川底の石が年月をかけて徐々に丸くなっていくように、その時々を全力で生きながら、様々な出来事に真正面からぶつかりながら、誰にも真似のできない音を鳴らしてきたFUNKIST。前アルバム『7』リリース後、メンバーの脱退を経て、バンド崩壊の危機を乗り越え、東北や南アフリカに笑顔を届け、更に強く優しくなった彼らが待望のアルバム『Gypsy』を完成させた。彼らの葛藤や苦悩や迷いや笑顔や涙が全部詰まった生命力に溢れる今作は、進むことをやめなかった彼らの祈り。この2年間と今作にかける想いを染谷とヨシロウの2人に訊いた。
●アルバムとしては約2年ぶりのリリースとなりますが、前作以降のトピックスでいうと、2013年1月のDr.住職の脱退が大きかったと想像するんです。2011年10月にFlute.春日井陽子さんが亡くなったとき、“この7人でFUNKISTだ”という想いで作ったのが2012年4月に出した前アルバム『7』で。そもそもFUNKISTは“このメンバーだからこそ”という想いがめちゃくちゃ強い人間味溢れるバンドだし。
染谷:そうですね。住職の脱退は大きかったです。『7』を出すときに陽子ちゃんのことがあって、“陽子ちゃんの想いも持ってこの7人で”ということを心から思っていたし。そんな中で、去年の1月に住職が音楽以外の道を歩くことを決断して。陽子ちゃんが居なくなって、みんな必死だったと思うんです。補えないものを補おうとして。必死で補って7人であろうとしていたから、無理をしないとFUNKISTで居れない状態でもあったんですね。住職が辞めることを決断して話を聞いたとき、今まででいちばん“あ、FUNKIST終わるんだな”って思ったんです。今までもいろんなことがありましたけど、いつも“どうやったら続けることができるのか”ということを考えていて。
●はい。
染谷:さっき言われたように“この7人でFUNKISTだ”と強く想っていたところで脱退となって。こうなると、別に住職の想いを持ってバンドを続けるわけにはいかないし、彼の想いがあって出て行くわけだから。そうすると、“あれ? このままFUNKIST続けていいのか?”みたいな。“もう無理なんじゃないか”と。
●『7』までのFUNKISTは、7人であることがバンドのモチベーションでもあったじゃないですか。それが欠けてしまう。
染谷:そこですごく悩んでしまって。そのときに事務所から「どうするか、お前ら1人1人で決めろ」って言われて。話し合って決めるとかじゃなくて、自分がどうするかを1人1人が考えたんです。
ヨシロウ:住職に関してはもう説得するとかの話ではなくて。寡黙な男がいろいろ考えて出した結論だったので(笑)。
染谷:住職も全員の気持ちがわかっていた上での決断だったから。で、1人1人で考えたんですけど、宮田はすぐに「FUNKISTやっているときが陽子の音楽に触れられるときだから俺は続ける」という結論を出して。即決だったんです。でも俺やヨシロウは最後まで悩んで結論をなかなか出せなかったんです。
●え? 今日の2人が?
染谷:そうです(笑)。子供っぽい言い方だけど、続けられないことにすごくダメージを受けていたというか。
●この2人はちょっと感情の湿度が高いですからね(笑)。
染谷:そうなんです(笑)。
ヨシロウ:僕たちピュアなんです(笑)。
染谷:俺はそこですごく悩んで、1人で音楽をやっていくんだなって思ったんです。FUNKISTはここで終わって、1人で歌っていく。だから1人でやっていく方法とかまでを考えていたんですけど、それを突き詰めていくと、“でもギターで宮田にサポートしてもらったらおもしろいな”とか“ヨシロウにも来てもらったらいいな”とか。“だったらパーカッション入れて、ベースも入れて…”って考えたら、俺はこいつらと一緒に音楽をやった方が楽しいんだっていうことに気づいたんです。
●なるほど。
染谷:自分でも気づいていなかったんですけど、今まで“陽子ちゃんの想いを持って”とか“FUNKISTの歩みを止めないように”とか、責任感みたいなものが大きくなっていたんですね。でもそういうものを全部取っ払ったとき、“こいつらとやりたい”っていうのがFUNKISTの原点だったということに気づいたんです。
●ヨシロウくんは?
