the pillowsの山中さわおがプロデュースした1stミニアルバム『HAUGA』(2018年10月リリース)で話題を集めた、オルタナティブギターロックバンドArtTheaterGuild。伊藤のぞみが紡ぐ奥深い言葉とメロディ、木村祐介と浅井萌が描くエヴァーグリーンなサウンドは、記憶の中に眠っていた感情を豊かに呼び起こす。前作から約1年、バンドとしてミュージシャンとして成長を遂げた彼らが、2ndミニアルバム『NO MARBLE』をリリース。音と言葉の裏に秘めた“想い”は、表現の幅を大きく広げたバンドによって、更に強く輝きを放つ。
「聴く人が1000人居たとしたら、1000通りの考え方が浮かぶ歌詞を僕は作りたい。そういう想いがメンバー2人にも伝わってたり、お客さんにも伝わっているのであればいいな」
●今から約1年前にリリースした『HAUGA』は初めて山中さわおさんにプロデュースしていただいた作品ですが、そういう経験を経て、バンドや自身に変化はありましたか?
伊藤:僕らにとっては『HAUGA』が初めての全国流通盤だったので、当時は出してみないとわからない部分もあったんです。レコーディングではプロの仕様のスタジオや機材を初めて使わせてもらったし、今回のようなインタビューもしかりで。
●はい。
伊藤:ちゃんと店頭に僕らのCDが並んで、インタビューもしてもらって、MVも作ってもらって…そういうことが全部初めてだったので、今から思い返すと学ぶ時期だったんだなと思います。だから経験値は貯まりました。当時は初めてのことだらけで気持ちが散乱していた部分もあって。でも今回はやることがわかってるので、音源に対してもっと強い気持ちを持てた気がします。
木村:僕としては大きく変わったことはなくて。(伊藤に)良い曲を書いてきてもらって、それに対して良いアレンジをする…それまでとやることは何も変わってないんですけど、一方でライブはあまり面識が無いバンドと対バンさせていただく機会が多くなったんです。だからこそ、自分たちでイベントを企画したり、ライブハウスの方と相談してライブをすることが増えたと思います。すごく楽しいイベントが出来るようになりました。
●バンドとして発信することのおもしろさをより感じるようになった。
木村:そうですね。力を貸してくれることが増えたり、認めてくれる人が増えたので、そういうバンド発信がやりやすくなったと思います。
●浅井さんはどうですか?
浅井:私も大きく変わったことはなくて。(伊藤に)持ってきてもらった良い曲にドラムを付けることしかやってないので…。
●そんなことないでしょ(笑)。
木村:浅井さんはお菓子くれます。
●ハハハ(笑)。
浅井:そんな感じですね(笑)。2人が色々手間かけて考えてやってくれてる分、自分は楽させてもらっちゃって…。
伊藤:そんなことはないです。誰かが楽をしているということはありません(笑)。
●浅井さんは謙虚なんですね(笑)。前作の『HAUGA』は“始まり”という意味をタイトルに込めたということですが、今作はテーマがあったんですか?
伊藤:いや、曲はもともとテーマ性を持っているんですが、作品のタイトルは後付けなんです。曲単体で考えたら、僕が素直に思ったことが6曲入ってるという感じ。
●作品としてという意識はなく、1曲1曲作りたい曲を作っていった?
伊藤:基本的にはそうですね。「日記を書く」じゃないですけど、それに近い感覚で曲を作った時に、僕の想像とは違うものになったり、意図通りになったりすることもある…その中で、良いと自分で感じるものを選んだのがこの6曲で、その後にタイトルを決めたんです。結局僕が作ってるので、作品のテーマと言うならば「今の僕」というか「今の僕ら」に近いです。
●前作と聴き比べてみたんですが、今作の方がたくさんの感情が詰まっている気がしたんですが、そういう自覚はありますか?
伊藤:『HAUGA』のときも考えてることが5つあって、その5つを曲にしたつもりなので、大きく変わったという自覚はなくて。ただし今作で変わっているのは、僕らの経験値の違いというか。
●経験値の違い?
