『FUCK FOREVER』という衝撃的なタイトルのミニアルバムを手に、a flood of circleがレーベル移籍を果たしたのは2012年末のこと。何かから解き放たれたかのように、それまで以上に生々しく感情を吐き出した作品から彼らの勢いはさらに増していった。19本に及ぶワンマンツアーに続いて、今年4月には『Dancing Zombiez』という新たなライブアンセムをシングル・リリース。6月には東京Zepp DiverCity公演を大成功に収めるなど、その支持が過去最高潮に高まっていることを証明して見せている。そんな中で発表されたのが、今回のニューアルバム『I'M FREE』だ。ルーツとするブルースへの深い愛情は変わらぬまま進化を果たした3人が今、50年を超えるロックの歴史へと叩きこむのは、a flood of circle流の2013年型ロックンロール。触れる者すべてを巻き込むその音は、紛れもない”王道”の輝きを放っている。
●昨年12月にレーベル移籍第1弾のミニアルバム『FUCK FOREVER』をリリースしたわけですが、タイトルや歌詞の振り切った感じにすごく驚きました。何か大きな心境の変化があったんでしょうか?
佐々木:移籍一発目からタイトルに“FUCK”を入れてしまったという…(笑)。でもそれまで猫をかぶっていたというつもりもないし、自分はいつでも自然体なんですよ。『LOVE IS LIKE A ROCK’N’ROLL』(4thアルバム)でも「LOVE」っていう言葉を恥ずかしげもなく本気で言っていたし、『FUCK FOREVER』というのも本気で書いているんです。自分の中では震災以降の流れがすごく大きくて、そこで心境の変化もあって。TVやインターネットといったメディアを通してじゃなく、ツアーを通してバンドで何かを感じることのほうが多かった中で、自然と怒りが出てきちゃったんでしょうね。
●ブチギレ感があるというか…。
佐々木:意図的に怒りを前面に出そうとしたわけじゃないし、怒りだけで作っているつもりは全然ないんですけど、ちょうどレーベル移籍のタイミングは言葉が強くなっていた時期でしたね。「もっと本音を書ききろう」みたいな気持ちがすごく出てきていたんですよ。だから「LOVE」でも「FUCK」でも何でもいいんだけど、ズバッとした言葉でちゃんと言い切りたいという想いがあったんです。
●言い切りたいと思うようになった経緯とは?
佐々木:バンドとしては『ZOOMANITY』(3rdアルバム/2010年)以降でメンバーも変わった上にレーベル移籍もあったりして、ドタバタ感がすごくあったんですよ。だけど姐さん(Ba.HISAYO)が入って『LOVE IS〜』を作ってから、やっと固まってきて。そこがちゃんと固まったところで、ロックに興味がないような人たちにも「ロックンロールとは何なのか」を知って楽しんでほしいという、外に向けた気持ちがどんどん出てきたんです。そのあたりの変化が今回のアルバム(『I'M FREE』)にはデカかったと思います。『FUCK FOREVER』では「言いたいことを言い切るぞ」という気持ちがあったんですけど、そこから先の「ちゃんと届けたい」という想いが今回はより強かったですね。
●そこに辿りつけたのは『FUCK FOREVER』で一度振りきれたからなのかなと。
佐々木:メンバー全員に革ジャンを着せてライブをやったりもしたんですけど(笑)、1つのロックンロールバンドのテーゼの示し方として『FUCK FOREVER』はすごく正しかったと思っているんですよ。今はステージでも思いっきり「ロックンロール!」と叫んでいるし、本当にそれを伝えたいという想いがあるんです。でも「ライブハウスの小っちゃい密室に閉じこもっているロックンロールだけは絶対にやりたくない」と思っていて。
●もっと広がりのあるものを表現したかった?
佐々木:『FUCK FOREVER』ではロックンロールバンドとしての強さをちゃんと証明できたと思うんですよ。そこに自信があったので、今回の『I'M FREE』では可能性をもっと広げたかったというか。だから「a flood of circle(以下、AFOC)をデカくしたい!」という気持ちを持って、レコーディングにも向かいました。俺の勝手な思い込みかもしれないけど、「2013年の日本にはこんな言葉や音楽がもっと必要だろ」っていう気持ちで『FUCK FOREVER』を作ったし、『I'M FREE』ではそれがもっと強くなっているんです。だったら日本中にちゃんと届けないと、その気持ちが嘘になっちゃう気がして。そういう伝えたい気持ちが出発点にあるということもバンドのメンバーはすごくわかってくれているので、全てがやっと固まってきたなという感じがしています。
●バンドとして固まったということも大きい。
佐々木:メンバーが変わったり色んな状況が変わってもバンドを続けてきていることに俺は意味を感じているし、それもダラダラ続けてきたわけじゃなくて、ちゃんと高みを求めて続けてこられている。そこはメンバーのおかげでもあるんですけど、ロックンロールバンドとして何をどれだけ上まで転がしていけるのかという挑戦が今は楽しくなってきているんですよ。そのおかげで自分が曲を作る時も「人をもっと巻き込みたい」とか「歌を聴かせたい」みたいな気持ちがすごく出てきていて。言葉が強くなった理由として、そういう部分はすごくありましたね。
●そうやって人を巻き込んでいこうという気持ちがあるから、若い世代のファンも惹きつけられているんだと思います。いわゆるロックンロールバンドのライブでは、クラウドサーフやウォール・オブ・デスは起きないでしょうし…(笑)。
佐々木:そうですね(笑)。普通に革ジャンを着ているだけのロックンロールバンドではそうならないかもしれない。そこは自信を持っているし、ロックが好きな人には「これが今年の本物だから」と言って渡せるくらいの作品を作ったつもりでいて。それどころか逆に、ロックンロールと言われても全然ピンとこない人でも楽しめるようなものにできたという気すらしているんです。
●コアなロックリスナーだけじゃなく、もっと一般的なところにも届くものになっている。
佐々木:ロックに興味があろうがなかろうがAFOCの音楽を聴いた時に、俺たちが続けてきたことの意味や「ブルースとは何か?」といったことを全部を説明しなくても「こいつ暑苦しいけど、面白いことをやっているな」と思わせたら勝ちかなと思っているんです。そういうところで、ロックンロールというものの間口は絶対に狭めたくなかった。たぶん今までのアルバムで一番アレンジも自由にやっているし、音楽的にもっと面白くしようとしたり、言葉に時間をかけるっていうことがやっとできるようになったのかな。移籍して1枚目という意味もありつつ、そういうオープンな気持ちで「1歩目は踏み込めたな」っていう気がしています。
●ロックンロールというもののイメージには縛られないというか。
佐々木:もちろんロックンロールバンドとしてのポリシーみたいなものは、自分の中にずっとあるんですけどね。でも今回はたとえばラップみたいに歌ってみたり、あまりロックでは使われないような言葉遣いやアレンジにしてみたりということを怖気づかずにやれたんです。前だったら「これをやったらロックじゃないんじゃないか?」とかつまらないことを気にしていたかもしれないところを、どんどん超えられるようになってきている感覚はあります。
●表題曲の「I'M FREE」を初めて聴いた時はトガッた言葉が刺さってきて、すごくインパクトがありました。この曲の歌詞は実話を元にしているそうですが、発端となった怒りの感情にユーモアを加えて表現できていることで広がりが生まれているなと。
佐々木:それはバンドの必殺技だと思うんですよ。仮に社会的なメッセージを持っていたとしても、俺たちがやっていることって「社会の一員として何か役に立ちます」とか言って行動するわけでもなく、ギターを持って叫んでいるだけっていうか(笑)。本当に大事に思っているメッセージや言葉を、革ジャンを着て「ロックンロール!」って叫ぶっていうほとんどギャグみたいな行為で伝えているわけなんです。そういう部分でもユーモアは大事だと思っているし、…まぁ俺みたいな根暗なヤツにでもそういうことができるって証明したいですね(笑)。
●ハハハ(笑)。
佐々木:「楽しんでほしい」と本気で思っていて。すごく真面目に踏み込んできてもらっても全然OKなくらい強いものを作っている自信があるし、逆に笑い飛ばされても全然OKっていうくらいの気持ちでいるんです。ビートがあって、コードが明るくて、シャッフルビートで踊れるっていうものがロックンロールのルーツなわけで、つらいことやしんどいことさえも笑って踊りながら楽しめるものなはずだから。50年以上の歴史がある中で俺たちが2013年型のロックンロールを表現できたら、すごくタフなものとして伝わるんじゃないかなと。
●タフなものというのはどういう意味で?
佐々木:流されるものじゃないというか。今の時代は情報や消費のサイクルが早いので流されそうな瞬間はたくさんあるけど、俺がどうにか足を踏ん張っていられるのはロックがあるからだなと思っていて。(自分たちの音楽が)そういう希望みたいなものになっていったらいいなと思うし、俺にとっては実際すごく希望になっているから。そういう感覚がみんなにも伝わったら、うれしいですね。
●実際、AFOCはメンバーの失踪や脱退といった苦難を乗り越えて、タフなバンド・ライフを送ってきたわけですよね。
佐々木:よく「苦労しているな」と言われるけど、もっと苦労している人たちはたくさんいるわけで。俺たちのストーリーの中でベストを尽くしていれば、聴いてくれる人たちにもっと良い景色を見せられるだろうし、俺たちも見れるんじゃないかなと思うんですよ。単純に言えば、よりデカい会場でライブできれば、地道にやってきたことの意味があるっていうことの証明になるんじゃないかなと。この前にZeppでライブをやったこともそうなんですけど。
●6/16に東京Zepp DiverCityでやったワンマンライブのことですね。
佐々木:『ZOOMANITY』のツアーファイナルの赤坂BLITZで前のベースが辞めたんですけど、それでもナベちゃん(Dr.渡邊一丘)とスタッフには気持ちがあって残ってくれて。そこに姐さんが入って最強になって…という流れがあったので、一歩ずつ進んでいること自体にすごくプライドを感じているんです。だからZeppに来てくれた人たちのことを全員、俺は信頼しているわけで。そういうことを積み重ねていけばいくほど、どの会場でも俺たちがやっている音楽やロックンロールが会場を包み込んでいる実感があるんですよ。それをもっとデカいところでやれたら、もっとカッコ良いんじゃないかっていう。『I'M FREE』を作っている時はもうそのモードになっていて、デカいところを目指したいなという気持ちで作っていましたね。
●単に個人的な怒りをぶちまけているわけじゃないと(笑)。
佐々木:だけじゃないですね。たとえ個人的な怒りから始まっていたとしても、日本中どこへ行っても伝わるはずのものをやっているつもりなので。そこは変に卑屈になったり、小さくまとまったりせずにやりたいんです。
●「I'M FREE」の“もともと価値なんかないもんだと言ったボブディランを信じる”という歌詞も卑屈なわけではなく、音楽の気高さを知っているからこその言葉なわけですよね。
佐々木:無価値なものだとしても、それに価値があると思って選ぶのは自分だから。ちょっと前の俺だったら「俺は選んでますから」って言えるだけだったけど、「I'M FREE」の歌詞では「君はどう思う」という言葉が出てくるんです。ぶん投げるだけじゃなくて、問いかけの気持ちがすごくありましたね。
●一方的に投げかけるだけではなくなったと。
佐々木:前まではライブでも言葉をぶん投げるような気持ちでやっていて。たとえば仮にライブハウスが埋まっていなかったとしたら、「今日来ていないヤツを絶対に後悔させてやろう」という気持ちでやっていたんですよ。でも今はもっとお客さんを信頼している。だから音をぶん投げるだけじゃなくて、強引にハグしに行くみたいな気持ちがすごくあるんです。そういう感じで伝えたいっていう想いがありますね。
●自分たちのファンへの信頼が大きい。
佐々木:たとえばフェスに来ている何万人もの人が普段は何をやっているのかなんて知らないけど、「音楽を選んでここにいる時点で君は絶対にカッコ良い」と言い切れるから。そういう大きな意味での“信頼”がありますね。
●その信頼がある上で問いかけている。
佐々木:「I'M FREE」の歌詞についてみんながどう思うかはわからないんだけど、「君はどう思う」の答えは無限にあっていいんですよ。人それぞれのロックンロールや音楽があっていいわけだから。でも「少なくとも俺はこうだからね」ということは堂々と言っておこうと思った。俺がそうしておけば、聴いてくれている人たちがどれだけでも受け入れられるなと思って。この曲の歌詞は「俺のことを信頼してくれ」と頼んでるんじゃなくて、「俺は君がロックンロールだと信じているから、一緒に面白いことをやろうよ」っていうことなんです。
●「信じてくれ」じゃなくて、「信じている」と言えるのは自分を信じているからこそなんじゃないですか?
佐々木:自分というか、バンドに対する信頼があるからですね。もし自分を信じるか信じないかみたいなところでやっていたら、それこそ「ブルースとは何なのか? 自分とは何なのか?」というところにまで行っちゃうので。今は良い意味でそこをもう諦めているというか、「俺はもう空っぽでいいや」と思っていて(笑)。空っぽな分、そこに好きなものも嫌なものも何もかも詰め込んで生きていけばいいんじゃないかなと開き直っているんですよ。
●開き直りつつ、ポジティブな方向で考えられている。
佐々木:ただ正直になってきているというか。「空っぽですけど何か?」みたいなところがあるんです(笑)。
●逆ギレ(笑)。
佐々木:だんだん“遅れてきた反抗期”みたいになっちゃっていますね(笑)。でも空っぽだとしても、今どうやって生きているかを態度で示せるから。そのメッセージが社会的に正しいのかと言われたらそれは人それぞれに考えが違うからわからないんだけど、自分が信じているものは提示できる。俺はラッキーなことにライブへ来ている人たちを信じちゃっているから、もう目の前にあるわけですよ。
●信じているものがライブでは目の前にいると。
佐々木:そこでギターをジャ〜ンと掻き鳴らせばいいだけっていうことが俺の今のロックンロールの喜びだし、それをメンバーがすごくわかってくれている気がするというか。自分でも「本当に頭が悪いな」って思うんですけど(笑)、理屈じゃないんですよね。そこは感覚で行こうと。
●メンバーへの信頼感というのも、今作のキーになる部分だと思いました。
佐々木:メンバーを信頼しているからこそ、色々とオーダーするようになりましたね。たとえばナベちゃんは昔だったら身体で反応して叩いていたところも、今回は「ちゃんと曲のために叩くというのはどういうことなのか」といった部分まで細かくオーダーするようになったんです。姐さんともフルアルバムを一緒に作るのはもう2枚目だから、1枚目の時のように出会いの喜びと楽しさだけで作るわけじゃなくて「もっと構築していこう」ということで話し合ったりして。
●信頼がある上で、真剣に話し合えている。
佐々木:バンドがどんどん楽しくなってきているんだけど、脳天気にやっているわけじゃなくて。ちゃんとロックンロールを広めるためというか、俺たちのロックンロールを広げるためでもあるし、世の中に転がっている“ロックンロール”という言葉を俺たちが拡大解釈させてやろうという気合を持ってやっているんです。そうなると、絶対にプレッシャーを感じながら作ったほうがいいなと。メンバー間の関係はすごく良いんですけどね。M-11「Beer! Beer! Beer!」は実際にビールを飲みながら録ったりしたくらいで(笑)。
●本当にタイトル通りなんですね(笑)。
佐々木:今までだったらそういうこともできなかったんですけど、この曲には必要だと思ったから。楽しんでできるようになった分、メンバー2人には求めるものが多くなったし、俺もしっかりしなきゃなという感じがあって。それって7年もやっているバンドなら、普通はとっくになきゃいけないものなんですけどね(笑)。
●7年目にして、そういう関係性が作れたと。
佐々木:今のメンバーになって2年半が経つんですけど、同じメンバーで過ごす期間としては最長なんですよ。それがすごくデカいというか。良い意味での核が固まっていると思うし、メンバーそれぞれに自分をギリギリまで追い込んで乗り越えていこうとする気持ちがあるから。ふんわりとした気持ちでは絶対に作っていないなっていう。
●とはいえ普通のバンドだったら解散しているような危機に直面しても、諦めずに続けてきたからこそ今のAFOCがあるとも言えるのでは?
佐々木:そうですね。「乗り越える」とか言うとカッコ良すぎだし、ただ単に俺は諦めが悪いんです(笑)。一瞬だけパッと輝いて朽ち果てていくバンドはいっぱいいるし、それはそれですごくカッコ良いんですよ。でも俺にはできないし、やりたくもない。俺たちは、いさぎが悪いほどに転がっているさまを見せつけたいなと。それが今だったら、やり続けられるんじゃないかと思っていて。
●それがAFOCとしてのロックンロールのあり方でもあるんでしょうね。
佐々木:ロックンロールバンドになろうとして頑張ってきたというよりは、やらなきゃいけないバンドになったという感じなんです。続けなきゃいけないバンドになったというか。続ける以上は高みを目指していなきゃいけないし、高みを目指す以上はずっとギリギリでヒリヒリしていないといけない。そんなに甘いものじゃないと思うから、メンバーにもすごく求めるようになったんじゃないかな。実際、ナベちゃんと激しくやり合ったりすることもあるけど、バンドとしてはすごく健康的だなと思っていて。むしろ気持ち良いし、やっと「バンドって楽しいな」って思えるということが今の喜びですね。続けてきたことの喜びはそこにあるなと思っています。
●ぶつかり合いながら作っているから、ヒリヒリした楽曲にもなっている。
佐々木:良い意味での緊張感が出ていたらいいなとは思っています。それが『FUCK FOREVER』からの流れでいうところの、今の俺たちらしさなんじゃないかな。
●AFOCは毎回、新作が出る度に最高傑作を更新していっているように感じていて。それはそのヒリヒリ感が消えるどころか増しているからだと思うんですよね。
佐々木:自分でもすごく不思議なんですけど、1枚目よりも今のほうが全然ヒリヒリしているんですよね(笑)。別に彼のせいにするわけじゃないんですけど、22歳の時に前のギターが失踪しちゃったこともあって、俺たちは“若気の至り”の時期を過ごせなかったんです。俺は大学で彼と出会ってこのバンドを組んだはずだったのに、急にいなくなったことでバンドとしてのアイデンティティがぐらついたというか。しかもツアーファイナルの直前だったので、あまり悩む時間もなくて。でもスタッフから「ツアーファイナルをやるの?」って訊かれた時に、「当然やる」と答えちゃったんですよ。
●その決断がすごいと思います。
佐々木:それはもう反射神経ですね。まさに「見るまえに跳べ」っていう感じなんですけど、やらなきゃわからないじゃないですか。それにあいつ(前ギター)がいなきゃできないような音楽をやっているようなら、ダメだと思っていたんですよ。正直、演奏はボロボロだったんですけど(苦笑)、気合だけは伝わったという手応えがあったんです。その後で自分たちの気持ちが高まったというのもあって。バンドとして決してハッピーな経緯ではなかったにしろ、そのおかげで…と今は言えますね。今回のアルバムが一番良いっていうのは、そういうイビツな経歴の中で勝ち得てきたものなんじゃないかな。1枚目よりもなぜか反抗期が来ているかのようにトガっていて、ザラついているって、そんなバンドは他にいないだろうっていう(笑)。意識してそうしたというよりは、そうなっちゃったという感じなんですけどね。
●「I'M FREE」は表題曲ということもあって、やはり今作の軸になっているんでしょうか?
佐々木:そうですね。このアルバムで強みになっているのは、この曲やM-7「Blues Never Die (ブルースは二度死ぬ)」だと思います。どちらもすごく具体的な言葉を書きまくっている曲なんですけど、それって『FUCK FOREVER』からの流れなんですよ。でもその方向に寄せ過ぎずに、たとえば昔書いたM-10「月面のプール -Naked ver.-」みたいにすごく抽象的な歌詞の曲も直さずにそのまま今でも歌えていて。そういうものも俺が同じモチベーションで歌えているから、ライブで並べても遜色がないんだと思います。
●歌詞や曲調が違っても、どれもAFOCの曲として歌えている。
佐々木:単純にアレンジの引き出しとかが広がっている感じもありますね。金太郎飴みたいにどこを切っても俺たち印が付いているんだけど、今回はアレンジや言葉で広がりを持たせられた気がしていて。
●今までにはないような挑戦もしている?
佐々木:M-4「All The Young Rock'N'Rollers」で今までなら絶対にやらないようなビートをやっていたり、「Blues Never Die」では打ち込みを使っていて。「月面のプール」にはストリングスを入れたし、M-12「理由なき反抗 (The Rebel Age) -Never Mind The Bollocks ver.-」にはホーンが入っていたりもする。M-6「オーロラソング」は子ども用の楽器売場に買いに行った鉄琴を使ってたりもします(笑)。そういう挑戦はすごく意識的にするようにしているんです。
●新たな挑戦をしても、芯にある自分たちらしさはブレない。
佐々木:本当に身ぐるみを剥がされて残った部分の俺たちはもう変われないっていうか。「これしかありません」っていうものがあるから、サウンドやアレンジの面で「これがないと俺たちじゃない」なんてことは全然思わない。逆に「何でもできるっしょ」という感じがあるんですよ。だから「いくらでも突っ込んでこいよ」と思っているし、「俺にはこれしかねえぞ」っていうものがあるから切り口は色々あっていいと思うんです。
●どんな切り口からでも、AFOCのロックンロールとして調理できるというか。
佐々木:俺自身が勝手に色んなものを「これはロックンロール」とか「これはブルース」とか精神論的な感じで言っているんですけど、色んなものに当てはまるものだと思うんですよ。密室に閉ざされたロックンロールには本当に興味がないし、そこはどんどん拡大解釈していきたいですね。「あ、これもロックンロールなんだ」っていう感じで、ロックンロールを知らない子たちをだましたい(笑)。それができたらロックンロールが広がると思うし、俺自身の喜びでもあって。
●ロックンロールというもの自体の解釈を広げていきたいと。
佐々木:「理由なき反抗」の歌詞は仕事をクビになった男のストーリーで、バンドマンの歌ではないんです。でも俺が思うロックンロール的な感覚で、必死こいて生きている人の背中はカッコ良いわけですよ。しんどい生活の中でも、ちゃんと楽しいことを探して生きているということはカッコ良いことだと思うから。だからライブに来ている人たちのことも、勝手にロックンローラー扱いしちゃっているんですけど(笑)。そうやって仲間を勝手に俺が認定して増やしているところもありますね。
●“ロックンロール”という言葉が当てはまるのは、音楽をやっている人だけじゃない。
佐々木:たったひとことで無限の広がりを持っているっていうところに、俺も期待していたりするから。「ロックンロール」って自分で言いすぎて背負い込んじゃうと、可能性がどんどん小さくなっていくということに抗っての「I'M FREE」や「理由なき反抗」なんです。バラバラな曲調だけど、言っていることは1つだと思いますね。
●今回の楽曲には“抗っている”感覚が強い気がします。
佐々木:何かに抗ったり、何かを良くしようとすることって、どんな場所にいても同じだと思うんです。それさえなくさなきゃ闘っていけるし、逆にそれがないと人同士の血がつながった関係性とかも生まれないんじゃないかなって。やっぱり何かを良くしようと思っていないと。“抗う”っていうのはわかりやすくロック的じゃないですか。だとしたら、そこをちゃんとブースト(増幅)してあげようということで『FUCK FOREVER』があったし、その流れは今も続いている。それをただの怒りとか攻撃性で終わらせるんじゃなくて、ハグしながら伝えるみたいなことができたらAFOCがちゃんと進化した形になるんじゃないかなと思っているんですよ。
●そういう気持ちを持っているから最高傑作を更新し続けて、進化を続けていられるんでしょうね。
佐々木:もちろんバンドをやっているからには「自分の音楽が一番カッコ良い」と思っているわけで。だからロックシーンだとか色んなメディアがある中でも自分たちがど真ん中でいたいんですけど、自分たちはそこへ行くまでにすごく時間がかかるタイプのバンドだなっていうこともわかっているんですよ。だから悔しいこともすごく多い一方で、「もっと行けるな」っていう感覚があって。誰もがロックンロールは死んだと思っているところに、俺たちがそれをセンターに取り返したら絶対カッコ良いだろうなって思うから。それを一歩ずつでも、意地でもやってやろうと思っているんですよね。
Interview:IMAI