今年6/1にアルバム『I BELIEVE IN ME』をリリースして、メジャーデビューを果たしたlynch.(リンチ)。
発売当日には歌舞伎町のど真ん中でフリーライブを敢行し、その場に集まった大勢の観衆に衝撃を与えた。
リリース後の全国ツアー“THE BELIEF IN MYSELF”でも過去最多の動員を記録するなど、単なる新人バンドとの格の違いを見せつけた彼らが早くもニューマキシシングル『MIRRORS』を発表する。前作からさらに研ぎ澄ませたヘヴィなサウンドに加えて、今作で際立っているのは“歌心”とでも言うべきメロディセンスの素晴らしさだ。
絶妙なバランスで配置された歌とシャウトが、次々とリスナーの胸をヒットする。過激なまでの進化を作品ごとに遂げていく、モンスターバンドの“今”を感じて欲しい。
「受取り手によっては"えっ!?"と思われるかもしれないし、リスキーだとは思います。でもそのこと自体が既に衝撃なわけだし、やっぱり常にスリリングなバンドでありたいという気持ちはあるから」
●メジャーデビューアルバム『I BELIEVE IN ME』発売日(6/1)に敢行した、歌舞伎町のど真ん中でのフリーライブは衝撃的でした。
玲央:ああいうことをするのは初めてだったので、やっている側の僕らとしても単純に面白かったですね。
葉月:3曲だけだったから、本当にあっという間の感じで。今となっては"本当にあった出来事なのかな?"とすら思います(笑)。
●ああいうことができるのもメジャーならではというか。
玲央:メジャー感のある動きだなとは思いますけど、やっぱり僕らの本筋はツアーや音源制作なので。そこの規模も大きくなったにせよ、今までとスタンスは変わらずにやっている感じですね。ただツアーではライブ会場のキャパが大きくなった分、自ずと集客やスタッフの数も増えたことでスケールの変化は実感していて。
●お客さんの層も広がったのでは?
玲央:そこはすごく感じました。ツアーでは「初めて観ました」という声をよく聞いたんですけど、それは僕らの音や考え方がより遠くまで届いていることの反響だと思うんですよ。取り上げて頂くメディアが増えたおかげでもあるので、本当にありがたいことですね。
葉月:最近は動員力が上がってきたことで色んな反響も聞けるようになったけど、そういうものも楽しめるようにはなってきたかな。周りが僕を見て"え!? そんなことをやるの?"っていう感じでざわついているのが楽しいです(笑)。
●ツアーを通して実感したこともある。
葉月:メジャーデビューしてから、ライブの内容がすごく変わった気がしますね。今までよりも過激で、良い意味で危なっかしいライブになったと思うんです。お客さんとの意思疎通もメジャーになったら普通は距離が離れそうなイメージがあるんですけど、逆にグッと近付いたというか。それを感じられたツアーでしたね。
●意図的にライブの過激さを増したんでしょうか?
葉月:日本の音楽シーンではライブ会場でもお客さんが気を遣って"みんながこういうふうに聴くんだったら、私もそうしなきゃ"っていう空気がある気がしていたので、そういうものをとりあえず排除したかった。そこにマナーは必要であってもルールはいらないから、とにかく「好きなことをやって下さい」ということをツアーの最初に言ったんです。ツアーが終わる頃には別のバンドのライブみたいになっていましたね(笑)。最初は「そんなライブだったら危ないから行きたくない」とか色んな意見があったんですけど、最後はみんな笑顔でグチャグチャになっていて。
●ツアーを通して、ライブが変わっていった。
葉月:"変わった"というよりは、"変えた"というのが近いかもしれない。僕らが向かおうとしている場所は、気を遣っていては到達できない場所だったんです。オーディエンスに意思表示をして"それは違う"っていうやり取りを何度も繰り返す中で、やっと得たものという感じで。もっと上に行きたいし、今はまだその途中ではあるんですけど、7年間活動してきた中で今回のツアーがオーディエンスの動きも一番あったんじゃないかな。
●そもそも自分たちがやりたいことを成し遂げるためにメジャーデビューもしたわけで、その成果が早くも出始めているというか。
玲央:まさにその通りですね。インディーズ時代では物理的に無理だったこともできるような環境を今は提供してもらっているので、だったら"本来はこういうことがやりたかったんだよね"ということをしらみつぶしにやっていってもいいんじゃないかなって。僕ら自身がそう思っているわけだから、それを観ているオーディエンスもきっと楽しいはずなんですよ。すごく良い関係性が生まれて、広がりつつあるというのが今の段階です。
●そして11/9に今回のニューシングル『MIRRORS』のリリースとなるわけですが、その後にまたツアーも決まっていたりと活動ペースが速いような…。
葉月:これでも今年はまだライブが少ないほうだと思っているし、リリースもインディーズ時代からこのくらいのペースだった気がしますね。これがシングルじゃなくて、アルバムだったらビックリしますけど(笑)。
玲央:僕らにとってはごく自然な流れというか、速くも遅くもなく"普通だな"という感じです。"とりわけ"という言葉は付かない感じというか。
●今作を作る上で、何か構想はあったんですか?
