ウルフルズのベーシストとして、そして表現者として活動してきたジョン・Bが、2009年夏のウルフルズ活動休止後、ソロプロジェクトを始動。独特かつ味わい深い世界を創り出すジョン・Bを中心に、様々なサポートメンバーと作り上げたジョン・B&ザ・ドーナッツ!の音楽には、得も言われぬ高い心地良さと高い中毒性、彼らの美学が存分に詰め込まれている。今月号では、2枚目となるアルバム『Nya-!』を完成させたジョン・Bが、作品に込めた想いと美学を雄弁に語った。
●ジョン・Bさんは今年10月の大阪フルマラソンに出るということですが、マラソンの経験は?
ジョン・B:いやいや。だって僕、高校以来走ったことないし。
●走ったことない? 電車に遅れそうなときは?
ジョン・B:走らないです。そういう場合は「まあ次のやつ乗ろか」と。
●ハハハ(笑)。
ジョン・B:だから大阪フルマラソンに出る話も、最初に「走りませんか?」と声をかけてもらったんですけど「僕じゃないでしょ。ケイスケさん(ウルフルケイスケ)がいいんじゃないですか?」と言ったら「いや、関西でいちばん走らなそうなミュージシャンがいいんです」と。「じゃあわかりました」と。
●7月にリリースしたアルバム『Nya-!』にはM-10「ラン!」という曲が入っていますが、これは走るようになったからこそできた曲ですよね?
ジョン・B:あ、そうですね。走るようになって、1曲できました。よく“ランナーズ・ハイ”とか言うじゃないですか。僕はその状態になったことないんですけど、それをイメージして作った曲です。まだなったことはないけど、先にイメージした方がいいなと。この曲かっこいいですよね。たぶんこのアルバムの中でいちばんかっこいい曲です。
●センスを感じさせるおしゃれな曲ですよね。
ジョン・B:一緒に曲を作ってくれている菅原龍平くんが持っているものが出たと思います。想像していたよりかっこよくなったな。今作は2枚目ですけど、この曲はちょっと新しい展開ですよね。
●2枚目となる今作はどういう作品にしようと思っていたんですか?
ジョン・B:今回はこの2年間くらいのライブでやっていた曲が多いので、作品全体としてはこの2年の集大成みたいな感じかな。
●なるほど。
ジョン・B:とりあえずアルバムを3枚作りたいんですよ。3枚作って、売れへんかったら辞めようって。
●は?
ジョン・B:2枚だとちょっと、なんというか、「もう1枚くらいはいけるかも」って思うんですけどね(笑)。
●ハハハ(笑)。
ジョン・B:次の3枚目でにっちもさっちもいかへんかったら、もう、ね。区切りみたいな。「これ駄目やな」と思うのも大事やなと(笑)。
●今作にはジョン・Bさんが持っている雰囲気がそのまま詰め込まれていますよね。こうやって話したらわかるんですけど、ジョン・Bさんの人柄というか、雰囲気というか、なんとも言えない感じ。
ジョン・B:そう。そこが問題なんですよ。僕はひと言で説明できない。わかりにくいっていうね。
●でも、例えばM-1「所在ない Part1」M-11「所在ない Part2」という曲を聴けば、ジョン・Bさんの人となりがすごく伝わってくるように思うんですが。
ジョン・B:本当は僕もね、こんな曲をアルバムの1曲目にしたくないんですよ。
●え? 1曲目にしたくない? めっちゃパーソナリティが出ている曲だと思うんですが。
ジョン・B:いやいや。こんな時代ですし、アルバム一生懸命作ったとしても聴かれないじゃないですか。だいたい世に出したらスーッと終わっていくのがほとんどのアルバムのパターンっていうか。だから、「あれ? これ何やろ?」と思うような曲を1曲目にした方が引っ掛かるかなという姑息な考えです。今思えば、1曲目はちゃんと正統派の曲でいった方が良かったかなって。既にちょっと後悔してます。
●いやいや! いい曲ですって!
