昨年結成20周年を迎え、シングル『弊帚トリムルティ』及びアルバム『廿奇譚AHEAD』のリリース、そして“ヤプー三神・巡礼”ツアーや主催イベント“メトロノーム 廿th FEST.黒の日-ウィスヌ- [ 05→98→18迄-7=20 ]”など精力的に活動を重ねてきたメトロノーム。2016年の再起動からずっと走り続けた末に辿り着いた安楽の地で、3人はどのような景色を見たのだろうか? その地で彼らはいったいどのような境地に至ったのだろうか? 21年目の幕を開けるシングル『Catch me if you can?』を完成させた彼らに、現在の心境とこれから旅立とうとするその先を訊いた。
「21年目から更にその先へ向けて、落ち着くわけでもなく攻めた衣装と攻めた楽曲で、突き進んでいく旅が始まる」
●昨年は20周年ということで、お客さんの前に出ることも多かったと思いますし、20年間やってきたことを改めて実感できた機会も多かったと想像するんですが。
フクスケ:20周年という区切りで、周りの人からたくさん「おめでとう」と言われる感じがすごく嬉しかった、というのがいちばん大きかったんですね。お客さんからも当然言ってもらえるし、近しい人たちからも「そんなに長くやってるの? すごいね」と言ってもらえるし。
●はい。
フクスケ:そういうことがすごく嬉しかったし、大きな会場でワンマンをやり、自分たち主催のイベントもやり、すごく「よかったね!」という感じになったんですけど、21年目がだんだん見えてきたときに、まだまだやりたいことがあるし、やるべきこともあるし、先はまだまだあるんだなって。20周年が始まったときは楽しかったんですけど、今改めて考えてみると、最終的に覚えていることは「まだまだ先がある」という感覚ですね。
●なるほど。
シャラク:現時点でまだ発表できていない今後の活動は、去年に生まれた人間関係だったりがきっかけになっていることが多いんです。だから去年を振り返ってみて「20周年が…」というよりも、21年目のために20周年があったんだなって思います。
●今後に繋がる出会いが多かった。
シャラク:そうですね。去年は去年で、そういう先に繋がるものが無いことに焦っていたりもしたんです。メトロノームってイベントに全然呼ばれないんですよ(笑)。
●そうなんですか?
シャラク:はい。だから自分たちで企画して「出てください」とお願いすることが多いんですけど、2016年9月の再起動以降、去年の20周年も含めて自主企画イベントを続けてきて、逆に「次は出てくださいよ」みたいに頼まれることが増えてきて。だから改めて今思うことは、毎年が来年への種まきなんだなって。焦ってても仕方がないというか。そう思えるようになりました。
●地に足をつけて活動していれば、未来が拓けてくる。
シャラク:そうですね。そういう意味では「20周年」ということよりも、去年いい活動ができたなっていう実感の方が大きいです。
●リウさんはどうですか?
リウ:2人がバンドのコンセプトだったりこだわりだったりをいろいろと考えてくれているということもあって、僕は「20周年だから」ということを抜きにして、1本1本のライブに対して全力で楽しんで向き合っていって、そうしていたらいつの間にか1年が終わっていたんです。再起動してからのライブすべてがそうなんですけど、こういう拡がり方をするんだっていうことは、活動休止前にはまったく想像できなかったことで。
●ほう。
リウ:想像していた以上の未来が拓けたというか。「まだまだ可能性ってあるんだな」ってすごく前向きになれるので、「次はこうしたい」とかいろいろと考えることができるんです。
●そういった今の状況というかメンタルは、メトロノームの場合は作品に影響するんですか?
フクスケ:僕らの場合、作品を作るときにメンバー同士で話し合ったりしないんですよ。「次はこういう作品を出そう」ということはほぼない。再起動してからは、曲数的には必ずメンバーそれぞれが1/3ずつ作るというふうにはなっているんですけど、内容やコンセプトに関しては話さないんです。個々の考えの元、楽曲制作は進んでいく。
●ということは、それぞれ何かしら思っていることがあるかもしれないけど、それは統一されたものではなく、制作に於いては自由であると。
リウ:そうですね。ライブ後、いつもご飯を食べに行ってるので話し合う機会はたくさんあるはずなんですけど(笑)、そういう話はしない。
●去年もたくさんライブがあったので、一緒にたくさんご飯を食べてますよね?
