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Drop’s

北の大地で感じた大きな“愛”は衝動的なロックンロールに変化をもたらせた

PHOTO_Drops強烈なロックンロールを鳴らす、札幌在住・5人組ブルーズロックンロールバンドDrop's。骨太でグルーヴィーなアンサンブル、強烈な個性を持つVo./G.中野ミホのヴォーカル、振り切れたテンションで展開するライブは、観た者の記憶のヒダに焼き付く強烈なインパクトを放っている。今年3月に2ndミニアルバム『LOOKING FOR』をリリースし、ツアーやワンマン、フェスへの出演を経た5人が、待望の1stフルアルバム『DAWN SIGNALS』をリリースする。転がり続けている者のみが享受できるロックンロールの“愛”を胸に抱き、5人は最高の音を鳴らし続ける。

 

 

「憧れみたいなものはすごくあるし、そういう風になれるのであればなりたいと、きっとずっと思ってたんです。だから、優しい歌を歌いたい」

●ライブの雰囲気が変わりましたよね。もともと中野さんは、自身の中の鬱々とした気持ちを曲や歌詞にぶちまける志向性が強かったですが、Drop'sのライブもそういう感じが出ていて。でも最近は、前に進む感じとか、5人で音を合わせること自体を楽しんでいて、それによってバンドの一体感がより強くなった。

中野:前作『LOOKING FOR』のツアーが3月の中旬頃からあって、そこで“楽しくていいじゃん”みたいな感じになったんです。私もたぶんみんなも、それまで“吐き出したい”という気持ちが強くてライブをしていたんです。でもみんなでやること自体が楽しいと感じるようになってきて。前作に収録している「赤い花」という曲ができて、前より細かくツアーをまわっていく中でそういう風に変わったんじゃないかなと思います。

●だんだん変わってきたと。

中野:最近は演奏してライブをするっていうこと自体を楽しむ方が、バンドが良くなっていくような感じがあるんです。それはきっと、ひとつのきっかけとして去年の“JOIN ALIVE”があると思うんですけど、その後のワンマンとかは笑いながらライブができたんです。楽しいから、演奏を失敗したりしても“くっそー!”てなるんじゃなくて、笑えるようになった。

●それは大きな変化ですね。

中野:それぞれが技術的にも上手くなっているからかっこよくなっていると思うし、みんなのことをより信頼できるようになっているから、なにがあっても“自分たちのライブだ”っていう安心感があって。そういう気持ちの変化が今回の作品に影響していると思います。みんなを信頼できる割合が今までよりもっと増えたので、曲作りもいい意味でそれぞれのエゴが目に見えて出るようになったんですよ。私以外のメンバーが曲のリフを持って来たりとか。例えばM-4「STRANGE BIRD」は荒谷がほぼ全部持って来たんです。構成もだいたいできていて。「これ、私考えたんだけど…」って持ってきたんです。

●今までそういうことはあったんですか?

中野:ないです。初めてですね。鍵盤のバシ(石橋)も今まで以上にいろんなアプローチをしてくるようになったし、みんなの個性が出る割合が以前と比べて大きくなっていると思います。

●いいことですね。元々Drop'sは高校の軽音楽部で知り合った友達を、中野さんがロックに巻き込んだという経緯があったけど(笑)。

中野:今じゃ逆に脅かされてます。“ヤバいぞ”って感じ(笑)。

●ハハハ(笑)。今作も渋くてブルージーなDrop'sらしさが満載ですけど、さっき言っていた心境の変化みたいなものが伺えたんですよね。サウンド面では聴き手との一体感を作り出すような要素が多く見受けられたり、歌詞については前に進もうとしている心境が表れている。今立っている場所は暗いかもしれないけど、光は見えているというか。

中野:そうですね。作品として具体的なテーマやイメージはなかったんですけど、『LOOKING FOR』の取材のときに「「赤い花」ができたことによって、次に繋がる作品になりました」と散々言ってたじゃないですか。

●散々言ってましたね(笑)。

中野:今回はそれが形になったかなと思います。自分ではメロディがいちばん変わったと思うところなんですけど、メロディの自由度が上がった感覚があるんです。今まであまりポップなものをやるという考えがなかったというか、“そっちじゃないな”と思っていたんですけど、一歩ポップなメロディを出していくと、みんなもそこに反応して、更に出来上がったものは自分たちの音になっているという。そういう安心感があったので、メロディもポップにしてみてもいいんじゃないかって思えたんです。

●そう思えた曲があったんですか?

中野:M-11「太陽」を作ったとき、最初にイントロ部分があって、コード進行があって、サビのメロディが最後まで決まらなかったんです。そこで新しく挑戦したっていうか。今までの自分だったらしなかったようなメロディを作ることができたんです。それをみんなで合わせて歌ったときに、すごく気持ちよくて。こういう風にしてもいいんだと思えたんです。

●「太陽」では愛を歌っているじゃないですか。そういう歌詞を含めてのメロディ感や曲の雰囲気が、バンドとしての変化に繋がっていると感じたんです。

中野:「太陽」は「赤い花」とダイレクトに繋がっているんです。この曲の歌詞は、断片的には前々からあったんですよ。気持ちが一瞬ポジティブになったときにノートに書き取っておいたものがあって。“風が生まれる場所をさがしに行こうよ”というフレーズとか。

●これいいフレーズですよね。希望があるというか、ワクワクする。

中野:それで去年の“JOIN ALIVE”に出たときに、夏で、天気がよくて気持ちがよくて…ロックンロールのすごく大きな力を感じて感動しちゃったんです。これは言葉にするなら“愛”なんじゃないかなって。すごいなって。今までもフェスには行っていたんですけど、そのときはすごく特別に感じたんです。大きな“愛”だなって。

