厚い雲に覆われた曇天の空のごとき重苦しさを湛えたイントロから、物憂げで切ない歌声がつぶやくように言葉を紡ぎ出す。冷たく乾いたサウンドがクライマックスに向けて徐々に熱を帯びるにつれて、淡々とした冷静さを装った歌声にも少しずつ感情が溢れ始める。そしてサビに辿り着いたところで、心の内に秘めていたものを一気に吐き出すように歌う。“ハロー のぞんだ世界はどう?”と。フックのあるメロディと共に飛び込んできたのは、どこか皮肉めいた歌詞だ。それは胸の奥深くに突き刺さり、もう簡単には消えない“傷跡”を残した。
“amenoto(アメノト)”という不思議な名前を持つアーティストが、この楽曲「ハロー」の歌い手だ。全詞曲を手がけるVo./G.石井翠のソロプロジェクトとして、2013年初夏より始動。まだ22歳という彼女が描く世界観には、どうしようもない“諦め”が通底している。「ジメジメしている感じ」(以下「」内は石井の発言)を表現したという“ame=雨”は、「すごくウジウジしている」という自分自身の性格から付けたらしい。音楽をやることでそういう自分を変えたいのではないか? という問いに対する彼女の答えは「でも無理じゃないですか。だったら、しょうがない」。
徹底的にネガティブな彼女がバンドを始めたのは、高校に入学してから。「今まで空気みたいな存在だったので、目立ちたい気持ちはちょっとあった」という想いで、オリジナル曲も作り始める。大学でも音楽サークルに入るが、周囲の環境になじめず“酸素不足 喘いでいたんだ”という状況で中退。その時に「もし大学を辞めなかった自分がいたらどう思うか?」というところから生まれたのが、“ハロー のぞんだ世界はどう?”と問いかける「ハロー」だった。苦境から解放された先で自らを突き刺すように作った曲だからこそ、強力なフックを得たのかもしれない。
「本を読むのが好きになってから、人と話すよりも本を読みたい感じになっちゃった」という読書量から培われた文学性。MUSEやRADIOHEAD、KyteなどのUKロックに根ざした音楽性。そして「元々、人前で歌うのがあんまり好きじゃなかった」と話すわりには、ステージでも全く緊張しないというアーティスト性。それらが重なった上に、寂しさの中にも切ない激情を秘めたような天性の歌声が乗ることで“amenoto”となるのだ。どこまでも暗いようでいて、その音には確かな光が感じられる。なぜならば、彼女自身が“のぞんだ世界”は“光まみれでそらまで行けそう”なのだから。
そう歌う「ハロー」を含む初の音源『amenoto ep』は、11月からライブ会場/配信/ディスクユニオンにて販売される。ここでその存在を知って興味を抱いたならぜひライブに足を運んで音源を手にし、生の音にも触れてみて欲しい。「“伝わったらいいな”くらいの感じですけど、自分みたいな人に向けて歌っています」という彼女の心性と少しでもシンクロしたならば、amenotoの音はあなたの心を狂おしいほどに揺らすだろう。そして、その人数は決して少なくないはずだと今、確信している。
Text&Interview:IMAI