ジョン・B:「所在ない」は遊びで作った感じですからね。別にこの曲に僕の価値観を詰め込んだわけでもないんです。
●え? 逆なんですか? “デロンギのオーブン 説明書読む気しない”と歌っていますけど、実際にはデロンギのオーブン使ってるんですか?
ジョン・B:うん。意外とそういうの好きやし。部屋に流木のオブジェとか飾ってしまう方ですからね。
●ハハハハハ(笑)。
ジョン・B:これは僕の中ではラブソングなんですよ。この曲は“居場所がない”ということをひたすら歌っていますけど、要するに居場所がないくらい幸せやっていうことです。
●なるほど、実は深いんですね。今作を聴いた印象としては、休みの日に聴く音楽というか、自分の部屋で聴く音楽みたいな印象を受けたんです。日常に寄り添うような距離感や肌触りがいいなと。
ジョン・B:うん。なんかそういうこと言われますね。「ゆる〜い感じ」とか。でもあまり僕はそんなことないんですけどね。ゆるくやってるつもりもないし、精一杯尖っているつもりです。限界まで背伸びしてます。
●ハハハ(笑)。
ジョン・B:だって背伸びしなかったら音楽なんて作れないですもん。普通考えたらわかるでしょ? ジョン・B・チョッパーがソロアルバムなんて出す必要ないでしょ? この世の中で。
●いや〜、本人を目の前にして「はい」とは言えないです(苦笑)。
ジョン・B:それでも作るっていうのはかなり背伸びしている証拠ですよ。
●ジョン・Bさんはなぜ音楽を作ってるんですか?
ジョン・B:うーん、やっぱり自分で作った音楽をお客さんとかに「いいですね」とか言われたら嬉しいですよ。それが1人も居なかったら辞めますもん。でも、それがモチベーションに直結しているかどうかというと…ちょっと大げさかもしれないですけど物づくりって最初はどれも同じで、どんな状況であっても作りたいか/作りたくないかっていうことなんですよ。どんな状況でも作りたければ作るっていう。だから、僕は音楽を作りたいからやってるんでしょうね。
●なるほど。
ジョン・B:でも作るにはいろんな状況が必要だし、いろんなものを乗り越えないといけないっていう。
●なぜ音楽を作りたいと思うんですか?
ジョン・B:なんででしょうね? それは僕が訊きたいです。なんで俺が作らなあかんねん。
●はあ(笑)。
ジョン・B:いろんな才能ある人がいっぱいいるじゃないですか。それでも作りたいと思うから厄介なんです。だからややこしいですよ。
●ややこしいですね。
ジョン・B:しかもこういうことをインタビューでも言うから余計にややこしいんです。
●インタビューする人はきっと困るでしょうね。
ジョン・B:だから直していかなきゃいけない。
●でも本当にそう思っていらっしゃるんだったら全然いいと思います。このインタビューを読んで「なんだこの人?」と思う人が居るかもしれないけど、でもそれがジョン・Bさんなんだったらいいと思います。
ジョン・B:そうなんですかね〜。
●もしかして…本当は音楽に込めた想いとか自分なりのこだわりは明確にあるし自覚もしているけど、それを自分で説明すること自体が恥ずかしいと思っていらっしゃいます?
