音楽メディア・フリーマガジン

HUSKING BEE

6枚目のアルバム『SOMA』からまた彼らの物語が始まっていく

PHOTO_HUSKINGBEE

“AIR JAM 2012”のステージで活動再開を発表したHUSKING BEE。2005年3月のラストライブ以来、7年ぶりに復活を果たした彼らが、実に9年ぶり6枚目となるアルバムを完成させた。待望の新作『SOMA』は、ポップでキャッチーなサウンドに、奥深い磯部の言葉が乗った、生命力に溢れるHUSKING BEEらしいアルバム。岸野と山崎という新しいメンバーを加えたセッションで生まれた楽曲たちを聴けば、ライブハウスの盛り上がりが目に浮かんでくる。様々な経験と紆余曲折を経て、強い想いと意志で活動を再開させたHUSKING BEE。彼らの新たな物語がスタートした。

 

「“歌で人は変わる”というのが小さい頃からの個人的な夢で、だから歌が大好きだったりするので、そこは変わらずにやっていきたいんです。震災前も思ってきたことも含めて、HUSKING BEEの音楽に詰め込みたい」

「音楽をやる立場としても人間としても学ぶことがすごく多かったので、僕にとっては特別なものなんです。新しいメンバーになりましたけど、これからもHUSKING BEEで動いていく中で、いろんな学びや気付きを見つけていきたい」

●イベントに誘われたのが活動再開のきっかけなんですよね?

磯部:そうです。最初はまったく再開するつもりはなかったんですよ。でもその中で、HUSKING BEEをやっていたことによって、その後の音楽活動に於いてアプローチの難しさみたいなものも感じてはいて。大きかったバンドの後の活動は難しいとは聞いていましたけど、自分でも“難しいな”と思いつつ、楽しいとも思っていて。

●はい。

磯部:解散して2~3年経ったころからイベントに誘われるような話はあったんですけど、即答で「いや~、無理ですね」と断っていて。自分がまたHUSKING BEEをやりたいと思えませんでしたし、やるにもメンバー全員揃えることも難しいから、それでやるのもどうかな? と思っていたし。

●なるほど。

磯部:MARS EURYTHMICSを活動休止した後、音楽を続けるか、音楽から離れようかと思っていた時期があったんです。そこでたまたま日高さん(ex.BEAT CURSADERS / ex.MONOBRIGHT / THE STARBEMS / GALLOW)と話したんです。ライブを観に行って「最近どうすか?」みたいな話をしていて、「MARS EURYTHMICS終わるんですか?」「活動休止なんですけど、でも音楽を続けるかどうか考えてるんですけど」みたいな会話をしたら、「じゃあ何はともあれ話すついでに一緒に曲でも作ってみませんか?」と言われて「え? どういうことでしょうか?」って。

●ハハハ(笑)。

磯部:それでスタジオに2人で入ったとき「実は音楽を続けるかどうか悩んでいるんですけど」と言ったら「あなたは続けましょう」とあっさりと一蹴されて。「あなたはこれからソロで自由に活動すればいいし、これから作る曲は英詞でお願いします」と。でもそのときは英詞で作るつもりもなく、しかも音楽を辞めようと思っていたくらいだったのでゴネたんですけどね(笑)。

●ハハハ(笑)。

磯部:でも幸いにも、その後のソロ活動(磯部正文BAND)では第一線でやっている人たちが集まってくれて、すげぇ幸せだなと思いながらやれて。そこで音楽をやるいろんな楽しさを感じることができたし、またHUSKING BEEの曲をライブでやる機会もあって。それは不思議な感覚でしたけど、どんな人たちにやってもらったとしてもHUSKING BEEの曲はHUSKING BEEの曲なんだなと思ったり。ソロで自分が作っている曲と並べてやるわけで、そしたら自分の中の違和感がなくなったんです。

●なるほど。

磯部:そういう意味では、日高さんが大きなきっかけかなと思います。きっと日高さんは客観的に見てくれていたんだなって。

●そういう心境の変化があった上で、昨年2月の“DEVILOCK NIGHT THE FINAL”に誘われたと。

磯部:磯部正文BANDで出ることは決まっていたんですけど、その上でHUSKING BEEで誘われたんです。主催者の遠藤さんに「HUSKING BEEで出てほしいんだよね」って。それで連絡してみたら、ドンドン(平林)とTEKKIN(工藤)もできそうだし、やれそうだなと思って。いろんなタイミングが合ったんですね。

●なるほど。

平林:その半年以上前に去年4月の“BAD FOOD STUFF”にも誘われていたんですけど、それも出れそうだなと。

●ドンドンさんはそれまでどういう感じだったんですか?

