デビュー作『Soy sauce impulse』の発売から2年3ヶ月にして早くも4枚目となるアルバムを、GalapagosSが7/3にリリースする。ハイペースな作品リリースの合間には国内外を問わず精力的なツアー活動も展開し、強靭なバンド感とグルーヴを手に入れてきた彼ら。今作『Run Like Fury』はそんな経験値を裏付けるように、突き抜けたライブ感とダイナミックなバンドサウンドが全開! そこにユニークな感性による打ち込みが重なり、まさしくデジタル世代のパンクロックと呼ぶべき音へと独自の進化を遂げた。
●前作『Slowly But Surely』発売時のインタビューでは、ツアーで各地のスナックに行くのが楽しみだという話もありましたが…。
ゴキミ。:ハハハ(笑)。まさかスナック話からとは…、でも前作のツアーではほとんど行っていないんですよ。
新太郎:あ、でも旭川ではみんなで行きましたよね?
ゴキミ。:そうだ。旭川だけは行きましたね。
●てっきりスナック巡りの旅だったのかと(笑)。
ゴキミ。:いやいやいや(笑)。僕は前回のツアー時に、その旭川のスナックに1人で行ったんですよ。そこがすごく良かったので、今回改めてみんなで行ったんです。
写楽:その前に一度、みんなで名古屋のスナックに行ったことがあって。
新太郎:名古屋で伝説のスナックに行ったんです。
●伝説のスナックって(笑)。
写楽:旭川のスナックもすごく良くて、「これはハマる気持ちがわかるな…」と。
ゴキミ。:日々の疲れを癒す場所ですからね(笑)。
●スナック話はこのくらいにしますか(笑)。今作『Run Like Fury』はすごくライブ感がありますよね。
写楽:メンバーで今後の方向性を話し合った時に、対バンとして思い描いている人たちと一緒にやるには「曲のタイプがちょっと違う」という話になって。僕の中ではパンクとかメロコア系のバンドと一緒にやりたかったので、クラブノリではないものを意識したいなと思っていたんです。そこで、今回はもっとストレートなものを出していこうということになりました。
●それはいつ頃の話?
新太郎:今年に入ってからだったと思います。
ゴキミ。:あるライブの打ち上げで、新太郎くんだけ先に帰った時があって。その時に俺と写楽さんが熱い感じで話し合ったんです(笑)。そこで曲の方向性とかもまとまりましたね。
●お酒はよく呑むんですか?
ゴキミ。:ツアー先でもライブが終わったら大体は呑みに行って、酔いつぶれて寝る…みたいな感じですね。
●起きたらベッドで、隣に場末のスナックのママが寝ていたりして…。
ゴキミ。:それは今のところないですけど、あったとしても言わないです!
一同:ハハハ(笑)。
●ツアーの打ち上げ等でメンバー同士が酒を酌み交わす中で、バンド感も増してきたのでは?
写楽:でも僕らは元々、打ち上げ以外でも呑むことが多かったんです。打ち込み系の人たちってあんまり打ち上げとかをしないので、そっちにいた時は逆に僕らは浮いていたんじゃないかな。
ゴキミ。:実はみんなで呑んだりするのが僕らの自然体なんですよ。それが表にどんどん出てきたことで良い感じになったんじゃないかなと。
●そういう意味では、今回のサウンドも本来やりたかったことだったんでしょうか?
