数々のバンドでベーシストやブレーンとしての役割を担うだけではなく、作家としてLiSAや西野カナなどへの楽曲提供を行い、プロデューサー、デザイナーとしても活躍する猫田ヒデヲが率いる4人組バンド、QUADRANGLEが2ndシングル『PARADOX』をリリースした。TVアニメ『RErideDー刻越えのデリダー』オープニングテーマである表題曲は作品の世界観に寄り添いながらも、この4人にしか出せないバンド感と独創性を漂わせている。挑戦と実験を繰り返した先に辿り着いた“自分たちらしさ”を手に、彼らはここからさらなる進化を遂げていくことだろう。
「QUADRANGLEというもの自体を突き動かしてくれる曲になったというか。だから色んなキーワードや思考回路といったものが全部、狙ったわけではないのにハマっていったんですよね」
●今回のニューシングル『PARADOX』の表題曲はTVアニメ『RErideDー刻越えのデリダー』オープニングテーマなわけですが、タイアップが決まってから作り始めたんでしょうか?
ヒデヲ:アニメのタイアップのお話を頂いてから、制作に入った感じですね。元々、QUADRANGLE自体がTVアニメ『ジョーカー・ゲーム』オープニングテーマとして1stシングル『REASON TRIANGLE』(2016年)を担当した流れからできたバンドなんですよ。
●『ジョーカー・ゲーム』のタイアップが、バンド始動のキッカケになったんですね。
ヒデヲ:元々は自分が歌うということを想定せずに、曲も作っていたんです。でも『REASON TRIANGLE』のプロジェクトに関わる色んな人から“自分で歌えば良いんじゃないの?”という意見を頂いて、“ええっ!?”となって(笑)。そこから“じゃあバンドにしても良いですか?“という話をして、今のメンバーを集めて動き始めた感じですね。
●バンド形態でやりたいというイメージはあった?
ヒデヲ:ソロで自分の名前を前面に出してやるのだけはイヤだったので(笑)、絶対にバンドが良いとは考えていました。でも最初の頃は“バンド”というよりも、“プロジェクト”というイメージのほうが近かったかもしれないですね。自分も他のメンバーもスタジオミュージシャンであったり誰かのサポートをしていたり、作家としての活動もしていたりするような人たちばかりなのもあって、最初はプロジェクト的なニュアンスのほうが強かった気はします。
●初期はバンドとして、ガッツリ活動していたわけではない?
ヒデヲ:ライブもそこまでたくさんするわけではなく、リリースしたからといって大々的にツアーをまわるわけでもなくて。自分たちのペースで、ゆったり活動していましたね。
●自分たちの中にある欲求を具現化する場所というか。
ヒデヲ:シングル曲以外は、本当に自分たちの欲求の赴くままにやっていましたね。今までは実験的なことや“この歳でしかできないチャレンジ”であったり、逆に“この歳なのにやるチャレンジ”というものを意識して活動してきたんです。そういう中で今回の「PARADOX」ができた時に、“プロジェクト”から“バンド”に切り替わったかなという感覚が初めてあって。
●それは何かキッカケが?
ヒデヲ:最初は完全に今までの図式通りアニメに寄り添う感じで、自分は作家としての脳みそで、他のメンバーも“ザ・ミュージシャン”的な立ち位置で作り始めたんです。でもいざレコーディングに入ってみたらメンバーも楽しそうな感じで、色んなアイデアも出てきて。それぞれのメンバーらしいプレイが出ているし、自分自身も歌っていて、今までのQUADRANGLEでやっていた曲とは違う感覚があったんですよね。それで最終的な形になった時、“俺っぽいな”と思ったんです。
●自分らしさが自然と出ていた?
ヒデヲ:メンバーやスタッフからも“この曲はヒデヲくんっぽいね”と言われて。自分としては作品をより良くするための1つのピースとしてアニメの世界観を大切にしながら作れたら良いなと思っていたんですけど、結果的に自分らしさが今までで一番出ている曲になっていたという…。そこでふと“なるほどな。これがたぶん、みんなが自分に求めているものなんだ”と気付いたんです。
●みんなが自分に求めているものに気付いたわけですね。
ヒデヲ:メンバーも昔からお互いによく知っている人たちなので、“ヒデヲくんっぽい感じだから、俺らはこういう感じで弾くわ”みたいな思考に自然となって。その結果として、プロジェクトっぽくない方向に全員が向かったというか。アニメの世界観に寄り添って曲を作ったはずなのに、よりバンドらしくなったというところで“これで良いんだ”と思えたんです。ある意味、原点に戻った感じはありますね。
●“原点”というのは?
