昨年5月にリリースしたアルバム『XX emotion』は、和の匂いを帯びた言葉と歌、USロックを源流としたサウンド、随所に光る独特なアレンジ、抜群のメロディセンスなど、それまで4人が培ってきたものを詰め込み、誰もが作り得ないFLiPのロックを完成させた作品だった。あれから1年、4人は自らを見つめなおし、感情の起伏を激しくしつつ、“自分の本質”をさらけ出してネクストステージへと歩を進める。『LOVE TOXiCiTY』はそんなFLiPによる最高傑作。歪だからこそ美しい輝きを放つ歌と音、内包する爆発的な衝動は、聴く者の心を捉えて離さない。
●前アルバム『XX emotion』(2013年5月)リリース以降はツアーにライブに忙しかったようですね。
Sachiko:忙しかったですね。感情の起伏も激しかったし。
●それは今作『LOVE TOXiCiTY』を聴けばわかりましたけどね(笑)。
Sachiko:フフフ(笑)。その起伏の辿り着いた先がこのアルバムなので。
●ダイレクトに直結していると。
Sachiko:バンドとしてはとても充実した1年で、『XX emotion』をリリースして以降、夏フェスにもたくさん出させていただいたりとか、目からも耳からも受ける刺激がすごく多かったんです。そういう刺激があったお陰で“自分たちの意識はまだまだ足りないな”と痛感したこともあったし。
●勉強になったことがたくさんあったんですね。
Sachiko:私たちは全然足りないなと。その“私たちに足りないところって何なんだろう?”ということにすごく向き合った1年だったんですよ。で、その“足りないところ”って、もしかしたら出し切れてないところなんじゃないかなと。
●出し切れていないところ?
Sachiko:“足りない”とか“欠けている”というよりも、自分たちで制御してセーブしている部分があるんじゃないかなって。
●それはメンバーと話し合ってそういう結論になったんですか? それともSachikoさんの1人の作業として?
Sachiko:始まりは1人の中の自問ですね。今回の作品を作るにあたって考え始めたのは『XX emotion』をリリースした頃だったんですけど、そこで“次どうしよう?”と考えて最初に1人で制作していたときに“自分は何をしたいんだろう?”とか“どういうことを歌いたいんだろう?”とか、“どういうことを伝えたいんだろう?”、“どういう感情で共鳴したいんだろう?”って色々と思いながら、夏フェスとかイベントとかで尊敬しているアーティストさんとか同世代のバンドとかを観ていて、人と比較するわけじゃないけど、FLiPというバンドの核となる部分をもっともっと開花させなければ闘っていけないんだなってすごく思ったんです。
●ああ〜、なるほど。
Sachiko:それをこの先もっと突き詰めていくべきだと思ったから、色々と思考が錯誤して。迷路にハマって出られなくなってしまったこともあったし、制作しながらライブしながら曲は出来るんですけど、ただ曲を作るだけでは意味がないなって。ただルーティーンで曲を作っていくという作業の無意味さみたいなものをすごく感じたりして。もっともっと目的を…それは例え精神論でもいいから…自分たちが“こうしたい”というものを持った上で曲を作っていくことに意味があるということを感じながら今作を制作していたんです。
●フェスやイベントはジャンルに関係なく個性の勝負というか。全員がアウェイの場所で、限られた時間の中での勝負ですからね。そういう場所でのライブをたくさん経験しているバンドは当然タフになるし、個性をより強く意識するようになると思うんです。そういう現場をたくさん経験して、より痛感したんでしょうね。
Sachiko:そうですね。それに今のこのモチベーションだからそう思えることができたと思うんです。2年前に同じ状況になったとしても今回のアルバムは作ることができなかった。いい意味でのフラストレーションがすごく溜まっていたというか。
●ステージでツバをはくとか?
