a flood of circle(以下AFOC)が、アオキテツ(G.)を正式メンバーに迎えて制作した初のフルアルバム『CENTER OF THE EARTH』を完成させた。昨年11月にリリースした、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)のプロデュースによるシングル『13分間の悪夢』を経て、自分たちが本来持っている良さを再認識したという彼ら。バンドの体制が整った今だからこそ紡ぎ出せる生々しいサウンドとグルーヴは、過去のスタイルを踏襲しながらも新たな“AFOCらしさ”を垣間見せている。次々と最高傑作を更新していく4人の今に迫る、最新インタビュー。
●今作『CENTER OF THE EARTH』はテツくんが正式加入して制作された初めてのアルバムということですが、前作『a flood of circle』の時もサポートメンバーとしては参加していたんですよね?
佐々木:そうですね。前回のアルバム制作の中でテツが正式メンバーになるかならないか(判断する)というところがあって。宙ぶらりんな関係ではあったので、アルバム完成後に“そろそろ決着を付けようか”という話になったんです。そこで(アルバム制作中の)手応えも良かったので、“メンバーになってくれ”という話をしました。
●前作のジャケット写真にも4人で写っていたので、その時点で既に正式メンバー的な認識はあったのかなと思っていました。
佐々木:アルバムができてすぐに決まったので、テツが正式加入したことを打ち出していこうということであの写真を撮ったんです。実際に加入してからもう1年くらい経っているので“まだそんなことを言っていたの?”と思う人もいるかもしれないけど(笑)、実は(正式加入してから)アルバムを作るのは初めてなんですよね。自分たちとしても“初めて”感があるというか。まだバンドとしてもテツとの関係性的にも、成長の途中だなという感覚はあります。
●テツくん自身はどんな感覚ですか?
テツ:前作では結構緊張しながらやっていたから…。今回は正式メンバーとして初めてギターを弾いたので、良い感じに肩の力も抜けているかな。前作を出してから色んなライブをしてきた中で得たものも、今作には出せたと思います。
●前作の制作中は緊張していた?
テツ:前作はまだサポートメンバーやったから、“下手なギターを弾いたら全部、差し替えられるんちゃうかな?”と思っていたくらいで…。
HISAYO:マジで?
渡邊:そんなに人間不信だったの(笑)?
テツ:人間不信でしたよ(笑)。あの時期めっちゃ痩せましたもん…。
一同:ハハハ(笑)。
●それほどのプレッシャーを感じていたと(笑)。
佐々木:確かに当時はデモの段階で(テツの作ってきた)フレーズに対して“ん?”と思ったら、“ごめん、俺が作っちゃうわ”っていう感じで作り直していたんですよ。でも今回はテツに任せている部分が多いというのも、前作とはだいぶ違うところかな。
●今回はあえてテツくんに任せた?
佐々木:そうですね。俺が思ってもいないようなアイデアが、テツから出てくることもあるから。一緒にやっていく上で俺のやりたいこともわかっておいて欲しいという意味で、自分のイメージを1回投げてみて。そのイメージ通りに上がってきたものが良い時もあるし、逆に全然イメージとは違うものが出てきたけど“良い!”と思う時もあるんです。“違うな”と思った時もその理由を説明して、もう1回考えてもらいましたね。
●そういう過程を経て、自然とバンドの中に馴染んでいったんでしょうか?
HISAYO:私がみんなのデモをまとめることが多いので、最初の段階での音も聴いていて。まず佐々木が作ってきたデモに私のベースを入れて、ナベちゃん(※渡邊)のドラムを入れて…というだけだと、何かがちょっと足りない感覚になるんですよね。そこにテツのギターを入れることで、やっと“AFOCの音”になるというか。そこで今の“AFOCらしさ”というのは、テツのギターありきなんだとすごく感じたんです。
●今やテツくんのギターが、欠かせない一部になっている。
HISAYO:色んなタイプの曲をやってもテツのギターが入ったら、1本筋が通るというか。テツの真っ直ぐな感じが、どの曲にも出ているかなと思います。
渡邊:真っ直ぐなことをするには、勇気がいると思うんですよ。自分自身も、ちょっと斜に構えたいところがあったりするから。でも“真っ直ぐなものがカッコ良い”というテツの感覚も尊重したいし、それが今のAFOCにとって重要な要素になっていると思うんですよね。
佐々木:俺の中で今回は、テツとナベちゃんの存在がデカくて。“ギターとドラムがドカンと行って欲しい”というのが、今回のアルバムでのコンセプトだったから。そういう意味でも、テツの加入はデカいと思います。
●テツくん自身は、意図的にAFOCらしいギターを弾こうとしているわけではない?
