急性すい炎で倒れた桑原が今年1月に見事な復活を果たし、7thアルバム『日常アナキズム』をリリースして全国で暴れまくった我らがガガガSP。そんな彼らが、前作リリースから1年を待たずして最新アルバム『くだまき男の飽き足らん生活』を完成させた。前作同様、コザック前田、山本、桑原の3人が持ち寄った楽曲は、バンドの核と本質がいろんな角度から表現されたキラーチューン揃い。様々な苦難をしらっと乗り越え、バンドとしての深度と強度を更に増したガガガSP。今作も最高です。
●去年旦那(桑原)がマジな域でぶっ倒れて、今年の年明けに大復活をされましたが、旦那が復活してのワンマンや“日常アナキズムツアー2013〜執念から正念場へ〜”はどうでしたか?
コザック:自分が理由で半年止まったことがあったり、やまもっちゃん(山本)が骨折して活動が止まったこともあったんですよね。今回は、その間に自分は弾き語りのゲリラライブをしたり、「旦那への応援メッセージを書いてくれ!」ってことで鹿児島や福岡をまわったり、弾き語りの営業とかをしながらやっていたんですけど、そうなるとやっぱりバンドがしたくなるんです。
●おお、なるほど。
コザック:“バンドがやりたいな”って気持ちになってきたのもあり、やっぱり刷り込みのように十数年間ライブをやってきているので、爆発したツアーになったような気がしますね。
山本:復活一発目のライブが思った以上に良くて。“このぐらいイケるんや!”って自分でもびっくりしたくらい。
●山本さんは前のインタビューで「しばらくライブやってなかったから、なるようにしかならへん」と言ってましたもんね。張本人の旦那はどんな感じだったんですか?
コザック:なんかぐうたらしてましたね。へーこらへーこらベースだけ弾いていました。
●ハハハ(笑)。
コザック:ただ、夜に飲んでいた酒が紅茶とキットカットに変わったんです。
●甘いものを摂るようになったと。
コザック:お酒が飲まれへんから。
山本:「お酒辞めたら、甘いもんがほしくなる」って言って。
コザック:金のないアルコール依存症の典型的なやつです。
山本:かわいそうに。
●今回アルバム『くだまき男の飽き足らん生活』がリリースとなるわけですが、前作はみんなが曲を持ち寄って作品としてのコンセプトを決めずに作ったので、結果的に思ったことをそのまま書いたようなストレートで生々しい作品になって。対して、今作も旦那と山本さんと前田さん3人の曲が収録されていますが…。
コザック:僕は2曲しか書いていないです。やまもっちゃん(山本)がいろいろ書き手としての成長が本当に著しくてですね。最近はドラマチックアラスカのプロデュースとかもやっているんですけど、パソコンを使っていろんなことをしていて。旦那もやまもっちゃんも、ガガガSPで僕が歌うっていうことを考えながら書いてくる曲はすごく良い曲。曲にどんどん色が付いてきたというんですかね。そういうのがあって、その合間に僕が2曲作らせていただいたんです。
●今回も作品としてのコンセプトを決めずに?
コザック:でも、やまもっちゃんがM-4「書き込み男と自画撮り女」とM-8「どんでん返し」を書いてきたとき…「どんでん返し」の歌詞は僕が書いたんですけど…その前に「書き込み男と自画撮り女」、M-5「はきだめぶぎ」っていうものがあって、そのときにできていた曲たちを見て、“これはかなりのくだをまいとるな”と。
●確かに「書き込み男と自画撮り女」と「はきだめぶぎ」はくだをまきまくってますね。
コザック:本当に西村賢太の小説みたいになってきてて。だから「『くだまき男の飽き足らん生活』っていうのはどうだ」っていう風にパッと出たタイトルなんです。歌詞の流れ的にそういうのが多いというか。“久々にガガガSPがまたひねくれたな”という感じじゃないかなと思うんです。
●みなさんの私生活を知らないので実際のところはわからないですけど、すごく等身大の世界観が出ている気がして。ガガガSPのイメージに対しての、等身大な曲が多いですよね。
コザック:ライブでもよく思うんですけど、気をつけたいなと思っていることがあって。ライブでメッセージを発するということは、ロックバンドなら誰しもがあることやと思うんですね。ただそのメッセージが行き過ぎると、宗教っぽくなりますよね。ロックと宗教の差って難しいと思うんです。本人はそのつもりじゃなくても。それをどう緩和していくかっていうところなんですよね。だからあまり宗教臭くなるのも嫌だなと。ほんならどうすればいいのかというと、カリスマにならないっていうことなんですよね。等身大っていうのは、“こいつの気持ちようわかるわ”っていう部分でお客さんに興奮してもらえるのがいちばんいいなと思っていて。“かっこいいな、こいつについていこう”ではあんまおもしろくないなと。
●代弁してくれている、みたいな。
コザック:そうそう。だから、等身大っていうところはすごく大事なんじゃないかなって。かっこいいものを見せてかっこいいと思ってもらうのは、ロックバンドの在り方として真っ当やと思うんですよ。でもそれが行き過ぎると、やっぱり神のように扱われてしまう場合が多いんです。“その辺のおっさんがちょっとええこと言っとる”くらいがいちばんいいと思うんですよね。結局ロックには宗教と哲学っていうのがどうしてもつきまとう中で、いちばんいいやり方をやっているのがセックスマシーンだと思うんですよ。言いたいことはいろいろあるけど、結局は“wow”にするだけとか。すごく正統的なやり方だと思うんです。
●うんうん。
コザック:でも僕はモーリー(セックスマシーン・森田)よりもメッセージのあることをおもっくそ言うというステージングなので、等身大。やっぱり自虐とかが要るんじゃないかなと思うんですけどね。
●だから毒だけじゃなくて、自虐も必ず入っているのか。
コザック:いち人間として見てもらえるのがええかなと思って。ほなどうするかって言ったら、恥も見聞もないようなことを歌った方がいいということです。
●なるほど。今作は前田さんはもちろん、山本さんは山本さんで多才さが出たというか。前からですけど、山本さんは超ロマンチックなところもあれば、超鬼みたいなところもあるんですよね。
コザック:どっちか極端なんですよ。キザか、立て板に水かです。人格が破綻しています。
●旦那は旦那で相変わらず10代のような…。
コザック:ピーターパン症候群です。
●ハハハ(笑)。そんな傾向が目に見えて曲に出ていますけど、3人の書き手の個性がバランスよくパッケージングされている作品だなと。
コザック:バンドですからね。僕が全曲作ったアルバムもこれまであったんですけど、それまでは当たり前やったんですよね。やまもっちゃんはこのバンドに入る前までは曲を作ったことがなかったもんね?
山本:はい。
コザック:初めて作ったのが「旅」っていう曲で、シングル『忘れられない日々』のカップリングだったんです。そういう人が曲を作るようになって、こういう風にメンバーがいろいろな楽曲を作るようになってっていうのは、4人でやっていく中で自然な形になったわけです。僕は枯れたとかいう以前に、バンドって4人やから誰が曲を作ってきてもコンセプトとか意味合いが合えばそれでいいんですよ。それが4人でやっている意味やと思う。
●表現という部分でもバンドがバンドになったというか、4人が全員ガガガSPになったというか。誰が作ってもガガガSPになるということなんでしょうね。
コザック:そうですね。僕はその気配を前作から感じてて、今作をやってそういう風になったという満足感もあります。
●前作はたまたまみんなが持ち寄った曲が形になったけど…。
コザック:でも今作に至っては、コンセプトの方でもちゃんとやまもっちゃんが考えてきてくれたようなところもありますし。最終的にまとめてタイトルを付けたり曲順を考えたりとかは僕ですけど、バンドとしてちゃんと動けているなというのは感じました。
●すごくいいことですね。サウンド面での注目点はM-9「本当のトコロ」だと思ったんです。レゲエというか、表現力が必要なアレンジもなんなくこなしているという。
コザック:「レゲエの曲を1曲作りたい」って前から言っていたんですよ。旦那とかも言っていて。レゲエのメロディがフォークのメロディに近いんで、「作るんやったら前田さん作ってきてください」みたいな話になったんです。でもレゲエのままで全部終わらせてしまっても、ガガガSPを期待している人にとってはタルい曲になるだけじゃないですか。だから途中から早くなるということを想定して、歌詞も1番と2番で逆説にして。
●この曲いいですね。本当に曝け出しているし。
コザック:歌っていることは矛盾かもしれないけど、日によってそういう風に“ダメなんじゃないか”とか“イケるんじゃないか”って思いながら生きているもんじゃないかなっていうことなんですよ、結局は。
●それが人生っぽいし、リアルだと思う。
コザック:筋を通して生きるっていうことは、矛盾することやと思うんですよね。いろんなことを話せば話すほど、物事って矛盾するじゃないですか。“さっき言っていたこととこれを比べたら、どうやねん?”ってなってくるじゃないですか。そこであら探しをしても仕方がないっていうことですよね。人間はその日の体調やテンションによって、言いたいことも変わってくると。だから矛盾っていうのは、人間なら最低限持っているんですよね。“口ではこう言っているけども、本当のところはこうじゃない?”って、人間だったら誰でもあるじゃないですか。それは嘘じゃなくて、相手に対する気遣いだったりする場合もありますし。やっぱりそこは矛盾とか本当のことだけを言うとかっていうことじゃなくて、矛盾もひっくるめて本当のことですよね。
●そういう視点が、ガガガSPの音楽に深みや味を加えていて。
コザック:昔「弱男」っていう曲で“中途半端なまま突き進め”って歌詞を作ったことがあったんですけど、そういう風に考えると本当に中途半端なまま突き進んでここまで来ているなと。あれは人に対して言っていることなんですけど、人に対して言っているということは自分に対して言っているところもあるんです。そういうことかなと思って生きているんです。
●中途半端なままでええやないか、と。
コザック:なんでも完璧を求めるとね、僕みたいに神経をやられる人もいますし。その完璧が、人にとっては完璧じゃないかもしれませんし。ただ自堕落にやり過ぎても“もうちょっとちゃんとやろう”って気が人間は自然に出てくると思うんです。“自分はなにをやっているんだろうか?”って思うじゃないですか。その両方の人…自堕落な人に対しては起爆剤になればいいと思いますし、完璧主義者の人に対しては“こんなにユルくてもいいんだ”って思えるようなものにしたいなと。どっちもあると思うんですよね。人間って多少のこだわりは持って生きているわけやから。
●作品を重ねるごとに、そういう味がすごく出てきましたね。
コザック:自分の歌っていることの共通点を見つけることができてきた感じがします。「17年も経ってなにを言ってんねん!」って感じなんですけど、17年やったからこそわかったことっていうか。スタイルがそんなに変わった17年じゃないので、余計に“自分がほんまに言いたいことっていうのはそういうことなんだな”っていう。
●最近見えてきた?
コザック:そうですね。これが見えてきたんで、また曲作りにも根が生えてくると思います。自分の中に水が入った感じがします。ちょっと自分の音楽に飽きるっていうんですかね。曲は作ろうと思えばできるんですけど、自分がその曲に飽きているんです。自分が飽きているもんを出したくないんですよね。ただ、ここで自分のやりたいことの結論が出たときに、“あ、これでいいんだ!”ということで、納得して自分のメロディをすっと差し出せるようになったんです。助けてくれるものは、自分の考えやったり人の助言やったりとか自分の持っている知識であったり。で、そういう結論に至ったわけです。
●17年続けていても色んな発見や前進があるんですね。ところで「はきだめぶぎ」は山本さんのダークサイドが色濃く出ていて。ダークサイドというかガガガSPっぽいというか。
山本:普段から思っていることです。
●やっぱり普段からこんなこと思っているのか(笑)。
山本:こういうこと、常に考えません?
コザック:僕はあんまり思わへん。“やまもっちゃんはこんなこと考えて生きとったんか!”ってびっくりしたもん。でも結局歌うのは僕ですからね。世の中の人には僕が考えていると思われるんですよ。
●作詞のクレジットを見なかったらわかりませんもんね(笑)。
山本:でも前田さんのパブリックイメージはこんな感じですよ?
コザック:うん、自分でもそうやと思うねん。
●というか、前田さんだけじゃなくて、ガガガSP全員がこういうパブリックイメージですよ。
前田&山本:アハハハハハハ(笑)。
●MUSIC VIDEOになっている「時代はまわる」は前田さんの曲ですけど、まさにライブで映える曲ですよね。ライブで前田さんは、次に歌う曲にちなんだ即興の語りを入れますけど、この曲にはそういう語りもありつつ。
コザック:これまでの僕が作ってきた王道メロディっていうのと、今を取り巻く状況…例えば電車に乗ったら、みんながスマートフォンを持ってこうやっている時代じゃないですか。僕らも17年やってたけど“バンドマンって昔はそうじゃなかったな”と思って。ライブハウスでアンケートを取って、そこの家にハガキを送ったりとか、その場以外はなかなか連絡が取れないっていう時代からバンドをやってて。でも今はネットひとつでバンドの宣伝をするようになってきて。時代が変わっても、そういうところで置き去りにされたような、ひとりぼっちになったような気分になったりするんですよね。でも根本のところは変わらない。自分らしいものを作っていけば、それが時代の性分と合っていようがなかろうが、すばらしいものだと自分で思えるなという風なテーマの曲なんです。
●この曲の“僕があなたのことを好きだったという事実は変わらない”という歌詞、すごく納得したというか、共感したんです。年を取るとたくさんの出会いや別れを経験するし、どんどん気持ちは変わっていくけど、事実はいつまで経っても変わらないというのは、ひとつの真理のような気がする。そう思って生きていたい。
コザック:だからいろんなシフトチェンジというか、バンドさんで言えばすごく音楽性が変わったりしているバンドさんもいらっしゃいますけど、その過去は消せないんですよね。シフトチェンジするのは全然構わないし、そのバンドさんの意向やと思うんですけど、それもちゃんと大事に持っておいてほしいなと思うんです。新しいバンドを始めて「前のバンドのことは言わんとってくれや」みたいなことがあるんですよ。嫌なことがあって解散したバンドとかもあるから。でも自分のしてきたことじゃないですか。それで絶対に楽しかった時期もあるんですよね。だから“そこを否定してしまったら、今の自分たちはないよ”っていう風に思ったんですよね。うちはあんまりスタイルも変わらずやっているからそういうことでもないんでしょうけど、でもやっぱり事実は変えられないですから。おもろかったこともしんどかったことも、大事に置いておきたいなと思ったんです。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子