Sachiko:違います(笑)。そういうあからさまなフラストレーションではなくて、そもそも私が音楽と向き合うときに使うパワーって、結構ネガティブな要素だから。情けなくなる瞬間からポジティブに向かっていく道程が始まる、みたいな。
●なるほど。
Sachiko:“もっともっとさらけ出したい”とか“もっともっとぶっ壊したい”という、いい意味でのフラストレーション。人が聴いたときに「いいな」じゃなくて「うおっ!」という衝撃を与えられるものを作るには、自分自身がそうならなきゃいけない。気持ちをより爆発させるためにまず自分を貶す…そういう部分から制作に入っていったんです。
●自分を貶すところから始まったアルバム。いいですね(笑)。
Sachiko:自分に満足してしまったら歌を歌うパワーが足りないというか、満足してしまって歌いたくないっていうか。もちろん歌うことは幸せなことだし、すごく楽しい瞬間ではあるんだけど、自分自身とかバンドに対して「もっともっとやれるでしょ!」って、自分たちが自分たちを叱咤激励できる状況を作ってあげることが、自分たち自身が伸びることに繋がるんじゃないかなって思うんです。だから“現状維持とかいちんばんダメでしょ”みたいな気持ちは、制作の最初の時期にすごくあったんです。去年の夏から今年に入って2〜3ヶ月くらいはそんな感じでした。
●結構長いな。それで感情の起伏が激しかったのか。
Sachiko:そういうことです(笑)。
●今作『LOVE TOXiCiTY』はどの曲も満足していないというか、何かを渇望しているようなベクトルが強いんですよね。何かを欲している。その欲しているものは、歌詞に於いては恋愛的なところにフォーカスを当てていますけど、実はもっと根源的なものに手を伸ばそうとしている。
Sachiko:うんうん。
●ライブとかを観て「うわっ!」と感じるものって、技術や楽曲の良さだけじゃないと思うんです。何か衝撃的なものだったり、気持ちや気迫が伝わってくるもので、ロックはそういうものがいちばん胸を打ったりする。そういう衝動的で根源的で本能的なものを求めているベクトルがどの曲にも入っているアルバムですよね。
Sachiko:嬉しいな。
●だから今作『LOVE TOXiCiTY』を聴いていちばん最初に思ったことは、この1年間FLiPの4人はすごく健全に…たくさん笑ったりすごく怒ったり、ときにはめちゃくちゃ落ち込んだりしながら…喜怒哀楽を激しく出しながら毎日を一生懸命過ごしてきたんだろうなということで。
Sachiko:そういうことだと思います(笑)。個人としてもそうだし、バンドとしてもすごく向き合った1年だったんです。原点回帰もすごくしたかったことなんですよ。今回はセルフプロデュースで作るということで、その意味もすごくあると思っていて。
●セルフプロデュースは自然な流れで?
Sachiko:そうですね。本当に自然な感じで。前作まではいしわたり淳治さんにプロデュースをしていただいていましたけど、今回はプロデューサーさんとやるのは二の次というか、まず自分たちとどうFLiPの音と向き合うのか、どう考えて自分たちのこれから先の道を作っていくのかが重要だと。そう考えたとき、原点回帰したいと思ったんです。自分たちがバンドを始めたときの自由さというか、ルールや音楽のセオリーなんて考えてなかった頃の気持ちとか。そういう型にはまらない感じで作りたいなと。
●なるほど。
Sachiko:特にあの頃の歌詞なんて殴り書きしていたような感じだったんです。感情をぶちまけていたような歌詞しか歌っていなかったので、私はそういう気持ちを今のFLiPでやりたいと思ったんです。だからこそ今までなかなか使ってこなかったような、歌詞に入れたらちょっと刺激が強くなる言葉とか、ちょっと汚い表現だったとしても、それは私がもともと持っていた歌詞を作る世界観だし、FLiPがもともと持っていた衝動的な部分でもあるし。そういうところを今のFLiPで昇華したかったんです。
●うんうん。
Sachiko:それがきっと、メジャーデビューしてから2枚目のアルバムまで、自分たちで少なからずセーブしていた部分だと思っていて。確かに色んな人に聴いて欲しいという気持ちはずっとあるけど、端から欲にまみれていたら「自分たちのオリジナリティって何なの?」という話になってしまう。
●そうですね。
Sachiko:もともとFLiPが持っていたそういう衝動的でネガティブなものをもっと研ぎ澄ませようよ、っていうのが今回のアルバムの大きなコンセプトなんです。サウンドどうこうじゃなくて、まずは精神論から入っていった。
●本性を出そうと。
Sachiko:フフフ(笑)。それを今このタイミングでやることに意味があるなって。
●メジャーデビュー以降、たくさんの人たちと関わりを持ち、色んな経験をして、もちろん失敗もたくさんあったと思いますけど、今の時点で自分たちが若い頃に持っていた衝動的なもの…それは無知なりの強さと言ってもいいと思うんですが…を出すことに抵抗はなかったんですか?
