ライブバンドとして絶え間ない成長を続けている沖縄出身のエモーショナル・ガールズロックバンド、FLiP。
1stアルバム『未知evolution』を2011年5月にリリースして以降、特にその成長は目覚しく、キャッチーかつ独自性の高いロックは、ツアーや夏フェスなどのタフな経験によって確固たるものへと昇華した。
多忙な2011年を締めくくる2ndシングル『ホシイモノハ』を昨年12月にリリースした4人は一瞬たりとも立ち止まることなく、早くも3rdシングル『ワンダーランド』を発表。FLiPのネクストステージを予感させる同作は、ライブハウスで新たな光景を見せてくれるだろう。
●早速ですが、今回リリースとなる3rdシングル『ワンダーランド』はアニメ『銀魂』のオープニングテーマですが、タイアップの話を頂いて曲を作ったわけではないんですよね?
ユウミ:そうですね。曲を作ってからお話をいただいたんです。去年の秋頃にできた曲で。
●そのM-1「ワンダーランド」ですが、ここ最近のFLiPではあまりなかった曲調というか、メロコア系のバンドがやっていてもおかしくないような、疾走感のある曲ですよね。パーツというよりも曲として力を持っていて、ある意味新しいなと思いました。ライブバンドだからこそこういう曲ができたのかなという気がするんですけど、どういう経緯でできた曲なんですか?
サチコ:最初は、私がまず弾き語りで作った曲なんです。今までのFLiPといえばマイナー調が強くて、1stシングル曲「カートニアゴ」のような、ちょっとダークな世界観のイメージがあって。
●確かにそういうイメージがあります。
サチコ:笑顔とはほど遠い雰囲気だったと思うんですけど、スタジオにこもって制作をしているときに"ずっと同じことをやっていてもつまんないな"と思って。固いことは考えずに、もっと今自分が単純に歌いたいと思うものに導かれて作ろうかなと。アレンジのことも気にせず、"この曲ができたときにメンバーみんなに聴いてもらえばどうにでもなるだろう"って。
●メンバーを信頼していると。
サチコ:だからアレンジでどうなるかとかを曲作りの段階で考えるんじゃなくて、まず"自分が歌いたいメロディとは?"っていうのを、心が裸になったような気持ちでのびのびと作ったんですよね。なので"今自分がバンドでやりたいこと"をナチュラルに歌い始めると、洋楽調のものが出てきたんです。だから今おっしゃってくれたように、メロコア要素が入っている印象を受けたんだと思います。ありのままを出した。
●今までの作曲の感覚とは違った?
サチコ:ひとつ楽になった状態だったんだと思います。より"自分をさらけ出したいな"とも思っていたし、それってダークさだけじゃないと思ったし。もともと綺麗なメロディにも引かれるし、軽いとかキャピキャピじゃないポップさというか、私たちもポピュラリティのあるものが好きだし、歌っていて"気持ちいい"と素直に思えることをもっともっとやっていこうと思ったタイミングなんですね。
●それが去年の秋くらいの時期だったということ?
サチコ:そうです。夏フェスの経験を通して"リアルさを出さなければ、音楽に正直ということにはならない"と思ったんです。そういうことをいろいろ考えた中でできた曲です。
●人間的な変化があったからこそできた曲だと。
サチコ:そうだと思います。
●先ほどの話からすると、あまり考えずにすっと出てきた?