●うんうん。

中野:「太陽」には“地下鉄の駅 涙がでるけれど”という歌詞がありますけど、それは“JOIN ALIVE”が終わって、地下鉄にひとりで乗って、ライブでThe Birthdayが演奏していた曲とかを携帯音楽プレイヤーで聴いてたら涙が出たんですよ。なんでかわかんないけど(笑)。あの空間からまた普段の生活に戻って、またバイトに行って、寂しいんだけど…。

●“愛”の感触は覚えている。

中野:そうなんです。普段のみんなとの会話だったり、終わってしまった寂しさと、普段あるものとを総合した気持ちを曲にしたというか。

●以前のインタビューで言っていたように、中野さんは「全てがくだらない」と思って生きていたわけですよね。そういう鬱屈とした気持ちをDrop'sの音楽にぶちまけていて。でも今の話からすると、音楽で助けられるような実感があるんでしょうね。例えば今回のM-1「RED INDENTITY BAND」で“夢を見させておくれよ 今夜だけは”と歌っていますけど、音楽が持つ力とか、ロックが持つエネルギーに助けられている人のような気がする。

中野:フフフ(笑)。助けられる音楽って、すごく優しさがあるんですよね。どこかに連れて行ってくれるような大きいものがある音楽に私はすごく助けられるんですけど、今までは助けられる音楽と自分がやっている音楽は完全に別という気がしていて。

●“私は助ける側じゃない”と。

中野:そうなんです。くだらないと思ってることやイライラしていることを自分は書くけど、助けられる人に助けてもらうっていう。

●ちょっと自分勝手ですね(笑)。

中野:アハハ(笑)。イライラを自分の音楽で吐き出しておきながら、人の音楽で助けられるという(笑)。というのは、自分はまだ助けられるまでに至っていないと思っていたんです。私はエレファントカシマシとかが大好きで、すっごく助けられていて。でも私は「がんばろう」だなんて絶対に言えないし、そんなに強さがないっていうか。

●「恐れ多いです」と。

中野:そうそう。他の人に対して今はまだ「かんばろうよ」とかを音楽で言うところまでは行っていないと思っていて。だけど憧れみたいなものはすごくあるし、そういう風になれるのであればなりたいと、きっとずっと思ってたんです。だから、優しい歌を歌いたい。

●今言っていることは、M-8「やさしさ」で歌っていることそのままですね。

中野:そっち側になりたい感じも出ていると思います。たぶん自分自身、少しずつ変わってきているんです。ライブが楽しくなったっていうのもあるし、M-3「JET SPARK」とでは“意味分かんないけど楽しい”という気持ちを書けたんです。“思っていることをそのまま言っちゃえ!”という自由度が出てきたというか。今までは歌詞がひとりだったんですよね。

●歌詞の中ではひとりだった。

中野:夜ひとりで家にいたり歩いたりがメインの歌詞だったと思うんですけど、メンバーや周りの人との信頼関係も“愛”っていう言葉に繋がっているから、やっぱり褒めてくれると嬉しいし。

●“ほめてほしい”とも歌ってるし(M-5「カルーセル・ワルツ」)。歌詞を時系列に並べたら、中野さんの変化が如実にわかりますね。

中野:それは荒谷にも言われました(笑)。

●ハハハ(笑)。さっきおっしゃっていましたが、「STRANGE BIRD」は荒谷さんが持ってきたんですよね。そういう曲に歌詞を乗せる感覚はどうでしたか?

中野:これはレコーディング中に歌詞を書いたんです。荒谷がどういう気持ちでその曲を出してきたのかっていうのがわかんないし、最初は“人の曲に詞を書くっていうのはどうしたらいいんだ?”と思っていて。荒谷に「この曲ってどういうイメージなの?」と訊いたんですよ。そしたら一言「ない」って言われて(笑)。

●アハハハハ(笑)。

中野:それでも「え? なんかないの?」って訊いたら、「The Who聴いてて作った」とか言われて。“えー!?”ってなるじゃないですか。

●なりますね(笑)。

中野:そこで“じゃあイギリスなんだ”みたいな。ヒントにもならないくらいの情報しか与えられなくて、ぶん投げられて、音の感じから最大限想像力を膨らませて。音からは極彩色がイメージできたので、そこからワーッ! と書いたんです。“今日も明日も働きたくない”っていうのは、リアルタイムで思っていたことなんですけど…。

●泣きながらバイトに行くわけですもんね。

中野:ウフフ(笑)。

●歌詞を見せたとき、荒谷さんは何か言ってました?

中野:特に何も言ってないです。「ああ、かっこいいね」みたいな。ひどい話ですけど(笑)。

●でもこういう方法で曲が出来たということは、バンドの幅が広がりますよね。彼女は彼女なりに、自分も曲を作りたいと思っていたんだろうし。

中野:そうだと思います。

●石橋さんもアイディアをより出すようになったという話がありましたけど。

中野:きっとバシは自分の中で独特の感覚があると思うんですけど、和音にしても難しいものを使っているんです。私は音楽理論とか詳しくないから「え? それ間違いじゃないの?」って訊いたら「いや、これであってるから」と言われることもあって。自分からは言わないけど、彼女なりにいろいろ挑戦していると思います。そういうのは以前よりもすごく増えたんです。きっとメンバーそれぞれ、自分の立ち位置が前より固まってきたんだと思います。

●いいことですよね。首謀者である中野さんの立場的にはちょっとピンチですけど(笑)。

中野:そうなんですよ。なんか“強気で来られた…”みたいな。主導権が無くなってきてます。

●ハハハ(笑)。

中野:「こっちの音の方がいいから」みたいなことを言われて「あ、そうですか…わかりました」っていうのが増えてきているかも(笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

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