『ぶっとびぱなし』とは思い切ったタイトルだが、この音を聴いてみれば納得するはずだろう。とにかく吹っ切れている。心の奥底から湧き立つ熱い衝動と切迫感を一切損ねることなく、ダイレクトにリスナーへと伝えるべく練られたサウンドメイク。だが、そこに“大人”のあざとさなど全く感じさせない。ギラギラとした不良のマインドは普遍的な感覚にまで昇華され、80年代のジャパニーズ・パンク黄金期を彷彿とさせる楽曲に乗せて吐き出されていく。十代の終焉を象徴するような1stフルアルバム『End of teenage』から1年の時を経て、二十歳になったドルーギー(不良仲間)たちが作り上げた2枚目のフルアルバム。ここには故郷に別れを告げ、妖しいネオン輝く東京の夜へと飛び込んだ4人の揺るぎない覚悟も詰まっている。笑うしかない現実や意地悪な夢の世界も全部ひっくるめて、彼らはこれからもぶっとびぱなし続けるのだ。
●以前は大分在住だったわけですが、現在はもう東京で暮らしているそうですね。
カタヤマ:去年の10月に上京して来ました。それまでも大分と東京を行ったり来たりはしていたんですけど。
●上京して、東京に対するイメージも変わった?
荒金:大分と行ったり来たりしていた頃のほうが、東京がキラキラしていたイメージはあります。でも住んだら大体行くところとかも決まってきて、生活のリズムとかもできてきて…すげぇムカついてますね。
●ムカついている…とは何に対して?
荒金:前は旅行に来たような感覚で、「東京や〜!」みたいな気持ちがあったんです。でも“生活(する場所)”っていう感じになると何か…。
カタヤマ:前は東京のキラキラした部分だけを見ていたけど、そこで生活するようになるとキラキラしている以外の部分も見なきゃいけなくなって、そこにムカついたっていうことじゃない?
荒金:そうやね。キラキラしていない部分も東京にいることで、よく見えるようになったんかな。
●元々は東京に対して、キラキラしたイメージがあったと。
荒金:そういうキラキラした感じやフワフワした感じというのも、今回のテーマとしてあって。だからバンドロゴもネオンサインみたいにして、ジャケットもカラフルなイメージにしたんです。
●前作の1stフルアルバム『End of teenage』は白黒を基調としたジャケットでしたが、一転して今回の『ぶっとびぱなし』はカラフルになりましたよね。
カタヤマ:俺らが好きな70年代のパンクバンドって大体、1stアルバムのジャケットは白黒なんですよ。ラモーンズやニューヨーク・ドールズもそうだった。でもそういうバンドって、2ndアルバムになるとジャケットがカラフルになるんです。だから単純に、自分たちもそういう感じにしたかったというだけですね(笑)。
●そういう理由で、今回はこのジャケットになった。
カタヤマ:あと、白黒だったら“夜”という感じが出ないなと思って。今回は歌詞のテーマが全部、“夜”なんですよ。それを色んな言い方で言っているだけというか。M-6「太陽の目を盗んで」というタイトルも、要は夜のことですからね。元々、夜のほうが好きだし、夜ってドキドキするじゃないですか?
●確かに夜のドキドキ感ってありますよね。妖しく輝くネオンサインに惹かれる感じだったり…。
カタヤマ:明かりに惹かれて…というのも上京につながると思うし。「ネオンに惹かれて東京に来た」みたいな。
●東京の夜についても、大分から見ていた時と実際にそこで生活する今とでは印象が違うのでは?
カタヤマ:今回の歌詞は全部、向こう(大分)から見た東京の夜かもしれないです。今回は上京してくるタイミングで作った曲が多いので、大分での思い出みたいなものが多く入っていて。特にM-3「Johnny&Vicious」は、大分から東京に出てくる時の気持ちがリアルに出ているんじゃないかな。
●このタイトルはセックス・ピストルズのジョニー・ロットンとシド・ヴィシャスのこと?
カタヤマ:そうです。実家の部屋にジョニー・ロットンとシド・ヴィシャスのポスターが貼ってあるんですよ。そこへの“バイバイ”みたいな感じですね。
●故郷への別れという想いも込められている?
