型にはまらない言葉で強いメッセージを吐き出すVo./G.川口カズヒロを中心とした、4人組バンドDATSUN320が3rdミニアルバムをリリースする。
『空心彩~空に心を彩れば~』と名付けられた今作は、上京して4年目を迎える川口自身の実体験を反映したリアルな言葉が今まで以上に胸を刺す。
新メンバーも加わり進化を遂げたサウンドは、バラエティ豊かな楽曲にさらなる彩りを与えるかのようだ。
心の中を映し出して様々な色へと変化する空のように、リスナーの感情をそれぞれに増幅してくれる全8曲。“街”3部作の完結編にして、“今”の最高傑作が誕生した。
「よく空を見るんですけど、それによってその時の感情が倍増したりもする。空は変わらずそこにあって、その色を決めるのは人の心だなと思ったんです」
●今回の『空心彩~空に心を彩れば~』は3作目のミニアルバムになりますが、構想は以前からあったんですか?
カズヒロ:1stミニアルバム『ハロー、1/100の君よ』の曲選びをしている段階で、2ndミニアルバム『月の蝉』から3枚目の今作へと続く流れはだいたい浮かんでいたんです。3作でのストーリー的なつながりもありつつ、1stから2ndっていう段階を踏んだ上での3rdっていうことも視野に入れていて。
●3作で物語がつながっているんですね。
カズヒロ:1stミニアルバムでまず「街景色」という曲を出して、2ndミニアルバムで「光の街」、今作では「この部屋から見える街」(M-7)と連なる"街シリーズ"になっているんですよ。「街景色」は地元を離れて東京へと向かう心境で、「光の街」は東京に来たばかりの心境、そして今回の「この部屋から見える街」では東京でしばらく過ごしてからの心境を描いていて。その物語を3作でつなげるというのが、やりたかったことの1つでした。あと、1stが"春"、2ndが"夏"、3rdが"秋"というふうにそれぞれ意識して作っています。
●カズヒロくん自身の経験にも重なっている?
カズヒロ:僕も実家の静岡から出てきたわけで、今まで東京暮らしというのは経験したことがなかったんです。そこで自分自身の心の中も表現したというか。
●「この部屋から見える街」のイントロ部分には、「光の街」を部屋で流している様子が収録されています。
カズヒロ:2nd収録の「光の街」ではイントロに「街景色」のピアノバージョンを入れたように、前作からのつながりをわかりやすくしたんです。今作から初めて聴いた人は"何じゃこりゃ?"と思うだろうけど、その後にもし2ndも聴いてもらえたら"ああ、こういう意味だったんだ"とわかってもらえるはずで。さかのぼることで気付ける楽しさも、やりたかったことの1つですね。
●M-2「死にかけの地図」は結構前からあったそうですが。
カズヒロ:今作で僕が一番推したいのは、この曲なんです。この曲は1stができた時点で既にあったんですけど、そこでいきなり出してもリスナーに意図が伝わりにくい部分もきっとあるだろうなと思っていて。ここまでの作品でも自分の中で推したい曲がそれぞれにあって、1stでは「ハロー、ハロー」で2ndでは「ヒグラシと17歳」だった。その2曲を聴いた上での「死にかけの地図」というふうに段階を踏むことで、聴いてくれる人が意図を受け取りやすいようにしたかったんですよ。
●この曲の歌詞ではポリティカルな匂いもする、刺激的な言葉が使われています。
カズヒロ:本当は1曲目に持ってきたかったんですけど、キツい言葉も結構入っているので2曲目になりました。でもDATSUN320が活動する中で"最終的にはこういうことを言いたい"っていう部分が、「死にかけの地図」にはほとんど詰まっていて。バンドをやる前から生活の中で考えていたようなことがかなり吐き出せている歌詞なので、僕の中ではバンドの核となる曲だと思っています。
●他の曲に比べてかなり歌詞が長いのも、言いたいことが詰まっているから?