Sachiko:そのハードルを超えるのにいちばん苦労したのが作詞だったんです。
●ああ〜、作詞で。
Sachiko:作曲はやっぱりみなぎってくるんですよ。サウンドってすごく感覚的なものじゃないですか。性格とかじゃなくて身体から湧き出てくるものだし、メンバーもいるからディスカッションもできる。自分が思っている音とは違った角度からアプローチしてくれるからこそ、新しい展開が生まれたりもする。
●確かに。
Sachiko:だから作曲面に於いてはスランプ的なものはなかったんです。でも作詞が、いわゆるスランプでした。
●その作詞ですけど、デビューから前作『XX emotion』までの流れを振り返ってみると、もともとFLiPの歌詞は全部Sachikoさんが書いていたじゃないですか。でもいつも作詞に苦労していたこともあり、他のメンバーも作詞をするようになった。そこで例えばYukoさんやSayakaさんが書く歌詞の個性というものはそれまでのFLiPにはなかったものだったので、バンドに新たな表現が生まれ、Sachikoさんの「プレッシャーから開放された」という発言もあった。
Sachiko:ありました。
●『XX emotion』はそういう3者の歌詞が、バンドの持つキャラクターみたいなものになりつつある時期だったと思うんです。でも今作の歌詞はすべてSachikoさんですよね。それには意味があった?
Sachiko:意味がありました。インディーズの頃に戻ると作詞は全部私がやっていたんですけど、そういう意味では歌詞の世界観の軸が1つあった。だけど、メジャーデビューから前作までのFLiPは幅を求めていたんですよ。
●だから他のメンバーが歌詞を書くことが必要だったと。
Sachiko:そうそう。だけど今回求めていたのは幅ではなくて。ピンポイントで深い部分だったり、そういう軸が欲しいと思ったんです。楽曲は4人でワイワイ言いながら作るから幅はあると思うんですけど、歌詞に対する1本の軸を通したかったんですよね。となると、1人の人格が書くに越したことはないなと。最初に「今回は私が歌詞を全部書く」っていう話があったんですけど、ディレクターさんからは「だけど本当に歌詞に行き詰まったら他のメンバーに歌詞を頼んでもいいんだからね」と優しい言葉をかけられていたんです。でも「いや、もうちょっとやります」と粘って。そこで「この曲の歌詞お願いします」って他のメンバーに頼むのは、このアルバムがすごく軽くなってしまうような気がして。今作のコンセプト故に。だからもっともっと自分自身を追い詰めようと。
●なるほど。その結果、感情の起伏が激しくなったと。
Sachiko:そうですね(笑)。今作の中ではM-2「カミングアウト」がいちばん最初にできた歌詞なんです。楽曲は他にも色々とできていたんですけど、歌詞がいちばん最初にできて、いちばん最初に歌入れをしたんです。だからこの歌詞を書くのがすごく大変で。
●そうだったのか。
Sachiko:サウンド面を作っていたときからアルバムのリードになると思っていたんですよ。そう思っていたからこそ、楽曲に対する自分自身の理想もすごく高くて。“せっかくこんなにかっこいいサウンドができたのに、歌詞でボロクソにしたくない”という気持ちもあったし、“やわいことを歌いたくない”とも思ったし。
●はいはい。
Sachiko:これはパーソナルの部分をもっと出して、“自分自身はどういう表現者であるのか?”という点を掘り下げて、“FLiPの中のSachiko”というものを開花させる…それが最初はすごく怖かったです。