平林:僕も自分でバンドをやっていたりしたんですけど活動休止になっちゃって、その後はしばらくライブとかもせず、たまに友達のライブとかには遊びに行っていたんですけど、音楽からは離れちゃっていたんです。しばらくはそんな感じで磯部くんとも会わない時期もあったんですけど、磯部正文BANDのライブを観させてもらってそこでみんなと再開して。ライブではHUSKING BEEの曲もやっていてすげぇ良くて、そこからまた磯部くんと連絡を取るようになって。

●はい。

平林:その流れで磯部くんの弾き語りのライブに誘ってもらったり、2011年の“AIR JAM”にちょろっと出させてもらったりとかして、そうこうしている間に“DEVILOCK”の話があって、「僕は全然やりたいです」って。

●復活を決断したのはいつのタイミングなんですか?

磯部:“BAD FOOD”の準備しているときくらいですね。“DEVILOCK”が終わって、去年の3月に磯部正文BANDのツアーがあったんですけど、そのツアーがひと段落して“BAD FOOD”のリハに入って、“AIR JAM”のお誘いを受けたりしているときに、沸々と。“DEVILOCK”では磯部正文BANDでも出演していたわけで、2回ステージに出たわけですけど、何か違ったんです。HUSKING BEEというバンドはデカいんだなって思いましたね。不思議な感覚でした。「HUSKING BEEです!」と言うのはこうも違うものなのかって。

●なるほど。岸野さんと山崎さんはどういう経緯で?

磯部:磯部正文BANDでは恒さん(恒岡章/Hi-STANDARD)にドラムを叩いてもらっていたんですけど、恒さんが叩けないときはいろんな人にお願いしていたんです。で、山崎はヒダカトオルバンドで叩いているのを観てて“いいな”と思って、磯部正文BANDで頼んだこともあったんです。

●はい。

磯部:そのリハでわかったんですけど、磯部正文BANDでもやっていないHUSKING BEEの曲も叩けるって言うんです。「だって好きですもん」って。だから復活にあたって誘ったんです。

平林:ベースの岸野は、HUSKING BEEが解散した後に僕がやっていたバンドで弾いてもらっていたんです。彼ももともとHUSKING BEEが好きで、また一緒に音楽ができたらいいなと思っていたので、この機会に誘いました。

●今回6枚目のアルバム『SOMA』がリリースとなりますが、再始動するにあたって音源のリリースは念頭にあったんですか?

磯部:ありました。再始動しようと思ったのは、また同じように曲を新しく作って、アルバムをリリースしたりすることでまたライブハウスに行けるだろうし、ライブハウスの活性化にもなるだろうし。

●そういう想いもあったんですね。

磯部:そうですね。それまであまり貢献できていないなっていう気持ちがあったんです。それにはやっぱり新しい曲を作らないと意味がないなと思って。“DEVILOCK”といい“BAD FOOD”といい“AIR JAM”といい、そういう大きなイベントに誘ってもらってただ昔の曲をやるだけじゃあダメというか、懐古趣味じゃなくて発信しなくちゃいけないなって。

●作品全体のイメージはもともとあったんですか?