ハルカ:曲の分数もかなり長いんです(笑)。
カズヒロ:言いたいことが多すぎたっていう(笑)。最後のラララだけでも1分半ありますからね。
●でも最後のラララというコーラスがあることで、最終的にピースフルな空気になっていると感じました。
ハルカ:女性の声を入れるというのもカズヒロくんの意図なんですけど、そうすることでピースフルな感じは出せていると思いますね。
カズヒロ:男たちが一生懸命これを歌っていてもいかついだけなんで(笑)、ハルカに歌ってもらいました。
●この曲で伝えたいこととは?
カズヒロ:まだ東京にきたばかりの頃に偶然、テレビで映画『アース』を紹介するドキュメンタリー番組を観た時の想いがこの曲の元になっていて。映画の本編からは外された戦争や環境破壊の場面が出てくる中で一番ショックだったのが、地球温暖化の影響で氷が解けてシロクマが海に落ちちゃうシーンだったんですよ。ちょうどその時に部屋の壁に貼っていた世界地図の国境線が傷のように見えたので、こういう曲を作ろうと思いました。
●それが"世界地図の裂かれた傷"という歌詞になっている。
カズヒロ:今年は東北で大きな震災が起きてしまって、みんなが本当に大変な想いをしたと思うんです。ここ数年で海外では色んな震災やテロ事件があったりしたけど、ここに来てやっと"他人事じゃないな"ってみんなが思えるようになったというか。僕自身はそのテレビ番組を観た時にそう感じて、自分の身の回りで起こっていないことでもすごくリアルに感じられたんですよ。
●この曲にも"灼熱の空の下"という歌詞が出てきますが、作品タイトルも『空心彩~空に心を彩れば~』となっているように"空"も今作のテーマになっているんでしょうか?
カズヒロ:そこも意図していました。人は楽しかったり悲しかったりした時に、はっと空を見上げる気がするんですよ。僕自身もよく空を見るんですけど、それによってその時の感情が倍増したりもする。たとえば今回の震災があっても空は変わらずそこにあって、その色を決めるのは人の心だなと思ったんです。今作を聴いた時にも"この曲は~色だな"って想像してくれたら、すごくいいなと思いますね。
ハルカ:今作に入っている曲を聴けば、色んな空を見上げた時のような気分になれるんじゃないかなって私も思います。
●1曲ごとに違う色の空を見られる。
カズヒロ:たとえばM-1「Good bye Lonely Days」は今作のオープニング曲なので朝焼けの色をイメージできるし、「死にかけの地図」だと僕は虹色が浮かんだりする。そういうふうに聴く人がそれぞれのイメージで感じてくれたらいいなと思います。
●M-3「空模様」も、空がテーマでしょうか?
カズヒロ:歌詞の中に"泣きじゃくる空の日は、青いビニール傘の様に"という部分があるんですけど、それは雨の中でも青いビニール傘を差せばそこだけは青空に見えるっていうイメージを描いていて。自分も誰かにとってそういう存在になりたいんだっていう気持ちを、空をテーマに書いた曲ですね。
●M-5「二人見た空」もタイトルに空が入っていますが、これは恋愛のことを歌っている?
