Tiger TrapやTalulah Gosh、Heavenlyといった海外バンドの遺伝子を受け継ぐ大阪のインディ・ポップ・バンド、KUNG-FU GIRLが1stアルバムを完成させた。前述のバンドに通じるアノラック系ギターポップで、パンキッシュな楽曲を武器とする彼女たち。エンジニアに元PENPALSのハヤシムネマサ(現THE DIDITITS)を迎えた今作は、痛快な疾走感と無邪気さの中にも普遍的なポップネスを感じさせる傑作となっている。同作品のリリースを記念して、milk(Vo./G.)とhappy(Dr.)の2人にじっくり迫る1stインタビュー。
「“こんな良いものがあったよ!”というのをお互いに教え合っている延長線上で、バンドをやっているような感覚があるんです。それが続いている限りは、いくらでも曲は作れるんじゃないかな」
 
 
●今回のアルバムは2014年の結成以来、初めての全国流通盤CDになるんですよね。
 
milk:本当はもっと早く出したかったんですけどね。のんびりしたメンバーが多いのでマイペースに活動していたら、こんなに時間がかかってしまって(笑)。
 
●5年間でサウンド面に変化もあったんでしょうか?
 
milk:そこはあまり変わっていないですね。
 
happy:基本的なコンセプトは変わっていなくて。ただ、曲にバリエーションは出てきましたね。だんだん曲作りに慣れてきて、今が一番良い感じというか。初めの頃は僕とmilkちゃんの2人でひねり出す感じで、試行錯誤しながら曲作りをしていたんですよ。でも今は方法論がだいぶ安定してきて、昔に比べると曲作りが少しずつ上手くなってきている感じはします。
 
●曲はこの2人が軸になって作っている?
 
milk:元々は私とhappyが一緒にやっていたバンドが解散して、2人でまた新たに活動しようということになったのが始まりで。そこから2人で曲作りを始めたんです。基本的に私が原曲を作ってきて、アレンジはhappyが中心になって進めていく感じですね。
 
●曲のイメージを伝えたりはしない?
 
milk:自分の中で何かイメージがある時は“こういうものにしたい”と言う時はありますけど、そういうものがない時はできるだけフラットな状態でhappyに渡して、好きなようにアレンジしてもらうようにしています。
 
●結成当初から今の音楽性を思い描いていた?
 
milk:最初の段階では、どういうものにしようとまでは考えていなくて。色んなタイプの曲を持っていって、それを2人でやっていくうちに今の“KUNG-FU GIRL”の感じになってきました。
 
happy:色んなタイプの曲をやった中で“これ、良い感じじゃない?”となったものが今の原型になっていて。一番しっくりきたのが、今の形というか。
 
●何かキッカケになる曲があったんでしょうか?
 
milk:前ギターの前田くんが入って3人で曲作りを始めた当初にできたのが、M-7「Ferris Wheel」で。この曲をキッカケに、Tiger Trapみたいな感じにしたいなと思ったんです。それで“コーラスができる女の子を(メンバーに)入れたい”という話をして、aya(Ba.)ちゃんに入ってもらいました。それ以降は、私の中ではそういうイメージでやっています。
 
●Tiger Trapがバンドとしてのルーツにもなっている?
 
happy:僕は大好きですね。milkちゃんも好きなんですけど、当時はそういう話をあまりしないまま曲作りをしていたんです。結果としてしっくりきたものが、2人とも好きなサウンドだったという感じですね。僕ら2人は“こんなバンドを見つけた”みたいなやりとりをメールでやるんですけど、milkちゃんはそういう中で気に入ったものがあると、すごい勢いでそれに近い曲を作ってくるんですよ(笑)。
 
milk:曲を作る時に“何か新しい、良い感じのバンドはいない?”みたいな感じでhappyに訊いて。色々と教えてもらった中で自分が“やりたい!”となったものを参考にして、曲を作ることが多いですね。
 
●元ネタはhappyさんから得ていると。
 
milk:そういう曲もありますね。
 
happy:僕たちは曲の作りとして、わりとそういう元ネタがあるバンドだと思うんですよ。完全なオリジナリティを求めているわけではなくて、“その時に好きなものを好きなようにやる”というスタンスは崩さずにやりたいなと思っています。
 
