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AJISAI

例え出口は無くとも、僕らはわずかな光を探している

 3rdアルバム『pocket LIFE』を2011年1月にリリースし、同作ツアーファイナルの渋谷CLUB QUATTROワンマンを大成功させたAJISAI。

一歩一歩をしっかりと踏みしめ、マイペースに活動を重ねてきた彼らが鳴らすロックサウンドは、生きていく中で感じる葛藤や絶望、そしてそれらを救い出す人間味に溢れている。

ヴォーカリストとしての自覚を持ち、表現者として成長を遂げ、自らの信じる音楽をあるがままに表現する松本に、最新シングルのことを訊いた。

Interview

●今年2月に渋谷CLUB QUATTROで行われたツアーファイナルは大盛況でしたね。

松本:そうですね。QUATTROでやるのが初めてで、どうなるかなと思ったんですけど、よかったです。

●今まで何度もライブを観させてもらっていますが、あのQUATTROのライブは、感情や気持ちを自ら積極的に表現するタイプではない松本くんの人間性が見えるステージだったと感じて。

松本:前作のアルバム『pocket LIFE』から、曲作りに関してもライブに関しても、嫌われるなら嫌われるでいいやっていう感じでやってきたのもあって、自分たちがやりたいことを思いっきりやろうという気持ちだったんです。だからQUATTROは本当に自由にできたというか、いい意味で"どうでもいいや"みたいな。

●人にどう思われようが、そこを気にするというような無駄な作業をしなくなったということ?

松本:そうですね。観てくれている人は"いいものはいい"っていうことはちゃんとわかってくれているので。前作のツアーで地方に行っても確実にお客さんが増えていて、そういうスタンスでも好きな人がいてくれるというのがわかったんです。だからツアーファイナルでは想いが全部出せたかなという実感がありますね。

●"AJISAIツアー2011~pocket LIFE~"は、総括するといいツアーだった?

松本:そうですね。でも前作に収録した新曲の歌詞がストレートだったからこそ、ライブでどう伝えるのかっていうところがすごく難しかったです。リハーサルでも悩んだりして。そういう試行錯誤があった上でツアーをやりきって、メンバーもそれぞれ精神的に余裕が持てる様になったのかもしれませんね。

●今までのワンマンと比べて感覚は違いました?

松本:違いましたね。ツアーで武者修行したおかげで、すごく自然にできました。あっという間に終わっちゃった感じで、終わるのが寂しかった。

●"終わるのが寂しかった"と思えるって、いいことですね。そして今回のシングル曲「EXIT」なんですけど、感想を先に言うと、絶望から始まりちょっとした希望を見つけて終わる、松本俊節と言いますか…後半に入るまでほぼ絶望みたいな曲じゃないですか(笑)。

松本:すごく久しぶりの陰湿さと言うか(笑)。

●アハハ(笑)。久しぶりという感覚なんですか?

松本:久しぶりでしたね。最近はすごく前向きな歌ばかり作っていたし。前作でも暗い曲はありましたけど、色々と自分で作った制約の中で作ったんです。でも今回は好き勝手にやれたという感じ。

●何故こういう曲が生まれたんですか?

松本:ニュースとかで世界の戦争とか流れているじゃないですか。それを他人事のようにただ観ているだけの自分はいったいどうなんだ? と思って。3月の地震でたくさんの人が亡くなって、自分もそうなっていたかもしれないのに、やっぱり他人事の様に観ていたりして。そこで"自分はどうすればいいんだろう?"という自問からスタートして、結果こういう曲になりました。

●松本くんらしいというか、ちょっとドロドロとしたものがスタート地点だったと。歌詞の内容については、後半で急にガラッと展開が変わりますけど、何故こういう形になったんでしょうか?

松本:まず最初に疑って否定して、それでも人の温かさを信じたかった…自分の性格そのままというか(笑)。誰かに優しい言葉をかけられたりして救われると、人の温もりはいいなと思うことが日常生活でよくあって。

●過去のインタビューでそういう話になったこともありましたけど、もともと松本くんは物事を悲観的にというか否定的に捉える性格ですよね。ネガティブスタートというか。バンドをやっていくウチに、そういう視点は変わったんでしょうか?

松本:完全になくなっているわけじゃないです。比率にすると絶望が9で、救いが1ぐらい。

●絶望デカいな(笑)。

松本:やっぱり絶望があるから希望を感じるんですかね。…かと言って、誰も絶望を欲しがらないじゃないですか。だから難しいところですよね。

●そういう現実を、自分の中ではどう消化しているんですか?

松本:そこである程度絶望するのはしょうがないのかなっていう。救いばかりだと、その救いに気づけないだろうし。

●確かに「EXIT」は、わずかな光を探しているだけで出口があるとは歌っていなくて…歌詞をよく読んでみたら…"救い"もないですねこれ(笑)。

松本:ないですね(笑)。こういう歌詞は本当に久しぶりなんです。

●こういう曲を作ったとき、何かが変わるんですか?

松本:改めて自分の想いをノートに書いて、そこで気づくこともあるというか。日記を書いた後に読み返すみたいな感じですかね。

●その時の自分の想いがひとつの形になり、客観的に自分を見ることができるというか。

松本:やっぱり曲を書いて、そういう風に改めて気づくことはよくありますよね。

●この曲は言いたいことが先に出てきたんですか? 歌詞に合わせて曲を作ったようなニュアンスを感じたんですけど。

松本:そうですね。言いたいことが先でした。この曲は完全に歌詞から書いて、後からメロディを付けたっていう。

●メロディに関してはすごく生命力があって、力強さ、伝わりやすさ、キャッチーさを強く感じるんです。でも先に言いたいことがあったのだとしたら…サウンドとかメロディとの整合性が上手くハマったんですね。

松本:そうかもしれないです。今まではずっとメロディ先行で作っていて、ここまでちゃんと歌詞から先に書いたのは初めてだったんですけど、上手い具合にできましたね。先に歌詞があったから、アレンジも歌詞に対してアプローチできたというか。

●ということは、新境地的な側面もある。

松本:ある意味そうですね。どうしても言葉を入れたい場所もあって。譜割り的に歌いにくいところもあったんですけど、そこは工夫しました。

●譜割り的に苦労したということですけど、今作のヴォーカルはのびのびと表現している感じがすごくするんです。自分が"こう歌いたい"と思ったことを素直に表現しているというか。

松本:今回両方の曲がそうなんですけど、歌に関しては下手くそでも、音程をちょっとぐらい外していても、人間味を出したいなと思ったんです。歌っていない時でも息づかいが聴こえるぐらいの感じがいいなと。

●そこは意識したんですね。何故そういう風に歌った方がいいと思ったんでしょうか?

松本:やっぱり曲がそうさせたんだと思います。曲に込めたメッセージ的なものだと思うんですけど、機械の様に上手く歌うよりも、人間味を出して歌った方が伝わるかなと思ったんです。

●そこには照れとかはなく、思いっきりやったと。

松本:はい、そうですね。

●ちなみにツアーが終わって以降、曲はたくさんできているんですか?

松本:たくさんありますね。ボツになったのも合わせると30曲ぐらいは。

●かなり作っていますね。最近のAJISAIはどうなってきているんですか? 以前と比べて変わってきているんでしょうか?

松本:変わってきているのかもしれないです。まだ他の曲はレコーディングしていないので何とも言えないですけど、音作りにしてもアレンジにしても、シングルのこの2曲を基準にして今後やっていきたいなと思っているんです。

●今回の2曲は両極端な感じですけど、そういう意味では今作で手応えを感じている?

松本:そうですね。今後はバンド感をもっと出したいと思っていて。バンドで表現できるやり方を、これから追求していきたいなと。今作を作っていてそう思ったんです。

●バンド感を出すというのは?

松本:今作を作って自分で聴いた時に、やっぱり人間味とかが音から伝わってくるのがいいなと思って。

●それはライブにも通ずることですけど、ゆっくりゆっくりAJISAIが変わってきたということなんでしょうね。AJISAIというバンドは音楽的に変化してきたとか、ジャンル的に変わってきたというより、その人となりが見える様な表現をだんだんするようになってきた気がするんです。

松本:やっぱり音をシンプルにすればするほど、他が難しくなって来るんですよ。"そこで何を伝えるか?"ということだったり。でも、それがキチンと伝えられるのが僕としてはいちばんいいなと。

●そういう表現は精神的な自信というか、覚悟が無いとできないことだと思うんですよね。今までの経験で自分をさらけ出して、自分を表現することに恐れなくなったというか。

松本:うん、きっとAJISAIのメンバーはみんなその辺の自信が付いてきていると思います。

●新曲は30曲ぐらいできてるんですよね。今までもたくさん作品を作ってきましたけど、松本くんの中で曲は尽きないものなんですか?

松本:作品を作ったらやっぱりストックはなくなりますけど、ライブとかで対バンして他のバンドを観る機会も多いじゃないですか。僕はけっこう観る方で、そういう人たちって例え世に出ていなくても、いい音楽がいっぱいあるんです。普通の生活では、それだけの数の音楽をライブハウスで聴くことなんてなかなかないと思うんですけど、僕にとってはそれが曲作りの刺激になっていると思います。それ以外、普段は音楽聴いていないので(笑)。

●最近観たバンドで、刺激を受けたのは?

松本:最近は…グッドモーニングアメリカが超よかったですね。

●グッドモーニングアメリカいいですよね。

松本:今まであまり知らなかったんですけど、ライブを観たらすごくよかったんです。本当に鳥肌が立ったぐらいで。上手く説明できないですけど、すごくよかった。

●直接的に影響を受けるという話ではなくて、対バンしたバンドから受けた刺激が音楽を作る動機や糧になっているんですね。そういうバンドを観て嫉妬とかはしないんですか?

松本:嫉妬ばかりですよ(笑)。すごくいいと思えるけど、やっぱり悔しいです。

●そういう嫉妬はいいことだと思いますよ。嫌な感情ではあるけど。

松本:そうなんですけどね。だからいいライブを観ても、"すごくよかった!"って素直に思えなくて、悔しい気持ちで帰らなくちゃって感じなんですよ(笑)。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Edit:HiGUMA

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