日本パンクシーンの最前線を突っ走るHEY-SMITH。ライブを主戦場とし、“FUJI ROCK FESTIVAL”や“京都大作戦”、“RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO”などの大型フェスで暴れたかと思えば、盟友SiM・coldrainとの“TRIPLE AXE TOUR”でシーンに大きな風穴をあけ、世代を超えた多くのバンドと日々凌ぎを削り合うかのごとく熱いステージを繰り広げてきた彼らが、約2年ぶり待望の3rdアルバム『Now Album』を完成させた。捨て曲一切なし、“今”のHEY-SMITHがすべて詰まった今作は、ライブハウスでの熱狂が目に浮かぶキラーチューンばかり。清濁を併せ呑み、どこまでもバンドマンとして成長を続ける5人の生き様が詰まった『Now Album』。HEY-SMITH史上最高傑作が完成した。
●昨年12月に企画イベント“OSAKA HAZIKETEMAZARE FES- TIVAL 2012”がありましたが、今年に入ってからも色んなところで色んな人とライブをしてますね。
猪狩:そうですね。2月にやった“LIVE IN HOPE”っていう自分たち発信のイベントは、打ち上げとか普段よく会うのに一緒にライブをやることが全然ないバンドを集めたっていう純粋な動機のイベントなんですけど、あとのライブは呼んでもらって出たイベントで。自分らのツアーに出てもらっているバンドばかりに誘ってもらっていたりしたので、無条件に「今度は俺らが行くよ」って。
●最近のライブで印象に残っているものはありますか?
猪狩:1月末の広島から福岡までの3本(1/26@広島CAVE-BE、1/27@福岡graf、1/28福岡BEAT STATION)はサキムキ(Mukky)が体調を悪くして来れなかったんです。で、初めてその3本のライブはアコースティックセットでやったんですよ。
●あ、そうだったんですか。
猪狩:あの経験はかなりデカいっすね。
Task-n:デカいね。
●バンドの底力が問われますね。
猪狩:本当に。サキムキは鼓膜が破れたりしちゃってて、そのときは来れないということになって。
●ライブをキャンセルするという選択肢はなかったんですか?
猪狩:キャンセルは嫌でした。だってキャンセルしたところで人のツアーだから払い戻しはできないし。ライブを観に来る子ってその日がなかったら次の日から学校に行かなかったりするというか、活力が沸かないじゃないですか。そういうことも考えたら、キャンセルというのは有り得へんなと。だからちょっとでもと思ってアコースティックでやったんです。
Task-n:広島に着いてからカホンを買ったんです。持ってなかったし。
猪狩:当日までサキムキが来れるかどうか様子を見ていたんですけど「来れない」となって、そこからカホンとか買って、楽屋で練習して。もう不安で仕方がなかったですけど(笑)。
●そういう経験は大きいですね。
猪狩:そうですね。2日目からは楽しかったですけど。
Task-n:あの経験はめっちゃデカいですね。
●年明け以降も濃い日々を過ごしてきたんですね。…というか、昨年10月に1stシングル『Download Me If You Can / Goodbye To Say Hello』をリリースし、12月に“OSAKA HAZIKETEMAZARE FES- TIVAL 2012”があったりと忙しくしてきた中で、いつアルバムを作っていたんですか?
猪狩:今回のアルバム収録曲は3〜4ヶ月くらいでほとんど書いたくらいの感じですね。シングルを作って、その後にほとんどの曲を書きました。この時期にアルバムを出したいと前から考えていたんです。前のアルバムからちょうど2年ぶりだし。シングルを作った後に、自分の中で曲にしたいテーマがいっぱいあったんですけど、そのテーマにうまく当てはめることができたというか。だから曲作りはスムーズではあったんですけど、いかんせんアルバムは曲数があるので、それはしんどかったですね(笑)。
●今作を聴いて思ったことなんですけど…HEY-SMITHというバンドは色んな魅力を同時に持っていて前から“ズルいな〜”と思っていたんですよ。すごくふざけた部分も持っているけど、同時に熱い想いもきちんと持っていて、そういうシリアスな顔をライブの要所要所でしっかりと見せる。なおかつパンクの精神で、言いたいことはきちんと自分の言葉でメッセージにしている。HEY-SMITHのライブで感じることのできるそういった様々な魅力を今回のアルバムは網羅しているなと。曲数は多いけどまさに捨て曲がなくて、アルバムタイトル通り、1曲1曲にHEY-SMITHの“今”が出ている。
猪狩:まず候補曲を20曲以上作ったんですけど、その中からバーッと削っていって。本来は、アルバムだと12〜3曲がベストだと俺は思っているんです。長いアルバムだと聴くのもしんどくなるし。だからそうしたかったんですけど、10曲くらいは削れたけど残りがどうしても削れなかったんです。むしろ「どうしても入れたい」となって。
●ふむふむ。
猪狩:アルバムが大ボリュームになっても“入れたいな”という気持ちが収まらなかったんですよ。だからさっき言ってもらったように、今のHEY-SMITHが出ているのかもしれないです。
●前シングル曲の「Download Me If You Can」について、猪狩くんは前のインタビューで「歌詞を見なくても伝わる部分があるというか、耳じゃなくて胸に何かが来るなと思える曲ができた」と言っていたんですけど、今回のアルバムもそういう曲ばかりなんですよね。感情と音楽が近いというか。
猪狩:はい。
●特に印象的だったのがM-8「I Hate Nukes」とM-16「Journey」なんです。「I Hate Nukes」はすごくポップなんですけど、強いメッセージが詰まっていて、そのコントラストというか、ポップなサウンドに強いメッセージを乗せることで心境がよりリアルに伝わってくる。そして「Journey」はもう本当にいい曲で、一聴するだけで心が豊かになったんですけど、歌詞を見たら仲間を大切にしてきたHEY-SMITHの熱い部分が出ているというか、もうめちゃくちゃいいことを歌っているという。こういうところがHEY-SMITHはズルい!