●完全なオリジナリティというところにはこだわっていない。
 
happy:そうですね。あまりオリジナリティがない音楽だと感じられるかもしれないですけど、自分でもそのとおりやなと思っていて。そんなに変わったことをやるつもりは全くないから。お互いの微妙なズレの妙で、自分の好きなバンドの感じをちょっと混ぜたとしても(自分の中で)“新しいな”と感じられるような曲をやれたら一番良いなと思うんですよ。
 
●happyさんとmilkさんの“ズレ”が、良い方向に作用しているんでしょうね。
 
happy:milkちゃんが“こんなのはどう?”と言って曲を持ってきた段階では、何が元ネタになっているのかわからない時もあるから。たとえるならお互いにカードを何枚かずつ持っていて、それを同時に出し合うようなイメージですね。その組み合わせによる掛け算で、曲ができていくイメージかなと最近は思っています。
 
milk:私からも“こういう曲がやりたくて作りました”とは言わずに出して、どんなアレンジになるかはフタを開けてのお楽しみというか。
 
●お互いにイメージを伝えないことで、化学反応が生まれる。
 
happy:milkちゃんの望んでいるアレンジのイメージと僕の持っているイメージを、あえて先に擦り合わせないまま進めていくんです。だから“milkちゃんはこういうものを望んでいないんだろうな”と思っていても、あえて無視することにしています(笑)。それでも“かけ離れない”というのが良いなと思っていて。曲を作る上でお互いに違うカードを出し合ってもあまり変なものにはならず、良い感じにまとまるというのは相性が良いからなんでしょうね。
 
milk:私も“思っていたのと違う!”と感じても、“でもこれはこれで良いかも”と思って、そのままやったりもします。
 
●happyさんから上がってきたアレンジが良ければ、当初のイメージと違っていても受け入れるわけですね。
 
happy:逆にコーラスアレンジについては、僕は全く関与していなくて。だからmilkちゃんから最終的なアレンジが上がってくるまで、どうなっているのかわからないんですよ。お互いに“ブラックボックス”があって、その中でやっていることに関してはあまり口出ししないんです。
 
●それぞれがやりたい部分については、お互いに任せ合っている。
 
milk:お互いにやりたいことの住み分けが、上手くいっているんでしょうね。私は曲が作りたいし、ハモリやコーラスを自分でガッツリ考えたい。happyはアレンジをしたい…というところでの分担が上手く噛み合っているというか。
 
happy:そこの噛み合わせが、非常に上手くいっていて。他にもバンドをたくさんやってきたんですけど、ここまで噛み合うことはあまりないですね。
 
●そこまで噛み合っているからこそ、任せられるのでは?
 
happy:でも“めっちゃ信頼している”というのとは、また違う感覚なんですよね。普段から音楽に対してリスナー気質なので、“こんな良いものがあったよ!”というのをお互いに教え合っている延長線上で、バンドをやっているような感覚があるんです。それが続いている限りは、いくらでも曲は作れるんじゃないかなと思っていて。そこが僕らの強みかなと思います。
 
●“曲はいくらでも作れる”と言っておきながら、1stアルバムのリリースまで5年ほどかかったわけですが…。
 
milk:マイペース過ぎましたね…。3年前に受けたインタビューでも“今年、アルバムを出します”みたいなことを言っているんですよ。そこから何年経ったんだろう…っていう(笑)。でも今回は区切りを付けて、“ちゃんとやろう!”ということでめっちゃ頑張りました。
 
●このタイミングが1つの区切りでもあった?
 
milk:前ギターの前田くんが辞めることになったので、その時点での集大成にしたいという気持ちがあって。今はもう新しいメンバーに変わっているんですけど、今回のアルバムは前メンバーの体制で録音したんです。
 
happy:このタイミングで“アルバムを出すしかない!”という気持ちになりました。それがなかったら、もしかしたら今年も出していなかったかも…。
 
●ハハハ(笑)。メンバーチェンジという区切りも大きかったわけですね。
 
happy:“時は来た!”という感じですね。でもこの期間があったことで、良かったこともあって。ここまでの期間で元PENPALSのハヤシ(ムネマサ/現THE DIDITITS)さんとも出会って、今回のミックスをやって頂くことになったんです。ライブで各地へ行く中で色んな仲間に出会って、色んな人に助けてもらえるようになったという意味では良かったなと思います。
 