カズヒロ:この歌詞はちょっとわかりにくいんですが、おおまかに言うと"あと少し我慢できたり、あと少し優しくなれたなら、まだ先に進めたんじゃないか"という内容ですね。ここでの"二人"が男女かどうかは聴き手の想像に任せたいところですけど、恋愛にも例えることができるような人間関係のことを歌っています。
●M-6「恩愛という名の唄」は、カズヒロくんがお母さんに捧げた歌だそうですね。
カズヒロ:東京に来たばかりの頃に色々とあって、不慣れな生活の中でつらくなった時に母親と話す機会があったんですよ。その時に自分がいくつになって親元を離れていたとしても、母親はいつまでも母親だなと思ったところからラブソングを作ることにしたんです。でもそういう気持ちをストレートに表現するのは自分らしくないなと思ったので、ウチの母親が好きな花をモチーフにして表現してみました。
●花を通して、お母さんへの想いを歌っている。
カズヒロ:でもどう受け取るかは聴いてくれた人の自由だし、たとえばそのまま"花のことを歌った曲なんだな"と思う人がいてもそれはそれで正解なんですよ。ただ"僕はこういうことを思って歌詞を書いた"っていうだけで、言わなくちゃわからない部分を言葉にしたかったんです。
●言わなくちゃわからない部分を言葉にするというのは、M-4「カントリーロード」の歌詞にもつながる気がします。
カズヒロ:最近は誰でも携帯やパソコンを使って、電波でコミュニケーションを取るようになっていて。でも僕が子供の頃はそういうものもなくて、言いたいことは相手と目の前で言い合ったりしていた。最近はそういう心と心でガッチリつながったコミュニケーションがあまりできなくなっている気がして、それを皮肉っている歌詞ですね。"大切な言葉は直接目の前に行って言えよ!"ということをポップに表現した曲です。
●言葉がきつくても、曲調がポップだったりするのも面白いところかなと思いました。
カズヒロ:サウンドがすごくシンプルだったら、逆に歌詞はちょっとクセがあってもいいんじゃないかなと思っていて。メロディーがすごくポップで歌詞もわかりやすいのであれば、アレンジで少し凝ってみたりもして。そういうバランスに気をつけながら、今作は作りましたね。
●歌詞と曲調も考えながら、アレンジでバランスをとっている。
カズヒロ:たとえば「二人見た空」はシンプルな8ビートで演奏的に難しいことも特にやっていない曲なので、あえて少し考えさせるような内容の歌詞にしたんです。わかりやすい人たちならわかりやすい表現でいいんでしょうけど、僕らはクセのある人たちなのでそこも出したいなと思って。そこはバンドの個性として、出していきたかったんですよ。
●サウンド的な深みも増したのでは?
ハルカ:和也くんが入ってパーカッションの幅も広がったし、真吾くんのキーボードも音数が増えているんです。ライブでは再現できないだろうけど、耳を澄まさないと聴こえないような部分でもいっぱい音が鳴っているのが良い作品なんじゃないかなと思っていて。
真吾:最近はキーボードが楽しくなってきて、音使いのレパートリーが増えたような気がします。その分、ライブでの再現はどんどん難しくなっているんですけど(笑)。
カズヒロ:「空模様」はパーカッションが入って、だいぶキラッとしましたね。よく聴くと、タンバリンやアコギの音が入っていたりもする。
和也:聴いてくれた人がそういう部分に気付いてくれたら、うれしいですね。
●和也くんがメンバーに加わったことで、サウンドにも変化があった?
カズヒロ:元々、僕がドラマーだったというのもあって、今まではある程度のドラムパターンまで自分で考えていたんです。でも今回は和也が自分にはないアイデアを持ってきてくれたりして、結果的に面白いアレンジにもなったりして。彼が入ったことで僕もなるべく他人の意見を聞こうという姿勢になれたし、最近は割と任せている感じですね。
和也:最初は自信がなかったけど、ミックスまで終えて"これはやってみて正解だった!"という発見も多かったですね。今作にはまだ1回もライブでやっていない曲もあるし、実際に体感して初めて感じ取れるものもあると思うんです。ライブでどんなレスポンスが返ってくるのか楽しみでもあり、ちょっと不安でもあって。ちゃんと良いものを届けられるように、がんばって練習しなきゃなと思っています。
●ちなみに今作の最後に1stのリード曲でもある「ハロー、ハロー」のリミックスバージョンを入れたのは、どういう意図で?
カズヒロ:この曲を聴いて、1stをもう一度聴き直そうと思ってくれたらなと思っていて。3枚で1つの作品というか、これまでの3作を聴けばDATSUN320がどんなバンドかをわかってもらえると思うんです。実は4枚目の構想もある程度できているんですけど、とりあえず今回で一区切りという感じではあります。
●現段階での最高傑作になっている。
カズヒロ:今までの作品もそうなんですけど、この作品は特に聴き飽きない作りになっていると思うんです。長く聴いていられる作品が一番良いし、そうじゃないと意味がないから。実は『空心彩』というタイトルには、"震災を食う"っていう意味合いも込めていて。今作でDATSUN320をもっと多くの人に知ってもらって、色んな人を前向きな気持ちにできたらなと思っています。
Interview:IMAI
Assistant:HiGUMA