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fifi

夢見ることへの想いを根底に生み出された珠玉の名曲たちが 未来への道筋を照らす光となる

fifi_2013aphoto_350海外の“エモ”と呼ばれる音楽をベースにしつつ、日本語詞による叙情的なメロディとツインボーカルで独自に昇華したギターロックサウンドを奏でる4人組バンド、fifi(フィフィ)。前作の3rdミニアルバム『orange.ep』でバンドとしてのあり方を確立した彼らが、ニューシングル『約束』をリリースした。2分半ほどの曲の中に自分たちの要素を凝縮したタイトル曲に加えて、切なくも美しいメロディが胸を打つカップリングの「Dreaming Hero」。甲乙つけがたい珠玉の2曲を収録した今作は、飛躍を目指す彼らの道筋を明るく照らし出しているかのようだ。

 

「誰かのところに届いて、その人が一歩先へと踏み出せるように足元を照らせたとしたら、それが僕らの存在意義になる」

●2009年の結成以来、これまでに3枚のepをリリースしているんですよね。

植谷:fifiを結成するまでに、僕もメンバーもそれなりにバンドをやってきてはいたんですよ。“これまでのものを超えた何かをやるために”というところで当時は、音源を流通させるということしか頭に浮かばなくて。だから無理矢理のように全国発売して、ツアーをまわったけど、全く売れずに帰ってきたという…(笑)。そこでは、特に状況は変わらなかったんです。

●そもそも、なぜCDを流通に乗せたいと?

植谷:とにかくCDを作って、全国規模でリリースするということが重要だと思っていたんです。でも戦略もないままノープロモーションで出しても、売れるわけがなくて。それが2作目も続いたけど、その時点ではまだ自分たちの規模を広げる方法がわからなかった。バンドとしては充実していても(売上の)数字では見えないし、状況も変わらないままでそこまで来た感じでしたね。

●“バンドとしては充実”していたというのは、作品やライブには満足していたということですか?

植谷:1枚目のepを出した時も満足していて、2枚目を出した時はもっと満足して…というのをこれまでの3枚で繰り返して今に至るという感じで。最初は本当に感性がないようなところから僕は始まっていて、このバンドでepを3枚重ねてくる中でそこも豊かになってきたんですよ。ライブに関してはずっと満足していなくて、満足できるライブができるようになったのはやっと最近のことですね。そこから自ずと、お客さんの反応も変わってきました。

●バンドとしてのビジョンも、初期はまだハッキリしていなかった?

植谷:そうでしたね。バンドを組んでCDを作ってツアーをまわったことで、そこに気付いたんです。だから、そのプロセス自体は必要なものだったと思っています。元々、僕はインストバンドをやっていて、ポストロックやシューゲイザーがすごく好きだったんですよ。でもやっぱり“もっと伝わることをやりたい”ということで、歌モノのバンドを始めようということになって。

●それがfifiだった。

植谷:Ba./Cho.坪井がすごく音楽に詳しかったので彼に色々と教えてもらいながら、元々好きだった音楽をどうやって自分たちの音楽に昇華するかということを研究し続けて。それがやっとできるようになったのが、3枚目のepだったんです。

●昨年リリースした3rdミニアルバム『orange.ep』で、自分たちの音楽性が確立できてきたと。

植谷:今は“エモ”と呼ばれる音楽が、ウチのバンド内でのキーワードになっているんです。色んなジャンルの中で使われる言葉だし、時代によっても解釈が違うので一概には言えないんですけど、今の時代で音楽を聴いている人たちの間で“エモ”と区分されるものにどうやったらなれるのかということを考えていて。たとえば僕らがJimmy Eat Worldを聴いた時に抱いた感情を、どうやったらリスナーに抱いてもらえるか? それは同じように聴いて欲しいということじゃなくて、同じ感覚に陥って欲しいという気持ちで今は曲を作っています。

●3枚目以降でサウンドも大きく変わった?

植谷:音自体は大幅に変わったわけではないんですけど、3枚目以降は作品全体として納得がいっているというか。1・2枚目はまだ“伝える”ということに重きを置いていなかったので、自分たちの中だけで完結するようなアレンジや歌詞で終わっちゃっていたんです。自分たちでもそのままじゃいけないと思っていたんですけど、3枚目を出したいとレーベル側に相談した時に「君たちは(伝えたいことが)何もないよね」と言われて。そこで一度たくさん曲を作ってみようということになって、僕とVo./G.中村と坪井の3人で20曲ずつデモを出し合った全60曲の中から選んでできたのが『orange.ep』だった。だから作品としてできる過程が、過去2枚とは全然違ったんですよね。

●“伝える”ことを意識するようになったんですね。

植谷:ライブや音源の中でどういう言葉がどういう人に刺さるのかということを考えた時に、“自分の頭の中から口を通って誰かの耳に入って心に届く”という道筋が見えていないと、音楽ってできないんだなと思ったんです。そこからその道筋が見えているような気持ちで歌ったり、その道筋を想像しながら曲を作ったりということができるようになって。だから最近では歌詞の意味を訊かれても答えられるし、誰かのために歌うことができるような自分でいられているのかなと思います。

●そういう意味で、『orange.ep』はバンドの転換点だったのでは?

植谷:実質的には『orange.ep』が“1st”みたいな感覚ですね。たまに「もう3枚もリリースしているんですね」とか言われるんですけど、自分としてはまだまだ“新人”のつもりです(笑)。

●実際にそこから状況も変わってきた?

植谷:本当に良い音楽と自分たちの音楽との境界線にあって、まだ超えられていないものが何なのかということを知るための2年間くらいを僕らは経ていて。その後で出したのが3枚目で、そのツアーから帰ってきたら状況が変わっていましたね。周りの評判も上がって、ライブにお客さんが来てくれるようになったりもして、そこで“今までやってきて良かったな”と思いました。

●周りの評価や動員の増加で、初めて目に見える変化が起きたというか。

植谷:“たくさんの人に聴いてもらいたい”とか“売れたい”っていうことはずっと思っているんですけど、昔はそれがどういうことなのかもよくわかっていなかったんです。実際に見えているものしか、見えていないというか。日常生活の中で見える世界でしか自分の評価を作れないし、そのイメージの中でしか曲も作れなかったんですよね。だから、どうしても歌詞が曖昧になったりもしたし、夢を持つこともできなくて。何となく“売れたらいいな”くらいのことしかイメージできなかった。

●そこが変わったキッカケは?

植谷:明確なキッカケはわからないんですけど、色んな人と出会っていく中で自分が見える範囲内でイメージできることっていうのが本当に狭くて、世の中にとってはどれだけ小さなことかというのに気付いたんです。もっと外を見ようと思ったら、意外と見えてきたというか。そういう変化が僕の中ではありましたね。

●当時はまだ自分自身のことも見えていなかった?

植谷:全然見えていなかったですね。僕はいわゆる天才肌じゃなくて、“ザ・凡人”っていう感じだと思うんです。同世代で先に一線へと出ていくバンドたちを後ろから見ているばかりだったし、それは大事なことが何なのか気付くのが遅かったからなんですよね。そういう意味で後悔はあるけど、天才にはなれないから何を武器にして戦っていくのかということを今は日々考えています。

●自分たちなりのあり方というか。

植谷:バンドとしてのあり方は見えるようになりましたね。今はそんなに苦労なく曲を作れたり、自分たちなりのスタイルを立てられるというところまでは来ているので、それが“どこまで続くのかな?”と考えながらやっていくのが楽しくて。今回のシングルに収録した2曲はどちらも同じ時期に作ったんですけど、バンドとして持っている要素を詰め込めるだけ詰め込もうというコンセプトの下で作ったものなんです。特にM-1「約束」は2分半くらいしかない中でも、やれるだけのことは詰め込めたという感覚があります。

●短い中に自分たちの要素をどれだけ凝縮できるかという挑戦をしたわけですね。

植谷:そこでどういうことがやれるかをみんなで一緒に考えながら作ったので、この曲は作曲クレジットが“fifi”になっていて。逆にM-2「Dreaming Hero」は、僕が1人で書き上げた曲なんですよ。個人的にはすごく気に入っていて、自分のアイデンティティはこの曲に全部入れられたなと思っています。

●植谷くんの思っていることが、この曲の歌詞に表現されている?

植谷:今回の2曲に関しては、どちらも自分をそのまま投影させた感じですね。僕は“夢”という言葉がすごく好きで、夢を見るということが生きる意味だと思っているんですよ。生きている中で“そこに本当に夢があるのか?”ということを、常に自問自答していて。“夢がないならやめるし、そこに夢があるなら行く”っていう1つの物差しになっているんです。その“夢を大切にする”っていう想いをどうやって曲に表現するかということを最近ずっと考えているので、今回の2曲はどちらも“夢を見る気持ち”とか“夢を見ることの大切さ”というところから言葉が全部広がっている感じになっています。

●夢があることで希望も生まれて、先へと進んでいく力にもなるわけですよね。

植谷:僕らはバンドとして、“誰かの灯台になりたい”というテーマを持っていて。灯台みたいに、誰かの道筋を照らし出していきたいんですよね。僕らの言葉や音楽、あるいは存在自体だったり、僕らが起こしたアクションによって道筋が照らされたりすることもあると思うんですよ。誰かのところに届いて、その人が一歩先へと踏み出せるように足元を照らせたとしたら、それが僕らの存在意義になるというか。

●fifiのロゴの“i”が灯台の絵になっているのも、そういう意志の表れでしょうか?

植谷:これを始めたのも、ここ1年くらいのことなんです。そこもバンドとしてのビジョンが明確になったということではありますね。“光”って暗闇の中でしかよくわからないものだけど、それと同じように誰かがつらい時に僕らの音楽を聴いてくれたらいいなと思っていて。“誰かのために”ということを切に思って今回の歌詞や曲も書いたので、結果としてそれが誰かの光になったらいいなと思っています。

●『orange.ep』で見えたものをさらに突き詰めて、2曲の中に凝縮して詰め込んだのが今作なのかなと感じました。

植谷:前作は5曲入りだったんですけど、そこで見せた表現の振り幅って意外と狭くて。今の僕らができることはまだ限定されている中で、より狭めたとしてもより凝縮してパワフルにすることが大切だなと思ったんです。それが今回の2曲ではできましたね。前作を経てから生まれた今回の2曲を聴いてもらえれば、fifiというバンドが何を大切に進んでいきたいのかっていうことが見えてくると思うんですよ。

●価格も500円ということで手に取りやすいし、fifiというバンドを知るキッカケの1枚にもなりそうです。

植谷:たくさんの人に知ってもらうキッカケにはなって欲しいし、今まで少しだけ聴いたことがあるという人に本気で好きになってもらうキッカケにもなって欲しいなと思っていて。やっぱり僕らのことを一番好きになって欲しいんですよね。だから誰よりも特別な存在であるために自分たちができることを常に模索しながら、曲を作ったりイベントを企画したりしています。

●そして今作を作ったことが次の作品へのキッカケにもなるというか。

植谷:もう次の作品についても考えているんですけど、ここからどう結論付けるかというのを1つのポイントとして、見ていてくれたらなと思います。この2曲だけじゃ満足できないっていう人もいると思うので、そういう人のために次のビジョンを持って今は動いているところなんです。

●ある意味で、次が1つの到達点になりそうですね。

植谷:そうですね。結果としてはまだまだなんですけど、過程としてやるべきことはやってきているから。これまでに何枚か作品を出してきたことに対して、次で1つの答えを出さなくてはいけないタイミングだと思っているんです。そこで多くの人に受け入れられたなら間違っていなかったということだから、そうなると信じて今は曲を作っています。

Interview:IMAI

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