伊藤:極端に言うと、『HAUGA』はあまり気持ちが入っていないというか、この2枚を比較すると前作はちょっと無機質っぽいのかなと思います。
●ほう。
伊藤:そういう視点で聴くと、前に比べてちょっと色づいた表現が出来るようになったという実感がありますね。僕個人で言っても、歌メロの付け方とか自分のコード感をより音楽的に理解することが出来るようになった。自分の持っている感情の大きさはあまり変わらないんですけど、それをアウトプットしたときに、僕の音楽的な経験値でより感情的に拡がりがあるように聴こえるのかなと。
●なるほど。曲の源泉になっている気持ちは変わらないけど、アウトプットする方法が成長した。
伊藤:そうですね。曲を作ろうとする根本もそうですし、僕が曲を作るときのやり方も上手になりましたし、それを汲み取る力も上がったし、実際に出す音も良くなった。要するに全体的にバンドが上手になったんじゃないかなと(笑)。
●伊藤さんの“こういう風にしたい”というイメージはメンバーにどうやって伝えるんですか?
伊藤:例えば誰かのCDを聴きながら「この曲のこの部分みたいな雰囲気はどう?」とかで伝えます。好きなものが一緒の分、そういった共有はしやすいので。
●はい。
伊藤:後は相性の問題っていうか、誰かが出したアイディアを他の人が気に入るかどうかで。僕の伝え方ってあまり具体的じゃないんですが、ある程度の音楽性の指針があってメンバー同士の相性がいい分、そこで誰かから出てきたアイディアに対して気に入らないことはほとんど無いんです。色んな個性がぶつかるバンドも居ると思うんですけど、僕らの場合はそういうのがないので、おおらかにやってるし心の余裕があるというか。
●それと、どの曲からも音と音の間に切なさや哀愁みたいなものを感じるんですが、それがArtTheaterGuildの特徴であり、個性だと思うんです。さきほど木村さんと浅井さんは、伊藤さんの作る曲を「良い曲」とおっしゃっていましたが、どういう部分でそう感じるんですか?
木村:作っている段階では、歌のメロディやコード進行がすごく綺麗だなと思っていて、その段階ではあまり歌詞は聴かないんです。でも音源になってから聴いてみると、歌詞がすごく好きだなと感じる。これは僕の聴き方がちょっと特殊なのかもしれないですけど、聴こうとしていないけれど聴こえてくる歌詞がすごく印象的で。
浅井:あ、私も同じ感覚なんです。作ってるときは断片的にしか歌詞が聴こえないんですけど、その断片自体も特徴的というか、他の人があまり使わない言葉が多いからすごく耳に残る。伊藤さんはすごい才能があるなと。
●うんうん。
浅井:メロディも何回かスタジオで合わせるとすごく耳に残って、生活の中で自然に鼻歌で出たりする。そういうのもすごいと思うし、全部出来上がったときに答え合わせみたいな感じでいろんなものが繋がって。そういう部分がすごく好きだなと思います。
●曲の底にある“切なさ”みたいなニュアンスは、自覚はあるんですか?
伊藤:してやったりというか、たぶんその“切なさ”とか“哀愁”みたいなものが最初に出てくるのは、サウンドメイクじゃなくて歌詞だと思うんです。
●あ、そうかもしれない。
伊藤:僕は自分が何を考えてるかという歌詞はあまり書きたくなくて。
●直接的な心象描写はしたくないということ?
伊藤:例えばラブソングを誰かが作ったとして、地名とか、このとき本当に辛かったとか、ちょっと日記っぽいことを歌詞に書いていたとしますよね。それはリスナーがした体験じゃなくて、作曲者がした体験でしか感じられない気持ちの描写というか。その出来事に対して共感できるかどうかがリスナーの心境だと思うんです。僕はそういう曲を作るのが苦手っていうのと、あまり好きじゃないというのもあって。
●はい。
伊藤:僕が歌詞を書くときにいちばん優先したいのは、僕が思ってることに共感してほしいんじゃなくて、僕が作った文字の羅列から自分がしてきたことを連想してもらって、それで感動してもらいたいというか。the pillowsはそういう所があるんですよ。僕の解釈としては、the pillowsは直接的な言葉の掛け合わせが本当に絶妙で。
●なんとなくわかります。
伊藤:一方で僕はどちらかというと直接的な言葉は避けていて、歌詞を見て“自分はこういう経験があったな”とか、そういう自分の中にある感情を連想して心を動かして欲しい。だから歌詞を書くときは“僕が思ってること”と受け取れない組み方をしているんです。
●意識的にそうしているんですね。
伊藤:はい。聴いたときに余韻が残るかもしれないなっていうのは自分でも思います。後は言葉選びもかなり重視していて、タイトルもそうですけど「なにこれ?」と思うようなインパクトのある言葉を選んだりもしていて。
●M-3「鉄紺と黄緑」という曲の“鉄紺”という言葉は人生で初めて聞きました。
伊藤:僕も曲を作るときに人生で初めて知りました(笑)。the pillowsの山中さわおさんが昔ギターにケシの花のステッカーを貼ってたんですけど、その時期に使っていたサブのギターを譲っていただいたんです。
●お、すごい。
伊藤:お客さんもそのステッカーを象徴みたいに思っていて、そのことをこの曲で歌いたかったんです。でも“ケシの花”というタイトルにしちゃったら、「ArtTheaterGuildの伊藤のぞみがthe pillowsに対して思っていること」という感覚で聴いちゃうと思ったんです。
●確かに。
伊藤:でも「鉄紺と黄緑」というタイトルにすると、何に対して書いたか考える時間が必要になってくるじゃないですか。そういう意味で直接的な表現を隠すことによって、人によって感じることが違うと思うんです。聴く人が1000人居たとしたら、1000通りの考え方が浮かぶ歌詞を僕は作りたい。そういう想いがメンバー2人にも伝わってたり、お客さんにも伝わっているのであればいいなと。
●それは、1つの物語を作っている感覚なんですか?