●「カミングアウト」の歌詞はぶっちゃけエグい表現もあって、綺麗か汚いかで言うと汚い部分が色濃くでているかもしれないけど、でもその感情がすごく刺さってくる。歪(いびつ)なんですけど、強さと弱さを同時に感じて、生々しい美しさがあって。M-1「Tarantula」もそういうことは感じたんですけど、今作を象徴している曲ですよね。というか、最初にめっちゃ高いハードルを超えたのか…(苦笑)。
Sachiko:そうなんですよ(笑)。最初に自分自身で高いハードルを作ったんですけど、でも書いてるときはすごく懐かしくて。
●懐かしかったんですか?
Sachiko:“ああ〜、こういう感じで歌詞を書いてる感覚めちゃくちゃ懐かしい!”と思って。
●へぇ〜。
Sachiko:バンドで初めて曲を作って1〜2曲目くらいのときの感覚っていうか。そこに戻れたことがすごく嬉しかったし、そういうことを書ける環境を作ってくれた周りの人に対してもすごく感謝したんです。みんなが「Sachikoの好きなようにやりなさい」ってメンバーもスタッフも言ってくれたんですよ。
●いい話だ。
Sachiko:向き合っている間はすごく落ちたり悩んだり葛藤もあったけど、書けたときは“このアルバムでやりたいことはこういうことだ”と思えたんです。このアルバムの軸ができました。
●「懐かしい感覚」というのは具体的に言うとどういうことですか? 自分の心と言葉の距離が近いということ?
Sachiko:自分の暗い部分に近いニュアンスっていうか、自分が持っている本質的な…少し痛い部分(笑)。
●確かに今作は全体的に痛みがある(笑)。
Sachiko:色んな意味で痛い。楽曲もそうだし、歌にも痛みがあると思うんです。そういう鋭さみたいな“痛み”。それが、“私が持っているものってこれだよね”ってすごく思えたんですよね。
●Sachikoさんが持っている“痛み”は人に見せるんですか?
Sachiko:人には見せないですね。でも潜在的に持っているもの。今の自分を構築している…特に高校生のときから20代前半くらいまで持っていた、自分では抑えきれないダウナーな部分。それを表現するのがすごく気持ちよかった。
●みんなが受け入れてくれたから。認めてくれたから。
Sachiko:うん。いつもそうなんですけど、「カミングアウト」を歌録りする日に初めてみんなに聴いてもらって、歌詞を見てもらったんです。そこでYuumiも「あ、Sachikoらしい」とか「“最低なキス”で正解だと思うよ。“最高のキス”だとなんか普通で嫌だもん」とか言ってくれたりして。
●わかるわかる。
Sachiko:みんなが「やっとSachikoが解き放たれたね」って受け止めてくれたんです。そこがすごく安心もしたし、絆も深まった部分だったし、自分がもっと表現したいことの扉の鍵を開けることができたっていうか。表現をする上ですごく自由になれました。
●別に今までを否定するわけではないと思うんですが、今までとは感覚が違うんでしょうね。
Sachiko:うん。違った感覚ですね。今までも“嘘や偽りは歌いたくない”と強く思ってきたからこそ向き合ってきたのは事実だし。だけど出す部分が違う感じ。
●ここ最近のFLiPの歌詞は記号的というか、響きも含めたインパクトの印象が強かったんですけど、今作の歌詞は剥き出しなんですよね。言葉として整っているかどうかよりも、そこにある意味や気持ちを重視しているというか。だからドキッ! とする。「え? “最低なキス”ってどういうこと?」「え? “その手のばしてよ あたしの首まで”? 首?」って。
Sachiko:フフフ(笑)。そういう捻くれ方が好きなんです。スーパーツンデレみたいな感じとか、そういう感覚が懐かしいんです。「カミングアウト」の歌詞を書いているとき、Sayakaに「今書いてる歌詞がすごく懐かしいんだよ」ってポロッと口に出したくらい、こういう懐かしい感覚で書ける喜びを噛み締めてました。