カタヤマ:そういう気持ちもあります。
●前作の『End of teenage』も“十代の終焉”という意味で、過去との決別という意味があったのかなと思っていて。実際の音からも吹っ切れた印象を受けたんですが、自分たちにとってはどんな作品でしたか?
荒金:自分らが好きやったけど上手く表現できていなかったことを、前作では良い感じで形にできたんです。前回は(プロデューサーに佐藤)タイジさんがいたのも、すごく大きくて。俺たちが「こういうのをやってみたいんです」と言うことに対して何でもタイジさんが「いいやん! やってみようよ」とポジティブに応えてくれたから、色々吐き出せたというか。吐き出し方を教わったことで、スッキリした感じはありましたね。
●本当にやりたかったことを形にできた作品だった。
荒金:そういう曲を今までやったことがないから、「どうなんだろう?」っていう気持ちは正直ありましたけどね。でもツアーをまわってみると、自分たちの中でも良い感覚があったんです。そこで「こういうものを出しても良いんだ」と思えたという意味でも特別なアルバムになったし、ツアーが終わってからも「やっぱり良かったな」って思えたというか。
●ツアー中の感覚が良かったというのは、お客さんの反応も含めて?
荒金:そうです。「ガッカリさせてしまうんじゃないか?」とか思っていたけど、お客さんもちゃんとついてきてくれて。やっていて僕らも楽しかったし、「そこの信頼関係はあるんやな」とツアーで思えました。
●ライブで得た感覚は今作にも出ている気がします。お客さんも含めて一緒にライブで盛り上がっている画が想像できる楽曲というか。
カタヤマ:確かにそうなっていますね。
荒金:前作の「日々の泡」や「街の灯」「健康優良不良少年」あたりをツアーでやった時の感覚が良かったので、「その延長線上になるのかな」ということは(今作を)作り始めた当初から何となくあったんです。感覚的なものだったので具体的にどうすれば良いのかはまだわからなかったけど、何となく「あの感じの先にあるものなのかな」とは思っていましたね。
●ある程度の方向性は見えている中で、今回の曲作りを始めたと。
カタヤマ:当初は今までどおりの感覚で作り始めていたんですけど、そうやってできた曲には「何か違うな」っていう感じがあって。なんでそう思うのかはよくわからなかったんですけど。とりあえず「このままじゃダメなんだな」という意識は4人の中にあったので、そこから“先にテーマを決める”という形になりました。
●今までとは作り方も変えたんですね。
荒金:今まではとにかく曲数を作って、その中からしっくりくるものだけを選んでいたんです。今回は目標があってそこに向かっていたので、途中で「できないかも」と思ってもやめるわけにはいかなくて。すごくつらかったですけど、それによってみんなが成長できたなと思います。最初に決めた目標があるので、「時間がかかりそうだな」とか「険しい道のりになりそうだな」と思っても、「絶対に良いものになる」っていう確信があればその方向に進むようにしていましたね。
●その目標というのはたとえば?
カタヤマ:たとえば“ライブでみんながワーッとなる感じ”とか、“はっちゃけた感じ”みたいな。
荒金:“みんなでワイワイはしゃいでいる感じ”とか、そういうのがしっくりくるなと思って。あと、ざっくりとしたイメージとしては70年代〜80年代の日本語のロックやパンクみたいなものにしたくて、そこを目指して作ってはいました。
●確かに楽曲を聴いていても、やっている本人たちが楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
荒金:ワイワイはしゃいでいる感じは、すごく出したかったんです。
カタヤマ:以前からそういうつもりでライブもやってはいたんですけど、自分たちが思っているほどにはお客さんがワーッとならなくて。それがなぜなのかと考えた時に、こういう曲たちが生まれてきましたね。
●楽曲がよりメロディアスになったことも、そういう雰囲気につながっているのかなと。
荒金:そういう目標も初めからあって。今作の中で最初のほうにできたのが、「Johnny&Vicious」やM-5「Neon Sign」だったんですよ。「Neon Sign」の(冒頭の)“イェイェイェー”っていう部分ができた時に、ライブで感じた感覚の延長線上にあるものが良い形になったなという気がしたんです。「これって何だろう?」と考えた時にパンクで言ったらBOYSみたいなちょっとパワーポップ寄りのやつだったり、ナックやベイ・シティ・ローラーズみたいなアイドルっぽくてリフとかがすごくキャッチーなやつが近いのかなと思って。曲の目標として、最初からそういうイメージはありました。
●カタヤマくんの歌もメロディアスになった気が…。
カタヤマ:俺はメロディを先に作るので、そのメロディに合った言葉を選ぼうということは意識するようになりましたね。「このメロディにこの言葉は合わんな」とか前は思わんかったけど、そういうことも今は考えるようになりました。
●そういうことを考えるようになったキッカケとは?
