新宿ゲバルトのメンバーとしても活動する電子音楽家・清水良行(コスモ)のソロプロジェクト、Cosmo-Shiki。KOENJI HIGHでのワンマンライブを2度にわたり成功させるなど着実に支持を拡大する中で、彼が初の全国流通盤ミニアルバム『BLEEP UFO』をリリースした。ノスタルジックなメロディラインと、アナログ感の漂うシンセサイザーやヴォコーダーを全面的にフィーチャーしたサウンド。そこに非日常的な世界観を持った歌詞が乗り、宇宙空間を疑似体験させるような独自の音を生み出している。80'sエレクトロやブリープテクノの影響も消化しつつ、B級SF映画やアメコミが持つ良い意味でのチープな匂いも漂わせる今作が完成するまでの経緯をざっくばらんに訊く、ファン待望のゆるふわインタビュー(笑)。
●コスモさんは新宿ゲバルトのメンバーとしても活動されているわけですが、Cosmo-Shikiを始めたのはいつ頃なんですか?
コスモ:新宿ゲバルトよりも後ですね。1人でふらっとやり始めたというか。曲は元々作っていたんですけど、世に出す機会もなくて。確か(新宿ゲバルト/FLOPPYの戸田)宏武くんの誕生日イベントに、オープニングアクトで出たところから始まったんじゃないかな。
●元々、曲は作っていたんですね。
コスモ:新宿ゲバルトでは曲を作っていないというのもあって、何もやることがなかったがゆえの…と言いますか(笑)。最初はソロで活動しようとは思っていなくて、単にイベントの出し物としてだったんです。でも周りはやっぱり「やって欲しい」というか「何かやりなさい」という空気だったので(笑)、そのイベントに出るところから音も固めていって。そしたらすぐに次のイベント出演のオファーが来たので、「じゃあ、やるか」みたいな。
●サウンドのイメージはあったんですか?
コスモ:当初やりたかったのは、やっぱりピコピコした感じのニューウェーブで。P-MODEL先輩のような感じでやりたいなというイメージはありました。
●最初から、歌モノをやるつもりだった?
コスモ:僕の周りにいるFLOPPYや新宿ゲバルトとかADAPTER。はみんな歌があるし、歌モノ自体は大好きなので自分でもやりたかったというのはあって。でも元々が歌い手ではないので、自分の声がなかなか好きになれなくて最初は苦労しましたね(笑)。
●爽やかな感じの声質が特徴的で、良いと思いましたけどね。
コスモ:ありがとうございます。自分では「なんでこんな声なんだろう?」って思いますけどね(笑)。イコライジングでハイや中域を上げたりはしていますけど、基本的には歌声を作りこんだりしていなくて。当時自分で作った音源をマスタリングに持って行ったら、エンジニアさんに「ボーカルは初音ミクなんだ?」と言われて「ええっ!? 違いますよ!」ってなりました(笑)。
●確かにちょっとそれっぽい(笑)。でもインストをメインでやろうとは思わなかったんですか?
コスモ:インストって…誰も聴かないんじゃないかなと思って(笑)。
●ハハハ、ヒドい! (笑)。
コスモ:初期はインストもやっていたんですけど、誰も求めていない感じがしたんです(笑)。僕はテクノも好きですしインストも好きなんですけど、お客さんはやっぱりメロディが欲しいのかなと。メロディを考えるのは好きなので、最近は特にメロディに力を入れるようにしていますね。
●今作『BLEEP UFO』は1曲目「gurigon dance」からいきなりインストですが。
コスモ:実はこの曲みたいな、攻める曲調は初めてやる感じで。作品タイトルだけを見ると「アゲめのテクノが続くのかな」と思うんでしょうけど…(笑)。
●実は、そういう曲は1曲目だけという(笑)。確かに『BLEEP UFO』というタイトルからは、ブリープテクノが満載のアルバムなのかと思ってしまいます。
コスモ:そう! 今回はこのタイトルに結構、振り回されてしまいまして…。「テクノっぽいアルバムを作らなきゃいけないんじゃないか?」という強迫観念に襲われて、それがプレッシャーになっちゃったんです。でも僕の得意技は、もっとジメジメした歌モノなんですよ(笑)。
●そうなんですね(笑)。
コスモ:それで三浦(俊一/レーベルオーナー)さんに「アゲめの曲、できません!」って言ったら(笑)、「背伸びしなくていいから、いつも君がやっている得意技でやりなさい」と言ってもらえて。「じゃあ、ジメジメしたのをやろう」と思って作りました。
●先にタイトルがあった?
コスモ:最初に三浦さんと色々相談して「一応、コンセプトを決めようか」となった時に、自分から「みんながノリノリになってバカになっちゃうくらいの曲を作りたい」と言ったんです。「全体的に楽しいアルバムにしたい」と言ったはいいんですが、いざ作ろうとしたら自分の引き出しになかったという…(笑)。
●じゃあ、なぜそんなことを言ったんですか(笑)。
コスモ:他人のライブを観ていて「なんてカッコ良いんだろう!」と思う曲って、やっぱり自分の中にはないものなんですよね。明るい曲だったり、ビートやキックが効いていてノれる曲でみんなが楽しそうにしているのを見たら、自分でも作りたくなったんですよ。「じゃあ、次は新境地としてそういうものを作ろう!」と思ったんですけど、「あれ? やればやるほどダサくなるな…」って(笑)。
●やってみて、自分には合わないことに気付いた。
コスモ:「あ、難しい!」と思いました。泣きのメロディを入れても合わないし、これはダメだと思って。
●じゃあ、「gurigon dance」はどうやって作ったんですか?
コスモ:これまでも音源(自主盤)を出す時にリミックスで参加してくれているCoooKのサカエコーヘイさんに「こういう曲がやりたいんですけど」という感じで相談して協力してもらったんです。僕が作ったアレンジデータを送って、それをリミックスしてもらったんですよ。最初は戻ってきたものを聴いても、自分の中にはない引き出しなので違和感しかなくて。何回かやりとりしながら徐々に固めていって、最終的には「あれ? カッコ良いやん!」と思えるものになりました。
●ちなみに、“gurigon dance”って某ゲームに出てくるモンスターの名前ですよね…?
コスモ:…はい。ド◯クエにドハマりしていた時期がありまして(笑)。そのモンスターは相手を踊らせる魔法をかけるんですよ。それがすごくカッコ良くて、自分も踊らせる魔法をかけたいなと思ったんです。そういう意味合いも込めて、この名前にしました。
●やっぱり「踊らせたい」という気持ちは強いわけですね。作品タイトルの語源になっているブリープテクノ自体は好きだったんですか?
コスモ:ブリープテクノは好きなんですけど、そんなに詳しいわけではなくて。ベタなところでLFOとかWarp Records界隈のものをよく聴いていた感じですね。もっとコアなPanasonicとかを聴いていた時期もあって、そういう感じの音にキックを足して怪しいシンセの音も入れた上で、メロディが乗ると面白いんじゃないかと思って作ったのが自分解釈のブリープテクノM-5「UF_O」なんです。結構前にできた曲なんですけど、これがキッカケでそういう方向性でやっていきたいなと思うようになったんですよ。自分の中でその時点では、新境地だったから。
●「UF_O」もそうですけど、Cosmo-Shikiという名前自体も宇宙を感じさせますよね。スペイシーな音楽をイメージしているんでしょうか?
コスモ:そうですね。“宇宙音”というのがあるんですけど、それってシンセサイザーの音にほぼ近いんですよ。例えばサイン波であったり矩形波であったり、ポーとかピーとか鳴っている感じの原初的な信号音というか。
●ブリープテクノというのは、そういう発信音をメインに使ったテクノのことなんですよね。
コスモ:まぁ極論なんですが言ってしまえばテクノって全部、ブリープ音なんじゃないかと思うところもあって。だから今作もそこまでブリープテクノ然とはしていないけど(笑)、「テクノというのは全部ブリープ(発信音)でできているんだよ」と。「その音のUFOに乗って、Cosmo-Shikiの世界をたゆたわないかい?」っていう意味合いを、今回のタイトルには込めているんです。…って、だいぶ恥ずかしいですね(笑)。
●Cosmo-Shikiを象徴するような曲が、今作には収録されている?
コスモ:今回は1枚目らしいというか、今までの代表作も入ったCosmo-Shikiの自己紹介的なアルバムになりましたね。今までとアプローチが違うのは1曲目で、あと6曲目の「synæsthesia」では初めてリードギターを弾きました。
●収録曲はどれも今作に向けて作ったんですか?
コスモ:今作に向けて作ったのは、「gurigon dance」とM-6「synæsthesia」、M-7「時空の旅人」だけですね。他の曲は以前にできた曲のリメイクなんですよ。
●ラストの「時空の旅人」とM-4「Light Wave」は三浦さんの作曲ですが、これはどういう経緯で?
コスモ:M-4「Light Wave」は以前に作って頂いたものなんですけど、その時にすごく感触が良くて。新しい音源を出すのであれば、ぜひ三浦さんに1曲お願いしたいとは思っていたんですよ。結果的に三浦さんの曲が一番ポップで、エンディングにふさわしくなってしまったという…(笑)。
●ラストが他人の作った曲という(笑)。
コスモ:アレンジは自分なんですけど、三浦さんの曲と僕は相性がすごく良いと思うんです。あと、三浦さんはちゃんとCosmo-Shikiらしい曲を作って下さるので、やりやすいんですよね。
●その「時空の旅人」も宇宙っぽい歌詞ですよね。
コスモ:“コスモ宇宙シリーズ”というのがありまして。
●自分の中でそういうシリーズがあるということ…?
コスモ:そうなんです。でも特にどこかで言っているわけではなくて(笑)。基本的にはどれもそういう曲なんですけどね。
●ジャケットも宇宙っぽい感じですが、アメコミっぽいテイストはどこから?
コスモ:B級っぽさを大事にしたかったんです。僕はどちらかといえば、キラキラしている音よりも多少汚い感じのノイズっぽい質感の音が好きなんですよ。そういった意味合いも含めてのB級っぽさというところから、『マーズ・アタック!』とかSF系のアメコミっぽいジャケットでいきたいなと思って。B級の映画ってだいたい変なシンセの音が入っていたりするものだから、そういうイメージと相性が良かったんですよね。
●昔観たB級映画やアメコミとかが原体験になっていたりもするんでしょうか?
コスモ:そうかもしれないですね。あとはファミコンとか、昔のゲームもあるかもしれない。
●かといって、チップチューンで曲を作るわけでもないですよね。
コスモ:チップチューンもやりたかったんですけど、周りにいる仲の良い人たちが既にやっていたりもするのであえてそこは外して。「自分はテクノだ!」って。でもテクノももう長い間、飽和状態ですよね。世間的にみんなテクノと言えばエレクトロだのEDMだのと言っているけど、一括りにされるのも面白くないやんと関西の血が…。
●関西人ならではのちょっとヒネくれた感じで、人と同じことはしたくないというか。
コスモ:そういうことを考えて行き着いた先が、「“ブリープ”ってカッコ良くね?」っていう(笑)。
●なぜ、ヤンキーっぽい言い方!? (笑)。
コスモ:「“ブリ”っていう濁音も入っているし、響きも何かシュッとして良いじゃん」っていう話を三浦さんとしながら、「『BLEEP UFO』ってカッコ良くね?」っていう感じで決めたんですよ(笑)。
●言葉の響きが気に入ったと。
コスモ:まぁ、はい…そういう感じで始まって曲を作ろうとしたんですけど、「そもそもブリープテクノとは?」というのをまずネットでちゃんと調べてみたら、「えっ、地味!」みたいな(笑)。調べている内に日本では特にジュリアナとかジョン・ロビンソンとかもそう言われていて「あれれ? ブリープテクノってこんなんだっけ!?」って(笑)。まぁ…正直に申しますとシンセの音色もフレーズも好きなんですよ? 当時聴いていましたけど、まさかこれがブリープテクノと言われていたなんて…自分内解釈のブリープテクノとは…まるで…かけ離れていました(笑)。
●ハハハハハ(爆笑)。…という結果、ブリープテクノという方向性からは外れていったと(笑)。改めて、自分としてはどんな作品になったと思いますか?
コスモ:…やっぱり「はじめまして、Cosmo-Shikiです。新人です!」っていう作品ですかね。何か初々しい感じがしませんか? 良く言えばバラエティに富んだ、悪く言えばまとまりがないような…まぁ何と言いますか、これ以上でも以下でもない自分らしく素晴らしい作品になった気がします。この作品のおかげで次のアルバムネタがたっくさんできたんですよ。これは遅筆家の自分の中ではすごいことなんです。なので、ジャンルの話とかは「次回作にて」ということで(笑)。
●一応、宣伝用の紙資料には「インベーダーポップ」と書かれていましたが…。
コスモ:シュッとしてカッコ良いでしょ? これも三浦さんと2人で一生懸命考えたんですよ。さっきも出てきたエレクトロとかEDMみたいなものに当てはまらない新しい言葉はないかと色々考えた中で、キャッチコピーとしてCosmo-Shikiは今後「インベーダーポップ」を提唱していこうと。宇宙を想像させるような歌のことを「インベーダーポップ」と呼んで、印象付けていけたらなと思っています。
Interview:IMAI