●そういう心境はきっとライブにも影響してくるんでしょうね。
Sachiko:影響しますね。最近は「すごく変わった」と言われます。
●以前のライブのSachikoさんの印象は…特にMCで感じることなんですけど…お利口さんになろうとしているというか。基本的に人見知りだからこそそうなるんでしょうけど。
Sachiko:人見知りなのに“でも距離を縮めないといけないよね!”と思ってがんばるところですよね(笑)。よくわかってる(笑)。
●でもこういう歌詞を書けたことによって、距離の取り方だったり感情の出し方に大きく影響するだろうなと。
Sachiko:うん。より開放的になれてます。本当に音楽ができてるなって思う。ナチュラルでいれてますね。このアルバムで自分の本質的な部分と向き合えて、表現できて、原点回帰できて、今のFLiPのサウンドとミックスできたと思っていて。だからひと皮破った感覚があって、いい意味でリラックスしてライブができています。
●今作が持っている刺々しさとか生々しさは、今までバンドとしてあまり出していなかったような気がするんです。でも取って付けた感じがまったくなくて。感覚的なものなんですけど、“FLiPってこういう人たちなんだ”と自然に思える。
Sachiko:しっくりきてますね。
●それは歌い方にも出ていますよね。今作のヴォーカルは今まで以上に幅広いじゃないですか。それも“こういう風に歌いたいと思ったからこう歌いました”という意図的なニュアンスはまったく感じなくて、ただ“こう歌いました”という印象を受けたんです。
Sachiko:そうですね。歌録りはいつも何パターンか試すんですよ。“こういう歌い方はどうだろう?”とか“この声色だったらどうだろう?”って、自分でディレクションしながら録るんですけど、今回は自分でもびっくりするくらい自然に辿り着いたんです。いちばんしっくりくる歌い方というか、基本的に頭で考えて歌っていないんです。
●うんうん。
Sachiko:声も一種の楽器じゃないですか。だからその楽曲とテンションにいちばん合う自分を乗せている感じ。すごく感覚的ですね。あ、でも、曲によっては…歌詞の想いが重すぎる場合は、そのまま歌うと聴く人にも重くなってしまうこともあるんですよ。
●怨念みたいになってしまうと。
Sachiko:そうそう。そういう風には聴いて欲しくないから、歌っている人間の表情を柔らかくして歌ったりとかはしてます。少し幸せな要素を入れながら重い想いを歌う、みたいな。そういうバランスを取った曲はありますね。
●いちばん歌い方でびっくりしたのがM-6「a will」なんですけど…。
Sachiko:あ、今言ったのはその曲のことです。
●やっぱり(笑)。
Sachiko:「a will」はいつも通りに歌うと怖い色が付いちゃうんですよね。
●でしょうね。「a will」は歌詞だけを読んだとき「これ遺書か!」と思ったもん。
Sachiko:そういうものをずっと私は書きたかったんです。
●書きたかったのか(笑)。
Sachiko:でもいつ書いていいのかわからなかったんです。ドキッとしたものが欲しかったんですよね。でも、この曲を聴いたり、この歌詞を見た人に死んでほしくはないんです。ちゃんと曲として受け止めてほしいというか、あくまでもこれは私が思っている「a will」で。前向きとか後ろ向きとかそういう話ではなくて、ひとつの楽曲として受け止めてほしい。“こういう世界もあるんだよ”って。私自身、大好きな曲なんですよ。サビを歌っているときとか、本当に私の心の声を歌っているような感覚なんです。
●さっき少し言いましたけど、「Tarantula」の歌詞も極みだと感じたんです。この歌詞もいい意味でエグいですよね(笑)。
Sachiko:そうですね(笑)。この曲は歌詞を乗せる前にアルバムの1曲目にしようということを決めていたんです。どの曲にも言えることなんですけど、今回は“歌詞でどれだけサウンドをかっこよくできるか”ということも強く意識したところで。だから「Tarantula」はこの曲でしか歌えないことをさらけ出そうと。奇妙な感じも入れたかったし、ギターリフが持っている半音使いのミステリアスな感じにも焦点を当てたかった。
●そう。このギターはなんだ? と思いました。ベースもそうですけど、びっくりした。
Sachiko:そういう音が持つスリリングさを歌詞で引き出したいし、加速させたいなって。そういう意味で、例えちょっと刺のある言葉を使ったとしてもかっこよく歌えば正解でしょ? みたいな。“そこで気持いいと自分たちが思えるんだったらそれはオリジナリティでしょ”って思いながら作ったんです。
●こういうエグさみたいなものって、FLiPが元来持っている個性なんでしょうね。新鮮だったけど、自然にそう思えた。
Sachiko:自分たちも再認識しました。「やっぱりこういうの好きじゃん!」って。自分たちが表現したいことがあったんだということを再認識できたし、そういうアルバムができたことの充実感があるんです。今回はセルフプロデュースだから自分たちで1曲1曲のポイントをジャッジしないといけなかったし、ミックスもマスタリングも全部自分たちでディレクションしているんですよ。
●そうなんですね。
Sachiko:もちろんそばにいてくれるエンジニアやディレクターとかスタッフの意見も入ってますけど、中心になるのは4人で、1つ1つを4人で“本当にこれでいいのか?”と迷いながら作ったアルバムで。4人が持っているものをそれぞれ尊重しながら、4人で色々と深い部分まで言い合えて、だからこそメンバーの絆がより強くなったという実感があって。
●うんうん。
Sachiko:制作期間が長かったから忍耐力も必要だったし、色んな壁にもぶつかったりしたけど、それが苦ではなかったんです。だからこのアルバムができたことは、バンドにとってすごく大きいですね。「乗り越えることができてよかったね」「だからこそ次にやりたいことが見えるよね」っていう向上心に繋がったアルバムなんです。
●結果としてこういうアルバムができたことだけじゃなくて、制作のプロセスも含めて自分たちにも意味があるアルバムだと。
Sachiko:だからこのタイミングでセルフプロデュースができたことが幸運だったと思います。
●FLiPというバンドは常にライブバンドであろうとしていて、そのスタンスをずっと崩さなかったからこそ辿り着いたセルフプロデュースだし、辿り着いたアルバムなんでしょうね。
Sachiko:そうだと思います。こういう歌をライブで歌ったときって、違った景色が見えてくるんじゃないかなっていう期待もあったんです。実際にライブでは新曲をいくつか演りはじめているんですけど、初めて聴くのにみんなすごくノってくれるんですよね。音でみんなとぶつかり合えている。今回のアルバムで自分たちがさらけ出したのは今までよりも深い部分なので、それを聴いてくれる人たちとも今までより深い部分でぶつかり合えるんじゃないかなって。
●いいことですね。さらけ出して作った楽曲だからこそ、ライブでもより深い部分が出てくるわけで。だから観ている側も、より強いものを感じるのは当然のことだと思う。
Sachiko:その感覚は今までとちょっと違いますね。
interview:Takeshi.Yamanaka