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FAT PROP

新しい世界を描き出したグッドミュージック

 2010年9月にリリースした1stアルバム『THE DIE IS CAST』が大きな反響を呼び、全国ツアーを大成功に納めて大きな存在感を示したFAT PROP。2002年の結成以来、鹿児島を拠点に活動を続けてきた彼らが2011年夏に拠点を東京に移し、自らが信じるグッドミュージックを更に進化させて待望の2ndアルバムを完成させた。聴く者と自分たちにとっての“希望”になれと願って紡いだ渾身の12曲は、“ピアノエモーショナル”の枠をはるかに超え、ライブで最も真価を発揮するグッドミュージック。ライブハウスでその音楽を体感し、彼らと一緒に心ゆくまで暴れよう。

 

FAT PROP : Cover & Interview - Part 1

「バンドにとってはやっぱりよかったです。"まだまだ俺らやれるんだ"っていう根拠のある自信につながった」

●昨年9月にリリースした1stアルバム『THE DIE IS CAST』は第3回CDショップ大賞にもノミネートされて…。

Shintaro:大賞は獲れなかったんですけど。

一同:(笑)。

●でもFAT PROPというバンドをよりたくさんの人に知ってもらうきっかけになった作品でしたよね。今から振り返ってみると、前作はどういうアルバムだったと思いますか?

Shintaro:『THE DIE IS CAST』の前に同じ今のレーベルでミニアルバム『Close My Eyes』をリリース(2010年5月)しているんですけど、その前となると2008年4月に出したミニアルバム『CHANGE THE FUTURE』まで遡るんです。

●レーベルの移籍もあってかなり時間が空きましたよね。

Shintaro:はい。要するにリリースしたくてもできなかった期間が2年くらいあって。その間にメンバーチェンジがあって今のメンバーが揃ったんですけど、曲はずーっと作ってて、でも出せなくて。だから『THE DIE IS CAST』はそれまで貯めに貯めていたエネルギーを凝縮してバーン! と出したっていう感じがあって。久しぶりのリリースだったけどパンチは出せたかなと思います。自信はもちろんあったんですけど、大コケする可能性だってあるわけじゃないですか。リリースがしばらくなかったからもう忘れられているだろうなという不安もある中で出したアルバムだったんですけど、認知度が上がる結果になってくれて。よかったなっていう感じです(笑)。

●不安もあったんですね。
Ema:"THE DIE IS CAST"(意味:賽は投げられた)というタイトルにもある通り"やるぞ!"っていう気持ちは強かったんですけど、やっぱり不安も大きかったんです。

Nagiken:出せなかった期間は、精神的に結構ギリギリの状態にまでいってたよね。前のレーベルとの契約が切れたとき、モチベーションを下げないようにがんばっていたつもりですけど、でも見通しは立ってないわけじゃないですか。自分たちでツアー組んだり物販作ったりして活動は続けていたんですけど、さっきShintaroが言ったみたいにいざCDを出すまで"不安"みたいなものは拭えなくて。そういう経緯があって『THE DIE IS CAST』でひとつの結果が出せたから、バンドにとってはやっぱりよかったです。"まだまだ俺らやれるんだ"っていう根拠のある自信につながった。

●『THE DIE IS CAST』をリリース後もツアーやライブなどで忙しく活動してきましたが、今年の7月に上京したんですよね?

Shintaro:そうです。俺とEmaは東京じゃなくて埼玉県民なんですけど(笑)。
Ema:でも僕は今月から都民になります。

●上京したのは、より音楽に専念するため?

Shintaro:そうですね。それまでもしょっちゅうライブで東京に来ていたので真新しい感じはしないんですけど、やっぱり生活のリズムとかも違うから、鹿児島に居たら緩くなっちゃうんですよね。僕らが鹿児島に住んでいたのは"鹿児島が好きだから"っていう音楽的じゃない理由だけなので、もういいんじゃないかと。

●今回リリースとなるアルバム『Brand New World』は、いつごろから作り始めたんですか?

Shintaro:曲を作り始めたのは『THE DIE IS CAST』のレコーディングが終わった次の日からなんです。

●常に曲を作っていたんですね。

Shintaro:はい。僕ら曲を作るのが好きなんです。だから今回のアルバムは、それまでに作ってきた曲の中から選んだというか。だいたい候補曲が20曲弱あって、その中から選んでます。

●作品の全体像はどのように考えたんですか?

