Large House Satisfactionが約10ヶ月ぶりとなる、ニューアルバムを完成させた。THE BLUE HEARTSやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTなど、ロックの錚々たる作品を手がけてきた山口州治氏をエンジニアに迎えた今作。ここで3人は自分たちのルーツにあるブラックミュージックとロックを融合させ、独自の“黒いグルーヴ”を実現することに成功している。前作同様に鋭く尖った歌詞の言葉は深みを増し、人間が心の奥底に持つ闇すら描き出しているかのようだ。『in the dark room』というタイトルどおり暗い部屋の中をイメージさせつつ、そこから一気に解き放つような強い光も秘めた快作を手に、彼らは爆発的な勢いで進化を遂げていく。
●前作『HIGH VOLTEX』以来10ヶ月ぶりの作品となりますが、作り始める段階でのイメージは何かあったんでしょうか?
賢司:前作を作った後で「もうちょっとやれるかな」と思ったので、そこからパワーアップしたものを作りたいということはみんなで話していて。前作を録り終えて聴いた時に、ちょっと音が軽い感じがしたというか。だから今回はもっと重心が低くて、黒いイメージというのが当初の目標としてあったんですよ。それはできたんじゃないかなと思っています。
●黒いイメージというのは?
賢司:自分たちのルーツにあるブルースだったり、ブラックミュージック的な“黒いグルーヴ”をもう少し取り入れてみたいなという気持ちがあったんですよ。そのイメージどおりにできたので、やりたいことをやれたという感覚はありますね。
要司:実は前作のテーマを3人で話し合った時にも「暗くて重くて鋭い」っていうものが出ていたのに、作っていく中でどんどん変わっていってしまって。悪い意味ではないんですけど、わりとキャッチーでポップで軽快な部分もあるアルバムに仕上がったんです。でも今回はやっぱりもっと重くて、グルーヴが渦巻いているような1枚を作りたいなと。
●前作以上にグルーヴを重視していたんですね。
要司:さらに今回はエンジニアが山口州治さんだったので、俺たちのやりたいことが100%できるんじゃないかと思って。実際にやってみたら、頭の中で鳴っているのに近い音ができあがりましたね。
●頭の中にあるイメージに近いものができた。
賢司:できるようになったというか。
要司:そこは自分たちの演奏力や僕の歌だったりが追いついてきたというのもあるのかなと。
●前作以降で、自分たちのスキル的にも上がっている。
秀作:前回より技術的に上手くなっている気はします。お互いのそういう部分が重なって、グルーヴも良くなったのかなと。中でもM-3「暗室」、M-5「その間隙で揺れている」は特に重い感じにできていて。M-7「Dingo」では、すごく黒いグルーヴが出せたと思います。
要司:前作より、ロックとブラックミュージック的なグルーヴとの融合が上手くいっているのかなって。そこは各々の技術の向上もありつつ、これまで活動を続けてきたことでだんだんできるようになってきたんだなと実感しましたね。
●ブラックミュージック的なルーツもあるんですね。
賢司:3人とも一度はブルースまでさかのぼって聴いているし、ソウルとかもすごく好きなんですよ。
要司:ジミヘンから始まって、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーみたいなところは絶対に通ってきていますからね。スライ(&ザ・ファミリー・ストーン)とかのファンクも聴いたりしていて。そのへんは3人とも共通の根っことしてあります。
●秀作くんもブラックミュージックを通っている?
秀作:僕はそんなに…。スライも1曲くらいしか知らないし…。
賢司:嘘でしょ!?
要司:聴いたことはあるはずなんですけど、アーティストの名前とかを認識しないタイプの人なんです(笑)。
●聴いていても、それがスライだと気付いていない?
要司:移動中の車の中とかでガンガンかけているよ?
秀作:マジか…。それが黒人音楽だって気付いていないのかもしれないです(笑)。
●無意識に吸収している(笑)。そういったルーツも上手く融合できたと。
賢司:前からやりたかったけどできなかったことが、今はできるようになったというか。頭の中で思っていることを、多少は形にできたのかなと。「もっとできるな」と思う部分もあるんですけど、現時点では一番良いものができたんじゃないかな。
要司:エンジニアの山口さんとすごく気が合ったんですよ。自分たちが「こうしてくれ」「ああしてくれ」ということをすごくピンポイントで音に反映してくれる方だったので、本当に自分たちが思っていたものになりました。
●山口州治さんの存在が大きかった?
要司:大きかったですね。衝撃的なこともあったし、今までのレコーディングとは違いました。
●衝撃的なことというのは?
賢司:飲み会ですね。
●飲み会!?