葉月:表題曲のM-2「MIRRORS」は、とにかく"今、流行っていないもの"をやりたかったんです。激しい音楽が今すごく市民権を得て盛り上がっている中で、"誰もやっていないビート感やリズムって何だろう?"と考えた時に"速くて激しいけど、流行っていないもの"ということで「MIRRORS」ができて。この曲をリード曲にしようという構想は、かなり前からありましたね。
●かなり前というのはいつ頃?
葉月:メジャーデビューアルバム『I BELIEVE IN ME』を作った直後くらいですね。曲自体が仕上がったのはその半年後くらいなんですけど、このリズムに合う歌メロやコードを考えるのに少し時間がかかったんです。
●今作の中では「MIRRORS」が最初にできた?
葉月:まずM-1「THE TRUTH IS INSIDE」ができた時に、"これは1曲目だな"と思ったんです。でも同時に"リード曲ではないな"と思ったので、リードになる曲とカップリング曲を作らなきゃということでツアー中に作っていました。会場に着いて他のみんなが機材を組み立てている中で、自分は楽屋でPro Toolsを立ち上げているという不思議な光景が毎日続いていましたね(笑)。
●それも今やいつも通りの作業という感じですよね。
葉月:ツアー中に作業する方がはかどるので、僕は好きなんですよ。ゲームもなければテレビもないしベッドもないので、娯楽が一切なくてサボれないから(笑)。
●(笑)。他の2曲はどんなイメージで作ったんですか?
葉月:「THE TRUTH IS INSIDE」は前作『I BELIEVE IN ME』の流れにありつつ、"エッジがさらに利いたものにしたい"というイメージがあって。前作の中に入れてもテンポはおそらく最速だけど、メロディとシャウトのバランスも五分五分くらいにできた曲かなと。M-3「DEVI」に関しては完全に遊びというか。
●遊び?
葉月:作品全体の流れを気にしなくていいというのが、シングルの面白みなんですよね。だからlynch.が今までやったことのないものをやろうとして、この曲ではシャッフルビートを取り入れてみました。
玲央:"今までやったことがないことをやる"というのは、メジャー/インディーズに関わらず僕らがやることの出発点なんです。今回はシングルということが、一番大きかったと思うんですよね。曲数が多ければ多いほどパッケージングした時の統一感や構成も考えなくてはいけないんですけど、シングルだと曲数が少ないので各曲で全然違う側面が出ていても大丈夫だから。
●ある意味、アルバムよりも自由度が高い。
玲央:冒険できるのが、シングルの特権だと思っているんですよ。だからこそ「THE TRUTH IS INSIDE」の後に、この2曲が続いているというのもあるんですけど。
●ツアーで過激さを増してもファンが付いてきてくれたことで、振り切っても大丈夫だという自信につながったのでは?
葉月:…というほどには、今作は振り切っていないんですけどね(笑)。逆に自分の中では歌に寄せた感じがあったので、そこは意外に思われるかもしれない。
玲央:前作は激しい方向に特化していたので、それとは逆側に振り切った感じはあるかもしれないですね。
●確かに今作は歌の要素も強いですが、シャウトとのバランスが絶妙だと感じました。
葉月:「MIRRORS」に関してはもっとシャウトを入れなきゃと思っていたくらいなんですけど、あんまり入れるところがなかったんです(笑)。だから無理には入れようとせず、自然と作っていたら今の形になりましたね。
玲央:サウンドに関しても各々が楽器を持って、マイクを手に取って、音を出したら自ずとこういう音になるというか(笑)。すごく必然的な流れですね。
●各パートのアレンジを考える際は、葉月さんから曲のイメージを訊いたりもするんですか?
玲央:演奏者の僕らとしては原曲を作った葉月の考えを大事にして、そこを伸ばさなきゃいけないと思っていて。同じ音だとしてもお互いの考え方が向き合っていなければ、良い作品とは言えない。だから、僕は葉月にどういう狙いがあるのかは訊きましたね。他のメンバーがどうしたかは知らないけど…。
葉月:あんまり訊かれなかったです(笑)。みんなが勝手にやってくるけど、そこで違ったら"違う"と言うし、特に問題がなければそのままでいい。
●たとえば「MIRRORS」では、どんなイメージを伝えたんですか?
