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HONDALADY

アシッドフォーク界の誠意大将軍が放つ面目躍如のド直球的アルバム

マル(Vo.)とDie(TB-303)の2人によるテクノロックユニット、HONDALADY。

現在の2人体制になって10年目、さらには通算10作目のアルバムという節目に、セルフタイトルを冠したニューアルバムを彼らがリリースする。アシッドハウス/テクノ的なトラックに、四畳半フォークの匂いを漂わせる歌詞とメロディを乗せたスタイルはまさに唯一無二。

昨年11月のヨーロッパ・ツアーも経て独自のスタイルに磨きをかけた「アシッドフォーク界の誠意大将軍」が、面目躍如のド直球的アルバムを完成させた。

#Interview

「僕らは人のいないスペースにどんどん走っていくっていう、運動量の豊富さだけが売りのサッカー選手みたいな感じなので(笑)」

●今年はHONDALADYが現在の2人体制になって、10年という節目なんですよね。

マル:結成してからは16年目ですね。

Die:去年が結成15周年だったので、今年も何かないかと探してみたら2人になって10周年だったという…"手を替え品を替え"ですよ(笑)。

●(笑)。節目ということで、セルフタイトルにした?

マル:そもそも2人になって、10年も続くとは思っていなかったんですよ(笑)。セルフタイトルを付ける機会って、たとえば解散とか1stアルバムみたいなエポックメイキングな時しかないから「だったら、もう10周年しかないんじゃないか」と。今までも毎回、候補には挙がっていたんです。

Die:ちょうど10枚目のアルバムでキリが良いし、そうしようとなりましたね。今回が一番、しっくりきました。

●内容的にも合っていたという感じでしょうか?

Die:でも最初から集大成的なものにしようとか考えていたわけではなくて。今までの延長線上かつ、今までの要素が詰まった感じですね。

マル:タイトルはいつも一番最後に決めるんですよ。収録曲を並べてタイトルを相談していた時に、今まで積み重ねてきたものが上手く形になったところがあったので今回はセルフタイトルでいけるんじゃないかと。突拍子もないことをやっている時には付けられないタイトルだし、等身大のアルバムになったのかなと思います。

●等身大といえば、ホームページでは「アシッドフォーク界の誠意大将軍」HONDALADYと自称されていますが、「"誠意"大将軍」って(笑)。

Die:羽賀研二に続いての…って、もう誰も覚えていないんじゃないかっていう(笑)。

マル:アシッドハウス的な打ち込みのトラックをバックに、フォークソングっぽい歌詞や世界観やメロディを追求するというのがここ数作のテーマで。それを大げさに「アシッドフォーク」と言ってみた感じですね。

●いわゆる60~70年代の"アシッドフォーク"とは別の意味なんですね。

マル:それにもかけてはいるんですよ。80年代にサイケデリックなものを後追いでやっていたバンドをずっと聴いていたし、80年代後半からのアシッドテクノを聴いていた部分もあって。僕らのライブスタイルはアシッドハウス的なものをベースにしているので、その両方にかけたダブルミーニング的な感じです。

●それに「誠意大将軍」を付けたのは?

マル:その「アシッドフォーク」路線を何作か突き詰めてみたらお客さんからも「心に沁みる」とか言ってもらえて、それなりの成果は果たせているんじゃないかと思っていたんです。でも後ろを振り向いた時に、誰もその道を追いかけてきている人はいなくて…。じゃあ、仰々しい感じの称号を勝手に与えてもいいんじゃないかということで色々考えた結果、「誠意大将軍」がいかがわしさもあって良いんじゃないかなと。

●いかがわしさが良いんだ(笑)。

マル:いかがわしいんですよ(笑)。前作も『ギミアブレイク』っていうタイトルにしたんですけど、どうしても昭和っぽいネタを掘り返したい衝動に駆られて。あのバブル前後の喧騒というか、何か怪しげな感じが僕らの思春期だったので、きらびやかに見えるんですよね。

Die:その象徴としての羽賀研二(笑)。…フェイクスターですよ!

●言い方を変えてもカッコ良くないですから(笑)。ある意味、自分たちだけのサウンドを確立したという自負もあるんじゃないですか?

マル:そういうところもあるかもしれないですね。

Die:でも、それを自分たちで言ってしまうとカッコ悪いので誰かが言ってくれるのを待っている感じですね。僕らからは「誠意大将軍」までにしておくので(笑)、後は聴いた人が勝手に考えて下さいと。

●聴く人によって解釈は自由だと。確かに1曲目が10周年を祝うような「Ceremony」で始まって、ラスト前に10周年/10枚目を象徴するようなM-7「Ten」、ラストは新たな境地を想起させるM-8「新世界」と曲順の流れも深読みできますね。

Die:おぉ!! …それはまさに僕らが思っていたことです。

マル:絶対、思ってないでしょ!

一同:(爆笑)。

マル:ただ、最後の2曲はこの流れにしようというのは、曲ができた当初から考えていましたね。「さあ、次に行こう!」みたいな流れを意識していました。

●今作の方向性は最初から見えていたんですか?

マル:ちょうどレコーディングの準備期間中だった去年の10月に、ヨーロッパ・ツアーに行ったんですよ。そこで「エモーショナルな部分とかは日本語のままでも伝わるんだな」っていう手応えが自分たちの中にあったので、今回のアルバムではそこを突き詰めようと思って。ダンスミュージックやポップミュージックの流行り廃りには関係なく、「自分たちのド直球を投げればいいんじゃないか」っていうイメージで曲を全部書き直したんです。海外から持ち帰ったものを出してみようということで、今作を構築し始めた感じですね。

●海外に行ったことで逆に、自分たちらしいものをやろうと考えた。

マル:今作に限ったことじゃないんですけど、日本語の歌詞ということはすごく大事にしていて。僕らが洋楽っぽいものをやったところで、それをやっている人は既にたくさんいるわけで。それを欲している人たちは、そっちに行けばいい。僕らは人のいないスペースにどんどん走っていくっていう、運動量の豊富さだけが売りのサッカー選手みたいな感じなので(笑)。

●そこにボールが来るとは限らなくても…。

マル:とりあえず、人のいないところに飛び込もうっていう。

Die:いつか来る時のために準備をして、身体だけは作ってあります(笑)。

●(笑)。人がやらないことをあえてやる。

マル:僕らが英語で歌っても、それはちょっと違うと思うんですよ。たとえば外国人が流暢な日本語で歌っていたとしてもそれはやっぱり日本語じゃなくて、どこか滑稽に見えるわけで。「それは違うな」と意固地になって、早10年…(笑)。僕らみたいなスキルも歌唱力も演奏力も見た目もたいして良くないような人たちがサバイブしていくためには、人がやったことのないことをやるしかないんじゃないかというところについ行ってしまうんですよね。

●ヨーロッパ・ツアーの影響という意味では、M-3「昼行灯」はDub Pistolsに刺激を受けたそうですね。

マル:元から2トーン・スカとかは好きだったんですけど、今回のツアーでブライトン(UK)に行った時にスカが文化になっているのを知って面食らったんです。ドラムンベースの専門店に行っても、The Specialsのレコードが飾ってあったりして。「こういうところに住んでいると、こういう音になるんだな」というのがすごくカルチャーショックだった。こういうことをやっている人も周りにはいないし、自分たちでやってみたいなというところで作った曲ですね。

●この曲の次に収録されているM-4「モノトロンズ」は、機材のモノトロンをテーマにしている?

マル:イメージ的にはモノトロン兄弟の歌ですね。

Die:モノトロンとDUOという兄弟がいて、街の親玉であるTB-303兄貴と一緒に3人でバンドをやっているという設定です。街のゴロツキだけど、パブでは人気者っていうイメージですね。そういう架空の物語がなぜか急に入っているという…(笑)。

●その後にHONDALADYの面目躍如チューンM-5「俺しょーもNIGHT」が入っているというのも…。

マル:「どこに行きたいんだよ!」って感じですよね(笑)。でも、いまだにこういうことを他でやっている人はいないから。

●バラエティ豊かな作品にはなっていますよね。

マル:でもバラエティを出そうという意識は、僕らの中にあまりないんです。いらないものがだんだん削ぎ落とされていってソリッドになっていった結果、今に至るというか。昔はサポートメンバーを入れてバンドっぽくやろうとか一生懸命考えていた時期もあったんですけど、そういうことをやっている人も他にいっぱいいるので自分たちはもういいかなって…(笑)。

