今年2月に3rdシングル『ワンダーランド』をリリースして“女子力アップ×2 TOUR”を大成功させた4人が、待望のフルアルバムを完成させた。
ライブバンドとしての実力とライティングセンスに更に磨きをかけ、大きな進化と成長を感じさせる同作は、ライブやフェスで奇跡を呼び起こす規格外のエモーションが詰め込まれている。
立ち止まることを知らない4人が鳴らす音は、記憶と感情に刻まれる。
●シングル『ワンダーランド』(2012年2月)の取材は"女子力アップ×2 TOUR"の真っ最中ということもあって、「ツアーが終わるころには女子力めちゃめちゃアップしてます!」と言ってましたよね。あのツアーを経て、メンバーの女子力はアップしたんですか?
サヤカ:あれ? 訊かれるってことは…もしかして変わっていない?(笑)
ユウミ:見た目は変わってないかもしれないけど、女子力って内面のものですからね(笑)。
●ハハハ(笑)。
ユウミ:ツアーはすごくよかったです。今までと比べて女の子のお客さんも増えたんですよ。自分たちでも理由はよくわかっていないんですけど、とにかく女の子のお客さんが増えたよね。
ユウコ:増えた増えた!
ユウミ:嬉しかったなぁ。
●そもそも、なぜ女の子に来て欲しいんですか?
ユウミ:やっぱり同性に共感してほしいという想いがあって。うちらはガールズバンドだから、女の子の言っていることは、女の子にいちばん届くと思うんです。
●FLiPは女の子4人のバンドですが、無駄にキャピキャピしていないというか、常にライブバンドたらんとして活動してきましたよね。もちろんFLiPの音楽には女性らしい側面、女性にしか出せない要素もありますけど、ライブは女の武器を使って魅せるということではなく、人間らしい部分や等身大のメッセージを込めた音楽を届けたい、というベクトルが強くて。それが具体的に伝わっているからこそ、女の子のお客さんが増えているのかなと。
サチコ:そうであってほしいと思います。やっぱりステージから見ていると、男性の笑顔もテンションは上がるけど、女性の笑顔を見るとすごく嬉しくなるんですよね。人って、同性に対して厳しいじゃないですか。女性は女性に厳しいし、男性はきっと男性に厳しいだろうし。
●うんうん。男性は絶対的に女性に甘いですけどね。
サチコ:だから女の子が女のバンドを好きになったり、ライブへ足を運んだりすることは、性別を飛び越えて魅力を感じるからだと思うんです。私も逆の立場だったらそうだと思うから、もともと性別を売りにするとか、さっき言ってくださったように無駄なキャピキャピ感を出す必要はないと思ってやってきているんです。
●そのツアーファイナル、渋谷CLUB QUATTROのときに印象的だったことがあるんですが、あの日はサチコさんの歌の調子が悪かったんですよね?
サチコ:そう、ピッチが取れなくなってしまったんです。
●喉を痛めていたわけではなく?
サチコ:喉を痛めていたわけじゃないんです。リハのときは普通で、少し調子が悪いかなと思う程度だったんですけど…。
●モニターの返りが小さいとか、そういう問題?
サチコ:いや、体調だったのかな。突発的にピッチがとれなくなってしまって。まず自分の声がどの音を出しているのかが把握できない。更に、なにを基準にしてピッチを取ればいいのかも分からなくて、耳に膜が張ってしまったように全部の音が聴こえなくなったんです。だから感覚で歌うことしかできなくて、すごく悔しい思いをしました。
●でもそのことをアンコールのMCで言ったじゃないですか。「今日の私の歌、最悪」って。
サチコ:言いましたね。
●そこからのライブが本当によくて。振りきってライブをしていたから伝わってくる度合いが強かったんです。ライブで伝わる/伝わらないというのはそういう部分にあるんだなと改めて感じたんですよね。トラブルが起きたとしても、そこにしっかり向きあったからこそ成し得たステージだったというか。
サチコ:"そもそも私は誰のために歌を歌っているのか?"と考えたんです。実は、本編が終わって楽屋に帰ったときに「どうしよう! ピッチが取れない!」と半ベソかいていたんですよ。アンコールに3曲を用意していたんだけど、メンバーに「曲を減らそうか?」とも言われて。でもそれは違うと思って。待ってくれている人がいるし、自分の気持ち次第だなって。だからアンコールはみんなに楽しんでほしい一心で、全部を一度リセットしてステージに上がったんです。"FLiPのことを好きな人がよくこんなにも集まってくれたな"と嬉しい気持ちと、"ありがとう"っていう気持ちで歌えました。だからあの日のライブは、いい意味で記憶に残っていますね。
●すべてをさらけ出したからこそ一体感も生まれたと思うし。
サチコ:バンドならではですね。1人だったらたぶんボロクソだった。でもバンドだから、最後までみんなとより楽しめたんだと思います。
●そして今回リリースとなるアルバムですが、前回のインタビューで「次のアルバムはかなりエモーショナルになる」とおっしゃっていましたけど、その言葉通り、アルバムタイトルに"emotion"が付いているという。
サヤカ:分かりやすい!
●分かりやすすぎるやろ(笑)。
サチコ:今回のアルバムは去年の夏フェスくらいのときからぼんやり意識し始めていて。"フェスだからこそ感じられた感覚や、バンドとしてありたい姿というか、初心を見つめ返した上でのエモーショナルさってなんだろう?"と考えたんです。ひと言で"エモーショナル"といっても、私たちが"エモーショナル"と呼んでいるバンドってたくさんいるじゃないですか。きっとその捉え方は自由だと思っていて。
●うんうん。
サチコ:FLiPは楽曲に型を付けたくないという想いが以前から強いんです。全部同じ楽曲にしたいという気持ちはないし、1曲1曲に個性があって当然だという感覚で楽曲を作っていて。自分たちがこの曲でどういうフレージングをしたいのか、どういう歌を歌いたいのか、どういうメロを歌いたいのか…そういう人間味の溢れた楽曲にしたかったんです。バンドはひとつの塊だけど、それを支えるのは1人1人の人間だから、パーソナル的な"エモーショナル"。感情的なパワーが1曲の中に溢れ出ることがFLiPにとってのエモだから、そういうアルバムになっていくといいなと思って作り始めたんです。
●4人それぞれの感情を楽曲に込めたかった?
サチコ:そうですね。きっと音に魂を込めれば込めるほど、無言でも気持ちは伝わると思っていて。そういう意味で、個々の感情を込めたかった。
●きっとそれはライブハウスやフェスで培った感覚ですね。
サヤカ:そうかもしれない。
ユウコ:うん。ライブに近いですね。
サチコ:でもそういうことをメンバーでガッツリ話したわけではないんです。なんとなくそういうことを思いながら作り始めて、1曲1曲作っていった結果アルバムになった。だから「このアルバムの全貌は最後の歌録りが終わるまで分からないね」と言っていたんです。
●それって不安じゃなかったんですか?
サチコ:全然不安じゃなかったというか、逆にワクワクしました。歌録りが終盤になって、曲順を考えようというときに、5パターンくらい考えたんですが、すっごく楽しくて。「このアルバム、めっちゃ濃いわ」って。FLiPの作っている音だから大幅にブレることはないだろうという安心感があって曲を作っているので、アルバム制作に於いて不安は感じなかったですね。
●今までの経験やメンバー間の信頼から、なにをやっても間違いはないという自信というか確信があったと。
サチコ:あったと思います。それに1曲1曲ができるにつれて、さっき言ったように同じような曲ではおもしくないから、「次はどういうテイストの曲を作りたい?」っていう感じで、クロスワードとかパズルみたいに自分たちで選んで決めていったんです。
●そこで"こういう曲を作ったらお客さんはどう思うかな? どう受け取るかな?"みたいな気持ちはなかったんでしょうか?
サチコ:ああ~、ないっすないっす。
●軽いな(笑)。
サチコ:もちろんお客さんには感謝しているし、お客さんがいるから音楽に対して素直に向き合いたいと思えるんですけど、私たちは媚びを売っているわけではないし、自分たちのやりたい音楽があるのに「こういう曲が欲しいですか?」とゴマをするような感じって、すごくかっこ悪いと思うんですよ。
ユウミ:「どうっすかー? どうっすかー?」ってね(ゴマをする仕草)。
●ハハハ(笑)。
サチコ:FLiPが出す音を好んでくれるだろうと信用している部分もあるし、常に自分たちの新しいサウンドを「どうだ!」と出すワクワク感をみんなに伝えたいと思っているので、そういう気持ちはないですね(笑)。
●そんな概念もなかった感じですね(笑)。
サチコ:アハハ、なかったです(笑)。でもライブは常に意識していましたよ。そういう意味で、お客さんを意識していないわけではないというか。
●今作のリード曲はM-1「CHERRY BOMB」ですが、この曲はいい意味で予想を裏切られたんです。前回のシングル曲「ワンダーランド」も今までのFLiPとちょっと感触が違ったんですけど、それまでの作品的な流れとしては"ラウドなロックサウンドに加えてちょっと和っぽい雰囲気のメロディ"という印象が強かったんですよね。でも『ワンダーランド』からライブでやることを前提としたエモーショナル感のようなものがすごく前面に出てきて。「CHERRY BOMB」はメロディの乗せ方も言葉の走らせ方も今までとは違うし、洋楽的な雰囲気も持っている。言ってしまえば、FLiPがこういう曲を作るとは思っていなかったんです。開き直りではないけど、今までやってきたものがあるからこそ経験を昇華してやりたいことをやった感じというか。かなりパンチのある楽曲ですよね。
サチコ:うふふ(笑)、ありがとうございます!
ユウミ:この曲はセルフプロデュースです。オケ先で作りました。作り方としてはセッションに近いかな。最初は、"今までとは違う勢いで爆発的な曲をやりたい"というところから始まって。「ユウコもなにか違うことをしてみなよ」ということで、ワーミーも使いつつ。
●初めてワーミーも使ったと。
ユウコ:そうなんですよ。ワーミーは以前から持っていたんですけど使っていなかったので、この機会に。
ユウミ:ワーミーのサイレンみたいな音を使うためにリズムも勢いのある16ビートにして。
サヤカ:ちょっとデジロックっぽい感じでね。
ユウミ:「それにプラスしてリフがあると最強だね」ということになり、ユウコにゴチッとしたリフを作ってもらいました。
●メロディはキャッチーだけど、サビはライブバンド的なエモーショナル感がある。でもそれだけじゃなくて、言葉も耳に残るしリフも強力だから、記憶に焼き付いていくというか。「ワンダーランド」もメロディが洋楽っぽいという話を前回しましたけど、この曲も歌の乗り方が洋楽テイストだし。
サチコ:ひとつのセンテンスが理解できなくても、1曲を通してその楽曲のカラーや世界観を理解してもらえたらいいかなと思っています。曲を聴き終わったときに、"この曲はこういう曲だったんだな"と各々の解釈で理解してもらえたらいいなって。
●この曲をリード曲にした理由は?
サチコ:3曲くらい候補に挙がっていたんですよね。
ユウコ:今作はミドルテンポの曲が多いじゃないですか。でもやっぱりFLiPはライブを大切にしていきたいから、今回のリード曲はライブを重視して選ぶことになったんです。最後の決め手はライブでのパンチ力。
サヤカ:アルバムタイトルとのバランスもパンチの効いている感じでいいなと。『XX emotion』に「CHERRY BOMB」ときたら、ドカンとくるかなって。
●確かにタイトル的にも、「えっ? 女の子が?」という感じがなんとなくありますよね。
サチコ:ツンデレアルバムですね。あ、 でも今回はデレはないか。
●デレの部分はないんじゃないかな(笑)。今まではデレの部分もありましたけど、今回はない。
サチコ:そういう意味ではサラッとしているかな? M-5「Everything is alright」とかはサラッと、キラッとしていると思うんですけど。
●でも「Everything is alright」に込められている感情の湿度はすごく高いと思うんです。サウンド的にはサラッとしているけど、ライブハウスやフェスで聴いたらグッと感情が溢れる曲だと思う。
サチコ:飛行機がフライトするように空へ向けて駆け上がっていく感じで作っていたので、壮大さはズバ抜けてあるというか。新しい感じの曲だよね。
ユウコ:この曲はすごくサラッとできたよね。
サチコ:気持ちいいくらいに「次の展開はこうで」「次にこうきたらユウコこういうフレーズ弾いてみて」っていう感じで作っていって、「それ超いいじゃん!」と。
●悩まずにできたんですね。
ユウコ:最短でできたかも。
ユウミ:たぶん4人それぞれがイメージしていたものが一緒だったんだと思う。
サチコ:だからこそ「このバッキングにこういうギターが鳴っていたら気持ちいいよね」という感じで、イメージに直結したフレーズが弾けた。
●あとM-6「YUKEMURI DJ」ですがラップも入っているし、サビでは音がめちゃくちゃ重なっていてなにがどうなっているのか分からないけど…この曲は何ですか?
一同:(笑)。
サチコ:歌詞はユウコですよ。
●歌詞はもちろんなんですが、楽曲としてもかなり新しいですよね。
サヤカ:遊んでいますね。
ユウミ:おちゃらけ感があります。
サチコ:FLiPという名の通り、ハジけた楽曲が欲しいなと思って。女の子がクレイジーになったようなサウンドって今までのFLiPにはないと思ったんです。この曲は、ブラジル方面のお祭り感があるロックでガーリーなニュアンスっていうのが自分の中にあって、洋楽というよりも、もっと陽気な曲にしたいなと思って作りました。そもそも"日本のロック"という視野で作っていなかったかも。
●振り切ってしまおうと。
サチコ:ガンガンに歪ませて。
●悲鳴に近い叫びも入ってるし。
サチコ:入れたかったんです(笑)。
ユウミ:悲鳴としてではなく、サウンドのひとつとして入れたかった。
サチコ:興奮したときって「ワァー!」って言っちゃうじゃないですか。
●僕は40歳だしいちおう会社員なので普段はあまり「ワァー!」とか言いませんけど。
サチコ:ああ、そっか(笑)。私たちはそれがスタンダードな感覚なんですよね。そういう気持ちからスタートして、ライブ感があって今までとは違ったサウンドにできたんだと思います。
●とにかく溢れ出そうな勢いが詰まっていますよね。
サチコ:この曲は、サビのギター・オクターブの掛け合いがいちばん最初にできたんですよ。その面白味がすごくあったから身体が横に動くようなサウンド感にしたくて。
ユウミ:もともとサチコがiPadのGarageBandで作ってきたデモの段階からヴォーカルとかいろいろ重ねていて、こんなニュアンスだったよね。なにがどこにあってこの変化をもたらすのかは1つ1つ音を分解していかないと分からないんだけど、たぶんそのときの直感で「これがいい!」と選んでこうなったんだろうなと思います。
サチコ:計算してどうこうというよりは、感じるままにできた曲ですね。直感で作ったというか。
ユウコ:歌詞も書いていておもしろかったです。会社のストレスを自分磨きで発散するOLさんの歌。
●会社のストレスを自分磨きで発散するOLさん…なるほど(笑)。
サヤカ:サビがおもしろいよね!
ユウコ:ダジャレを書いているような感覚でしたね。
●歌詞といえば毎回サヤカさんの歌詞はおもしろくて、意表を突いてきますよね。M-11「今夜月で会いましょう」の歌詞に"あたしは狼になりたい"とありますけど、これは逆転の発想というか、なんか裏を突かれた感があった。
サヤカ:この曲では片思いの切ない気持ちを書きたかったんです。一歩を踏み出せなくてもどかしい感情を"いっそ狼になって、自分の気持ちをストレートに出せたらいいのにな"と。最初からモンスターなどの異次元の生き物を考えていて。でも"モンスターはさすがに行き過ぎかな?"と(笑)。それで狼を思い付いて"いいねえ!"と(笑)。野性的な感じもありつつ、動物という意味で現実味もあるし。
サチコ:他の曲もそうなんですけど、歌詞を見てからレコーディングをする日が楽しみになりましたもん。だから歌を入れて、その歌を聴くまでもすごくワクワクして。"この歌詞はどういう響きで聴こえるんだろうか?"って。
●それと、今作はタイトル通り色々な"エモーショナル"がありますけど、その中でもM-10「でも maybe」はいちばんエモいかも。
サチコ:エモいです! そして歌詞もすごくいい!
●ユウコさん作詞ですが、切ない歌詞ですよね。
サチコ:ミックス確認のときに泣きそうになりました。「本当にそうだよ! 馴れ合いで付き合っていたらお互いに下げていくじゃん!」って。
●あと、ギターソロやリフもすごくエモい。ユウコさんは以前から「リフ魂がある」と公言していますが、それがバンドとしての個性になっていると思うんです。それはギターだけじゃなくて、4人それぞれの個性が発揮されてバンドの音になっている感じがある。「でも maybe」を聴いてそう思ったんですよね。
ユウコ:今回セルフプロデュースの曲が5曲入っているんですけど、「でも maybe」は後半に作った曲なので、それまでの制作を通して自分のフレーズの役割を考えるようになったんです。
●自分はこのバンドでなにをするべきか、どう自分を活かすべきかという発想になれたと。
ユウコ:うん。なれました。
●ところで、今作は「Butterfly」(1stアルバム『未知evolution』収録)のようなバラードはないですよね?
サチコ:ないですね。
●それはなにか理由があるんですか?
サチコ:たぶんこの時期にバラードは必要ないと思ったからかな?
●というと?
サチコ:「Butterfly」のような曲は、精神的にどーんと沈んでいるときに作りやすくて。悩んだり落ち込んだりしているときにできやすいんですよね。でも、遊びで1人の弾き語り用に作ることはあるけど、きっと今FLiPで作らなくてもいいんじゃないかなと。バラードとは違ったタイプのミディアムテンポな曲を作りたいという欲求があるから、今回は「Everything is alright」のように壮大で空間が広がるようなイメージの曲が作れたんだと思います。心境が出ているんじゃないでしょうか。
●「アルバムだから1曲くらいバラードを入れようか」という発想ではなく、今自分たちが欲しいと思う曲を考えたときに、バラードはなくてもいいという。
サチコ:うん。そこには決してネガティブな要素はなくて、作りたい曲を作っていった。ライブをイメージしながら曲を作っていた中で、自分たちのイメージに合った曲を詰め込んだんです。だからバラードがやりたくなったら「Butterfly」をやるだろうし、これから先にまたバラードができるかもしれない。ただ今は、通過点としてスローバラードがなかっただけというか。
●FLiPのことはインディーズ時代から知っていますけど、作曲という部分でも今作は一歩突き抜けた感じがあるんですよね。最初に言っていたように、それは自分たちに制限を設けていないからこそだし、どんな曲でもFLiPの曲になるという自信が根底にある上で、今の自分たちが表現したいことを形にしたからだと思うし。そういう実感はありますか?
サチコ:メロディだけできた段階で"自分で作ったのにこのメロいいなあ"と以前よりも思えたり、"聴いていてワクワクするなあ"とか、"これを他の人が演奏しているのを聴きたい"、"それが盤になっていたら買いたい"と思えるようになったという実感はありますね。
●メロディを作る方法や感覚は今までと違うんですか?
サチコ:いや、同じです。でも以前と比べると、他のアーティストのメロディを歌うようになっています。
●歌うようになった?
サチコ:例えばR&Bシンガーのメロディの特性とかを自分の中に採り入れて、蓄積しておくんです。
●採り入れて蓄積する?
サチコ:はい。ラップとか歌謡曲とか、アメリカとかUKとか日本のアーティストの曲とか、"このメロディ綺麗だな"と思ったものとか"本当に好きだ"と思ったものは貯めて貯めて貯めて。
●へえ~。
サチコ:覚えるんじゃなくて、貯めるっていう感じ。"このアーティストのこの楽曲みたいなものを作りたいな"と思ったとき、その曲を聴いて作ると真似になっちゃうんですよ。
●うん。パクリになってしまいますよね。
サチコ:でも今まで蓄積してきたものを引き出したなら、それは自分の感覚とミックスされているから同じものにはならないんです。今まさに作りたいと思うような魅力があるメロディを食べて、飲み込んで、一度忘れて、また吐き出すような感覚。
●食べるってどういうことですか?
サチコ:歌ったり、ひたすら聴いたり、鍵盤で弾いたり。鍵盤で弾くときとかは、メロディを分解して組み替えてみたり。
●それが"メロディを食べる"という作業なんですね。つまりメロディを自分の身体に通すという。
サチコ:そうなんです。でっかい声で歌うこともありますよ(笑)。
●バンドの今までの流れとして、歌詞も含めてサチコさんが1人で楽曲を作っていたのが最初だとしたら、ライブをもっと楽しくしたいというベクトルに邁進して、ユウコさんとサヤカさんは作詞にも挑戦し、ユウミさんが持ち前のキャラクターを発揮したのがここ1年ほどで、メンバーの信頼感が更に強くなってきて。でも、それに負けないくらい作曲の面でも成長しているんですね。
サチコ:バンドだからもちろん塊として聴こえてほしいんですけど、その中で、頭であれこれ考えるのではなく感覚で気持ちよく発するメロディが人にも素直に入っていきやすいだろうと思って。そこは今回の制作で重視しました。頭で色々と考えて緻密に作る音楽は、それはそれでいいと思うんです。でも私はそういうタイプじゃないっていうか。
●なるほど。6月からはレコ発ツアー"~喜怒愛ROCK~"が始まりますが、結構な本数をまわるんですね。
サチコ:ライブ三昧しようと思ってます。他のバンドに比べたらまだまだ私たちはライブが少ないと思うので、たくさんやっていきたいです。
●ライブをやっている感覚は、最近はどんな感じなんですか?
サチコ:グルーヴと言うんでしょうか、バンドとしてのノリを以前よりも意識するようになっていますね。
ユウコ:ちゃんとひとつの塊としてお客さんに伝えたい。
サチコ:新曲をライブでやっていくことで、どんどん自分たちのあり方も変わっていくんだろうと思うし。新曲ができてCDを出して終わりじゃないし、それは1個目の段階だと思うから、ライブの1本1本が前進し続けていく感覚があります。
ユウミ:最近はみんなが素に近い状態でいられるのがいいかなと思っていて。無理せず、楽しみたいときには私がガーッとMCをするという。
●より自然体になっていると。
サチコ:そうそう。ステージの上で自然体になるために今まで探しながらやってきた部分がありますね。やっぱり音楽を奏でているときは素の自分でいたい。
●ステージの上がいちばん自然でいられる?
サチコ:そうかもしれないですね。家にいるときはずっと考えごとをしているんです。思ったことや"今日はあの人がこんなことをいっていたなあ"とかをノートに書いているんです。
●そんなノートがあるのか。
サチコ:感情を書き留める感覚でやっているから、ステージに上がるまでの自分はノートとの睨めっこだったりするわけですよ。
●感情を書き留めるノート…すごく重みがありそうですが(笑)。
サチコ:自分はこういう気持ちでライブがしたいんだとか、こういう風にお客さんと接したい、ライブに対する意気込みとか書いてあって。「今日はこのページにしよう」って、ライブ前に読み返しています。
●そのノートは誰にも見せられないですね。
サチコ:絶対に見せないです(笑)。だから日常の自分がそのままステージにいるということに直結していると思います。
●なるほど。ツアーが楽しみですね。
ユウコ:いい夏にしたいね!
●女性としては別にして(笑)、ライブバンドとしてはいい夏を過ごせそうですね。
サヤカ:いやいや、女性としても今年の夏はなにがあるか分からないですよ(笑)。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M