リウ:はい。楽屋も一緒ですし。でも敢えてそういう会話はないですね。他の話はいっぱいしますけど。
●余談ですが、どういう話をしてるんですか?
シャラク:健康についてとか。
フクスケ:健康について話し合いながら飲みまくってます(笑)。
一同:アハハハ(笑)。
フクスケ:実はそういうとき、僕は次の作品やビジュアルイメージについて「○○っぽいことをやりたいね」みたいなことを少しだけ言うんです。例えば今回だと「ちょっと“和”っぽいことをやりたいね」って。でもそれも、2時間くらい飲んでお会計くらいのタイミングでポロッと言う程度なんです。それくらいのサイズ感でしか話さない。
●かしこまってコンセプトとかをバシッと決めるのではなく、それくらいふんわりしていた方がメトロノームにとっては健康的なんでしょうか。
フクスケ:そうですね。やっぱり個々に考えた方がバリエーションも出るし、別々に楽曲を持ってきたとしても、3人の楽器と声を入れるとちゃんとメトロノームになるので、「大丈夫だろう」という自負もあるし。
●そういう意味では、3人それぞれ別の場所でも曲を作る機会があると思うんですが、メトロノームに持ってくるかどうかという楽曲の判断基準はあるんですか?
フクスケ:僕の場合、そういうことを意識したことすらないという感じですね。
リウ:僕は、例えば他で使うために楽曲を作っていたとして、いいものが出来そうだなという予感があったら、メトロノームのためにとっておいて、また新しい曲を作る、という感じですね。
●シャラクさんはどうですか?
シャラク:今訊かれて考えてたんですけど、他の活動はその場を意識した曲作りをしていますけど、メトロノームはいちばん素の自分なのかもしれないです。この3人で音を出せばいいから、ただそのときに自分がやりたいことをやっている感覚というか。
●なるほど。先程フクスケさんがおっしゃっていましたけど、今作『Catch me if you can?』については“和”っぽいことをやりたかったということですが…。
フクスケ:いちばん最初に衣装のことを考えていたんですけど、すごく“和”っぽい衣装は今までやったことがないなと思ったんです。20周年を経て21年目になって、そこでなんとなく落ち着いた感じにしたくなかったし、最初に言ったように先がいろいろと見えた感じだったので、攻めていきたいと。だから思い切り“和”にして、今までにないくらい攻めてみようと。だから普通は黄色くならなそうな箇所を黄色にして、アーティスト写真は能楽堂で撮影したんです。
●そういう心境が今回のアートワークに繋がっているんですね。それに、シャラクさんが作られたM-1「Catch me if you can?」とリウさんが作られたM-2「さくらん」は、サウンド的にも“和”のテイストが入っていますよね。
フクスケ:そうですね。でも楽曲を作る時点ではさっきも言ったように個々の作業なのでコンセプトは統一されていませんし、なんでしたらシャラクは飲んだときに「“和”っぽいもの」と言ったことすらも忘れちゃっていたんです。
●ハハハ(笑)。
フクスケ:だから「Catch me if you can?」は、最終的な段階でシャラクにお願いして“和”っぽい音を入れてもらったんです。最初は、ただただファンキーなかっこいい歌だった(笑)。
●最終体な段階での微調整はあったと。シャラクさんはどういうきっかけで「Catch me if you can?」を作ったんですか?
シャラク:本当に好き放題に作っただけっていう感じなんです。曲出しのときも、自分の曲がリード曲になる前提なんてまったく無い状態で作ってるんですよ。責任をちょっとでも回避しようというか(笑)。だから本当にリラックスした状態で、自分が今やりたい音楽を形にした感じですね。
●その話からすると、シャラクさん的には、メンタル的にフリーな状態で楽曲を作った方が作りやすいんでしょうか?