伊藤:「ファンタジー」と言われたらそれに近いとは思います。僕が思っていることを「出来るだけ直接言わない」という縛りを設けて歌詞にしたら、ファンタジーみたいなものに近寄って行く。その中で更に、僕に似合わない言葉があると思うので、歌詞を組み立てときに単語とか接続詞とかを厳選する。「鉄紺と黄緑」でいうと“土の中に浮かぶ雲”という歌詞とか…ありえないけど、想像出来る表現にしたいんです。
●世の中に存在しない言葉だけど、想像出来るもの。
伊藤:そういう意味でのファンタジーみたいなものはある程度入れたいのかな。ロマンという意味で。
●音楽の作り手としてのロマンですね。
伊藤:それがいちばんいいのかなって思ってます。
木村:“土の中に浮かぶ雲”というのは、伊藤の中で正解はあるの?
●お、メンバー間の質問。いいですね(笑)。
伊藤:これは、なりたい自分。“土の中に浮かぶ雲”という部分だけ切り出したらわかんないと思うんですけど、“土の中に浮かぶ雲なんて無いけど/「ある」と信じる君が好きだよ”という一節は、さわおさんのことを言ってるんです。
●ほう。
伊藤:なりたい自分になることは絵空事かもしれないけど、それが「ある」と歌ってくれているさわおさんのことが好きだよっていう意味。サビで“お揃いの服”と歌っているのは、さわおさんの使っていたギターを僕も使ってるという意味を込めていて、ギターソロで僕の中で心変わりをしたという意味を持たせたんです。僕は結局、僕自身でしかないなって。
●そういう背景や心象は直接的に表現していないけど、おそらく音や歌に滲み出るんでしょうね。
伊藤:そういうニュアンスは、文章を書くだけだと意味がわからないと思うんです。でも僕は作詞家ではなくてソングライターなので、そこに音とメロディを付けることを許してもらっている。だから理解するための手助けになるものを作りたいと思っていて。音と言葉の噛み合わせじゃないけど、そういうことが上手くいったときに、人は名曲だと感じるじゃないのかなと。
●曲を作るときは、メンバー2人にはそういう話はしないんですか?
伊藤:聞いてこないので言わないですね(笑)。「知らなくていいの?」って思うこともありますけど、でもさっきの2人の話を聞いてちょっと納得しました。
●2人の話から、聞かなくても伝わってる感じがしますよね。
伊藤:そうですね。いちばん身近な2人が感じてくれているんだったら、リスナーのみなさんも解ってくれてるんじゃないかな。
●「鉄紺と黄緑」の背景というかネタバレに近い説明をしてもらいましたけど、おそらくどの曲にもそういう背景があるんでしょうね。
伊藤:そうですね。曲によっては言葉遊びみたいなものから生まれたものもあるんですけど。
「文章を書くだけだと意味がわからないと思うんです。でも僕は作詞家ではなくてソングライターなので、そこに音とメロディを付けることを許してもらっている」
●それと、ちょっとうまく説明できないんですが、どの曲も1行目から作った感じというか、1行目からすべてが始まるような印象があったんです。サビも印象的ですけど、どの曲も1行目がすごく耳に残る。
伊藤:よかった!
●あ、意識しているんですか?
伊藤:そうですね。歌詞の1行目、最初の単語は調べたりしてます。
●調べる?