写楽:自分としては元々こういう方向性でやりたいと思っていたんですけど、それをやるためにどうすればいいのかわからなかったんです。ゴキミ。くんから「そもそも曲から違いますよ」と言ってもらって、「そうなんだ!」と知ったというか。目からウロコが落ちましたね。だから無理に方向性を変えたというわけじゃなくて、放っておいても自然とこうなっていたんじゃないかな。
●歌詞の内容にパーソナルなものが増えたのも、自然体を出せるようになったからなのかなと。
写楽:今回は男性が聴いても違和感がないものを心がけたんです。どうしても自分が書く歌詞は女々しいものが多いんですけど、今回は男目線の女々しいものを書けたらいいなと思って。
ゴキミ。:話し合いをした時に「Tシャツを着て拳を振り上げるような層に届けたいのなら、男の人が共感できるような歌詞にしたほうが良いのでは?」ということを言ったんです。今までの歌詞はどちらかといえば女性が共感しやすいものだったんですけど、やっぱり男が共感できるものにしないと自分たちの求めるノリにはならない気がしたから。
●いわゆる“中二病”っぽさというか、10代の男子が心に抱いているような内容が多いですよね。
写楽:“中二”感はすごくあると思います。でも“中二”というか、僕の中で今は2度目の16歳だと思っているんですよ。“2nd high teen”的な(笑)。ちょうど今は16歳の気持ちで全てを行なっている時期なので、サウンドの若々しさにもそれが出ているんじゃないかな。
●“16歳”は写楽さんの中で重要な時期だった?
写楽:ちょうどバンドをやり始めた時期ですからね。
ゴキミ。:俺は16歳じゃなくて、18歳くらいから今まで何も変わっていない気がするんですよ。「自分は心が成長しない病気なんじゃないか?」と思うくらいで(笑)。
●そういう10代特有の葛藤に悩みつつも、それを否定はしない歌詞になっていると思います。
写楽:そこで具体的にどうするかという答えが出ないままいるっていうのが歌詞になっているというか。「今、こんな状態です。以上!」みたいな(笑)。だからどうしても「明日に向かって」とか「みんなで力を合わせて」みたいな歌詞を僕は書けないんです。
●10代のたまった鬱憤を吐き出すのも、パンクの表現の1つですからね。何も「破壊せよ!」とか歌うだけがパンクじゃないというか。
写楽:歌詞が攻撃的すぎるという部分で、自分はあんまりパンクにハマれなかったというのはあって。16歳の頃は「学校をぶち壊せ!」みたいな歌詞を書きながら、「どうなんだろうな…?」と自分で思っていました(笑)。
●M-4「まだ何者でもない」は10代に限らず、現代を生きている人たちの多くが持っている葛藤を歌っている感じがします。
写楽:そうですね。社会人の人たちが聴いて、鬱々としてくれたらいいなと思います。
●こういうリアルな感覚がサウンドや歌声にも生々しさとして出ている気がしました。
写楽:今回は意識的にオートチューンやヴォコーダーを減らしたんですよ。シンセに関しても、実際に手弾きできる範囲のものを入れていて。
●それも作り始める段階で意識していた?
写楽:そうですね。今回はわりとコンセプトアルバム的というか、この次に出す作品からのシングルカットみたいな感じでサウンド的にも統一性を意識したんです。
●シングルカットと言えば、M-2「煌々と浪々と」、「まだ何者でもない」、M-6「煉獄ロック」の3曲は会場限定デモCD-Rで先に発表されていたんですよね。
写楽:そのデモCD-R用の曲出しの時には、M-3「現実狂躁曲」もあって。この4曲がまずあって、他の曲はその後に作りましたね。「現実狂躁曲」だけは、アルバムの方向性を話し合う前にできていたんですよ。自分の中でドタバタミュージカルみたいなものをバンドとして曲にしたいという思いが常々あって、それを形にした曲です。でもちょっとストレートさに欠けるなと思ったので、他の曲はできるだけストレートにしようと意識して作りました。そういう意味で、今作の中では一番ややこしい感じの曲ですね。
●「煉獄ロック」は新太郎さんの作曲なんですよね。
新太郎:この曲では、今までやってこなかったロックンロールをやってみようかなと。作った当時はルースターズやサイコビリーをよく聴いている時期だったので、そのへんをイメージした部分もありますね。自分が一番ノレるテンポとフレーズを考えて作りました。
●今までにない音楽要素を取り入れたんですね。以前の作品では、ボサノバを取り入れた“ボサコア”という独自のサウンドも追求されていましたが…。
写楽:ボサコアは常に心の根底にあります。「煌々と浪々と」は、サビのコード進行がそういう感じなんですよ。
●この曲はボサコアだったんですね(笑)。YouTube上のCMでも使われていましたが、この曲が今回のリード曲ということ?