カタヤマ:やっぱり(ライブで)お客さんを見た時じゃないかな。「もっと伝わっても良いはずなのにな」と思っていたんですよ。
●お客さんにもっと伝えるためにはどうすれば良いかということを考えた?
荒金:別に今までも伝わっていなかったというわけじゃないんですけど、「もっと伝わる方法がないかな?」ということを考えて。そこで今回はギターに関しても歪みを抑えて、より生音に近くしたんです。それによって、耳に入ってくる感じが前よりも強くなったと思います。(カタヤマ)ヒロキにも、前より生(の声)に近い感じで歌ってもらいました。
カタヤマ:前は“叫んでいるだけ!”みたいな感じだったから(笑)。基本的に俺は、叫んでいる感じ(の歌い方)が好きなんですよ。そういうミュージシャンやバンドが好きだし。でも今回は「自分の生の声はあんまり好きじゃないけど、そっちのほうがより伝わるんじゃないか」と思って。人間味も出るし、そこまでさらけ出したいという気持ちがあったんです。
●ありのままの自分を出せるようになったというのも、吐き出し方を覚えたからでしょうね。
荒金:「不恰好でもいいんだな」っていうことを最近はすごく思っています。昔は何も考えていなかったから(笑)。
カタヤマ:感覚だけやったもんね。
荒金:昔はただ好きなことや気持良いことを何も考えずにやっていて。でも『End of teenage』では吐き出し方とかも考えながらやって、ちゃんと“素”のものが出せたんですよ。
●それを踏まえて作ったのが今作だった。
荒金:今回も色々と考えながらやったけど、やっぱりバカなんで…(笑)。でも4人のはしゃいでいる感じはすごく出ているし、それが俺らやと思うから。その感じはやっぱり出したかったですね。
カタヤマ:そっちのほうがパワーもあるしね。
●はしゃいでいる感じがDroogらしさだし、それを出すことでパワーのある楽曲にもなる。
荒金:M-10「Theme of Droog」ができた時に、改めてそう思えたんです。作っている時もみんながそういうグルーヴでやれたし、曲もそういう感じになったから改めてそう思えたのかもしれないですね。
●この曲はアルバム制作の中で、いつ頃にできた曲なんですか?
荒金:ほぼ最後でしたね。
●今作を作っていく過程で見つけてきたものが、最後に1つの曲として形になったという感じでは?
荒金:そこで形になったものを最後に持ってきて、“やり逃げ”みたいな感じで終わりたかったんです。
●“やり逃げ”って(笑)。
荒金:「これで終わり?」みたいな感じになるだろうなって。最後は“We are Droog!”で終わりですからね。
カタヤマ:今までだったら最後に持って来なかったような曲なんですよ。これまでならM-6「太陽の目を盗んで」みたいな曲を最後に持ってくるのが俺たちの形だったんですけど、それを壊したくて。
●今までの形を壊したかったと。“もっと けもの道から ちゃんと 敷かれたレールまで いいとこ取り? どっち付かず?”という歌詞は、Droogがこれまで歩んできた道を象徴しているというか。
カタヤマ:そうですね…まさに! 育ちが良いんで(笑)。
●ハハハ(笑)。このタイミングでこういう曲ができたというのも、自分たちらしさを確立できたからなんじゃないですか?