テツ:加入してからライブを重ねる中で過去の曲を弾いたりして、(自分の中で)AFOCのレパートリーが増えたんですよ。そういう中で自分のギターがだんだん“AFOCのギター”になってきたところはありますね。徐々に混ざってきているというか。
佐々木:最近はライブが終わった後に“ここが悪かった”と反省するよりも、“これから先どうしよう”という話をすることのほうが多いんです。そういう中で、俺が欲しいものとテツが自然にやっていることがだんだん効率的に混ざってきている感覚はありますね。
●まさにAFOCの一部となりつつあると。
佐々木:でもテツには客観的な部分もまだあって、その目線がすごく良いんですよ。AFOCというバンドを外から見ている目線と内側から見ている目線をどちらも持っているから、何かを選ぶ時にもすごく信頼できるんです。今回のリード曲もテツが“良い”と言うものを選んだんですけど、“(テツが言うなら)きっとこれが良いんだろうな”と思えるんですよね。
●それほどの信頼感がある。今作の収録曲は、どんな基準で選んだんでしょうか?
佐々木:このアルバムに向けてデモをたくさん作っていたんですけど、それをまずメンバーに聴いてもらって。その中からみんなが自然と手を伸ばした曲の雰囲気が“これまでのAFOCのスタイルを踏襲したものだな”という感じがしたので、自分自身もそこに向かっていった感じでしたね。
●佐々木くんが作ったデモの中からメンバーによって選ばれた曲を、今作には収録している?
HISAYO:いや、結果的にウチらが選んだ曲は今作には入っていないんですよ。それをヒントとして佐々木が“次のアルバムはこういう方向で行こう”と決めて、そこからまたデモに手を加えていった感じというか。
佐々木:今回の収録曲はどれもBPMが180くらいで速いんですけど、メンバーが選んでくれたデモはそういうものではなくて。無理に入れて中途半端になるよりもそこは突き抜けようと思って、アレンジし直したデモをみんなに送ったんです。やっぱりテツが入ってから1作目のアルバムということで、しっかりと狙いを絞ったものにしたかったというのもあって、みんなが選んでくれた曲のイメージに対して“じゃあ、こうかな”というものを返していった感じですね。
●メンバーが選んだ曲の傾向から進みたい方向を読み取って、それに沿うものを形にしていったんですね。
佐々木:音でしか会話ができないからデモにして、“AFOCの良さって、こういうところなんじゃないかな”というのを提案していったというか。
HISAYO:田淵(智也/UNISON SQUARE GARDEN)くんと一緒にやったことで、そういう流れができていたから。田淵くんと一緒に作ったシングル『13分間の悪夢』にも入っていたM-11「夏の砂漠」は、1stアルバム(『BUFFALO SOUL』)収録の「春の嵐」の続編になっているんです。
●続編?
HISAYO:「春の嵐」の良いところを引き継いでいる感じというか。昔のAFOCの良い部分を田淵くんが認めてくれて、ファンの人も“これが好き”というのを改めて教えてもらった感じがして。
佐々木:田淵さんは“AFOCの良さはここでしょ”という部分は絶対に外したくないということや、ファン目線として嬉しい曲をやりたいということを言ってくれて。だから「夏の砂漠」はまさにそういう曲になっているし、アルバム全体としても今回はそういう感じになっているなと思いますね。
●初期のAFOCが持っていた良さを田淵さんが、より引き立ててくれた。
HISAYO:ウチらとしては前々作(『NEW TRIBE』)と前作をザブ(※ザビエル・スティーブンソン/エンジニア)と一緒にやってきた流れもあって、“新しいことにチャレンジしていこう”という方向を見ていたんです。でも田淵くんとやったことで、昔のAFOCの良さというものも忘れちゃいけないんだということや、みんなが“良い”と言ってくれているところも素直に認めて良いんだという感覚になれて。だから、今回はあえて過去のAFOCの曲を意識して作ったりしているんですよ。
●「夏の砂漠」以外にもそういう曲がある?