磯部:久々にHUSKING BEEで曲を作る…ギアを入れたというか、モードになったというか、スイッチを入れたんですけど、エンジンがかかりやすかったんです。でも若干まだ実験段階というか、このメンバーでたくさんライブをやった中で感じる感性を持って作る作品ではないというのは最初からわかっていたので、HUSKING BEEの解説書ではないですけど、メンバーもわかりやすい方がいいだろうなと。

●なるほど。

磯部:今までのHUSKING BEEの5枚のアルバムを少し匂わせる感じというか、今までの延長線上のものにしたいなと。

●「エンジンがかかりやすかった」とおっしゃいましたが、MARS EURYTHMICSや磯部正文BANDとは曲作りの感覚は違うんですか?

磯部:全っ然違いますね。MARS EURYTHMICSのときはいろんなジャンルを好きな人が集まっていたので、なかなかその間を取るのが難しかったんです。自分も新境地で違うジャンルのものを聴いたりとかした中でスタジオセッションしていて。だからちょっとミクスチャーみたいな感じだったんですよ。一方、磯部正文BANDは自分のパーソナルな部分全開で、バンド感というより自分の世界観を中心に出していたんです。

●はい。

磯部:でもHUSKING BEEとなると、原点というか、HUSKING BEEをやっていた11年の中でめちゃくちゃ考えていたこと…“こうであるべきだ”みたいなもの…そこにまた戻った感覚というか、本来の自分に戻る感じもあったし、それまでの活動が全部総合された感覚もありました。これからまた新しいことがあるでしょうし、まあなんにしても1度「これでよし」と思ったことをまたやるわけですから、自分としても身軽になった感じはあります。あまり考えなくて済むようになった。やりたい曲をやろうっていう。

●今作は13曲入りで、M-2「Put On Fresh Paint」とM-10「Face The Sunflower」の2曲がセルフカヴァーですよね。どの曲も情緒的というか叙情的な雰囲気がありますけど、全体的にはすごくエネルギッシュな印象があるんです。生命力にあふれているというか。その中で特に印象的だったのがM-1「Art Of Myself」なんですが、この曲は“音楽をやる”ということのいちばん核の部分を歌っていますよね。HUSKING BEEが再始動して、今どういう想いで音楽を鳴らしているのか…それがこの曲から伝わってくるような気がしたんです。

磯部:「Art Of Myself」はセッションを始めてすぐくらいにできた曲なんです。同時に“自分で責任を持ってやんなきゃね”っていうことは自分自身に対して思っていたし、周りの知り合いや友人に対してブツブツと心の中で思っているとき、そういう想いがポップなメロディに乗っかってできたというか。“何が理由か言わなくては~♪”って、ゆっくり歌うとクリスマスソングみたいにすげぇポップなのに(笑)、説法も乗っかってるっていうのが作りたかったんです。それが自分にとっての“Art Of Myself”というか芸術なんだろうなって。

●これは磯部さんの表現のスタンスなんですね。

磯部:そうですね。説教も軽やかにって(笑)。自分自身にも言えるし。

●そのスタンス…シリアスになりきらないっていうのはHUSKING BEEというか磯部さんが大切にしているものなんでしょうか?

磯部:HUSKING BEEはみんなの歌を歌うようなバンドになりつつあるんでしょうけど、僕自身が考えていることは歌詞でオープンにさせてもらいますっていう。

●サウンドが持つ軽やかな雰囲気と、深みのある歌詞のバランス感というのは他の曲にもあると感じるんですが、サウンド面でのポップさはセッションから生まれるものなんですか?

磯部:メロディがポッと浮かんだらギターで弾いてみて、“こんなリズムでやりたいな”とかイメージするんです。だいたい僕の中では8ビートが鳴るので、それとは違うリズムが欲しいときはメンバーに訊くんです。山崎に「好きなリズムってなに?」とか「叩いててすげぇ気持ちいいリズムってなに?」って。それに合わせて歌い始めたり。いろんな形でセッションして、そこから生まれる場合が多いです。

●聴いていて気持ちいいと感じるサウンドが多いですが、それはセッションの体感の中で生まれたからなんですね。M-6「らせんの夜」はドンドンさんが作詞/作曲とのことですが、この曲はアルバムの中でも最もドラマチックですよね。