荒金:「Theme of Droog」を作る時に「俺らの核にあるものは何だろう?」ということを考えていて。やっぱり俺の中ではスターリンの影響が大きいので、曲調や曲の長さもそういう感じにしたかったんです。でも自分の心の中で、14歳の時のスターリンと今のスターリンは違うんですよね。当時はスターリンを聴いていると自分のことのように思えるくらい近かったんですけど、今は「そうじゃないな」と思う部分があってもそういうふうになれるというか。それを自分たちの曲として、形にできたということが良かったと思います。
●今の自分と全く同じ気持ちじゃないとしても、その気持ちになりきって楽曲で表現できる。
カタヤマ:楽しむために、前よりも冷静に考えられるようになったということじゃないかな。ライブに関してもそうですけど、前は無意識にやっていた“楽しい”を今は冷静に“もっと楽しむためにはどうしたらいいか?”を考えるようになった。でも、それをライブには持って行かないんです。
●前作では考えることの大切さを覚えたけど、今作では考えることと感覚でやることとのバランスの取り方を覚えたんじゃないですか?
荒金:そうなんです! みんなで曲を作っている時やライブをやっている時とか、何かをやっている最中に考えちゃダメなんだなと。でもその分、練習の時にライブのことをすごく考えるようになって。実際にライブをやる時は、考えすぎてもしょうがないんですよ。
カタヤマ:観ている側にも「あー、考えすぎてるな」というのは伝わりますからね。
●たとえばステージ上で派手な動きをしていても、「こういう動きをしようと考えてやっているな」というのがお客さんに見えてしまうと全然カッコ良くない。
カタヤマ:それだと自分も感動しないし、自分が感動しないっていうことは絶対にお客さんも感動するわけがないから。
荒金:前回のツアーで、そういうことをすごく感じて。考えることを覚えてツアーをまわってみたら、ライブ中に考えちゃいけないんだなということがわかったんです。ジャンプしようと思ってジャンプするんじゃなくて、“ジャンプしちゃった”という感じにしたいんですよ。それが一番カッコ良いと思うし、今の目標ですね。
●ジャンプするための準備を事前にちゃんとしておくことで、ライブ本番では無意識的にジャンプできる。
カタヤマ:昔は無意識でしていたことが、無意識ではできなくなって。だったら“どうやったらぶっとべるか?”ということを考えて、今はやるようになったんです。
●自分たちの音楽を使って、お客さんを非日常の世界へどうやってぶっとばしていくかということですよね。
カタヤマ:そのためには自分もハイになっていないといけないので、そこは冷静に考えた上でライブではぶっとぶっていう。そしたらお客さんもノッてくれるんじゃないかなって。
●そういう考えが今回のタイトルにもつながった?
カタヤマ:そうです。前より冷静に“どうやったらぶっとべるか?”ということを考えたので、『ぶっとびぱなし』というタイトルにしました。これからもずっと“ぶっとびぱなし”でいきたいし、ずっとロックンロールをやっていきたいから。『End of teenage』は“今までのことはここで完結”という感じだったんですよ。でも今回の『ぶっとびぱなし』は“これから”みたいな感じですね。
●未来が見える感じ?
カタヤマ:先のことまで考えた上での『ぶっとびぱなし』ですね。“Keep on Rock'n Roll”の違う言い方が、“ぶっとびぱなし”みたいなイメージというか。だから最後に「Theme of Droog」を入れたんです。ここで終わってほしくなかったから。
●ここから先という意味では、リリース後のツアーも楽しみなんじゃないですか?
荒金:前回のツアーで「自分らのこういう面を出しても大丈夫なんや」って思えるようなお客さんとの信頼関係を感じられたことでできたのが、今回のアルバムだったんです。今作を聴いて「変わったな」と思う人もいるかもしれないですけど、「ついてきてくれるはず」という確信があって作ったアルバムなので、これを持ってライブでみんなとワイワイはしゃぎたいですね。
カタヤマ:今まではステージ上でカッコつけてライブをして、お客さんもそれを“観る”という感じが多かったと思うんですよ。今回はそれをとにかく打破したくて。お客さんもなりふり構わない感じになってほしいというか。やっぱりノッていたら、隣のお客さんが気になるじゃないですか。でも今回のツアーではそういうのすら気にならないくらい、みんなではしゃぎたいなと思っています。
Interview:IMAI