佐々木:俺の中では、ほとんど全ての曲がそうですね。たとえば、M-1「Flood」は「シーガル」(1stフルアルバム『BUFFALO SOUL』収録)だし、M-2「Vampire Kila」は「Dancing Zombiez」(5thフルアルバム『I'M FREE』収録)で、M-12「Center Of The Earth」は「世界は君のもの」(2ndミニアルバム『泥水のメロディー』収録)という感じで、どれもAFOCのスタンダードをもう1回書き換えたような感じになっていて。
●過去のAFOCのスタンダードを新しい形で生まれ変わらせたというか。
佐々木:これまで一度もやったことがないことは1つもないかもしれないくらい、自分たちの“持ち物”を使って形にしている感じですね。でもスタッフが(今作の楽曲を)聴いた時に“同じことをやっているつもりかもしれないけど、全然違うよ”と言ってくれたので、たぶんファンの人にもそういうふうに聞こえるんじゃないかなと思います。自分たちとしてはあえて過去のスタイルを踏襲しているつもりなんですけど、できあがったものは意外とまた違うものに聞こえるんだなと。
●それこそが、バンドとしての進化を証明している気がします。
渡邊:やっぱり当時に比べると、俺も亮介も全く違うから。メンバーも当時とは違う4人だけど、俺たち2人にはあの時の記憶もあって。そこにテツが加わった“今のAFOCらしさ”も相まって、新しいものができたというのはすごいことだなと思います。昔やっていたことに立ち返った上で、過去の焼き直しではなく、全く新しいものになったというのが面白いですね。
●テツくんの加入で新しい血が加わったことも、バンドの進化につながったのかなと。
佐々木:そうですね。テツが今後どうなっていくかもすごく楽しみだし、みんなの進化がAFOCにつながっていくんだろうなと思うから。自分の“これが面白いんだ”というものを押し付けながらやるんじゃなくて、“みんなが輝く”ものにしたいんですよ。
●メンバーも固まって、バンドが盤石の状態になってきている感覚もあるのでは?
佐々木:「Center Of The Earth」の“どんな後悔をしても 君がいれば爆笑だぜ”というのが、そういう感じを表しているかもしれないです。俺たちは進んでいくつもりだから、その中で絶対に失敗や後悔はするし、むしろそれがないと成長できない。トライしているから失敗するわけで、失敗しないということはつまりトライがないんですよね。それはつまらないと思うから。
●トライすることが、進化に結びつく。
佐々木:そういう意味で今回は過去の曲を参照しながら(の制作)だったので、“トライ”という意味では自分の中でかなりギリギリのラインなんですよ。だから“次にどこへ行くか”が、かなり大事になると思っていて。今はまだテツが入った4人でのストーリーの途中にいると思うし、“このままでは終わらないぞ”という気持ちもあるんです。今のところは良い感じだけど、絶対にどこかで失敗や後悔が待っているはずなので、それを超えられる作品作りの力やライブの力を付けていきたいなと思っています。
●では最後にテツくんから、ツアーに向けての意気込みをお願いします!
テツ:俺は自分のことがめっちゃ好きなので、今回の制作中もライブしている時に自分がカッコ良く弾いている姿を思い浮かべながらギターをずっと弾いていたんですよ。だから、どの曲も次のツアーでカッコ良く弾いているさまが浮かびますね(笑)。「A FLOOD OF CIRCUS 大巡業 2019」は対バン形式なので、色んなバンドを観ることが良い刺激になるだろうなと思っていて。次のアルバムも今回と同じノリでやっているようではいけないなと思うので、また違う角度でカッコ良くなれるように今後も精進していきたいです!
Interview:IMAI