磯部:ドラマチックな男ですからね(笑)。

平林:そうですか(笑)。でもドラマチックするつもりは全然なくて、こういうリズムの曲をやってみたいなというアイディアが最初に浮かんだんです。リズム隊も新しい2人ですし、その新しい2人を前にドン! と出す曲をやりたいなと。だからイントロとかはリズム隊だけで引っ張らせたりして。

●なるほど。

平林:それに自分なりのメロディと歌を乗っけていった感じです。例えばライブでやるときに、イントロを3分くらいまで伸ばして、僕らはちょっと休憩できるようにって(笑)。

●ハハハハ(笑)。

平林:若い2人にがんばってほしいなって。歌詞の内容はまた別なんですけど。

●この曲もそうですけど、今作の歌詞は空を表す言葉が多いですね。

磯部:そうなんですよね。HUSKING BEEの今まで作った曲はそういうワードが多いんですけど、海とか山とか、土とか、水の感じとかも好きで、そういう言葉をよく使ってきたんです。でも東日本大震災の後は、海とかのワードはやっぱり気を使っちゃうんですよね。自分の気持ちがポップにならないし、聴いてくださった人たちに対しても「忘れちゃおうよ」と言える問題でもないですし。だから「どこかに無いかな~?」と思いながら、いつも空を見てたんでしょうね。

●視線が上を向いてたと(笑)。

磯部:今回みんなに言われるんですけど、やっぱりそうなってしまってたのかなって。でも下を向いてないからいいかなと。確かによく空を見てましたからね。

●その話に関連するんですが、生命力に溢れるポップなサウンドも含め、今作は震災が大きな1つのきっかけになっているんじゃないかなとも感じたんですが。

磯部:やっぱりありますね。もう切り離して考えようとは思わないですし、ちゃんとみんなで繋げていくべき問題だと思ってます。BRAHMANのTOSHI-LOWが信念を持ってやっていることをリスペクトしたり、SPCというチームが東北にライブハウスを作っていることに対しても貢献したいですし。でもHUSKING BEEの役割としてはライブが楽しかったりすることだと思っていて。リーダーシップを取って何かをやることも大事だと思うんですけど、人には向き不向きがあるだろうし、自分はあまりそういうタイプではないと思っているし。“歌で人は変わる”というのが小さい頃からの個人的な夢で、だから歌が大好きだったりするので、そこは変わらずにやっていきたいんです。震災前も思ってきたことも含めて、HUSKING BEEの音楽に詰め込みたいなと思いましたね、今回。「人に優しくね」って。

●それと磯部さんは最近お子さんが生まれましたが、そのことが音楽に与えている影響は大きいですか?

磯部:それはモロにありまして。聴いてくれるみなさんやメンバーには申し訳ないんですけど、今作にはめっちゃくちゃ注入してます。今作の歌詞はほとんど娘に捧げてます。

一同:ハハハ(笑)。

磯部:“すみませんがそうします”と思って(笑)。でもそういう想いは、きっと聴いた方にとっては自分の身近にいる大切な人にハマるでしょうし。それでいいと信じて書きました。

●最後にお2人に訊きたいんですが、今の自分にとってHUSKING BEEというバンドはどういうものですか?

磯部:僕にとっては、HUSKING BEEが新しい家族構成になって、過去の作品とかと一緒にまたすったもんだがあるような、いろんな物語が生まれるような感じがしていて。その物語にまたみんなに付き合ってもらうような感覚ですね。お客さんと一緒に思い出を作るというか。それと、自分がやるからには思ったことを曲に注入していくつもりですので、HUSKING BEEの歌を通じて「こんな風に生きているとものが違って見えたりするし、胸がキュンとしたりするんだよ」ということをみんなに知ってほしいとも思ってます。だからそういうことにお付き合いいただけたらなって。

●ドンドンさんは?

平林:僕はHUSKING BEEに加入してからずっと、音楽をやる立場としても人間としても学ぶことがすごく多かったので、僕にとっては特別なものなんです。新しいメンバーになりましたけど、これからもHUSKING BEEで動いていく中で、いろんな学びや気付きを見つけていきたいし、そういう場があってすごく幸せですね。

interview:Takeshi.Yamanaka

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj