常に我々に一歩先を進み、世界中に散らばるファンを魅了し続けるmy way my love。メンバーチェンジを経てレーベルを新たにした彼らが、待望のアルバム『The Fact Is』を完成させた。たくさんの旅をし、それまでにないほどゆっくりと流れた時間の中で稀代の音楽家・村田が生み出した美学とセンスの欠片たちは、2013年の世界にフォーカスを当てて唯一の音楽作品へと昇華した。1秒たりとも生を無駄にしないmy way my loveによる、陶酔と現実の狭間で鳴る生々しい芸術世界。
●2010年8月リリースのアルバム『NEW MARS』以来の取材となりますが、その間、アルバム『ヒミツノセカイ』(配信限定)とアルバム『BOOT BUM 0.7』(ライブ会場限定)のリリース、そしてメンバーチェンジがありましたね。そもそもJUNGLE☆LIFEではアルバム『ヒミツノセカイ』の取材が決まっていたんですけど、震災と原発事故が起こったことによってリリースが延期になったという経緯がありましたが。
村田:そうでしたね。アルバム『ヒミツノセカイ』は震災が起こる前に『原子ダンス』というタイトルの作品として出来上がっていたんですけど、震災で原発事故が起こったことにより、色々と考えてタイトルを変えて配信限定でリリースしたんです。タイトルを変えたことによって俺たちの音楽が全然変わるわけではないし。
●はい。
村田:でもバンドとしては震災の直後にレーベルも変わったし、メンバーの脱退もあった。それは、震災によって色んな価値観が変わったということもあったし、今までのことを考えなおしたり、これからのことを改めて考えた結果だったと思うんです。レーベルもバンドのメンバーそれぞれもすごく色んなことを考えたタイミングでしたよね。極端に言えば、震災以降の2年間はずっと考えていた。
●1つのきっかけとして、震災が大きかった?
村田:それは間違いなくありますね。もちろん現実的な話として、レーベルとしてのこれまでの流れや関係性、これからの方向性なども含めての話ですけど。そういうこともいい意味で見直す時期だったと思う。だから各メンバーに対して、レーベルに対して、俺自身はすごく良い会話ができて、新たな一歩を踏み出せたと思っています。
●村田さんご自身の心境としては、震災前と何か変わりましたか?
村田:レーベルやメンバーが変わったという部分では、これからの未来へのドキドキ感とか希望とか、新しい出会いへの期待だったり。暗くなるというより、自分としても“何がいちばん大切なんだろうか?”と色んなことを考えつつ、すごくワクワクはしていました。
●そこで暗い気持ちになるようなことはなかった?
村田:うーん、ただ、やっぱり知り合いだとか、東北でお世話になっているレコード屋さんとかライブハウスの連中とかでも悲しい目に遭った奴はいたので、ああいうことは二度と起きてほしくはないですし、まだ自分自身の中での答えは出ていないんです。悲しいことはいっぱいありました。
●そこで“音楽を作り続ける”ということは変わらず?
村田:バンド形態ではあるんですけど、my way my loveというものはひとつのチームというかグループだと思っていて、俺はmy way my loveグループの一員としてまだまだやり残したことがある。my way my loveの魅力を感じ続けているというか、今もずっと恋をしているので、そんな自分や、my way my loveのことを好きな人たちの未来を考えたとき、まだまだ提示したいことがあるし、やりたいことがあると思ったんです。東北の連中とか、いちばん辛い想いをした人たちに対して自分は何ができるかを考えたとき、俺はmy way my loveというフィルターを通して、音楽家として作品を生み続けることしかないと。
●新たなメンバーとなって制作したニューアルバム『The Fact Is』ですが、今までの流れとして、作品毎に内包している様々な要素の表現バランスを変えてきましたよね。my way my loveは“ノイズ”という言葉で例えられることも多いですが、『NEW MARS』などはメロウな部分を色濃く出した作品で。今作もその延長線上であることは確かだと思うんです。
村田:はいはい。
●そこで1つ感じたのが、今作は“怒り”や“衝動”といった熱量を感じるものよりも、“感覚”や“感性”といったものが全体的に出ているように思ったんです。
村田:音楽的な部分で言うと、今回はエンジニア・プロデューサーが変わったということがありますね。以前はmy way my loveのいいところをエンジニアが増幅させてくれていた部分があったと思うんです。でも今回はエンジニアが変わったことで、完全にセルフプロデュースだった。自分がしたかったことというか、自分が見ているこの世界に対して提示したい自分たちの存在とか、センスとか。それを表現したいという想いがあったし、労力もすごく使いましたけど、理想としていたバランスは実現できたと思います。
●“今の世界に対して…”というのは毎回意識されていることですけど、個人的には、今の世界に対してあまりポジティブなものが見えないんです。“怒り”というよりは“諦め”に近い感情が自分の中に増えたし、以前と比べて世の中にも多く蔓延しているような気がするんです。