サチコ:感覚的にベーシックとなるものはさらっと出てきて。でも更に詰めなきゃ、メロディっていい方向に運んでいかない場合もあるんです。"ここの音はもうちょっと上げた方がいいな"とか"サビ前はこういうものがあった方がいいな"とか、そういう調整が必要というか。
●サビ前のブレイクというかタメはFLiPの特徴でもありますもんね。
サチコ:そういうアレンジはやっぱり好きなんですよ。今までのFLiPらしさも残しつつ作りました。
●ここ最近のFLiPの曲は"和"のテイストがキーワードになっていたと思うんですが、今回はすごくいい意味で裏切られたんですよね。
ユウミ:初めて聴いたとき、めっちゃキャッチーだと思いました。一回聴いただけで口ずさめるくらいのキャッチーさがあるから、この良さは絶対になくしちゃいけないと思って。アレンジする上で"どうすればこのメロディがガツンと前に出てくるか?"っていうのを考えましたね。バンドでサウンドをアレンジしていく上で、メロディありきで作っていかないともったいないと思ったというか。
●うんうん。
ユウミ:とは言いつつも、今までFLiPはマイナーコードを入れてやってきたというのが体質的にあったから、ちょっと小っ恥ずかしいかなっていう感じは若干あったんですけど。
●その辺はもうあまり気にしなくていいんじゃない?
ユウミ:そうなんですけど(笑)、そういったテイストを残していた方がいいのかな、みたいな。メジャーコードは歌が際立つからその方がいいんだろうなとは思っていたんですけど、そこに"今までの自分たちのエッセンスを加えるとどうなるんだろう?"って、いろいろ試していったんです。曲の持つ明るさというか、すごくさわやかなメロディなので、それをマイナーコードにするとちょっとイメージが変わっちゃうから、最終的にメジャーコードでやった方が絶対にいいなと思って。だから新しい一歩だし、このタイミングでできたのもなるべくしてなったのかな。
●なるほど。自分たち的にもちょっと新しい感覚があったんですね。でもさっきサチコさんが「アレンジはメンバーに任せればFLiPになる」とおっしゃっていたじゃないですか。確かにメロディの流れ方は今までにないような感じがするんですけど、FLiPらしさはアレンジですごく出ていますよね。
サチコ:だと思います。ユウミが言っていたように、いろいろ試したけど結局は今のようなシンプルな形に収まって、楽器隊プラス歌が一塊になったアレンジになっているので。そもそも自分が全パートできるわけでもないし、みんなになれるわけでもないし、自分はあくまで歌と歌詞を作って歌う、そしてバッキングを弾くっていうポジションを見つめ直した曲でもあるんです。
●自分の役割を果たすという。
サチコ:だからアレンジを自分が考えるというより、FLiPにはみんなが培ってきたアレンジ力があるし、自分は歌に専念するべきだなと思えたんですよね。みんなのアレンジ力を信頼できるからこそ、自分のポジションと向かい合えたという気持ちがあります。
●今までは考えすぎていたんですかね?
サチコ:考えすぎてました。考えきれないところまで"考えなきゃいけない"と思っていたかもしれないですね。
●前回のインタビューでもそういう話はありましたよね。責任感じゃないですけど、心配性なんですかね?
サチコ:それもあるのかなぁ? 曲を作る時点で、アレンジのイメージも若干はあるんですよね。だけどさっきも言ったようにみんなにはなれないし、自分だけで考えちゃうと自分だけの世界になっちゃうから。
●そうでしょうね。
サチコ:バンドである意味もアレンジをするときに試されるだろうし、それが本来のバンドの姿だと思うし。見えないところを目をつぶりながら手探りで必死に探すより、見えている人がそれを取って形に表してくれた方が絶対にスムーズだし、そこで考えきれなかった自分に対して"ダメだなぁ"ってヘコむ必要もない。結果的に全員が納得できればオールオッケーだなっていう思考なんですよね。
●このタイミングでそう思えたのはいいことですよね。それと、この曲が今までと違う新しいテイストを入れつつもFLiPらしさが詰まっていると感じさせる肝を担うのは、やっぱりギターなのかなって思うんですよ。
4人:ああ~。
●ユウコさんのギターはすごくメタリックというかハードロックな印象があるんです。
サチコ:曲によってという感じですよね?
●そうそう。曲によってはめっちゃがんばってる曲もあるからそういう印象が強いんですけど、この曲のギターはいいバランスの場所で鳴っている感じがするんですよね。
ユウコ:メロディがアヴリル・ラヴィーンとかSUM41界隈の印象だったんです。
●うんうん、あの界隈ですよね。
ユウコ:あの界隈の曲ってリフ押しというより、コードやメロディとビート感で持っていっている場合が多いじゃないですか。だからこの曲にちゃんとしたゴールを切らせてあげるためには、ギターはそういった雰囲気の立ち位置になった方がいいのかなと思って。だからそんなにややこしいリフではないけど、リフを弾きたい気持ちもあるからこんな感じになったんです。
●リフ魂があるんですね。
ユウコ:そうですね(笑)。だからイントロでは、流れていくけどキャッチーなものを作ってみました。曲中もメロディがいちばん上にありつつ、ビート感もあるギターを入れるというのがバランスがいいのかなと思って作りました。
●メンバー全員が曲の理想像を共有しながら作ったという感覚なんでしょうか?
サチコ:そうかもしれない。
サヤカ:ベースとしても、メロディが活かされないともったいないなと思ったので、シンプルにしようと思いました。でもシンプル過ぎるとただずっと鳴っているだけになっておもしろくないから、Bメロでちょっと伸びるフレーズにして差を出したり、サビで8ビートだけど間にちょっとだけフレーズを入れたりして変化を付けて。基本はストレートにやりつつ、ドラムとの絡みも考えて。
●曲の話に戻しますが、「ワンダーランド」のメロディの流れ方はすごく洋楽的だと感じたんですが、同時に絶対日本語が乗りにくいメロディだと思ったんです。この曲は歌詞自体も独特で、単語の羅列的な表現ですよね。このメロディだからこそこういう歌詞になったのかなと。
サチコ:歌詞はすごく苦労しました。以前の取材でも言ったことありますけど、私は仮歌をでたらめな英語で歌にするんですよ。なので先入観として"この曲は英語が合うだろうな"って思っちゃったりするんですよね。だけど日本詞をハメたいという気持ちがあるから。でもこれが案の定難しくて。ただの文章を入れたら本当にダサくて。
●特に文章や口語っぽいとハマりにくいでしょうね。ダサくなる。
サチコ:でもその中にちゃんとメッセージ性は入れたくて。適当に単語を並べているだけじゃ何を言いたいのかわからなくなるじゃないですか。曲がもともと持っていた前向きな要素というか"何があっても自分のありのままの姿で自分の背中を押していきたい"っていう、陰陽で言ったら"陽"の気持ちを出したくて。
●うんうん。
サチコ:そういう気持ちを投影させたかったから、たたき台を作ってプロデューサーのいしわたり淳治さんに相談したんです。淳治さんは当然私よりもボキャブラリーが多いので「こういう言葉をハメたらおもしろいんじゃない?」っていうアドバイスをもらって。そこに仮歌の時点で既に歌っていた英語も活かしつつ…音として綺麗に入ってきて流れるっていうものを、淳治さんと共作していったんです。
●前回サチコさんのソロインタビューで「自分の殻を破ってさらけ出せるようになった」とおっしゃていましたが、まさにそういう心境が投影されている歌詞ですよね。
サチコ:そうですね。まさに。
●しかもちょっと毒気もあるというのもサチコさんっぽい。
サチコ:そこは自然と出ちゃうみたいですね(笑)。
●ポジティブなだけではないですもんね。聴き手に向けて発信する歌詞だとは思うんだけど、自分の背中を押している感もある。やっぱりいろいろ苦労して作った曲なんですね。
サチコ:歌詞だけじゃなくて全面的に苦労した曲です。歌詞もメロもアレンジも。
●この曲ですごくいいなと思ったフレーズがあって、"三十六度八分 ずっと平熱で沸騰した"って深いですよね。
サチコ:リアリティがありますよね。音楽をやっていく上で、こうやって日常生活の中で話をしているときでも、そこから自分たちの音楽を信じる力とか、音楽をやっていく上での活力、目に見えない力も日頃から沸々としていなければ音楽をやっていけないだろうっていう気持ちなんです。
●ここ最近は忙しくライブをしていたと思うんですけど、自分の個性というか特性みたいなものを自覚しつつあるっていうことなんでしょうか?
サチコ:そうかもしれないです。だからこそ自分のポジションで安心していられるのかも。
●FLiPという枠組みの中で"私はこういう立ち位置なんだ"みたいな。そもそもユウミさんのパンチのあるMCもそういうことですもんね。
ユウミ:そうですね。私がMCをやり出すとそれが入り口になって、メンバーが入るところも何かしら出てくるかも? っていう。ただ私が一歩踏み出しただけかもしれないですけど、自分のやるべきことがこれだったのかなと思っていて。
●というと?
ユウミ:FLiPって最初は怖いイメージを持たれていたけど、自分たちはそういう面だけじゃないんですよね。ライブでは自分たちのやりたいことを自然にやりたいし、素直に表現できる場所を探していたんです。「カートニアゴ」があったからライブの盛り上がりも増したし、バンドのカラーも変わってきたという実感があるんです。"やって良かったな"っていう経験のひとつとして。
●FLiPは高校や中学の同級生で結成したバンドで、お互いをよく知っているわけですよね。でも昔から知っているメンバーだと、悪い方向に行けば慣れ合いになっちゃうケースもあると思うんですよね。でもFLiPはお互いを信頼しながら個性を出せている。それってすごくいい関係ですよね。ケンカとかするんですか?
ユウミ:殴り合いのケンカとかはないですね。
サチコ:ないね。
●普通ないやろ!
4人:アハハハ(笑)。
●FLiPがデビューしたときから取材をさせてもらっていますけど、なんかメンバーの関係性が独特な感じがするんですよね。女の子ばかりのバンドの感じではないというか、4人でいてもキャピキャピしてないというか。
サチコ:それわかります。私もそういうことを考えたことがあるんですけど、ウチはみんなどっちかっていうと一匹狼なタイプの人間なんですよね。基本的に群れをなすのが好きじゃなくて。
●友達が少ないと。
4人:少なーい(笑)。
●あ、ハモった。
ユウミ:女の子って集団でトイレに行ったりするじゃないですか。集団にいることに安心しているというか。
サチコ:そういうのが好きじゃないタイプの人たちが集まっているんですよ。私もそれを条件として声をかけたので。
●同じニオイがするというか、"コイツ友達少なそうだな"っていう人に。
サチコ:そこじゃないです!(笑)。だから4人で集まったとしても、結局はいい感じにラインがあると思うんです。自分のパーソナルエリアがちゃんとあるというか。慣れ合いは好みじゃないし、だけどどこかで支え合いたいとも思っていて。そういう人たちが集まっているから、塊なんだけど、個体なんじゃないかなと思います。
●その話はすごく納得できる。まさにそういう関係ですよね。
ユウミ:高校生くらいのときから「ただの仲良し女子バンドにはなりたくないね」っていう話をしていて。まわりにも女子バンドがいたんですけど、そういう人たちって高校卒業の時点で解散とかが多かったんですよね。
●彼氏ができたら解散とかね。
サチコ:その慣れ合いのままでやっていたらきっと続かないっていうのは最初からわかっていたんです。だからそういう感じにはなりたくないなと意識していました。
●なるほど。そういう意識を当初から持ちつつ、お互いの信頼関係も築いてきているから、殴り合いのケンカもしないし、言いたいことはちゃんと言い合えるという。
サチコ:殴り合いは疲れるよね。
ユウミ:殴りたくないし殴られたくない。
●ハハハ(笑)。で、サヤカさんが作詞したM-2「最後の晩餐」ですが、サヤカさんはサチコさんには書けない歌詞を書いてきやがりますよね。
サチコ:書いてきやがります。
●これは曲が先なんですか?
サヤカ:先です。
サチコ:セッションから始まって、曲先でやって、メロを乗せて作詞したっていう順番です。
●「最後の晩餐」というタイトルもキャッチーだし、1stアルバム『未知evolution』から徐々に表現として出してきた女性らしさも出ているなと。
サヤカ:タイトルはアレンジを付ける段階で曲を聴いていて先に出てきたんです。そのときに出てきたイメージをいくつか挙げていったんですけど、この言葉がいちばん曲にハマるなと思って。
●あ、まずタイトルを決めたんですか?
サヤカ:そうですね。曲がハードロックなアレンジになっているので、曲に負けないような歌詞にしたくて。強い女性というか、さっぱりしている女性を描きたいなと。"十字架"や"呪い"というキーワードもタイトルの後に出てきたので、それをふまえて男女の別れのシーンを書いたんです。男女が向き合っていて、あとは男の人の返事を待つだけみたいな、ちょっとさらっとした女性を描いてみました。
●その"強い女性"というのは、FLiPというバンドが持つキャラクター性のひとつだと思うんですよ。サヤカさんのストーリーテラーの才能って特徴的というか、すごくおもしろいですよね。
サチコ:私はこの曲を聴いても"最後の晩餐"っていう言葉は思い付かないですね。
●ですよね。意外なアプローチというか。でもそれがすごくハマっている。歌詞は…実体験?
サヤカ:ちょっとふまえつつ(笑)。
●あ、ちょっとふまえてるんだ。
ユウコ:まぁ実体験がないと書けないですよね(笑)。
サヤカ:ある程度ないとね(笑)。それで淳治さんとやり取りしつつ、淳治さんの世界観が持つおもしろい言葉とかを乗せて。私だけだと"精進料理"という言葉はさすがに出てこなかったし。
●確かになかなか出てこないでしょうね。
サヤカ:自分が書いていく中で思い描いていた世界観を、場面場面でいい具合にちょっとずつ変化していく感じの作り方がすごくおもしろいなと思いました。
●サヤカさんが歌詞で描く女性に共通していると思うんですが、強い女でサバサバしているのに、歌詞の最後でちょっと意外な面を見せますよね。ギャップというかツンデレというか。
サチコ:女性らしさみたいなのが出ていますよね(笑)。だから歌うときも、そこのニュアンスはよりガーリーにしました。
●今回は2曲ともエネルギーが高い気がするんですよね。バンドの今のモードがそういう感じなんですか?
サチコ:"休みたくなーい"みたいな感じですね。気持ちはイケイケです。
●今アルバムを作っているんですよね? 前の取材で「次のアルバムは初期のFLiPが持っていたエモーショナルな色も出していきたい」とおっしゃってましたけど、現時点ではどんな感じですか?
サチコ:だいぶ曲も増えてきました。エモーショナル曲もあるし、より洋楽的というか、今まで私たちが聴いてきた身体になじみのあるUSのサウンド感っていうものが、以前よりも全面的に出ているんじゃないかなと思います。
●ということは、ある意味今回の『ワンダーランド』がアルバムのヒントになっている?
サチコ:なっていると思います。セルフプロデュースの曲が多いから遊び心が満載だよね。
ユウコ:いろいろ試していますね。1stフルアルバム『未知evolution』ってバランスが良かったじゃないですか。あれを超えるっていう考え方じゃなくて、進みながらもさらに新しいところにいきたいなと思っていて。ギタープレイ的にも挑戦しているところが多いので。
●メタリックやハードロックだけじゃないと。
ユウコ:だけじゃない。何かノリやすい感じですね。
サチコ:今まではモッシュが起こりやすい曲っていうのがひとつのテーマだったんですけど、お客さんが横に揺れたりジャンプしやすかったりっていう、違ったアプローチができる楽曲作りに励んでいます。
●さっき言っていましたが、それはそもそものルーツとかを自然に取り込んでいる感覚?
サチコ:はい。
●感覚的に、一周まわった感じなんでしょうか。
ユウコ:取り込みながら一周まわってはいるけど、進んでいる感じ。
ユウミ:聴くのは好きでも、それをFLiPの音楽に試して入れていくっていうのが今までは少なかったかなと思って。
●ああ~、確かにそういう感じはあまりなかったかも。
ユウミ:"FLiPのカラーはこうかな"みたいな枠を自分で作っていたような感があったというか、視点が内側に向いていたと思うんです。でも「ワンダーランド」を作った辺りからパッと開けたというか、今まで以上にガーリーな曲も増えてきて。だからウチらが今まで出さなかった女の子らしい面もこれからは積極的に入れていきたいんです。それが曲にもいっぱい入っていますね。
●要するに、より等身大の自分たちが出ていると。
サチコ:だから曲を作るときもフリーですね。"音に導かれよう"というか。例えば最初に好きなコードを決めたとして、"この曲はこういけば良くなりそうだな"っていうスイッチが入っちゃえば、あとは導かれるままにっていう気持ちで作っているんです。
●うんうん。
サチコ:ユウミが言ったように、FLiPの固定観念は置いといて、今までやらなかったような茶目っ気のあることもしてみようと。リフの掛け合いにしてもよりダンサブルだったり、楽器で音を楽しんでいる感じが制作の時点から無邪気に表れたらいいなと。
ユウミ:オリジナルメンバーがずっと変わらずやってきているから、それぞれのパートをそれぞれがやれば、何をしようと確実にFLiPになるんですよね。
●あれこれ気にする必要はないと。
ユウミ:「ワンダーランド」ができたことによって、考え方が変わりました。これから見える世界も変わってくると思うし、もうライブでもやってるんですけど、実際にお客さんのノリも新しかったりして。それが自分たちの求めていることであったりするので、これからもバリエーションとして出していけたらなと。
●話を聞いてるとバンドがいい状態だということが伝わってきますね。
サチコ:だからライブを重ねていく毎に、ライブに対する重みが増してきている感覚があって。"これがライブなんだ"っていうか、"今自分たちが生きているということをステージの上で証明するってこういうことなんだ"って。
●いい話だ。
サチコ:前回のツアーとかで失敗したようなところも改善しようと思いながら、それが苦じゃなくて楽しみながら自分の背中を押していけるような環境になっていて。それがいいモチベーションを保てる理由だと思うし、何よりやることがたくさんあって楽しいです。
●ライブやアルバム制作で忙しいけど楽しいと。
サチコ:それもだし、今こうやって取材を受けていることもそうだし。音楽のことをやっている実感があるのが、なにより自分たちの生活に充実感を与えてくれていて、それがいい感じに循環していると思います。
●今は絶賛"女子力アップ×2 TOUR"中ですが、ちょっとびっくりしたことがあったんですよ。HPで新しいツアーグッズが発表されてましたけど、ボクサーパンツがありましたよね。グッズにボクサーパンツって珍しくないですか?
サチコ:ピンクのやつ可愛いですよー。確かに誰かの物販で見たことはなかったな。
●しかもいちおう女の子のバンドですからね。
ユウコ:MCで「新しく物販でパンツを売ってるんで買ってください!」って言うと「履いてんのー?」って訊かれます。
●最近は女の人もああいうの履くのかな。
ユウコ:部屋着的な感じ?
サチコ:寝間着にしてますよ。
●してるのか。
ユウコ:あと、女の子のファンが増えてきました。
●おっ! 前から言ってましたもんね。
サチコ:すごく嬉しいです。「女の子ー!」って言ったら「キャー!」って声が返ってくる。今までに比べても、すごく女子力がアップしました。
サヤカ:今まで男女比が8:2くらいだったんですけど、6:4くらいになりました。
ユウコ:何でなんだろうね?
サチコ:でも実感としては2ndシングル『ホシイモノハ』(2011年12月)辺りからだよね。たぶん楽曲的に女子にも聴きやすくなったんじゃないかな。歌詞もより女の子に響きやすくなったのもあると思います。
●ああ~、なるほど。
サチコ:あと、その頃から何故か「歌い方が優しくなった」とか「前よりも艶っぽくなった」と言ってくれる方がいて。自分ではそこまで意識したことがなかったんですけど、心境の変化が声にも表れているのかもです。届きやすくなって、より女子がFLiPの音楽を身近に感じられるようになってんじゃないかなってライブで思いました。
●ツアーも後は2/8の渋谷CLUB QUATTROを控えるのみですが、いい感じでツアーができているんですね。
サチコ:女子力アップできています。女子の割合がアップしてます。
サヤカ:物販にピンクの色が増えたし!
●うん、それはもうわかった(笑)。ライブ力は?
サチコ:自分自身で評価するのは抵抗があるんですが、久々に観た方々には「前よりも成長してきたね」って言っていただくこともあるので、まだまだだとは思いつつも去年よりステップアップしているのかなと。それが確かな自信になりながらライブができているので。
ユウコ:「可愛くなった」とはまだ言われないね。
●ライブ力はアップしたけど、女子力はまだだと。
ユウコ:でも2/8まで何日かありますから。
●もうあまり日がないですけどね(笑)。前にも同じ質問をしたことがありますが、FLiPが現時点で考える"いいライブ"はどういうイメージですか?
ユウコ:お客さんが「いい」って言ったライブ。「今日のライブ良かった!」って言ったら、それはいいライブだと思います。
サチコ:いいライブだと思えるのは、お客さんとの壁を感じないときかな。より近くに、何の隔たりもなく、音で繋がっていると思える瞬間が多ければ多いほどいい。例えミスが多くて悔しい部分があったとしても、"充実してた"って思えます。
サヤカ:空気を一体化できたときとかそうだよね。ライブハウス全体がひとつの塊のような空気が感じられたときは、いいなと思います。
ユウミ:曲を作るときに"ここはこうして欲しいな"と思って作ったものが、ライブで実際にできて反応が返ってくるっていうのと、お客さんひとりひとりが曲を自分のものにしてくれているときにいいライブだと感じるかな。自分なりに身体を揺らしているとか、口ずさんでいるとか、お客さんひとりひとりが受け入れて共有している瞬間があるんですよ。
●うん、そういうのいいですね。
ユウミ:言ってしまえば曲はウチらが作った子供みたいな感じで、お客さんがそれを一緒に育ててくれる人みたいな。ライブを重ねるごとにそれが大きくなれば大きくなるほど曲は幸せだなと思うし、作って良かったと思うし、ライブも良かったと思う。
●そう考えると、今のFLiPにとっていいライブをしようと思ったら一筋縄ではいかないんでしょうね。いい曲も必要だしいい演奏も必要だし、でも上手いだけじゃダメだし。そのときの場所やお客さんの雰囲気によっても違うだろうし。
サチコ:でもそれが楽しい。毎回違うから楽しいです。
●ツアーが終わった後の予定は?
サチコ:バレンタインイベントもあったり、ライブもあるし、アルバムに向けて制作もやっていきます。去年に引き続いて今年も突っ走っていく年になると思います。
●ユウミさんの連載も突っ走るぞと。
ユウミ:突っ走ります(笑)。
●連載は毎回自分との闘いみたいな感じになってきつつありますけど、プレッシャーにはなっていませんか?
ユウミ:ちょいちょいありますけど…ああいうのは今しかできないかなって。
●そういう感覚だったのか!
一同:アハハハハ(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子