体当たりで歩み寄れるようなライブがしたかった。そういう歩み寄るライブをすることはチャレンジでもあったんです。
●それまでのライブとは感覚が違ったんですか?
NIKIIE:違いました。今までは"どうせみんな居なくなるでしょ?"という気持ちが前提にあったので、怒りに近い感情がありました。
●ささくれ立っていたんですね。
NIKIIE:自分と向き合う曲も多いから、透明の分厚い壁の部屋の中で叫んでいる感覚が強かったんです。でも前回はその壁をなくしたいと思ったツアーでした。やっぱり新しいことにチャレンジすることはすごく怖かったし、すごく勇気が必要で。歩み寄ったときに見たことのない私がいるわけじゃないですか。今まで見てくれていた人にとっては感じ方が変わるだろうし。それでも今自分が感じたことを貫いてみようと思って、一筆書きをするように突き進んでいったツアーでした。
●あまり余計なことを考えずに邁進したということ?
NIKIIE:もちろんセットリストや間合いの細かい部分はライブごとに詰めていったけど、根本的な"これは譲らないぜ"という部分は邁進していった感じですね。
●前回のインタビューで「ツアーでいろんな刺激を受けるだろうし、それが次の作品にも表れるだろう」とおっしゃっていましたが、ツアーで得たものがあった?
NIKIIE:私の立場でしか言えないことがたくさんあることに気付けました。今までは"自分なんか…"と制限していたことも、もしもあの場で発言したり表現したりしていたら、誰か1人でも救われたかもしれないと思って。"自分なんか…"と思うのは私の癖だったり習性だったりするのでなかなか直せなくて、これからじっくり直していきたいと思っているんですけど、そう思うきっかけになったんです。
●今作『hachimitsu e.p.』は、いつから制作に取り掛かったんですか?
NIKIIE:ツアーが終わってしばらくした頃です。自分的には"きっとシングルを何枚か出してからフルアルバムを出す流れになるんだろうな"と思っていたんですけど、曲を選考するときに「ミニアルバムで出すのはどうか?」というアイディアをスタッフサイドからもらって。私的にはまさかミニアルバムを作れるとは思っていなかったので"やりたい!"と思ったんです。フルアルバムの半分程度の大きさではあるけど、シングルよりは世界観を表現できるからミニアルバムという形態に決めて、改めて選曲していった感じです。
●ふむふむ。
NIKIIE:でも"こういうアルバムにしたい"というコンセプトとかは一切考えずに、自分が今求めているものを選曲してみよう。それで最終的に紐解いてみたときに、どうやって繋がっていて、どうやって向き合っていくのか…ということを歌っている曲が多かったので、自分が歌いたかったのは人や大切なものとの繋がりを感じられる歌だったんだなと後から気づいた感じ。
●考えるよりも先に、丸裸になって自分が歌いたいものを選んだと。
NIKIIE:そうですね。感じることから始めたんです。
●今作は前作のストイックな感じよりは柔らかい印象があって。素の感情を出しているというか、いい意味での軽さを感じました。
NIKIIE:サウンド面で言うと、前作は基盤になるものができたと思っていて。自分がどんな音が欲しいのかを、曲同様ストイックに探して、考えて考えて考え抜いたものをアレンジャーさんに伝えるという頑固なやり方で作ったんです。そうしたからこそできた1枚だったんですが、今回からは引き算をした音楽を作りたいと思って。それに、今回はアレンジの段階でも感覚を大事にしたのですごく楽しかったんです。違うと感じたところで一旦止めて、感じたことをそのままアレンジャーさんに言うという感じ。それは楽しんでいるからこそ言えることで。
●サウンド面でも、感覚に素直になったと。
NIKIIE:そうですね。だから今作は軽さというか、隙間があるように感じてもらえるんじゃないでしょうか。
●M-1「カナリア」はツアーでもやっていましたけど、すごく象徴的な曲ですよね。
NIKIIE:今回、いちばん最初に選んた曲です。この曲自体を書いたのは、音楽でやっていくことを決めて、空回りをしている時期だったんです。声帯をこわしてしまったり。思うように歌えないし、思うようにピアノも弾けないし、理想とのギャップが大きかった時期で、"音楽を嫌いになれたらいいのにな"って思ったんですよ。
●そこまで思っていたんですか。
NIKIIE:だけどこんなに悩んだりもがいたりするのは、それだけ自分が音楽を好きだからだと気づいたんです。その辛い思いがあったからこそ確かめられたことなので、"音楽が好き"という気持ちを畳み掛けたくてこの曲を書いたんです。ひとりで部屋で歌っていて孤独や葛藤と向き合って、自分を掘り下げて表現していて。
●うんうん。
NIKIIE:さっき話しましたけど、今までライブは部屋の中にいる感覚でやっていたけど、前回のツアーで"人に歩み寄りたい"という気持ちが生まれたのは自分でも驚くようなことだったんです。当然もともとやってきたわけじゃないから上手くいくはずもなくて、でも飛び越えたい…そういう気持ちが「カナリア」で歌っている気持ちと重なったんですよ。
●だからこのタイミングで歌いたいと。
NIKIIE:そうですね。
●もう1曲気になったのがM-4「ito.」という曲。前回のインタビューでライブの魅力を「別々の人間がギュッとまんじゅうのようにひとつになる瞬間が好き」と言っていたじゃないですか。
NIKIIE:アハハハ(笑)。言いましたね(笑)。
●「ito.」の"私と あなたの 繋がる 深いとこ"や、"私と あなたの 繋がれ 見えないとこ"という歌詞はNIKIIEさんが感じているライブの魅力と繋がるし、さっき「今、歌いたかったのは人や大切なものとの繋がりを感じられる歌だったと後から気づいた」と言っていたことにも共通している。それに歌い方からも人間味を感じてなんかほっこりして。不思議な曲だと思ったんですよね。
NIKIIE:この曲は、収録する曲もアルバムタイトルも決めた上で作ったんです。まず『hachimitsu e.p.』というタイトルを付けたのも"人との繋がり"という意味を込めていて。それぞれ別のベクトルの曲が集まってひとつになっている感じが花束みたいだと思ったんですけど、より"密"な関係性…まんじゅうですよね(笑)。
●ハハハ(笑)。
NIKIIE:そうありたいと思って集められたものだから"hachimitsu"にして…密になってるという。
●ダブルミーニングなのか。
NIKIIE:そうそう。そこまで決めていたんですけど、このアルバムの曲たちを繋げる曲が欲しいと思ったんです。それで書いたのが「ito.」。この曲は人と人との深いところでの繋がりを歌いたくて。だから"あなた"は限定した誰かじゃないし、母親だったり友達だったりお客さんだったり音楽だったり、場面場面で変わっていくと思います。この曲を聴いて、限定した世界じゃなくて、聴く人が今感じている対象物との関係を感じて欲しい。
●さっき「なんかほっこりして不思議な曲」と言いましたけど、"深いところ"や"見えないところ"で人と繋がったと感じたときのほっこりする感覚や温度感が、この曲のサウンドと近いんです。
NIKIIE:この曲は家である程度まで打ち込んでデモを作ったんですけど、ディレクターさんから「セルフプロデュースでNIKI BANDでアレンジするのはどうか?」と言われてチャレンジしたんです。何でも意見が言い合えるメンバーと、何も決めずに1個1個作っていって、迷ったらみんなで集合して。
●何でもその場で感じながら。
NIKIIE:そうです! その場で感じながら。今作の中でもいちばん感じながら作った曲ですね。あと人(バンドメンバー)との繋がりがあってのアレンジだからアルバムを象徴する曲になっているんじゃないかなと。
●それと先ほど、「前作のツアーは今まで"自分なんか…"と制限していた気持ちを直すきっかけになった」とおっしゃいましたが、それが「ito.」の歌詞に表れていて、NIKIIEさんなりの現実的なポジティブさなんだなと思って。"これでいい これでいて私だ"と肯定しているからこその説得力を感じるというか。
NIKIIE:私は完璧であろうとしていたところがあったんですけど、欠けているからこそ人と人とが共有していけるもの、想いがあるんだなって。
●そういう部分もあるから、今作はすごく人間味があるのかな。
NIKIIE:そうかもしれないですね。
●そう感じたのは、最後に収録されているM-6「good night my sweet home」もなんです。この曲で歌っていることはすごくパーソナルなことかもしれないですけど、でもだからこそ伝わってくる度合いがすごい。
NIKIIE:本当にそうですね。この曲に関しては誰かに聴かせようとか考えずに書いた曲なんです。さっき言った「これを認めたら壊れてしまいそうな自分」を受け止めていないから、身体だけが前に進んでいる感じで、心がついていっていない感覚があったんです。だからそれを一度受け止めてみようと思って。スタートはすごく自己満足的だったのかもしれないけど、言葉にして、曲として形にしてみたら、ものすごい温かいものだったということに気付いたので、今作のラストに入れたいなと。
●自分の整理をつけるために書いてみたら、"今歌いたい"、"作品に入れたい"と思ったわけですね。そしてリリース後は"hachimitsu"という名前のツアーで全国4ヵ所をまわるわけですが。
NIKIIE:ワンマンです! まだ内容は考えていないですけど…。
●まだ考えていないのか(笑)。
NIKIIE:それでいいかなと思っていて(笑)。ライブのあの場で出ることって今から考えて出てくるものでもないので。まだ時間もあるので、いろんな人のライブとかを観て…アウトプットしているようでインプットしているような時期なんです。もう少しライブが近くなったら焦点を定めて邁進できる何かを見つけたいです。
●ライブはやっぱり楽しいですか?
NIKIIE:始まるまではすごく怖いんですけど…。
●緊張するということ?
NIKIIE:そうですね。リハの段階からずっと「怖い」って言っています。
●何が怖いんですか?
NIKIIE:分からないです。自分が怖いのかな? 離脱するときがあるんですよ。
●病気か(笑)。
NIKIIE:みんな絶対あると思うんですけど、喋りながら違うことを考えちゃうみたいな。
●ああ、それはある。
NIKIIE:それが怖いんです。だから自分を止めておけるようにと思って緊張するし。無意識になれたら気持ちいいし楽しい。それに、自分の書いた歌詞が"歌"じゃなくてちゃんと"言葉"になっている瞬間が楽しいです。
●それは、以前に書いた歌詞だけど、その場で自ら発しているような感覚ということでしょうか?
NIKIIE:そうですね。それで"歌"を超えて"言葉"になっている感じ。ライブでは常にその感覚を求めている気がします。その状態がいいかどうかは置いておいたとしても、自分の理想としてはそういう瞬間ですね。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M