●自分たちだけがやれるものを模索してきた結果、自然とバラエティも出たというか。

マル:なるべく2人で演奏できるものにしようというのは制作時に、暗黙のルールとしてあって。そこさえ外さなければ、大概の曲はライブでやれますからね。

●M-2「はだかのあなた」には、YMCKの栗原みどりさんがゲストで参加していますが。

マル:今までもフィーチャリングボーカルを色々とやってきたんですけど、ライブでなかなかできないという盲点があったんですよね。1曲だけで帰ってもらうのも悪いし、特別な時でないとゲストにも呼べないから、ライブではなかなかやれなくて。だから2人だけでやれるものをベースにして、フィーチャリングボーカルを入れる時はよっぽどの時だけにしようと最近は決めていたんです。

Die:この曲に関しては普段のライブでは僕が栗原さんの部分を歌っても何となく雰囲気は出るし、本人には特別な時にだけ登場してもらえばいいかなと。

●今までの経験があった上で、2人でも再現できるフィーチャリング曲を作った。

マル:栗原さんとは付き合いが長いので、彼女のことはよく知っていたんです。この曲に関しては完成形もイメージできていたので、「ここは彼女しかいないだろう!」ということで参加してもらって。期待以上のものができたので良かったですね。

●今作にライブ感があるのは、ライブを意識した曲作りをしているからなのかなと。

マル:僕らはやっぱり、ライブがやりたくて音源を作っているんです。ライブでやれないと、作った曲に対して申し訳ない気分になってしまうんですよね。だから「ライブでやれる曲しかやりたくない」というのは、テーマとしてあります。

●現在の2人体制を大前提にした上で、ライブで再現できる曲というか。

マル:2人になったばかりの頃は、2人じゃできないことをやっていたんです。その結果、サポートメンバーを入れないと成立しない曲ばかりになっていて。その時は「2人になったし、ここでいっちょ派手なことをやってやろう」と力んでいたんだと思います。

●逆に今の音は、良い意味で肩の力が抜けている感じがします。

マル:僕らは長くやることを目指していたわけじゃないし、今はもう生活の一部になってしまっているから。音楽と共に生きていくっていう感じなんですよね。そのイメージの下で、その障害になるようなものはなるべく外している感じです。

●生活感や人間味が出ている"フォーク"らしい歌詞も、HONDALADYならではですよね。

マル:歌詞は自分からにじみ出たものしか書いていないんです。世知辛い人生のことをダラダラ歌っているような感じで…。別に奇をてらっているわけじゃないし、「しょーもないな、俺…」っていうのを歌詞にしているだけですね。フォークっていうか、もうブルーズかな。

Die:"アシッドブルーズ"になったんだ(笑)。

マル:でもライブに来てくれるお客さんも、そういう歌詞が心に引っかかるみたいで。だから(求められているものから)そんなに外れてはいないんじゃないかなと思います。

●そういうお客さんがいてくれるから、10年続いたわけですよね。

マル:「Ceremony」はまさにそういう人たちに向けた感謝の歌ですね。ライブを観に来てくれるお客さんがいないと、本当にここまでは来られなかった。サポートしてくれるスタッフやオーディエンスがいてこそなので、そこに向けて歌うっていうこともやらなきゃなと。

●この曲から始まっているというのも象徴的ですよね。

Die:良い感じに全てのピースがハマった感じですね。…上手いこといくもんだ(笑)。

●2人で10周年というのも、振り返れば「上手いこといくもんだ」っていう感じなんじゃないですか?

Die:気付いたら「もう10年?」みたいな感じですからね。そのあたりが10年経ってもまだやっていけている要因かもしれないです。

●もう11年目へのビジョンも浮かんでいる?

マル:具体的な何かというより、まだ僕らのことを知らない人に届けたいという想いはずっとありますね。知らない人にどんどんアピールできる場所に行きたい気持ちがモチベーションになっていて。そういう意味でも去年のヨーロッパ・ツアーがすごく大きかったと思います。自信にもなったし反省もあって、次への課題が見えてきたのはすごく大きかったかなと。

●モチベーションを保って活動を続けられていると。

マル:Podcastをやっていると、行ったことのない地域の人からお便りをもらったりするのが本当にうれしくて。基本的なことだけど、そういうものが活動の糧になっているのかなと。期待してくれている人たちにあまりブレたものを見せるわけにもいかないので、適度な緊張感を持って活動しています。

Die:誠意を持ってね。

●さすが誠意大将軍!

一同:(爆笑)。

Interview:IMAI

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