伊藤:例えばM-1「Marbles」の1行目は“想像と遠すぎるイメージ”と書いているじゃないですか。ネットで「想像と遠すぎるイメージ 歌詞」とかで検索すると、同じような表現の歌詞が出てくるんですよ。そういうのと見比べて「いや、こっちのほうが強いな」と検証する作業というか(笑)。
●へぇ〜。
伊藤:1行目って大事だと思うんです。そこのインパクトで聴くかどうかが問われるというか。曲を全部聴かない人でも1行目は聴くと思うし、そういう意味ですごく大事にしてますね。イントロは僕じゃなくて木村の仕事なのかなって思う瞬間はたくさんあるので、サウンド面でいちばん貢献してるのは木村ですけど、僕もそれに負けないように歌詞を書いてます。インパクトを重視していますけど、本来の意図からブレちゃいけないので、いちばん悩ましいところなんですが。
●2人に聴かせる段階になる前の曲作りはどうやってるんですか?
伊藤:まず歌詞は考えずにメロディだけ作るんです。歌メロとコードを何となく決めて、最初は手癖でやっちゃって、そのメロディに合わせて家にあるものを読んでいくんです。
●ん? 家にあるものを読んでいく?
伊藤:お〜いお茶とかお菓子のパッケージとかに書いてある文字。浅井さんはガルボが好きなんですけど、お菓子のパッケージには「〇〇なおいしさ!」とか書いてあるじゃないですか。そういう言葉を歌メロに合わせて読んでいくんです。
●ものすごく変わった作り方!
伊藤:手癖で作るとどうしても韻の踏み方とかが一緒になってしまうので、自分の中に無いものを作ろうとしたときに、その方法は意外と有利なんですよ。もちろんそこで乗せた言葉をそのまま使うんじゃなくて、それをなんとなくの種にして組み立てていくんですけど。
●言葉をそのまま引用するのではなく、ハマり具合を試す感覚?
伊藤:そうですね。それを試していって、そのハマり具合と僕のコード感が合わさったときに雰囲気が出てくるんです。僕は漫画とかアニメとかもよく見るんですけど、気に入った言葉とかはメモっておいて。そのメモ帳みたいなものが携帯の中にあるんですけど、歌詞を書くときにそのメモ帳を見返して、良さそうな言葉を組み合わせたり。最初はそうやってちょっと機械的な作り方をしていくんですけど、最終的に対義語を持ったりするとなんとなくいいフレーズが出てくる。僕が望んでいるものが出てきて、雰囲気がもっと出てくる。
●おもしろい作り方ですね。
伊藤:僕が思ってることを、メモ帳の言葉と組み合わせていって、僕が思っていることだと他人に受け取られないようなヒントの隠し方をして、歌詞を作っていく感じですね。
●論理的に作ってはいるけれど、根本には気持ちが込められている。
伊藤:そういう作り方の方がアイディアは出やすいと思います。例えば僕が気持ちを込めて歌っちゃうと結構ガチガチに固まると思うんですよ。でも作曲はサポートベース含めて4人でやるので、イメージとは違う形で出てきた場合を許容する余裕が僕の中に必要になってくると思うんです。
●想いが強すぎるとガチガチになる可能性は大きいでしょうね。
伊藤:だからこそ、さっき言った作り方がいちばんしっくり来ると思ってて。
●最初からそういう作り方をしていたんですか?
伊藤:いや、これはひらめきですね。いろんな作り方をして試行錯誤していたんですけど、たまたま思いついて。だから心に余裕が出来ますよね。余地がある分、2人の意見も取り入れやすい。
●あとサウンド面でいうと、音の選び方もバラエティに富んでいて、楽器の音が曲ごとに違うと思うんです。どうやって音選びとかアレンジを詰めていったんですか?
木村:前作と比べて1年くらい経って、技術的に上達した部分もあるでしょうし、アレンジの手札も間違いなく増えているので、音のバラエティが増えたんだと思います。あとは、例えば「Marbles」とかM-2「Birthday」を作っていたときは、Radioheadを改めて聴いていて“ギターかっこいいな”と思っていた時期で。だからRadioheadのギターの匂いを隠し味的に混ぜた感じです。
●浅井さんはどうですか?
浅井:前作はセッティングも機材も変えずに全曲録ったんですけど、今作は曲によってスネアのチューニングを変えたり、ミュートとかにして。私の場合は手持ちの機材がそんなに無いので色んな方法を試したわけじゃないですけど、出来ることの中から意識的に曲に合うものを選んでいった感じです。
●なるほど。今作の6曲は最近作ったんものなんですか?
伊藤:基本的には最近ですね。ただ、M-6「zoo」は僕がバンドを始めていちばん最初に作った曲なので、8年前ですが。
●え? そんなに前に作った曲なんですか?
伊藤:19歳くらいのとき。当時作ったデモをまだ持っているんですけど、宅録なのですべてがしょうもなくて(笑)。でも、そのデモが意外と好評だったんです。
●2人に聴かせたんですか?
伊藤:聴かせました。本当は誰にも聴かせたくないですけど(笑)。でも2人はミュージシャンとして普通のリスナーじゃ聴けない部分を理解してくれて、最後の最後まで今作に収録するかどうか悩んだんですけど、2人のアイディアとか色々合わさったら「いいじゃん!」と満足がいくものになったので。
●すごくいいことですよね。
伊藤:レコーディングするまでは恥ずかしかったというか、照れちゃってたんですけど、みんな「いいじゃん!」と言ってくれて(笑)。さわおさんに「この曲がいちばん人気出るんじゃない?」と言われたもんね(笑)。
木村:こういう曲調のほうがインパクトもあるしね。
●デモと比べてかなり変わったんですか?
伊藤:いや、変わったわけじゃないんですよ。アレンジも大きく変えてるような所はない。でもなんかいいんですよね。デモは歌も下手だし、ドラムも打ち込みでだらしない音で、ギターも録り方がわかってないしエフェクトの付け方も理解していないので、拙さというか、もったり感があったんです。でも今回レコーディングしてみたら、“こんなにシャープで鋭い曲だったんだ”とびっくりした(笑)。
●背骨は変わっていないのに。
伊藤:背骨以外は全身整形レベルで変わってます(笑)。
●やっと陽の目を見れたと。
伊藤:そうですね(笑)。本当に最初の頃に作った曲なので、知ってる人は知ってるという感じだったんです。だから「この曲入ってるじゃん!」と言ってくれる人も居て。色んな意味でいいことしたのかなと。
●8年前の自分に教えてあげたいですね。
伊藤:そうですね。あ、でも8年前の自分はこれが良い曲かわかんないと思いますよ。今になってそういうことがわかってきたというか。
●レコ発は色々と企画中とのことですが、ライブは楽しいですか?
伊藤:今回の曲は少しだけもうライブで演っていますけど、音源としてパッケージされたものをみんなに聴いてもらって、“いいな”と思ってもらってからライブで聴いてもらった方がいいと思っていて。リリースした後にこれからのライブで全曲演っていくことになると思うんですけど、そういうのが楽しみですね。
●今作の中で、ライブではどの曲が難しいと思います?
伊藤:「鉄紺と黄緑」ですね。僕はこの曲はめっちゃ集中して演ると思います(笑)。というのも、普段あまりやらないような弾き方をしてるんですよ。ニュアンスの出し方がどうしても難しい。音源も相当こだわって作っていて、ライブではバチバチと勢いで演っていい曲でもない。まずはニュアンスとしての雰囲気の出し方が、特にギター2人は難しいですね。
●この曲のギター、すごくいいですよね。
伊藤:これをライブでどう表現するかですね。音源ではイントロとかもギターを重ね撮りしてるんです。
●ちょっと変わった音色がすると思ったんですが、特殊なギターを使っているんですか?
伊藤:いや、いつも使っているギターなんですけど、普段とは違うエフェクターで録っていて。アコギも1本入ってるので、何本も同じ音を重ね撮りして、ユニゾンにしているんです。でもライブだと1本なので、僕も大変ですけど、木村がもっと大変かも。
木村:そうかな? 別に大変じゃないよ?
伊藤:さすがだな(笑)。
●ハハハ(笑)。
伊藤:僕はそういう絶妙な雰囲気は、気を遣わないとお客さんに意図してるものが伝わらないかなと思っていて。
●伊藤さんの想い入れも強い曲だし。
伊藤:そうですね。やっぱり大事な曲だし、集中してやります(笑)。
木村:あ、でも「鉄紺と黄緑」は僕らにとって珍しい曲なんですよ。ArtTheaterGuildで初めて、俺から始まる曲なんですよ。
伊藤:あ〜、そうだね。いつもは僕かドラムかベースから始まる。言われてみれば、リードギターから始まる曲はこの曲だけです。
木村:演奏はそこまで大変じゃないけど、そういうプレッシャーはありますね(笑)。
●浅井さんはライブで今作の曲を演奏するのは楽しみですか?
浅井:すごく楽しみです。今回の曲は自分の中で演りやすい感じがあるので、早くライブで演奏したいなって。「zoo」は昔に何回か演ったことありますけど、勢い重視の曲なので、そこで自分が勢いをダウンさせないように意識を持って行こうという感じがあって。なので私的には、難易度が高いわけじゃないですけど、ポイントになる曲かなと思ってます。
interview:Takeshi.Yamanaka
assistant:Yuina.Hiramoto