Shintaro:最初はライブのセットリストをイメージするんです。そのときに、今やっている曲に代わる曲だったり、今までになかったような雰囲気の曲をイメージしたりして。そういうイメージを落としこんで「じゃあこういう作品を作ろうか」っていう感じで進めていくんです。

●ということは、ライブで演奏することを想像しながら曲を作る?

Shintaro:そうですね。そうやって作ることが多いです。曲はだいたい僕とRindaで元ネタを作るんですけど、2人でスタジオに入ってメロディからパーッと。その時点ではコード分解もせずにラフな感じで1コーラスくらい作るんです。それができたらNagikenとEmaに聴かせて、どういう方向に持っていくかということを話し合ってみんなのベクトルを合わせて。「じゃあやりましょう」って4人でスタジオに入るんです。

●基本的に歌メロから作るんですね。

Rinda:そうですね。

Shintaro:たまにリフから作ることもありますけど、そういうケースは本当に少ないですね。

●今作に収録されている楽曲はとてもバラエティに富んでいるじゃないですか。なんかグルッと一周している感じがあるというか。USからの影響が多いと感じたんですけど、ジャンルも時代も様々な音楽の要素が入っている。

Shintaro:ああ~。

●ただそれも、単に色んな音楽の要素を摘んでブレンドしました、というわけではなくて、どの曲も音のひとつひとつに"聴き手をこうさせたい"という意志というか、ベクトルみたいなものを感じるんです。例えば「ライブで踊らせたい」と考えて作った曲があったとしたら、聴けば踊らざるをえないレベルにまでアレンジやメロディを追求した跡が伺えるというか。

Nagiken:うんうん。

●例えるなら、直接手で触るんじゃなくて音楽でペッティングしているという。

一同:ハハハハハハハ(笑)。

Rinda:ひどい例え(笑)。

Shintaro:でもそういう気持ちは強いです。ライブとかも、ステージから指図とかはあまりしたくないというか。「こうしろ!」とか言いたくない。

●「濡れろ!」とか言いたくない?

Shintaro:「濡れろ!」とかじゃなくて「どうせ濡れてるんだろ?」と言いたい(笑)。

●アハハハハ(笑)。

Shintaro:そこの違いというか価値観は僕らハッキリしているかもしれないです。さっき「どういう方向に持っていくかということを話し合ってみんなのベクトルを合わせる」と言いましたけど、そこで色とか雰囲気は決まりますし、アレンジしてみたら変わることもたまにありますけど、大体はそこで合わせたベクトルに着地しますね。

FAT PROP : Cover & Interview - Part 2

「"明るい未来"なんて考えられる状況じゃなかったと思うんです。そういう人たちに希望を感じて欲しい」

●今回のアルバムは全体的にアッパーで開けた雰囲気の曲が多いと思うんです。そんな中で、リード曲のM-2「Stop The Time」はエモーショナルというかストイックというか、かなりソリッドな雰囲気ですよね。歌詞の内容も決してハッピーではないし。なぜこの曲をリード曲にしようと?

Shintaro:「Stop The Time」をリード曲にしたのは…正直に言うと大人たちの推薦というか。

●正直ですね(笑)。

一同:(笑)。

Shintaro:僕ら的には全部いい曲だと思っているし、「どれをリード曲にしても僕ら大丈夫です」っていう感じだったんです。今回PVを3曲(M-2「Stop The Time」、M-4「CAN'T STOP THE MUSIC」、M-6「Brand New Morning」)撮ったんですけど、僕ら的には「Brand New Morning」のPVさえ撮れればいいなと思っていて。

●なるほど。

Shintaro:「Stop The Time」は瞬発力がある曲だと思うんです。だからリード曲にして聴いてもらえる機会が多くなれば、僕らに興味を持ってもらえるチャンスも増えるだろうなという考えもあって。

●「Stop The Time」はさっき言ったように、アルバムの中でもシリアス度が高い曲だと思うんですよ。どういう経緯でできた曲なんですか?

Shintaro:僕ら「ピアノエモバンド」と言われることが多いんです。でも僕ら自身は全然そういうつもりはなくて、ジャンルレスで色々と好きな音楽をやっている感じなんですけど、でも「ピアノエモバンド」と言われることが多いから、敢えて「ピアノエモってこういう感じ?」という感じで書きました。

Nagiken:意識的に"ピアノエモ"を狙って作ったというか。

●今までジャンルやカテゴリーを意識していなかったけど、敢えてよくカテゴライズされる"ピアノエモ"を作ってみたと。

Shintaro:そうですね。

●「Brand New Morning」のPVさえ撮れればいいと思っていたのは何か理由があるんですか?