賢司:飲み会が面白かったんです(笑)。
要司:やっぱりあの時代の人たちはすごいなって(笑)。お酒もそうだけど、マイキング1つにしても録り方が今まで見てきた人たちと全然違ったんですよ。ほとんどEQ(イコライザー)をかけなくて、録り音だけでも渦巻くグルーヴが出せるんだっていうことに衝撃を受けましたね。
秀作:今作を聴いてもらうとわかるんですけど、ドラムも生っぽい音なのにすごく迫力があって。特にM-2「VLIE VLIE VLIE」は音もすごく良いし、勢いもグルーヴも出せているなと思います。
●理想に近いグルーヴが再現できたと。
賢司:それぞれの音がバラバラに鳴っているんじゃなくて、1つの塊みたいな音を作りたかったんです。全てが溶け合っているような音にしたかったんですけど、自分たちではどうすればいいのかわからなかった。そこを今回、山口さんと一緒にやったことで少しわかった気がします。
●サウンド面でのイメージがあったのと同じように、楽曲的なイメージもあったんでしょうか?
賢司:最初から具体的なイメージがあるものもあれば、要司が一部だけ作ってきたものを3人で形にしたものもあるので、そこは曲ごとにバラバラですね。たとえば「VLIE VLIE VLIE」は、秀作が「こういうドラムを叩きたい」と言ってきたところから始まったりして。
●作曲は3人での共作が多い?
要司:曲は全員で考えていますね。歌詞は俺がざっと骨組みになるものを考えてきて、そこにみんながチャチャを入れる形というか。メンバーから「ここはこういう言葉はどう?」と言われたものを入れてみたりして。…無視する時もありますけど(笑)。良いなと思ったら、素直に取り入れるようにはしています。
●メンバーの意見も取り入れつつ、作詞している。
賢司:前作では歌詞について俺らも口出しを結構したんですけど、今回はそんなに言っていなくて。多少は言いましたけど、全体的にはほとんどOKでしたね。
●前作はラップ調のイメージがもっと強かったんですが、歌詞の部分でも何か変化があったんでしょうか?
要司:今作にも韻を踏んだり語呂合わせをしている曲もあるんですけど、歌詞を書いていく中でだんだんスタイルが変わってきたのかなと。韻を踏んだりリズミカルにしてそこにカッコ良い言葉を入れるというのは言っちゃえばすぐにできることなんですよ。でもそれをずっとやっていたら、ある程度のことしかできないなと思ったから。
●歌詞の書き方に変化があった?
要司:自分の言葉には変わりないんですけど、表面的な鋭さというよりはもっと内面に響くような鋭い言葉で歌詞を組み立てたいという方向性に途中から変わっていきました。前作の歌詞と比べてみると、言葉の重みとかが全然違うなって。「もっと深く書けるんじゃないか」というところで、そこは意識を変えましたね。そうやって書いた曲が今回はたくさん入っています。
●前作で初めて日本語詞中心となったわけですが、そこをさらに推し進めた感じ?
要司:自分の中では、そういう感じですね。今回は英詞がほとんどなくて、ラストのM-10「I’m In Time」くらいでしか使っていないんです。これは18〜19歳くらいの時に書いた曲なので、歌詞もその当時に書いたものなんですよ。
●あ、この曲だけは古いんですね。
要司:でも改めて今作に収録した他の9曲の歌詞と見比べてみると、結局この曲の歌詞が俺は一番好きだったんです。他の歌詞のインテリジェントな感じも良いんですけど、心に一番響くのはこの曲の歌詞で。
●今より若い頃の歌詞だけに、今では書けないピュアネスがあったりする?
要司:でも当時は「もっと違うものが書けるんじゃないか?」と思っていたんですよ。だから英語で歌詞を書くようになって、その次に1stシングル『Traffic』では耳触りは英語なのに実は日本語だっていう感じの歌詞を書いて。その時は自分で歌っていても気持ち良いし、「これが俺のスタイルなんだな」と思っていたんです。
●前作のスタイルは確かにインパクトがありました。
要司:そこから今回で改めて色んなことを自分の中で突き詰めて9曲の歌詞を書いた後、最後に「I’m In Time」の歌詞を見たら「これはこれですごいな」と思ったんです。勝ち負けではないんだけど、言葉に力が一番あるというか。
●そういう感覚もあって、再録したんでしょうか?