一同:ハハハ(笑)。
●アルバム全体を通して、聴いたときの伝わってくる度合いというかスピードが「Download Me If You Can」と通じるものがあったんですよね。
猪狩:「Download Me If You Can」を作ったことが今回のアルバムにすごく影響していますね。言ってもらったように、曲を聴いてなんとなくの感情がわかるような曲が揃っていると思います。「I Hate Nukes」とかは、曲名を見ただけで言いたいことがわかるじゃないですか。でもそれを怒りに乗せて歌いたくはなかったんです。俺ね、原発とか核みたいなことに対して、すごく大きな怒りや意見を持って立ち向かう気持ちっていうのはあまりなくて。ただ単に怖いんですよね。
●うんうん。
猪狩:「力でねじ伏せてやれ」みたいなデカいことは言えなくて、とにかく怖くて、わからへんから、「わかんないけど怖いよ!」ということを歌いたくて。そういう感じで、今作のほとんどの曲が自分の気持ちにすごく当てはまったんですよ。そういう意味での感情に近い曲が並んでいるので、喜怒哀楽が伝わりやすいアルバムになったのかなって思いますね。
●そうですよね。とあるお客さんとの関係を歌っているM-9「Heart- break」のように大きく心が動いたことを書いた曲もあれば、M-10「Summer Head」やM-11「Magic Leaf」のようにどうしようもないことを歌った曲もある(笑)。そのバランス感がHEY-SMITHというバンドには重要なのかなと。
猪狩:そうなんですよね。最近のロックは「セックス、ドラッグ、ロックンロール」みたいなイメージが無さすぎると思うんですよ。“なんでもっとそういうメッセージを発信しないんだ?”と俺はちょっと思ってて。歌なんだから、例え間違ったことを歌っても別にいいわけですよ。本人が経験しているか経験していないかは関係ないですから。
●そうですよね。経験してないですもんね(笑)。
猪狩:あり得ないです(笑)。でもそういうことを発信してもいいと思ったから書いた曲もあって。今は歌いたいことがあるから曲にしてますけど、やっぱりお酒とか革ジャンとか、暴れてるのがかっこいいと思っていて、それに憧れてバンドを始めたんですよ。でも最近はタバコを喫わないとかお酒を飲まない人がめっちゃ増えてますし。別にそのことにむかついているわけではないんですけど、俺が憧れたのはそういう場所ではなかったので、自分が憧れていたようなこともガンガン歌いたいなって。ロックの悪いイメージとかも含めて。
●「Journey」はちょっと他の曲と雰囲気も違うと感じたんですけど、どういう経緯でできた曲なんですか?
猪狩:よく考えたら「Journey」だけは前に作ってますね。そうやったよな?
Task-n:うん。前のシングルを作るタイミングで候補曲の中にありましたね。
猪狩:1年半くらい前にアメリカに行ったとき、「Journey」のサビのメロディが浮かんだんですよ。「お! 来た来た! アメリカっぽい!」と思って。
●確かにアメリカっぽい。
猪狩:アメリカでライブを観ていてトイレに入ったときだったんですけど、その1人で居る感じもなんか映画みたいな雰囲気があって、その雰囲気のまま曲にしたんです。たぶんそのときはアメリカに行って酔いしれてたんでしょうね(笑)。だから思いっきりそういう曲になったと思います。
●さっき少し言いましたけど、この曲は対バンしてきた仲間のバンドのことを歌っているじゃないですか。こういうことは自然に出てきたんですか?