Shintaro:やっぱり震災とかあったし、アルバムのタイトルを"Brand New World"にした理由にも関係するんですけど…たぶん被災した人たちって、僕らが想像もつかないくらい心がボロボロになっていると思うんです。

●はい。

Shintaro:それこそ直後なんて、"明るい未来"なんて考えられる状況じゃなかったと思うんです。そういう人たちに希望を感じて欲しいし、被災しなかった人たちには生活の中での希望になれればいいなと思うんです。もちろん僕らにとってもこのアルバムはやっぱり希望であって欲しい。

●うんうん。

Shintaro:今回のアルバムはそういうテーマがコンセプトとしてあって。その中でいちばんテーマを表現できたのが「Brand New Morning」なんです。

●それは今までFAT PROPが活動してきた中で培ったお客さんとの接し方というか、FAT PROPというバンドの姿勢だと思うんですよね。「Brand New Morning」だけじゃなくて色んな曲にそういう姿勢が表れているような気がして。

Shintaro:昔は"ただ楽しくやってればいいや"っていう気持ちもあったんですけど、今はもう感謝しかないですね。

Nagiken:例えば12曲入りのアルバムだとして12曲しか作らないのは違うと思うんですよ。それ以上作って、自分たちなりに選抜した曲を入れる。それがお客さんに対しての誠意だと思うんです。

●はいはい。

Shintaro:それに、ライブ1本1本に対する本気度は昔に比べて遥かに強くなりました。例えば今作のリリースツアーは32本あるんですけど、僕らにとっては32本の中の1本かもしれないけど、ほとんどのお客さんにとっては1本じゃないですか。

●そうですね。

Shintaro:そういう人たちの前で「今日は調子悪かったね」みたいなライブなんて絶対に観せたくないし、観せたらダメだと思うんです。そういう気持ちは昔と比べものにならないくらい強くなりました。

●何かきっかけがあったわけではなく、徐々にそうなってきたんですか?

Shintaro:そうですね。"もっとちゃんと音楽しよう"という気持ちが日増しに強くなっているだけだと思います。

●音楽やライブに対する姿勢について、メンバー間で話し合ったりはするんですか?

Shintaro:僕らたぶん、他のバンドに比べていっぱいミーティングをやると思います。ライブの後もそうだし、リハでみんなが集まるタイミングとかでもちょっとした意識のズレとかを修正したりすることは多いです。

●具体的にはどういうことを話したりするんですか?

Nagiken:「ライブこのままじゃダメだよね」みたいなシンプルなことも話し合いますし、例えば今回のツアーファイナルは渋谷CLUB QUATTROのワンマンですけど、"渋谷CLUB QUATTROを成功させるためには何をすべきか?"ということをひとりひとりが頭の中にイメージして、それから取り掛かるっていう。そういうミーティングを節目節目でして、それから派生することを都度話し合っていく。

Shintaro:やっぱり目標設定が大事だと思うので。昔はそういうことが全然できてなかったんですよ。会社の経営者が「目標設定はお前らが考えているより10倍くらい大事だぞ」とか言ったりするじゃないですか。その言葉に感銘を受けて。

●え? それに感銘を受けたんですか?

Shintaro:はい。たまたまTVを観てたときにそういうことを経営者の人が言ってて、"そうだよな"と思って。例えば漠然と「東京ドームでやります!」とか言ってても全然現実味がないし、それは目標じゃなくて夢なんですよね。じゃなくて、目標という形で設定したらちゃんとそこまでのプロセスが見えるようになったんです。

●目標設定をするようになったのはいつくらいから?