賢司:プロデューサーの河崎(雅光)さんが「すごく良い曲なんだから、みんなに聴かせないとダメだよ」と言ってくれたのが始まりで。この曲は今まで全国流通盤には収録されていなかったんですよ。昔の曲だから少し抵抗もあったんですけど、やってみたら「良いな」と思えたんです。
要司:最初、僕は入れるのがすごく嫌だったんです。自分が今書いている歌詞のスタイルと全く違うし、曲調も合わない気がしたから。最後まで反対していたのは自分で、「やるなら歌詞を書き直す」とまで言っていたんですよ。
●作った本人が最後まで反対していたと。
要司:でも実際にリハでやってみるとすごくパンチもあるし、「じゃあ録ってみるか」となって。実際に録った今となっては、「入れて良かったな」と思いますね。この曲が最後に入っているから、アルバムに1本筋が通ったのかなと。
賢司:当時は他の曲が全部英詞だったから、ライブでもこの曲だけ浮いちゃっていて。やりづらいから、途中でやらなくなっていたんです。でも今はほとんど日本語詞だから、逆に今のほうがフィットするんじゃないかな。
●この曲やM-8「アガルタ」といったメロディの強いものが、今作では特に印象に残りました。
要司:「アガルタ」も試行錯誤した曲で。最初やろうとしていたこととは全く違うアレンジになったんですよ。
秀作:リフから作って、最後にサビを付けたんです。
賢司:結構大変だったよね。
●最初のイメージは違ったんですね。
要司:この曲はサビのメロディを田中さんが考えてくれて、俺がAメロとBメロをつけたんです。
賢司:俺はそれを横で見ながら、最初は「あんまり良くないな」とか言っていて…。
秀作:でもできあがったら「お、良いじゃん!」と(笑)。
●結果的に、3人とも気に入ったと(笑)。
要司:ミドルテンポで重いんだけど、感動的に歌を聴かせる部分も持っているような曲が欲しかったんですよ。そういう意味では、上手く作れたのかなと思います。
●個人的には後半の流れが好きでした。
賢司:そこも人によって違っていて、前半が好きだと言ってくれる人もいるんですよね。
要司:そうやって意見が分かれるのも良いことだと思っていて。前作同様、捨て曲が1曲もないんだなと改めて思いました。
●全曲、クオリティが高い。
賢司:今回は収録した以外にも曲が結構あって、入れられなかった曲が他にもあるんです。
要司:曲の仕上がりが早かったので、プリプロでもじっくり詰められて。どっしりと構えて、レコーディングできたのが大きかったんじゃないかな。
●制作はいつ頃からだったんですか?
要司:前作のツアー中には作り始めていましたね。ツアー後に1〜2ヶ月で集中的に曲を作って、歌詞も書いたんです。
賢司:M-1「CM」が一番最初にできて、前回のツアーファイナルでもやったんですよ。ツアー中にはある程度、曲もできていたかな。
●今回は「CM」と「暗室」でMVを撮っているわけですが、この2曲が軸になっている?
賢司:いわゆるリード曲ですね。タイプが違う2曲なんですけど、どちらも俺らがやりたいスタイルなんですよ。
要司:「CM」は前作から引き継いだ俺らっぽさのある曲で、従来のキャッチーなサビやリズムとかもあって。「暗室」は従来の俺らっぽさも残しつつ、さらに新しい形で作れた曲っていう感じかな。すごくゴリゴリしていつつ、ブラックなグルーヴもある新境地的な曲というか。
●アルバムタイトルの『in the dark room』は、「暗室」から取ったんでしょうか?
賢司:そのイメージも重なってはいます。ジャケットは「CM」のMVから来たイメージで、タイトルは「暗室」から来ているので、この2曲のイメージが両方とも重なっているという。
要司:そういう意味でも、やっぱりこの2曲が軸にはなっていますね。
●ジャケットは犬のマスクをかぶっているわけですが、これはどういうイメージで?
賢司:不気味なイメージですね。これは今回「CM」のMVを撮って頂いた山口保幸さんの中から出てきたイメージで。このアルバムを象徴するようなジャケットにしたかったので、色々と相談をしていたんですよ。感情がよくわからない感じも怖いというか。
●確かに無表情な感じのマスクですよね。
要司:仮面をかぶった不気味さというか、人間の根底にある狂気みたいなものが近いのかな。不条理なことに対する怒りや、人には言えないような鬱屈した“何か”というふうに僕は捉えていて。それがすごく歌詞の世界とも合っていました。
●ちゃんと作品の世界観を読み取ってくれていたと。自分たちではどんな作品になったと思いますか?
秀作:ロック界ではナンバー1のアルバムができたと、僕らは自負していて。「これを聴いていないヤツはロックを語るんじゃねぇ!」と言えるようなものになったと思います。ぜひ5枚買って、部屋に飾ったり、誰かにあげたりしてほしいなと。
賢司:別に10枚でもいいでしょ?
一同:ハハハ(笑)。
●リリース後にはツアーもありますが。
秀作:前作の『HIGH VOLTEX』から、さらにパワーアップしたグルーヴを感じに来て欲しいですね。
要司:前回より本数は少ないんですけど、そのぶん凝縮したライブをお見せできるかなと。ライブも生き物なので1本1本変わっていくだろうし、どんどん強くなっていくLarge House Satisfactionを見て頂きたいと思っています。
賢司:曲もどんどん進化していって、ライブにフィットしていくと思うんですよ。後半になるにつれてグルーヴがどんどん強靭になっていくと思うので、可能なら何本か観てもらえるともっとアルバムのことをわかってもらえるし、好きになってもらえるんじゃないかな。どうなっていくのか、自分たちでも楽しみですね。
Interview:IMAI