猪狩:そうですね。バンドをやっている中でいちばん大きく思っていることなんです。対バン相手や仲間に対して、一緒にツアーにまわってくれて“ありがとう”と思っていることとか。それはずっと、バンドをやっているテーマなんですよね。
●テーマ?
猪狩:自分の中でいちばん大きな割合を占めているもので。ほんまに、めっちゃ自然です。心から思っていることを自然に歌詞に書いた感じですね。
●それはバンドの活動に現れていますよね。ライブの組み方自体もそうだし。
猪狩:別にシーン全体でとかそういう気持ちはないんですけど、やっぱり俺らの周りのバンドはかっこいいんですよ。音楽も掴むのが早いんですよね。今まで聴いたこともないような音楽を自らやってくる。自分がCDを聴き漁って新しいものを探すより、こいつらから採り入れる方が早いし、俺らの周りのバンドってほんまに敏感なんですよ。こいつらに「最近かっこいいバンドいる?」とか訊いて教えてもらうことも多いし。
●HEY-SMITHにとっての音楽シーンは、CDショップに並んでいるものというより、周りの仲間だと。
Task-n:そうですね。
猪狩:アメリカへ行ったときに結構な数のバンドを観たんですけど、日本のバンドの方がかっこいいと思えたんです。アメリカにももちろんかっこいいバンドはいますし、トップのバンドはもう死ぬほどかっこいいんですけど、他は全然日本の方がかっこいい。そういうのを観たりして“日本のバンドってすごいんやな”と。
●「Journey」はHEY-SMITHというバンドを象徴している曲なんですね。制作はどうだったんですか?
Task-n:今回は曲作り合宿をしたんですよ。そこで夜中の2時くらいから「このテンションで新たにもう1曲作ってみよう」みたいなこともやったし。
猪狩:合宿は初めてだったんですけど、詰めてやるのもいいなと思いました。山中湖のスタジオで合宿したんですけど、音楽以外にやることもないし。
Task-n:やりきって疲れてそのまま寝る、みたいな。起きたらまた音楽のこと考えて…そのサイクルが良かったよね。
猪狩:うん。良かった。
●特に苦労はなかったんですか?
猪狩:曲作りはスムーズだったんですけど、詰めの部分での苦労はありました。
Task-n:とりあえず形にするまでは順調なんですけど、最終的に磨くところでなかなか決まらなかったというか。
猪狩:いつもはその磨く作業もポーンと決まるんですけど、今回は例えばホーンフレーズが1つ出きたときに「いいけど80点やねんな〜」みたいな。100点になかなかならなかったんですよ。ギターソロやドラムとかも「いいんやけど、普通やな〜」って。ちょっとした詰めの部分に時間を取られました。
●その話はすごく納得できるんですけど、今作は1つ1つのフレーズや音が普遍的な強度を持っている感じがあるんですよね。無駄な音が入ってないから何度でも聴けるというか、音の1つ1つが必然的にそこで鳴っている。
猪狩:ああ〜。それはフレーズを削ったからだと思います。ホーンもギターも実はもっといっぱい入ってたんですけど、要らない音は全部削っていったんです。
●確かにあまりホーン入ってないなと思いました(笑)。
猪狩:バンバン削りましたからね(笑)。
Task-n:ハハハ(笑)。
猪狩:フレーズもいっぱい入ってたんですけど、流れで聴いたときに鬱陶しいというか、シンプルに聴こえない感じがあって。パンクに聴こえないというか、ロックに聴こえない。
●音が飾りになっていたと。
猪狩:そうです。それはちょっと違うなと。やっぱり必要不可欠なものしか要らないし。ということで、かなり磨いていきました。ギターにしろ管楽器にしろ、やれることが増えてきて余計なものも出すようになってきたんですよね。それをちゃんと初期衝動で判断して、自分の中で「いやいや、それは弾き過ぎだし吹き過ぎだ。シンプルじゃないと伝わらないでしょ?」っていう感覚と照らし合わす作業というか。
●なるほど。確かにシンプルですね。
猪狩:俺、みんなにバンドをしてほしいんです。だから簡単な曲にしたいんですよ。ギター弾いてほしいし、ドラムを叩いてほしい。だからあまり難しいことをやりたくないなと。いくらギターが上手くても、それをできる奴はなんぼでもいるんですよ。俺はそこにあまり興味がなくて。簡単でもかっこいいものを弾く人の方がかっこいいと思うんですよね。
●いかに簡単なフレーズで自分たちらしさを出すか。
猪狩:3ヶ月くらい練習したら誰でもできるアルバムです(笑)。
●でも「みんなにバンドをやってほしい」って、いいことですね。
猪狩:やってほしいですね。俺、このインタビューはアルバムのことなんてどうでもいいんです。バンドマンはいちばんかっこいい職業であり、バンドマンがいちばんモテるんだぞっていうことをしっかりと言っていきたいんですよね。