村田:俺の場合はどっちもありますね。震災以降、“暗い/明るい”とか“白い/黒い”、“光と影”というコントラストが更に強くなったと思っているんです。だから、本当に願えば先に進めるし、諦めてしまえばそれで終わっちゃう…そういう意味でのコントラストが強くなったんじゃないかな。だから自分が物を見る角度だったり、“自分が本当にそれをしたかったのか?”ということを明確にすれば、俺はまだまだ未来があると思う。そう願ってる。
●はい。
村田:ただ、諦めるとか、暗いとか、そういう感情を否定するつもりもないんです。人それぞれ色んな時期もあるし、今悩んでいるなら目一杯悩んで、それすらも愛おしくなるほど悩んでいる時間を大切にした方がいいと思う。たまたま自分はこうやって絶やさずに音楽を作り続けてきて、またこうやって色んな新しい出会いや希望があるのでどんどん前に進んでいるんですけど、ただ陽気に明るくやっているわけではなく、自分の中には“明るい”や“暗い”がありますけどね。“憂鬱”だとか“希望”だとか、そのコントラストを強くして生きています。
●村田さんの中でもコントラストが強くなっている。
村田:うん。それくらい震災は大変だったし、きっとまだ何も終わってないだろうし。やっぱり暗いニュースが多めですけど、その中でも新しい色んなエネルギーは生まれているので、全然まだまだやる気ですよ。音楽でも何でもそうですけど、0から1を生む瞬間がいちばんエネルギーを使うと思うんです。そのエネルギーがいちばん強い。
●そうですよね。それは人との出会いも同じで、繰り返しの連続だと思うんです。バンドにとってメンバーチェンジという出来事もまた1からのスタートですよね。たくさんのエネルギーが必要だからこそ、そこで心が折れたりはしなかったんですか?
村田:たぶん今作を以前と同じメンバーで録っていても、強いものを生むためにメンバーとの関係性を…もちろん人間関係というのはそれまでに積み重ねてきたものが前提になっていますけど…1日1日ちゃんと0から生み続ける必要があると俺は思うんです。それができれば、きっと自分の周りに何もなくなっても、例え0になったとしても大丈夫というか。そこに対しては毎日毎日、何に対しても0から1を生む瞬間で24時間を埋め尽くして生きていきたいと思ってる。自分自身の中にある“音楽を生みたい”というアイディアたちがまた後押しをしてくれるので、メンバーが変わってもいちばんエネルギーを使う“0から1を生む作業”というところに熱中させてもらっている感覚があります。きっと寂しかったんでしょうけど、それ以上に忙しく進んでいましたね。
●音楽を生む作業に夢中だったと。
村田:夢中でした。『NEW MARS』以降、約2年近く流通に乗せた作品の発表はしていませんでしたけど、この2年間は人生で初めてっていうくらいゆっくりとした時間を過ごせたんですよ。それがいいストレスになって、アイディアがフル充電されて、すごく今のエネルギーに繋がっていると思います。これからまた10年くらいは突っ走れそうです(笑)。
●先ほど「今作は“感覚”や“感性”をより強く感じる」と言いましたが、それと同時に、音の中になんとなく“寂しさ”を感じるんです。“哀しさ”というよりも“寂しさ”なんですよね。
村田:本当は人前に出るのも苦手なタイプなんですよ。学生時代なんかは学年集会とかで体育館にみんなが集まって賑わってるのがすごく嫌で。だから暗いか明るいかで言うと暗いタイプだと思うんです。
●村田さんの本質的な部分が?
村田:そう。今作を暗い気持ちで作ったわけではないんですけど、感覚としては…あるものとお別れをして、2つで1つだったものがこれからは1と1で別々に進んでいくんだけど、それぞれが1として変わりはない…そういう状況は別の見方をすれば、それぞれがすごく自由だし明るいものだと思うんです。
●そうですね。
村田:例えば「さよならははじまりだ」とか言いますけど、そういう感覚に近い感じはありますね。歌っている内容もそういう感覚の曲が多いし。さよならをして、振り返ったときは寂しくもあるけれど、でも形としてはすごく自由で。それをまた反対側から見ればすごく哀しいことかもしれないけど、光と影というか、全部隣り合わせな気がするんです。1曲の中にちょっとした希望が持てる明るい部分と、どうしようもない暗い部分…その両方が表現されているんじゃないかな。
●確かに両面性はどの曲にもありますね。
村田:ほんの少し憂鬱を残したり、その憂鬱を走らせるような曲っていうのが今の世の中に合っているような気がしたし、その感覚がいちばん素直だったし、自然なことだった。
●“寂しさ”とか“哀しさ”というのは、どちらかと言うと歓迎すべき感情ではないですよね。でもそのままを受け入れている。
村田:何か暗いワードがあった以降も、何かがはじまる…“はじまった”という明るいワードがちゃんと入りますよね。だから本当に人間って絶妙だと思います。みんながみんな陽気に生きているわけではなく、あるポイントで辛いことや哀しいことがあったとして、そこからまた生きているというか、その連続でしかない。だからある意味、俺の人生はずーっと憂鬱を走ってますよ。
●あ、そういう感覚なんですね。憂鬱を走っている。
村田:ずっと憂鬱といえば憂鬱。でもさっき言ったように、一方から見ればそれはずーっとポジティブなんですよね。まあ、たまには塞ぎこむこともありますけど(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka