90年代から現在に至るまでの邦ロックの系譜を辿りつつ、現在進行形のギターロックサウンドを奏でる4人組バンド、ChroniCloop(クロニクループ)がニューアルバム『in Rainbows』を完成させた。今回のリリースを記念して、Vo./G.瀬崎裕太とは前身バンド時代からの付き合いという、きのこ帝国のG.あーちゃんとの対談が実現。10年近く前からお互いを知る両者に、じっくりと“過去・現在・未来”について語り合ってもらった。
「片方(谷藤)はきのこ帝国のあーちゃんを知っていて、逆にもう片方(瀬崎)はそれ以外のあーちゃんを知っているって、すごいですよね(笑)」
●ChroniCloopが前身バンドの頃からのお知り合いとのことで、両者の付き合いはかなり古い?
あーちゃん:まだChroniCloopが3人編成だった頃からですね。私が新宿のWildSideTokyoというライブハウスで働いていた時によく出ていたので、7〜8年くらい前だと思います。
瀬崎:当時はちょうどChroniCloopという名前になるかならないか、狭間の時期だったのかな。現メンバーになる前からそのライブハウスには出ていたんですけど、あーちゃんには当時よく照明をやってもらっていて。僕らはお店のスタッフにすごく懐いていて、自分たちが出演しない日もよく遊びに行っていたんです。一緒にキャンプにも行きましたね。
●キャンプ?
あーちゃん:スタッフの慰安旅行みたいな感じで、河口湖に行ったんです。でも普通の出演者は誘われていなくて、相当な馴染みじゃないと参加できないイベントでしたね(笑)。
瀬崎:他は全員、スタッフでした(笑)。僕らはすごくかわいがってもらっていたので、声をかけられたんです。
●ほぼ身内ですよね(笑)。
瀬崎:本当に身内みたいな気分でした(笑)。“家族”みたいな雰囲気がありましたね。
あーちゃん:アットホームな雰囲気のお店なので、他のスタッフもみんな仲が良かったんですよ。
●当時からバンド同士の交流はあったんですか?
あーちゃん:私も当時からきのこ帝国をやってはいたんですけど、バンド同士での交流は特になかったですね。交流があったのも、私だけだったんです。でもやっている音楽性的には近いものがあったので、“ご縁があれば…”という感じでした。
瀬崎:“いつか対バンしたいね”と言っていただけで終わったという…。でも自分にしたら、あーちゃんはあーちゃんだから。逆に“きのこ帝国のあーちゃん”を見る機会はほとんどなかったんです。ライブハウスで働いているイメージのほうが強かったので、どちらかと言えば“照明の人”という印象で。きのこ帝国がデビューした時も“本当にギタリストだったんだ”と思ったくらいでした(笑)。
●とはいえ、お互いの音は初期から聴いていたわけですよね?
あーちゃん:そうですね。私はChroniCloopの音源を持っていたわけではないんですけど、仕事柄もあってライブはすごく観ていました。実はこれだけ付き合いが長いのに、ちゃんとした音源を聴くのは今回の作品(『in Rainbows』)が初めてなんです。
瀬崎:当時は、僕らもまだ音源をあまり出していない時期だったから。
●先ほど話に出ましたが、音楽性的に近いものは感じている?