Nagiken:今のメンバーになってからです。さっき言ってたリリースできなかった時期ですね。

●あ、そうなんですね。

Nagiken:それまでなんとなくやれてたのがマズかったんでしょうね。鹿児島にいてCDを出せることが決まって、特に目標とか設定せずにライブとかして。あのころは、周りの人たちががんばってくれていたことによってバンドがずっと成立し続けていたんです。

●確かにCDデビューした当時、新人ながら有名なバンドと九州のツアーをまわったり大きなイベントに出演したりしていましたね。

Nagiken:そうそう。そういう感じで、フワッとではあるけどFAT PROPというバンドを知ってもらえている状況だったんです。それで目標も決めずにツアーを組んでまわったんですけど、目標がないから何に向かっていいのかわからずにフラフラしながらツアーが過ぎていって。

●そうだったのか。

Nagiken:周りの人から提案されたことに「やりましょう」と言っていただけで、その「やりましょう」には自分たちの意志がなかったんです。その程度だったから全然ダメだったんですよね。そういった自分たちの姿勢が招いた結果が、リリースしたくてもできない2年間だったと思っていて。

●ああ~。

Nagiken:だから僕らに当時関わってくれた人たちのことをまったく恨んでいないし、むしろ「すみません」っていう感じ。本当に僕らの意識の低さが招いたことなんですよね。だから以前所属していたレーベルとの契約が切れたときもモチベーションがガーンと下がることはなかったんですよ。何が悪かったのか、そのときにはわかっていたので。

●なるほど。

Nagiken:そのタイミングでShintaroが「目標決めないとダメだ」と言って、そこからみんなで話し合って、"レーベルを付けるためにはどうしたらいいか?" と考え、"だったらバンドが動いていると思ってもらわなくちゃいけないからライブはコンスタントにやる"とか、"音源は出せないけど全国の人に知ってもらうためにツアーはやろう"とか、"ツアーをやるためには…"みたいなことを自分たちで落としこんでいったんです。

●素晴らしいですね。

Nagiken:いや(笑)、前がひどかっただけですよ。その結果、今のレーベルと流通会社が僕らと一緒に仕事をしてくれることになって。色々とバンドとしての人脈が増えてきたことによって、僕らが今まで自分でやっていたことを少しずつやってもらえるような状況になってきたところなんです。

●目標を決めて自分たちで一歩一歩進むようになり、バンドとしてすごく健康的な状態になったんですね。

Rinda:かなり健康的です(笑)。

Nagiken:もしかしたら今の僕らが「ダメだ!」と言っているようなライブも、昔の僕らだったら「OK!」となっていたこともあると思うんですよ。だけど、それが今ダメになっているということは、バンドとしては健康的だと言えますよね。今はライブが終わってすぐに「ここがダメだった」「あそこがダメだった」っていう話を10~20分するんです。昔はそういったこともやっていなかったんですけど、行動した後はすぐに振り返って次につなげていくっていうことが反射的にできるようになりました。

●いいサイクルですね。要するに大人になったと。

Nagiken:大人になりました(笑)。

FAT PROP : Cover & Interview - Part 3

「自分たちの好きな音楽しかやっていないという自負があるのに、人から何か言われることをビビってやらないのはダサいなと」

●ところで今作は日本語詞の曲が2曲あるじゃないですか。「Stop The Time」とM-12「Hello」ですが、これはどういう経緯で?

Nagiken:結成当初は「日本語詞をやりたくない」と言っていた時期もあったんですよ。

●「日本語はダサい」と。

Nagiken:そうですね。そう言ってる自分たちがいちばんダサかったんですけど(笑)、僕とかはもともとJ-POP畑で育っているし、みんなもそこに偏見とか"やりたくない"とかは全然思っていなくて。でも質感というか、英語が日本語に変わるのは難しいから、自分たち的には探り探りできたという感じだったんです。何かきっかけを探していたというか。

●そうだったんですね。

Shintaro:今までずっと英語でやってきましたけど、それは今から考えたら「うわ! 日本語で歌ってる!」と思われることにビビってたのかもしれなくて。

●うんうん。

Shintaro:でも僕らは自分たちの好きな曲しか作らないし、自分たちの好きな音楽しかやっていないという自負があるのに、人から何か言われることをビビってやらないのはダサいなと思うようになって。で、少し前に日本語縛りのコンピがあったんですよ(3/23リリースのコンセプトカバーアルバム『My Tunes supported by SPACE SHOWER TV』)。その話が来たときに「日本語でやらなくちゃいけないけどどうする?」と訊かれて「やります!」って即答して。