ヨシロウ:僕はいちばん時間がかかりました。最後まで“辞めた方がいい”と思っていて。続けると、今までのことが全部嘘になるんじゃないかなって。でも、染谷くんが言っていたように、責任感というかこだわりみたいなものが強すぎていた感じが僕にもあって。それを全部取っ払ったときに何ができるのかな? と考えて“新しいバンドをやる”くらいのつもりで続けようと思ったんです。
染谷:だから去年1年は“REBORN”というテーマで活動をして。今まで続けてきたものが1回ガーンと崩れたからこそ、もう1度最初からやろうって。再生しようって。
●FUNKISTって、いつも全力で考えてるし、いつも全力で走っていますね。
染谷:不器用ですから(笑)。でもそこからの半年くらいは本当にキツかったんです。みんなでやるっていうことは決めて、サポートドラムが入って新体制で始まったけど、何に向かっていくのかとか自分たちが何を生み出していくのか、悩みながら手探りでやっていた半年だったんです。
●ああ〜。
染谷:いろいろと考えて、でも結局は俺らがバンドをやる目的って、大袈裟だけど“俺らが音楽をやることで誰かが笑って欲しい”ということだったということに気づいたんです。で、東北と南アフリカに収益を届けるという目的で“Japarican Gypsy”ツアーをやったんです。そこでやっと見えた。
ヨシロウ:FUNKISTの音楽は祈りなんじゃないかなって。それで2013年6月にシングルで出したM-8「ORACIÓN」(※スペイン語で“祈り”という意味)という曲ができたんです。
染谷:“祈り”といっても宗教的なことではなくて、例えば“俺みたいなマイノリティなやつがライブで笑って帰ってほしいな”とか、“南アフリカで出会った子どもたちが今日は飯を食えてたらいいな”とか。そういうことをいつも思いながら俺らはライブをしていて、それをヨシロウが「これって“祈り”ってことなのかな?」と言ってきて、俺はすごくしっくりきたんです。「それだ!」って。去年半年間くらい悩んで足掻いて苦しんで、やっと新生FUNKISTの目指すものが見つかったというか、気づいたという感じですね。
ヨシロウ:その核さえあればもう迷わないだろうなって。迷っても気づけるだろうなって。
●祈りって、そもそも音楽の根源的な要素ですもんね。
染谷:それに、そもそも“FUNKISTらしさ”って、全員が好きなことやって“かっこいい”と思えるものを作って、それを外から見た人が言っただけのことで。俺らがそれを守るとか、どうこう考えるものじゃなかったんだなって。陽子ちゃんのことは絶対に消えないっていうかいつも居るし、住職とやってきた日々だってあるけど、“FUNKISTらしさ”って変わっていいんですよね。俺らが“かっこいい”と思うものを真剣に作る。それを外から見た人がどう思うのかはわかんないけど、少なくとも俺らが“かっこいい”とか“届けたい”というものが変わらなければいいっていうか。実はずっとそうやってきたんですけどね。
●今まで無我夢中で走ってきたからこそ、楽に考えられなかったんでしょうね。
染谷:だから今回のアルバムも、それぞれ1人1人の主張がすごく強くなっているんです。今までの“FUNKISTらしさ”の中に収めようと思っていたものが取っ払われているというか。「俺はこうだ」みたいな主張がそれぞれぶつかっていて、でもできあがったものが“かっこいい”と思えないとバンドの曲にはしない。そういう意味で、エネルギッシュな作品になったと思います。
●確かに。前から感じていたことですけど、今作はジャンルレス感が半端ない。すごく幅も拡がっていて。
染谷:曲を作ってくる俺からしたらすごく面倒臭かったです(笑)。みんなの主張がすごいから。それに自分の我を通す分、今まで以上にみんなが歌詞を読むようになったし。