あーちゃん:お互いに歌ものというところでは共通しているのかなって。ChroniCloopは、歌詞がすごく強いなと思うんですよ。
●今作に寄せたコメントでも、M-3「猿の惑星」の歌詞に触れていましたね。
あーちゃん:“解った様な口利いてんじゃねえ 「解るよその気持ち」の解るよって何だよ”というところが特に好きですね。音楽をやっていない人も含めて、こういうことをみんな思っているはずだから。…自分で言うのも何なんですけど、私は器がすごく小さいんです(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
あーちゃん:すぐ怒っちゃうんですよ。誰かに当たったりはしないんですけど、すぐイライラしちゃって…血の気が多いというか。だから、こういうことが書ける人は良いなと思うんです。自分の代わりに言ってくれているような感じがして。
●代弁してくれている感じがすると。「猿の惑星」は今作の中でも特に毒気が強いなと思いました。
瀬崎:そうですね。これまでは1年に1枚くらいのペースでコンスタントに作品を出してきたんですけど、それだと常に何かを書いている状態になるんですよ。それもあって歌詞の中に自分の思っていることが純度100%で出ているかというと、ちょっと薄めになっていたと思うんですよね。でも今回は1年間リリースせずに制作期間を長めに取っていたのでその間に思うことがたくさんあって、(「猿の惑星」は)その中の1つというか。これまで書いてきたもの以上に向き合って、自分が思っていることを書きたいなという気持ちがあったんです。
●そのぶん、歌詞にも濃いものが出ている。
瀬崎:今回はフルアルバムということで“たくさん曲がある中なら、こういう曲があっても良いんじゃないか”と思って、純度100%のものを書いてみました。他の曲とはちょっと違う毛色をしているかもしれないけど、自分の中にあるものをここで出し切りたかったんです。
あーちゃん:この曲の後にM-8「エイプリル」を聴いたんですけど、私はそこに書かれているようなことを人に対して思えないから“すごいな!”と思って。そんなに人に対して優しく語れないというか、自分のことだけでいっぱいいっぱいだから(笑)。ファンの人はこの曲を聴いて、きっと救われたりもするんだろうなと思いました。
瀬崎:嬉しいです…でも恥ずかしいですね(笑)。
●昔からお互いを知っているだけに(笑)。
瀬崎:こういう話を真面目にしたこともないし、未だに自分の中では“飲み友だち”みたいな感覚のほうが強いから…。
あーちゃん:当時はお互いに今よりもっと若かったので、フザけた場面でしか話したことがなくて。だから、ちゃんと音楽的なことを話すのは今回がたぶん初めてですね(笑)。
谷藤:付き合いが長いのに、逆にすごいな…(笑)。
●両バンドとも結成から10周年だそうですが。
瀬崎:僕らは前身バンドの結成から数えて10周年なんです。でもオリジナルメンバーは、Dr.吉成(直輝)と僕だけなんですよ。ちょうど今の名前に変わった時にBa.本間(智行)が入って、今から4年前くらいに谷藤が入ったという流れで。結成当時から吉成とは“10年後はどうなっているんだろう?”と話していたのもあって、そこから数えて10年ということで周年企画をやろうという話もしていました。
●お互いに10年後もバンドをやっていると想像していましたか?
あーちゃん:ChroniCloopは何となく10年後もやっているだろうなと思っていましたけど、私自身はよくわからなかったですね。さっきも言ったように私は血の気が多いので、いつどうなるかわからなくて…。どうやら私は辞めそうな雰囲気が出ているっぽいんですよ(笑)。
谷藤:そんなバイトみたいな…。
瀬崎:確かに性格的には、急に投げ出したりしそうな感じはする(笑)。
●そんな印象があるんだ(笑)。
あーちゃん:でも辞めそうに見えて、意外とバイトも長く続くタイプなんです(笑)。同じバンドをずっとやっているというのも、それと同じような感じだと思いますね。ChroniCloopも10年やっているので、色々とあったと思うんですよ。メンバーを3人から4人に増やすという決心もすごいなと思って。
瀬崎:“もう3人でやることがないな”と思っていた時に、たまたま(谷藤が)ひょいっと現れたんだよね。
谷藤:話が合ったんですよ。初めて同い年でレディオヘッドについて語れる人と出会ったという感じで、そこから仲良くなって。ちょうど色んなバンドのサポートをやっていた時期だったんですけど、シルクハットをかぶってグラサンをして踊りながらギターを弾く…っていうサポートの仕事をしている時にたまたまChroniCloopと対バンしたんです(笑)。“おまえ、何やってんの? 俺たちのところでちょっと弾いてみない?”と誘われたのがキッカケでしたね。
●対バンで出会ったんですね。
谷藤:僕もわりと血の気が多いというか、破壊衝動があるんですよ。だから今までやってきたバンドは、どれも2年くらいしか続かなかったんです。自分が言いたいことを言い過ぎて、それが原因でぶつかったりもして…。でもこのバンドはもう4年続いているので、“しぶといな”と思いながらやっています(笑)。
●ギタリスト同士、血の気が多いところは似ているのかもしれない(笑)。
谷藤:きのこ帝国のライブを初めて観た時に、一瞬で惹かれたんですよね。自分がシンパシーを感じるギタリストって、ステージに出てきた時から様子がおかしいんですよ。ギターを弾く前から“異変”を感じるんです。
あーちゃん:異変を感じるって(笑)。別に変なことはしていないんですけどね。
●“異変”というのは、どういう感覚なんですか?
谷藤:“この人、絶対に(他とは)違う!”っていう感覚があって。それで実際に音を出したらそのイメージどおりのことをしてくれたから、心が震えたんですよ。そのライブを観た後にすぐ(瀬崎に)連絡したんです。
瀬崎:“ヤバいものを見ちゃったよ!”と言っていましたね(笑)。
あーちゃん:片方(谷藤)はきのこ帝国のあーちゃんを知っていて、逆にもう片方(瀬崎)はそれ以外のあーちゃんを知っているって、すごいですよね(笑)。でもそうやって言ってもらえるのは嬉しいです。自分の中でたぶん一番クールにやっているのが、きのこ帝国というか。“ギターの音だけで表現する”という意識でやっているので、プレイでも余計なことをしていないんですよ。私は普段から落ち着きがなくて、おしゃべりも大好きなんですけど、きのこ帝国だけを知っている人にはそういうふうに見えないんじゃないかな。
●きのこ帝国と普段の姿にはギャップがあると。
谷藤:きのこ帝国はリフレインのフレーズが印象的だと思うんですけど、僕もそういうギターが大好きで。だからフレーズをどんな気持ちで作っているのか、ちょっと気になっていたんです。
あーちゃん:フレーズに関しては、ボーカル(Vo./G.佐藤千亜妃)が作ってくることが多いんですよ。作詞・作曲もボーカルがやっているので、たぶん彼女の中で描いているものがあるんでしょうね。私はギターソロやその他の部分を主に作っていて。ギターソロに関しては、最近はもう考えないようにしています。
●考えないというのは?
あーちゃん:私はメンタルが強くないので、間違えるとすぐにしょんぼりしちゃうんです。(何を弾くか)決めてくると“あ、間違えた! どんどん時間が…”みたいな感じで気にしちゃうから、もう考えるのはやめようと思って。レコーディングでは3パターンくらい違うものをその場で弾いて、そこから選んでいます。逆に(谷藤は)めっちゃ練っているんじゃないですか?
谷藤:僕もガラスのハートですぐにしょんぼりしちゃうので(笑)、先に時間を決めているんですよ。決められた時間の中で弾きまくって、その中で良いものを擦り合わせていく感じですね。フレーズは僕が作っているんですけど、きゃりーぱみゅぱみゅとかをすごく意識していて。
●きゃりーぱみゅぱみゅ?
谷藤:リフレインがずっと流れている上にキャッチーなメロディが乗ってくる感じが、聴いていて楽しいんです。そういうものが自分の中では、理想的な音楽だなと思っていて。
あーちゃん:このアルバムには、その感じがすごく出ているなと思います。
谷藤:“出すものは全部出しました”という感じですね。さっき歌詞の話もありましたけど、やっぱり1年間通して作れたことが大きくて。1つ1つのフレーズも納得いくところまで考えて作れたのが良かったです。(瀬崎に向かって)楽しかったね?
瀬崎:うん(笑)。
あーちゃん:良いバンドなんですね…!
●今の会話から、そういうところを感じたと。
あーちゃん:普通のバンドって、各パートが個々に“これは良いものができた”と思っているだけの場合が多い気がして。たとえば私も最新作『タイム・ラプス』のギターがマジでカッコ良いと自分では思っていますけど、メンバーにわざわざそういうことは伝えないんですよ。“楽しかったね?”とは言わないから(笑)。それを聞いて、すごく良いバンドだなって思いました。
●10年前から見ているので、今作を聴いて進化も感じたのでは?
あーちゃん:歌詞を読むと“やっぱり一貫しているんだな”と思うところもありつつ、今回の作品はすごく洗練された印象がありました。4人がすごく良いものを出し合って作ったんだなということは、音源を聴いているだけでも伝わってくるんですよね。どこのパートも隙がなくて、楽曲的にもすごく作り込まれたアルバムだなと思って。だから“どの曲が良い”というよりは、全体を通して聴いて欲しいですね。
●ChroniCloopにとっては10年目のアルバムということで、集大成的な意味合いもある?
瀬崎:4人になってから、初めてのフルアルバムでもあって。制作期間も長かったので、今回は10年やってきたからこそできることをやりたいと思っていたんです。次につながるものではあるけど、ここでいったん区切りというか。そういう意味で、10周年の節目にこの作品を置けたらなと。また5年後や10年後に振り返った時に“わ、こんなことをやっていたんだ!?”というものになっていたら良いなと思っています。これからが楽しみになる作品ができましたね。
谷藤:これを作ったからこそ、次に作るものがより楽しみになったというか。“僕らがこれから作るものにも乞うご期待”という感じですね。“ここから始まりますよ”と言えるようなアルバムができたなと思います。
Interview:IMAI
■ChroniCloop INFO. New Album 『in Rainbows』 DOBEATU DBTU3 ¥2,500+税 2019/3/27 Release 『in Rainbows』Release |
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