玲央:先人の偉業をなぞるだけのようなことはせず、今の音楽的背景を加味した上でこういうリズムの曲を"今の音"で出したいと葉月は言っていて。そこから各々がどうするべきか考えていったんですけど、結果的にはちゃんと今の音にできたと思います。
●先人へのリスペクトや造詣はありつつも、lynch.として今の音で鳴らすというか。
玲央:lynch.というのは2011年現在に活動しているバンドなので、その"今の音"を誰よりも早く届けたいという気持ちがあって。先人の偉業をなぞるほうが楽だし、逆に新鮮に聞こえたりもすると思うんですけど、それは"今の音"ではないと思うんですよ。そこを意識して欲しいということは葉月から、みんなにも言っていましたね。
●先ほど葉月さんがおっしゃった"今、流行っていないことをやる"というのは、一歩間違えたらリスナーの期待に反する可能性もあるわけですが。
玲央:受取り手によっては"えっ!?"と思われるかもしれないし、リスキーだとは思います。でもそのこと自体が既に衝撃なわけだし、やっぱり常にスリリングなバンドでありたいという気持ちはあるから。
●成功したら先駆者になれるし、失敗したら時代の徒花にもなりかねないリスクがある。
玲央:でも少なからず、時代の象徴になることには変わりないと思うんですよ。僕らのスタンスとしては、平々凡々と"とりあえず"のところに落ち着く感じではない。過去の自分たちを振り返ってみても、作品ごとにテイストが若干違うんですよね。その時々で"楽しい"と思うことを都度やっているわけで、同じテイストの作品を出し続けて欲しい人には"好きな作品だけを聴いてもらっていればいいですよ"という極論にもなりかねなくて。変化があるからバンドとして生きているわけで、今作もその過程の1つだと受け止めてもらえたらいいかな。
葉月:lynch.ではボツになった曲が復活することはほぼないんですけど、それは当時のものではどうしても今の自分が考えていることには勝てないからなんですよね。
●そうやって今考えていることは、歌詞にも出ている?
葉月:歌詞には、メッセージ性みたいなものは特にないんです。1人でぼやいているだけかもしれないし(笑)、逆に聴いた人が"俺らにこう動けと言っているんだ"と受け取ってくれてもいい。作品の意義みたいなものも聴いた人がどう受け取るかは自由ですけど、自分から伝えたいことは特にないですね。
玲央:特に今回はアルバムの先行シングルでもないので、本当に"今の自分たち"というだけで。これから先にアルバムを作ることになった時も、その時の自分が作品にどう向かっていくかというだけなんですよ。
●今回を初回限定生産盤という形にした意味とは?
玲央:チャート戦争に参加したくなかったんです。今は相対評価で価値を量られることが多い時代なので、こっちが意図しなくてもそれに巻き込まれてしまう。だからあえて今回は、予約して頂いた分と最初に店頭出荷した分のみということにしたんです。
●相対的な評価を高めることが目的ではない。
玲央:チャート戦争に参加することで順位付けされて、そこで少なからず優劣が付けられてしまうということに疑問があるんですよね。惑わされてしまう部分でもあるから、そういう部分は全て排除して今回は純粋に"lynch.が新しい作品を出した"という目線で見てもらえるとうれしいなと思います。
●ある意味、それも"流行っていないことをする"ことなのかもしれないですね(笑)。
玲央:チャートをどれだけ上げるかに必死な人たちも多い中で、最初から参加しないっていうのは新しいなと思います(笑)。
●今作を録り終えて、次にやりたいことも見えてきている?
葉月:曲に関してのビジョンはまだ見えていないですけど、日本語の歌詞を突き詰めたいなと今は思っています。今回は歌詞が自分の中で革命的だったので、そこを突き詰めようかなと。「MIRRORS」で、日本語の美しさに改めて気付かされたんです。
●日本語詞を突き詰めるというのは?
葉月:今までは日本語と英語でメロディに合うほうを選んで歌詞を書いていたんですけど、今後はその壁を壊してみたいと思っていて。普通はどのバンドも英語詞を選ぶような曲調でも、あえて日本語で曲に合うような歌詞を書けたらなと。今回はまだそこまで到達していないから、挑戦していきたいですね。
玲央:歌詞だけじゃなく、歌の雰囲気も前作までとはすごく変わっていると思うんです。元々、僕らは日本人だから日本語の美しさもわかる。日本語特有の言い回しとかも含めて、海外のアーティストには真似できないことを良い意味で何も飾らずストレートにやったのが今回の作品だと思います。
●リリース後に予定される"THE TRUTH IN A MIRROR"というツアータイトルに込めた意味とは?
葉月:今作に収録した曲名の一部を合わせて作った言葉なんですけど、バンドとファンは鏡合わせみたいなものだとよく言われるじゃないですか。バンドとファンがお互いに描く"ライブの理想像"みたいなものを持って今回のツアーに向かっていく中で、何か真実が見つかればいいなという感じですね。
●最近のライブを観ていても、"ライブの理想像"に近付いている気がします。
玲央:前作のツアーでフロア自体がロックバンド然とした自由な雰囲気になってきていることを、バンドもファンもお互いに感じていると思うんですよ。実際にそういう状況がもう始まっているし、"ロックバンドのライブだな"というのが会場のドアを開けた瞬間からわかるようにもっと自由な空気を敷き詰めていきたいなと思っています。お互いが自由であって、純粋に楽しむっていう形のライブをもっと続けていきたいですね。
Interview:IMAI