●あ、なるほど。
猪狩:バンドは当たり前にかっこいいと思うんです。「空気=要る」みたいな感じで「バンド=かっこいい」っていう感覚なんですよ。なのにバンドマンって、金がなくて、女をたぶらかしてっていうイメージが先行しているような気がして。
●確かに“ろくでもない奴ら”というイメージはあるかもしれない。
猪狩:そうでしょ? そうじゃなくて、もっと純粋にかっこいいものだと思うんです。バンドマンは歌詞を書いて曲を書いて、やっぱりマンパワーが出るじゃないですか。歌声やその人の容姿だけじゃなくて、人間味っていうものがしっかりと成されるというのは、やっぱりバンドや自分で曲を書いて歌っている人だけやと思うんです。
●そうですね。
猪狩:そういう部分をしっかり見てほしいですし、それがいかにかっこいいことかというのを、みんながもっと知るべきやなと思うんです。自分の曲を書いて自分で歌って、自分でバンドを動かすっていう。バンドマンという職業はろくでなしではできないと思うんです。
●バンドを続けている人ってかっこいいですもんね。
猪狩:かっこいいです。ほんまにかっこいいです。そういうのをちゃんと俺らも提示していきたいし、だからみんなにバンドをやってほしいんです。ほんまにね、歌ってギターを弾くだけで生活できるんやから、こんなにいいことは他にないんですよ。
●ライブで勝負しているバンドってみんなかっこいいですよね。それはきっと、たくさんの人の前で嘘をついたら伝わらないからだと思うんです。どんどんピュアになるというか。
猪狩:ほんまにそうやと思う。俺、CDを出す前とかはMCで曲を説明すれば伝わると思っていたんです。「こんな曲ですよ」って言ったらその曲はそういう曲になると思っていたんです。でもそれは大間違いで。自分がそういう経験をしたりとか、そういう曲を持って自分が行動するからこそ、その曲はそう聴こえるんであって。「俺たちパンクだ!」と歌っているような曲があるとしたら、そいつがパンクじゃないとそうは聴こえないと思うんです。
Task-n:うんうん。
●バンドマンはかっこいいということを伝えたいと。
猪狩:うん。伝えたい。
●だからリリース後は47都道府県ツアー(全58本)で伝えると。
猪狩:そうですね(笑)。
●なぜ47都道府県をまわろうと?
猪狩:このアルバムを作っているとき、“このアルバムで最後かな”という感じがあって。別に解散するとかそういうネガティブな話じゃなくて、作品を作るたびに“これが最後になってもいい”というくらいの気持ちでやっているんです。
●はい。
猪狩:だから“これが最後になっても後悔がないように”という部分もあるし、“これが最後や”と自分の中で決めているときもあるし。と言っても、ツアーをまわったらまた出したくなるんですけどね。でもやっぱり、それくらいの気持ちじゃないと作品に対してすっきりしないというか。過去の作品を振り返ってみると、やっぱり下手くそやし、「このときの俺はこんなこと思ってたんか」とニヤッと笑っちゃうんですよ。でもそれくらいの気持ちを入れていないとニヤッと笑えないんですよね。
●ああ〜。
猪狩:じゃないと「なにこれ?」となっちゃうと思う。でも全部「なにこれ(笑)」って笑えるのは、“これが最後になっても後悔がないように”とか“これが最後や”といちいちそのときに思って作ってきたからやと思うんです。
●そのときの100%を込めているからこそだと。
猪狩:今回も“最後や”と思いながら作っていたんですけど、ツアーを組むときに“最後のアルバムのつもりで作ったんやから全部行くでしょ!”って。
Task-n:“じゃあ全県行くでしょ!”って(笑)。
●ハハハ(笑)。
猪狩:今回の制作はいい意味で“いつでも辞めたるわ”っていう気持ちが常にあって。メンバーと揉めたこともあったんです。サキムキの病気のこともあってツアーができるかどうかも不安だったし、「こんなに揉めててツアーなんかやれるんか?」みたいな感じでイライラしてて。でもアルバムに人間味を詰めたんやから、人間味を持ってツアーをしたいなと。揉めながらでも前に進む方がポジティブな感じがしたんです。そういう部分で「よっしゃ! やるぞ!」って一歩踏み出すのになかなか時間がかかりました。
●なんか無責任な発言ですけど、いいですね。生きてますね(笑)。
猪狩:そうですね(笑)。ここまでメンバーでぶつかったことはなかったし。
Task-n:殴り合ったこともあったし。
●そうだったんですか(笑)。
猪狩:別にぶつかってもいいんです。今はめっちゃやる気やし。そんなもんです(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka