初のフルアルバム『PULSE』を昨年12月にリリースして以来、自らのツアーをはじめとしてSiMのツアーサポートや大型イベントへの出演など、休むことなくライブ活動を続けてきたJAWEYE。その間に制作されていたという新作ミニアルバム『ALTERNATIVE WORLD』が完成し、前作から10ヶ月を経てリリースされた。現場から研ぎ澄まされたライブ感覚は今作にも如実に反映され、持ち味のロックやパンクとダンスミュージックを融合したサウンドがさらなる進化を果たしている。今盛り上がりを見せるラウドシーンまでを視界に捉え、あらゆるフロアを昂揚させる強力無比なマスターピースの誕生だ。
●今回は昨年12月に発表した1stフルアルバム『PULSE』以来のリリースとなりますが、今振り返ってみて前作はどんな作品でしたか?
上田:“節目”的な作品ではありましたね。1st・2ndミニアルバムにシングル1枚を出してきて、おぼろげながらも“自分たちはこういうバンドなんだ”とわかった上で形にできたものだったと思うんです。そこまでの集大成的なものにできたら良いなと考えていたし、上手く1枚でまとめられたかなと。
●節目を超えたことで見えたものもあったのでは?
上田:前作から10ヶ月の期間で、そのあたりを再び詰め直したというか。曲に関しては、今回は個人プレイな感じだったんですよ。前作ではみんなで一緒に作った曲もあったんですけど、今作に関してはある程度の形まで個々が作ってきた曲を全員でアレンジしていくような流れでやってみました。
●意図的にそういう手法を取ったんでしょうか?
上田:全くライブの手を休めずに制作作業をしていたので、時間もあまりなかったんですよ。だから効率よく進めていくために、各自がある程度の形まで固めたものを持ってこようということになりました。
●そういうやり方だと、楽曲の色がバラバラになる恐れがありますよね?
上田:僕としても最初は、曲のタイプが散らかっちゃうかなと思っていたんです。だから一度みんなで整形して方向性を揃えたほうが良いのかなと考えていたんですけど、意外とそんなことはなくて。僕が歌うということやメンバーがそれぞれのパートでどうするかというところまで想定して個々が曲を作ってくれていたので、意外なほどに方向性がまとまっていて“JAWEYE”らしいものができたというか。
●意識しなくても自分たちらしい曲になった。
上田:そこは嬉しい誤算でしたね。『PULSE』という集大成的な作品を作ってから10ヶ月が経って、自分たちが今出すべきサウンドやバンド内での自分の立ち位置、メンバー個々の得意とするものが何なのかをわかってきたんだと思います。結成4年目を迎えて、バンドとしてのあり方みたいなものがよりわかってきたのかな。
●リリースまでの期間は制作をしつつも、ライブも精力的にやっていたんですね。結成当初に比べると、本当にライブバンドになったなと感じます。
上田:これまでバンドとして色んな活動をしてきた中で自分たちの身に一番なっていて、かつ楽しいことと言ったらライブしかないなと思ったんです。だから遮二無二にライブをやっていたんですけど、そこに対して疑問を抱くことはなくて。大きい会場でやらせてもらう機会もあったので、ステージングに関してもわかってきたところがあるんですよ。サーキットイベントとかでリハがない環境でも今は全く問題なくやれてしまうのは、バンドとしてタフになってきたということだろうなと。
●ステージングという意味では、広祐くん(Mp.高橋)の存在も大きいんじゃないですか?
上田:大きいですね。彼がかなり引っ張ってくれている感覚はあって。新しいものをキャッチアップして、ウチのバンドに落としこんでくれるのも広祐が一番早いんですよ。色んな音楽を聴いているし、DJもやっていたりするので色んな現場を見ていて、吸収力がすごくある。アウトプットとしての新鮮さもあるので、すごく良いですね。
●マニピュレーターというポジションからすると機械的なイメージがありますけど、彼のライブパフォーマンスはすごく肉体的ですよね。
上田:元々がバンドマンですからね。あとはスポーツも得意で、スキーが上手だったりするのが出ているんじゃないかな。しなやかな動きができるっていう(笑)。そういう意味でも、広祐は“バンド”というものをわかっているヤツだなと思います。基本的にはスイッチングとかがメインで派手な動きはないパートなのに、そういう中で自分のあり方を見つけて表現しているのは偉いなって。
●彼が加わったことで、バンドがより肉体感や熱を表現できるようになったというか。
上田:最初の頃はライブ感や肉体感みたいなものを意識して取り入れていたんですけど、今は自然なものとして取り入れられているのかな。自然な形で、肉体的な躍動感を表現できているんじゃないかと思います。
●だから今作は打ち込みが多めの曲でも、すごく肉体感があるんでしょうね。
上田:「これをライブで表現できるか? ライブでやってカッコ良いか?」というところも踏まえて、単純に良い曲を追求していった結果が今作なんですよ。昔は打ち込みとのバランスやライブ感をすごく意識していたんですけど、今回はそういうものを自分の中で自然なものとして消化した上で、良いと思ったものをやろうっていう感じでした。
●制作自体は順調だったんですか?
上田:制作に入った当初は、『PULSE』で1つ完結しちゃったので「今までやっていないことをやろう」とか「あれこれ考え尽くしたものをやろう」みたいなことを考えていたんですけど、それで1回ハマっちゃって…。良い曲が全然できなくて、「どうなるんだろう?」っていう感じになったんです。だから、余計なことは1回全部忘れてしまおうと。自然と身に付けてきた感覚や技術を使って、自分が良いと思うものを作っていこうという方向で再びスタートしてからはもう一気にできた感じですね。
●一度は袋小路にハマっていたんですね。
上田:でも一度ハマってからシンプルな方向に行ったことで、単純にシンプルな方向に行くよりも絶対的にフックが効いているものになったと思うんですよ。だから逆に良かったのかなと。
●どの曲もすごくフックが強いのは、純粋に良い曲を追求したからなのかなと。
上田:何がパイロット曲になってもおかしくないものにしようとは考えて、作っていましたね。とりあえず自分が良いと思う曲を作ろうというところからだったので、最初は曲順とかも全く考えていなかったんですよ。起承転結を考えて曲を枠にハメていくよりも、イビツであろうができあがったピースを集めて作品を作ったほうが自分たちとしては良いものができるんじゃないかと思って。結果、すごく面白い作品になったと思います。
●『ALTERNATIVE WORLD』というタイトルにしたのは、どういう理由から?
上田:“Alternative/オルタナ”って、僕らみたいな90年代の音楽好きにはキーワードなんですよね。80年代にヘヴィメタとかハードロックがあった中で、その次に出てきたのがオルタナティブ・ロックで。今回の曲を作っている途中でレーベルの人間に聴かせたら「オルタナっぽくない?」と言われた時に、やっぱり自分はオルタナが好きなんだなと気付いたんですよ。バックグラウンドとして間違いなくあるものだから、1つのキーワードとして良いなと思って。
●音楽の“オルタナ”から来ているんですね。
上田:あと、“Alternative”には「交互に繰り返される」という意味もあって。日常と非日常を行き来するというか、「いつものつまらない日常の裏側にあるものを体験してみろよ」っていう意味も込めています。それと今回の歌詞は“世界”に対して歌っているものが多かったので、“World”という言葉が出てきて。その2つのキーワードを組み合わせて、このタイトルにしたんです。
●“世界”に対して歌っているものが多くなったのは、なぜなんでしょうか?
上田:自分は世界に対して楽曲を発信しているという意識があって。たとえば言葉って口に出したところから世に放たれて、誰かがそれをキャッチしてくれて初めてコミュニケーションとして成立するわけで。同じように「全ての想いや感情とか表現っていうのは世界に対して放っていくものなんだ」というところから、“World”というキーワードが生まれたんです。
●そうやって考えていることが歌詞にも出ている。
上田:これまでに自分が書きたかったことは、だいたい書いちゃったんですよね。そこで次にどういうことを書こうかとなった時に、自分の中で“今”思っていることを書こうと思って。それをあまり難しい言葉を使わずにシンプルに書くことを心がけたので、今回の歌詞は表現方法や内容的にシンプルになっているんですよ。
●前は確かにもう少し哲学的な言葉も多かった気が。
上田:そういうものも好きなんですけどね。僕はシンプルな歌詞はダサいと思っていたんですけど、「そんなことはないよ」と色んな人から言ってもらったのもあって。あえてシンプルにしながら、ダサい直球な感じには聞こえないような歌詞を書いてみようとしました。
●シンプルになったことで、よりダイレクトに伝わるようになったというか。
上田:曲に関して複雑なことをやろうとしてハマったところから抜け出したことで、思考がすごくシンプルになったんですよね。
●それが作品全体に現れているのかなと。
上田:確かにそうですね。M-7「LIFE」は僕がメインで作った曲なんですけど、5時間くらいでできたんです。自分の中でやりたいことが明確にわかっていれば、時間もかからないわけで。本当に自分が良いと思っているものを表現するには、そのくらいの時間で十分なんだなということがわかりました。
●ある意味で、吹っ切れたんでしょうか?
上田:そうかもしれないですね。一度ハマったからこそ、吹っ切れたというか。
●そうやって作り上げた今作ですが、改めてどんな作品になったと思いますか?
上田:それぞれが個人プレイに走ったわりには、自分たちらしいものになったというところではやっぱり嬉しい作品ですね。あと、複雑なルートを通ったわりには今までの自分たちに近しい作品にできたというところも、すごく大きな財産だと思っていて。自分たちの中にある、ありのままのものを使ってシンプルに表現していった結果が粒ぞろいの曲たちになっていった。だからこそ自信を持って「素の姿のJAWEYEが良いんだ」って言い切れる盤になったのかな。
●既に次のビジョンも見えてきているのでは?
上田:まずはこれを引っさげて、ツアーをまわってというところはありますけどね。今作ではどれがパイロット曲になってもおかしくないような曲が大量に作れたんですけど、次はもっと良い曲ができる気はするんですよ。個々で作ってきたものをみんなでアレンジしたという今回の経験があった上で、次はそれぞれの感性が研ぎ澄まされた中で最初からみんなで一緒に作ったらどうなるんだろうかと考えていて。前のやり方に立ち返ってみることで、また新しいものができると思っています。
●個々が成長しているから、以前のやり方に戻しても結果は全然違うんでしょうね。
上田:個人としてのスキルも上がっているし、作曲の段階でもっと良いものが作れると思うんですよね。あと、自分も前作リリース後にボイストレーニングを受けたりしたので、今回は歌について今まで以上に意識的だったんです。そういうアウトプットのクオリティを上げることで楽曲がより良く聞こえるものだし、実際に良くなっていると思うんですよ。同じ旋律だとしても、歌が上手い人と下手な人では全く違うものに聞こえるはずだから。そういうところをより突き詰めてブラッシュアップしていけば、もっと良い作品ができるはずだという確信を持っていて。だから次に関しては、今よりも絶対に良いものができると思っています。
Interview:IMAI