シャラク:そうですね。再起動してからは、すごく考えて曲を作ることが多かったんです。「こういう曲を作ったらこういう層に聴いてもらえるかもしれない」とか「こういう曲を作らないと“メトロノームっぽい”と言ってもらえない」とか。
●ほう。
シャラク:そうやって悩みながら作っていたんですけど、今回は…すごく悪く聞こえますけど(笑)…リード曲になるつもりはないから好き放題にやった感じですね。
●ハハハ(笑)。「Catch me if you can?」はすごく遊び心が入った楽曲だと感じたんですが、歌詞についてはシャラクさんのパーソナルな部分が表現されているのかなと思ったんです。
シャラク:歌詞についてはいろいろと考えた部分があるんですけど、この曲で言いたかったことは、諦めちゃってる感じゃないなと思ったんです。腹を括ったからこそバーッとふざけようと思って、全然どうでもいい歌詞というか、意味を持たない言葉を入れたかった。真剣なときこそふざけたい、みたいな感じですね。
●なるほど。そして「さくらん」はリウさんが作られたとのことですが、情景描写が多くてすごく物語的なんですけど、でもメッセージ性も強いですよね。この歌に出てくる“少年”という言葉がすごく印象的でした。
リウ:デモを作っていて、仮歌の時点で自然にそこは“少年”と歌っていて。自分でも“なんか耳に残るな”と思ったのでそこは活かしつつ、“和”のテイストを意識しつつ。最近特に思うんですけど、歌詞を書くときにいろいろとテクニックを使うのはもちろん大事なんですけど、今おっしゃったように、やっぱりメッセージ性は出したいなと思っていて。
●はい。
リウ:でも説教臭くなったらメトロノームらしくないし、物語性を出したらそういうメッセージ性も薄まるなとか、そういうところでいろいろと悩んだんです。あとは、曲として耳で聴いたときのイメージと、歌詞を読んだときのイメージが違ったらおもしろいだろうなとか、そういうことをいろいろと考えながら書いたんです。
●フクスケさんのM-3「楽観ばっか」はどういう経緯でできた曲なんですか?
フクスケ:僕の場合は基本的に自分のギターの好きなフレーズが弾ける曲を作ることがいちばん多いんですけど、「楽観ばっか」の場合は作っていくうちに、サビとサビじゃないところのギャップが大きい感じになったのでサビ始まりにして。サビに焦点を当てようというアイディアで作ったんです。
●確かに「楽観ばっか」のサビは強いですね。
フクスケ:もともとそこまで意図的に作っていたわけじゃなかったんですけど、うまくサビで場面転換できる展開になったので、そこを活かす方向にしました。
●先程リウさんが「説教臭くなったらメトロノームらしくない」とおっしゃいましたが、それはバンドとしての美学のような気がするんです。「楽観ばっか」も実は強烈なメッセージを内包していますが、それを強く押し付けずに、音楽に乗せて“楽観でいよう”と歌っているのがメトロノームなりの表現なのかなと。
フクスケ:僕は歌詞を書くとちょっとそういう部分が出ちゃうんですよね。この曲については、世の中は楽観ばかりだと思って、楽観している人は馬鹿だなと思って。自分も楽観している馬鹿の1人なんですけど、楽観していた方がいいなという気持ちもあって。そういう気持ちが入り混じっている感じ。人生って正解があるわけではないじゃないですか。答えがない。そういうことを歌いたかった。
●なるほど。21年目も攻める姿勢を崩さない新作が完成しましたが、リリース後はワンマンツアーが控えていますよね。どういう感じになりそうですか?
フクスケ:今回のワンマンツアーのタイトルは“寂滅ヰラクyAtrA”となっていますが、前半分の“寂滅ヰラク”(寂滅為楽)というのは四文字熟語なんですよ。
●ほう。
フクスケ:「悟りを開いたその先は安楽の地である」というような意味があるんですが、20周年のときには「そこが安楽の地だ」みたいな悟りを開いたような心境だったんですけど、21年目を迎えて「その先がある」「その先に行こうじゃないか」という気持ちになっていて。ツアータイトルの後ろ半分、“yAtrA”はサンスクリット語で“旅”という意味なんですけど、その先に向けて旅をするツアーにしたいという想いを込めて、このツアータイトルにしたんです。
●旅をするということは、更にその先へと繋がっていくわけですね。
フクスケ:そうですね。21年目から更にその先へ向けて、落ち着くわけでもなく攻めた衣装と攻めた楽曲で、突き進んでいく旅が始まるんだぞっていうツアーになる予定です。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Member リウ(TALBO-02) シャラク(VOICECORDER) フクスケ(TALBO-01)
|
ライブ情報
ワンマンツアー2019 寂滅ヰラクyAtrA メトロノームpresents “リウの日” |