Nagiken:僕らきっかけを探していたから「最高のタイミングだ!」と思って。実際にやってみたら全然違和感がなくて。

Shintaro:それに想像していたよりも楽しかったんですよ。

Nagiken:日本語だからお客さんにはストレートに伝わるし。"俺ら全然やれるじゃん"って。

●それがいいきっかけになり、今作の日本語詞につながったわけか。

Rinda:でも実際に歌ってみて、やっぱり最初は違和感があったんですよ。さっき言っていたような"どう思われるかな?"という不安もあったし、もちろん楽しみでもあったんですけど、レコーディングに入るまでは不安の方が大きくて。でも後から客観的に聴き返してみたときに、いい意味で全然雰囲気が違うし新鮮だったんです。

●Rindaくんの歌い方は特徴がありますよね。日本語だけど感触的には英語のような聴こえ方がする。

Shintaro:そこは僕がめちゃくちゃ苦労しました。

●というと?

Shintaro:日本語と英語が持つ言葉のリズムが違いすぎて、普通に歌ったら歌が全然ノってこないんですよ。だから最初は僕が思っていたのと全然イメージが違って、どうやれば歌のノリが出てくるかなと思って、行き着いたのが…東方神起。
●え? 東方神起?

Shintaro:カタコトの日本語みたいな(笑)。そういう発声で歌うといちばんノリが出たんです。もしかしたら"歌詞をストレートに伝える"ということはちょっと犠牲になったのかもしれないですけど。

●要するに響きと意味のバランスがあったとしたら、響き寄りにするということですよね?

Shintaro:そうです。声の響きがいちばんいいところを探して。日本語詞の2曲は、そこに行き着くまでが超難しかったんです。僕はずっと歌録りのときもスタジオに入って、Rindaに「こういう風に歌って欲しい」とか色々と言うんです。でも実際に歌を乗せてみると僕が思っていたのと全然違う感じになってしまって。英語だったらすんなりいくところも日本語だったら勝手が違って。

●それは歌い方を変えて調整したんですか? 歌詞を変えたりもした?

Shintaro:歌詞を変えたりも少しだけしましたけど、ほとんどは歌い方ですね。あとはメロディを変えたり。

●洋楽っぽいメロディに日本語を乗せたら、流れが止まる可能性が出てくるんでしょうね。

Shintaro:そうなんですよ。だから最初はちょっと流れが止まっちゃうような感覚があって。"あれ? どうやればいいのかな?"と試行錯誤したんですけど、このアルバムに入っている歌い方がいちばんシックリきたんです。ちょっと日本語っぽくない感じがハマりましたね。

●なるほど。あと、今作はブラックミュージック的な雰囲気も多いですよね。ファンクやソウル、R&Bとかダンスミュージック…とにかく色んな表現があって。例えばPVを作った「CAN'T STOP THE MUSIC」とか、もう完全にダンスミュージック。

Shintaro:そこに関しては僕らも完全に狙って作っていて。こんなにストレートなダンスミュージックなんて作ったことなかったし。ある日、スタジオにNagikenとEmaがちょっと遅れてくるときがあって、僕とRindaでちょっと遊んでたんですよ。Rindaの鍵盤で「ズンッ! ズンッ! ズンッ! 」みたいなリズムを鳴らしたりして。

●キーボードでドラムンベースみたいな音を出していたと。

Shintaro:そうそう、そしたらディスコみたいな雰囲気になって。そこにRindaが鍵盤を乗せて、僕がギターをパッと乗せたら「あれ? これいけるな」となって。そういう作り方は初めてだったんですよ。いつもはメロディとかから先に作るので。でもおもしろいからその雰囲気のまま曲を作ろうと。

●その場の思いつき的なアイディアから曲になったんですね。でも例えばこの「CAN'T STOP THE MUSIC」のような曲はグルーヴ感がすごくありますけど、だからこそ演奏の難易度は高いんじゃないですか?

Shintaro:縦の軸がブレたらめちゃくちゃになっちゃいますよね。でもこの曲だけじゃなくて、今回のアルバムは前回のアルバムと比べて難易度が全然高いです。

●やりたいことを増やしてみたら…難しかったと。

Nagiken:そうなんですよ(笑)。

Shintaro:やりたいことの器はデカくなってるんですけど、スキルの器はそのままだから難しくなるっていう(笑)。
Ema:特にM-8「Well,Well,Well」はすごく難しかったです。レコーディングのとき、全員のグルーヴが合ってなくて。それぞれ演りたいことをやってたらグチャグチャになってしまって(笑)。

●こういう曲は、聴く分にはものすごく楽しげなんですけどね。
Ema:実際ライブで演ってみたらめちゃめちゃ楽しいんですよ。でもめちゃめちゃ難しい。この曲、レコーディングがうまくできなくて急遽次の日にまわしたよね。

Nagiken:うん。最初ベースをピックで弾いてたんですけど、僕が下手クソだから「指で弾いてよ」って言われたんですよ。でも僕は指弾きしたことがなくて、レコーディングを次の日にまわして夜にひたすら練習して(笑)。

●次の日にちゃんとできたんですね。

Nagiken:まあかろうじて(笑)。だからライブでもこの曲は指弾きで演ります。お互いへの要求が上がってきているんですよね。いい意味で、細かいところがお互いうるさくなってきているというか。
Ema:そうだね。

Nagiken:楽曲の幅が広がってきて、今まで以上にいい曲を作ろうとするからこそ、お互いに求めるレベルも高くなってきているというか。いい意味でそれぞれがそれぞれのパートのことを考えて、意見を言い合いながら作れていると思います。

FAT PROP : Cover & Interview - Part 4

「俺が俺であるというか、自分をいちばん表現できる場所なんです。俺、ホント音楽しかないんですよ」

●そしてリリース後は10/1からツアーが始まって、ファイナルは来年1/20に渋谷CLUB QUATTRO…地元東京でのワンマンですね。

一同:ハハハハ(笑)。

Shintaro:こないだ鹿児島でライブをやったとき、「東京から来ましたFAT PROPです」って言ったときのザワザワ感は半端なかったね(笑)。

●リリースができなかった期間もずっとライブは続けていたという話がありましたが、FAT PROPはライブを大切にしてきたバンドだと思うんです。自分たちにとってライブとは何なんでしょう?

Shintaro:僕らはバンド活動のいちばんベーシックにライブを置いておきたいんです。それが理想っていうか。唯一リアルで、お客さんとコミュニケーションが取れる場所っていうか。だからちょっと異質な空間だし、非日常な感じがするんですよ。

Nagiken:…俺も「異質な空間です」と言おうと思ってたんですよ。だから言うことがカブっちゃったと思って内心びっくりした。…どうしよう? …何て言おう?

●キモいから同じこと言っといたらええやん。

Nagiken:コラ!

一同:(笑)。

Nagiken:ライブは自分をいちばんアピールできる場所っていうか、何の照れもなくかっこつけることができるんですよね。「俺かっこいいっしょ?」と思いながらライブをしているんです。それはメンバーみんな同じだと思うけど。

●いちばん輝ける場所というか。

Nagiken:そうそう。だから楽しいんですよ。ストレスとかとはいちばん無縁の場所っていうか、普段の自分じゃなくなるんです。だからやっぱり異質な空間かな。

●Emaくんはどうですか?
Ema:やっぱりバンドってライブしないとダメだと思うんですよ。そういう表現の場所がないと生きていけないと思うし、お客さんも求めていると思う。すごく大切なものだと思います。

●Rindaくんは?

Rinda:俺が俺であるというか、自分をいちばん表現できる場所なんです。俺、ホント音楽しかないんですよ。
3人:うんうん。

●あ、みんな頷いてる。取り柄が音楽しかないということ?

Rinda:そうなんですよ。高校の文化祭とか、バンドをやっている人たちを俺は見ているだけだったんです。キャーキャー言われているヤツとか見て「すげぇうらやましいな」とか思ってて。
Ema:モテたかったのね(笑)。

Rinda:そういうのを見てギターをやり始めて。そこで"自分には音楽しかないな"と痛感したんです。その究極がライブじゃないですか。みんなが観に来てくれる。だからライブは自分をいちばん表現できる場所なんです。

●いい話ですね。

Rinda:俺、中学校のときは足が速かったんですよ。

●え? 何の話を始めたんですか?

Rinda:色んな大会とか出てたんです。だから「これはイケるぞ!」っ思ってたんです。「俺が進むのは陸上の世界だ!」って。でも全然ダメで。

●全国大会とか出ていたんですか?

Rinda:いや、郡大会です。やっぱり上には上がいるなと。

●郡レベルかよ!

Shintaro:要約すると動機が不純すぎますよね。陸上がダメで、文化祭で友達がモテてたからギター持って、挙句の果てに「俺にはコレしかない!」って(笑)。

一同:アハハハハハハハハ(爆笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka

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