ゴキミ。:最初に写楽さんが何曲かデモを持ってきた中で一番わかりやすくて、写楽さんっぽいメロディだったので「これでCM動画を作りましょう」ということになりました。作品が完成してみると、M-5「廻れ楽天家」のほうがリード曲っぽい感じになりましたけどね。
●「廻れ楽天家」は、『Soy sauce impulse』に収録されていた「踊れ厭世家」とつながっている?
写楽:そこからの続きものみたいなイメージですね。どっちも「まあ、いいじゃん」みたいなことを歌っていて。この曲が今作で一番最後にできたんですよ。最初は本当にスカパンクみたいな感じだったんですけど、そのままだと過去の作品にカブる曲があったのでちょっと違う方向にしてみようと思って。あえてシンセっぽいシンセを入れてみたら、すごくポップになりましたね。
●この曲も含めて、今回は作品全体としてサウンド的に突き抜けた感じがします。
ゴキミ。:そういう感覚はありますね。ある意味、今まで出してきた作品の中で一番手が込んでいないというか。それによって、“スコーン!”と突き抜けた爽快なものができた感覚があります。
新太郎:今までの制作作業では、与えられた曲に対して上手く叩こうとしていたんです。そこから少しずつ変わってきて、今回でやっと見えた感じがあって。自分が一番得意なノリをやらないとダメなんだなと、改めて気付いたというか。そこで振りきれた感じが、自分の中ではありましたね。
●単に手が込んでいたり、上手く演奏しているものが良い作品というわけではないですからね。
新太郎:単に上手くこなしているだけだと出ないノリがあって。自分が一番やりやすいようにやることが、バンドのノリにもつながるんだと気付きました。
ゴキミ。:俺は音の作り方にしても、余計なことはあんまりしたくないというか。エフェクターをかけすぎず、なるべくストレートに鳴らしたいんです。そこにアンプがあってジャックに挿せば音が出るわけで、それだけでいいかなという思いはずっとあって。そういうものを今回は一番出せた感があります。
●自分たちでも満足いく作品になった?
写楽:今回は最初から今までよりもバンドっぽいものを作ろうと意識していて、結果的に思ったとおりのアルバムになりましたね。ミュージシャンがインタビューで「今回が最高傑作です」と毎回言っている、その気持ちが何となくわかった気がします。今回はGalapagosSとして、一番良い感じの音になったんじゃないかな。
●その気持ちがタイトルの『Run Like Fury』(すごい勢いで走る)にも表れている?
ゴキミ。:前作が『Slowly But Surely』で「ちょっとずつだけど進んでいるよ」という意味だったところから、今回のタイトルでは「どんどん加速していっているよ」みたいな感じがよく出ていると思うんです。「次のアルバムではどうなっちゃうんだろう?」って思いますね(笑)。
新太郎:自分の中で、ライブ感が今までで一番出ているなという感覚があって。今作の曲をツアーでやってみて色々と思うところもあるだろうし、次につながる作品になったかなと思います。
●今回のツアーでもまた各地をまわりますし、ライブへの欲求も高まっているのでは?
ゴキミ。:そうですね。ライブをしていないと、生きている気がしないっていうか…。俺、すげぇカッコ良いこと言っちゃったよ(笑)。
写楽:すっかりそういう感じになりましたね。今回のツアーでは、今までライブを観たことがある人でもビックリするくらいに“バンド”になっていると思うんです。「打ち込みが入っているバンドはあんまり好きじゃない」っていう人もそんなに違和感なく聴けると思うので、今まで観たことがない人にもぜひ観てほしいです。
ゴキミ。:今までのツアーよりも激しいロックなステージになると思うので、よろしくお願いします! …あと、隙あらばスナックにも行きたいですね(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
Interview:IMAI