ヨシロウ:ドラムがサポートになったので、みんなで一緒にスタジオに入ることが以前よりも少なくて済むようになったんです。その分、いろんなアイディアを考える時間もあったし、歌詞も今まで以上に解釈できたし。
●ドラムが抜けたというのはある意味ピンチですけど、それを逆手に取ってリズムの幅も拡げているというか。
染谷:そこは本当の意味での“成長”とか“進化”しかないなと。その危機感は、演奏面でいうとJOTAROがいちばん強かったと思うんです。オガチはパーカッションですけどある意味上モノなので、FUNKISTのリズムを担うのはJOTAROになるんですよね。だからあいつはこの1年すごく成長したと感じます。それによって、今までできなかったことが今回いろいろとできたんですよね。例えばM-1「54 bombs」のサビのアプローチは、歌も楽器も全部ガン決めで作ったんです。今までだったらフィーリングで作っていたものをもっと綿密に組み上げて。
ヨシロウ:更に、今回は削ることも多くて。陽子ちゃんが居た頃とかは結構いろんなことを詰め込みたかったんですけど、今回は無駄なところを削って削って。そこで残ったものがいいかどうかを判断するっていう。
染谷:だからアンサンブルが綿密な分、ライブでは絶対に外せないという。
●そういうニュアンスは歌からも感じるんですよね。熱いメッセージももちろんあるけど、歌も楽器みたいに鳴っている。サウンドも、メッセージを帯びて伝わってくるようなエネルギーがある。メロディが立っているというより、音が全部一体となって飛び込んでくる印象があって。
染谷:去年の前半にすごく足掻いた時期とか、わざとライブでMCなくしたんですよ。
●え? あんなにしゃべるFUNKISTが?
染谷:はい(笑)。やっぱり言葉で想いを伝えていたし、ライブに来てくれる人たちはMCも聞きに来てくれていたと思うんです。でも俺らが本当に乗り越えるんだったら、音だけで届けられるところにいきたいと。俺自身も、今まで言葉で伝えていた部分も歌で伝えられるようになりたいと思って。課したものはデカかったですけど、そこを磨こうと思ってきたんです。それがあった上でMCをすればいいと。
●より直感的になったというか。
染谷:そうですね。本当に進化しないと意味ないと思っていたけど、でもこのメンバーなら絶対にできると信じてやってきたんです。それに、今までいろんなことがあって、今の俺らだったら細かいことを言わなくても聴いてくれてる人になにか伝わるだろうなって。だから言葉を削ぎ落とした部分もすごくありました。
●今日の話は“Gypsy”というタイトルにも通じるイメージがあって。“Gypsy”はヨーロッパの移動型民族を指した言葉ですけど、タフさがないとそういう生き方はできないですよね。それが今のFUNKISTの印象や、今作に溢れている生命力にも通じるというか。
染谷:アルバムタイトルは去年やったツアーの“Japarican Gypsy”から繋がっているんです。“Gypsy”は差別的な使われ方をすることもある言葉らしいんですけど、でも実際に俺の親も宮田の親もフラメンコをやっていて、俺の親とかは20代のときにスペインでジプシーの人たちと生活して、すごくお世話になったんです。だからリスペクトを込めて、おこがましいけど俺たちも同じ想いで音楽をやっているという意味でこのタイトルにしたんです。
●色んな想いが詰まっているし、“Japarican Gypsy”の収益を南アフリカへ届けに行ったときに子供たちと一緒に作った曲も入っているし(M-4「Where the sun can shine」)、生まれ変わったFUNKISTが全部詰まっているんですね。
染谷:そうですね。
ヨシロウ:俺がリアル・ジプシーだった話はここでしなくていい?
染谷:ホームレスだった話でしょ(笑)。それはいいよ(笑)。
●ハハハ(笑)。
Interview:Takeshi.Yamanaka