ジョン・B:うーん、恥ずかしいっていうか、僕は少なからずバンドマンですから、自分のロック感みたいなものがなんかあるんですよ。「これがロックや」みたいなものが。
●はいはい。
ジョン・B:それは人それぞれ、バンドをやっている人によって違うんでしょうけど。でもやっぱりそういう音楽をやりたいと思っているんでしょうね。
●それを実践しているから、インタビューでものらりくらりと変なこと言っちゃう。
ジョン・B:バンド歴も割と長いですから、そういうところは身に付いちゃってるというか。だから仕方がないですね。ちゃんとした音楽じゃないかもしれないけど、自分のロック感みたいなものを大事にしてるかな。
●なるほど。飄々としている人かと思っていましたけど、そういう美学なんですね。
ジョン・B:でもそんなこと言ってても、売れないとどうしようもないですけどね。まあでも、恥ずかしいものは作っていないし、「これいいよ」と胸を張れるものを作ってるつもりですね。うん。
●サウンド面での印象としては、UKっぽさというか、60's〜70’sの辺りのUKシーンからの影響を感じるんですが。
ジョン・B:それはあるのかもしれないです。ウルフルズはソウルとかのイメージがあると思うけど、僕はニューウェーヴとかUKっぽいものが昔は好きだったんです。そういうルーツからの影響が出ているのかもしれないですね。
●それは無意識的なんですか?
ジョン・B:意識している部分もあると思う。最近も昔のUKっぽいものを聴いたりもするし。うん。そういうのは出ているかな。それと、僕はソウルみたいな感じで歌えないから。
●今作はいろんなサポートのミュージシャンが参加していますけど、M-5「サイドストーリー」はジョン・Bさんがベースを弾いていらっしゃらないですよね。
ジョン・B:「サイドストーリー」はTRICERATOPSの林くんがベースを弾いてます。だからこの曲はアルバムの中でいちばんベースがかっこいいです。
●あとM-4「baby」はジョン・Bさんと林さんの2人がベースを弾いていて…。
ジョン・B:僕は地味な方のラインを弾いていて、林くんが派手な方を弾いてます。だからかっこいいですよ、林くんのベース。
●はあ(笑)。…ジョン・Bさんのベーシストとしてのこだわりというのはどういう部分なんですか?
ジョン・B:いろんなタイプのベーシストが居ますけど、僕はあまり目立つプレイじゃないから、別に全然いいんですよ。曲としてまとまっていればいいというか。もちろん僕なりにベースとしての主張はすごくあるんです。すごくクセのあるベースやし、主張はあるんですけど、いいんです。ベースなんてほとんど聴いてないですから。
●ハハハ(笑)。
ジョン・B:林くんみたいな華のあるベースはみんな聴いているかもしれないけど、僕みたいなベースはほとんど耳に入っていかへんと思うしね。ボーンって鳴ってるだけですからね。ハハハ(笑)。
●でも必要ですよね?
ジョン・B:必要やから入れてるんです(笑)。まあ、いろんな主張の方法がありますよね。
●そういうベーシストとしての立ち位置が、ジョン・Bさんのミュージシャンとしての立ち位置にも通じているんでしょうね。あまり多くを語らず、音や姿勢で自己を表現するという。
ジョン・B:うーん、そうかもしれないですね。
●美学ですね。かっこいいかも。
ジョン・B:でも、僕はそれしか弾けないんですよ。本当はめっちゃ弾けるけど敢えて弾かないというのはすごくかっこいいと思うけど、僕の場合はそれしか弾けないんです。だから仕方なしです。
●せっかく「実はかっこいい人なのかな?」と思い始めたのに…。
ジョン・B:こういうことも言ったら駄目なんですけどね。
●適当な人だと思われてしまっていると。
ジョン・B:今までずっとそう言い続けてきたから、適当で飄々としている人って思われがちなんです。昔から自分で「ベース上手いです」って言っとけばよかったなって。そう書いておいてください。
●ジョン・Bさんおもしろいな(笑)。
ジョン・B:僕なんて嘘ばっかりですよ。まあ嘘ばっかりということもないけど…。
●どっちなんですか(苦笑)。
ジョン・B:でも真実ばかり話せばいい、ということでもないと思うんです。
●でも最近の若いミュージシャンは真面目で素直な人が多いですよ。
ジョン・B:そうですよね。そういう時代やから、逆に僕は嘘ばっかり言った方がいいのかなって。だから今作はベースだけで3ヶ月くらいかかったって書いといてください。めっちゃこだわったすごいベースが入ってるって。
●わかりました。
interview:Takeshi.Yamanaka