●結成からの5年間に、ちゃんと意味があった。
 
milk:これまでの時間があった上で、今やっと頑張って出せたという感じですね。
 
happy:曲に関しては、本当に盤石だと思っていて。この期間がなかったらM-1「Anorak」という曲もできなかったと思うんですよ。個人的には全曲シングルカットしても良いくらいの、めちゃくちゃ良いアルバムができたなと思っています。手放しで褒められるものが11曲もできて、盛りだくさんのアルバムが作れたのは長くやってきたからこそでしょうね。
 
●今、曲名も挙がりましたが、自分たちの音楽性として“アノラック”を意識しているんでしょうか?
 
milk:私は特に意識していないですね。自分がやりたいことをやったら、こういう感じの音楽になっただけというか。元々「Anorak」というのは仮タイトルだったんですけど、happyは当初からそういう曲にしようと言っていた気がします。
 
happy:これは僕の個人的な意見なんですけど、アノラックをやっている人って今はほとんどいなくて。ともすればネオアコとかオシャレな音楽と一緒にされてしまいがちなことについて、僕はあまり良く思っていないんです。
 
●アノラックのイメージに対する反感がある。
 
happy:たとえば僕らの音源が今後何十年も残っていったとして、それを若い世代の子たちが聴いた時に“こんな音楽があるんだ!”となって真似することで、またちょっと違うものができたりするわけじゃないですか。その頃には自分たちがもうバンドをやれなくなっていたとしても、未来のライブハウスにそんなバンドがいたら楽しいなって思うんです。そういう形でのバトンタッチができたら良いなとは思っていますね。
 
●未来への種蒔きをしているような感覚もあるんですね。
 
milk:私はないですけどね(笑)。
 
happy:僕が個人的に思っていることです(笑)。それをmilkちゃんにも意識していて欲しいとは思わないんですよ。好きなように考えてくれたら良いし、逆にイヤなら“イヤ”と言ってくれて構わないから。
 
●無理に合わせる必要はない。
 
milk:“(何かに)あまり影響されたくない”という気持ちはあるかもしれない。媚びないというか…、私は自分のやりたいことだけをやりたいんです。そこは、これからも変わらずにやっていきたいですね。
 
●“媚びない”というところで思い出したのですが、milkさんのTwitterアカウントが“@ultimate_punks”になっているのは、そういうパンク精神を象徴している?
 
milk:前のバンドをやっている時に、“milk ultimate punks”というあだ名を付けられたんですよ。自分では特に“パンクス”ということに、こだわりがあるわけではなくて…。
 
happy:でも後々になって、“アルティメットパンクス感が出ているね”というのは、本人以外のメンバー間では話していて。彼女は色々な伝説を残しているんですけど、ライブ中に“暑い”という理由でいなくなったことがあったんですよ。
 
●それはいったい…?
 
happy:夏場に地下のライブハウスに出た時に2曲目が終わったくらいでmilkちゃんが“暑い!”と言って、急にどこかへ行ってしまったんです。残りのメンバーはポカーンとなって、とりあえず“カンパーイ!”とか言っていたんですけど、10分くらいしたら戻ってきたという…。その時に“この人、パンクだな”と思ったのはすごく覚えています(笑)。
 
●音楽ジャンルではなく、生き様がパンクだと。
 
happy:生き様はガチガチのパンクスですね。ayaちゃんはもっとすごくて、ライブ中に“眠〜い!”と言い出して、帰りたがったりとか…。
 
milk:ライブ中に眠くなったから“早く終わらせて、帰ろうよ”とか言い出すんです。
 
●自由過ぎますね…。
 
happy:信じられないくらい奔放なメンバーが揃っています。でもそういう人たちがたまたま集まって良かったなと思いますね。今はもう、ただの“呑み友だち”という感じになっていて(笑)。
 
milk:happyとayaちゃんは、めっちゃお酒を呑むんですよ。そのせいもあって“ベロベロ=KUNG-FU GIRL”みたいに、周りのみんなには思われています。
 
●酔っぱらいの象徴になっている(笑)。
 
happy:基本的に、酩酊しているイメージなんです。この界隈で一番、飲酒量が多いバンドは僕らやと思いますね。ライブの練習をする時も、ちゃんと呑んでいますから。
 
milk:本番でも呑んでいます。
 
●バンドとしての生き様もパンクなんですね。
 
milk:それが“パンク”なのであれば、ありがたいです…。
 
一同:ハハハハハ(笑)。
 
 
Interview:IMAI
 
 
Member milk(Vo./G.) aya(Ba.) happy(Dr.) nakatani(G.) リリース情報 |
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