ヒデヲ:バンドとしての原点というよりかは、自分自身としての原点みたいなものを感じたところがあって。そういうところを引き出してくれた『RErideDー刻越えのデリダー』という作品には、ものすごく感謝しています。
●『RErideDー刻越えのデリダー』の世界観と重なるものが、ヒデヲさんの中にあったんでしょうか?
ヒデヲ:そうかもしれないですね。タイムリープもののアニメなので“過去・現在・未来”といった世界観が出てくるんですけど、その中にも人間くさい部分やヒューマンドラマ的な側面があって。そういうところに自分が経験してきたことや自分の中にストックしてきたものに通ずる部分があって、知らず知らずのうちにアニメの世界観と重なったのかなと思います。
●自然と重なる部分があったと。
ヒデヲ:『ジョーカー・ゲーム』の時もそうだったんですけど、自分の好きな世界観だったので知らず知らずのうちにハマったところはあるのかもしれない。だから今回の歌詞も一発OKを頂いたし、そういう意味でもアニメの制作チームの想いや世界観を少しは汲み取れたのかなと思います。
●「PARADOX」の歌詞にはアニメPVのナレーションでも登場したある言葉が込められているそうですが、これは何のこと?
ヒデヲ:“clockwise, anticlockwise(※時計回り、反時計回り)”という部分だと思うんですけど、アニメの中でも重要な立ち位置で使われていて。歌詞もそのキーワードから導かれた部分が結構あるんですよ。音源の中でも、クワイアボーカルでサブリミナル的にその言葉を入れているんです。“過去と現在を行き来する”というところと、自分やQUADRANGLEが今後進むべき指針になる部分が重なったというか。
●進むべき指針とは?
ヒデヲ:今までQUADRANGLEでは自分が歌うということもあって、“何か新しいことにチャレンジしていかないと成長できない”という意識が強かったんです。やっぱりキャリアを重ねてくると、今を守ることで精一杯になったり、これまで積み上げてきたものを元に周りから求められることも増えたりするじゃないですか。でもそういうことだけでは自分の性格的にも、バンドの活動的にも刺激がないというか。だから何らかの挑戦や新たな一歩を踏み出せるような部分を探して模索しながら、これまでは進んできていたんですよ。
●常に新しいことに挑戦しようとしていた。
ヒデヲ:でも今回の「PARADOX」について“ヒデヲくんらしい”とみんなが言ってくれているところって、新たな一歩を踏み出した部分ではなくて、元々の自分が持っていたものや“過去”に立ち返っている部分だなと思って。そこで、あえて後ろに下がることによって、自分の成長を実感できる部分があるんだなということに気付いたんです。前に進むことだけが、チャレンジや新しいことではないんだなと。
●アニメの世界観に寄り添いながらも、過去の経験を活かして“自分らしい”ものを創り出すという新境地に至ったというか。
ヒデヲ:今までは原点回帰するということを、前に全然進めていないように捉えていたんです。でも自分の中で新しいことやチャレンジを見出すことが、実は一番大変なんだなということに今回で気付かされて。「PARADOX」とアニメの世界観やキーワードが全てつながった時に、自分の中ですごく腑に落ちたんですよね。そこで“このバンドで自分が本当にやりたいのはこういうことだったのかな“というのに気付いたところはあります。
●自分たちが本当にやりたいことに気付かせてくれた曲でもあるんですね。
ヒデヲ:QUADRANGLEというもの自体を突き動かしてくれる曲になったというか。だから色んなキーワードや思考回路といったものが全部、狙ったわけではないのにハマっていったんですよね。
●今は自分が歌う前提で曲を作っていることも、”らしさ”につながっているのでは?
ヒデヲ:そうかもしれないですね。元々がボーカリストではないので、劣等感や気恥ずかしさを感じていた部分はあるんです。でも今はもう“自分が歌うなら、これしかできないし!”という感じで吹っ切れたというか。歌に関して吹っ切れた感が、今回のシングルには出ているなと思います。
●歌に関しても吹っ切れるキッカケになった。
ヒデヲ:これまでのアルバムやミニアルバムに関しては実験的なことやチャレンジをすることで、“自分らしさを探す旅”みたいな感じだったと思うんです。そこを経て今回の「PARADOX」という作品で“俺にはこれしかできないから、そのまんまで良いじゃん”ということに気付かされたところはありますね。曲自体もQUADRANGLEとして、自分もメンバーも一番しっくりくる波長だったんですよ。だから曲によって、演奏や歌や歌詞といったものが全て導かれていったところはあるなと思います。
●演奏面でもメンバー各々の“らしさ”が出ているわけですよね。
ヒデヲ:特に今回のレコーディングでは、各メンバーが楽器で出してくる世界観がちょっとずつ変わってきたというか。より“バンド”の一員として、その曲に向き合う感じが前面に出てきたと思うんですよ。“この曲はヒデヲくんっぽいよね”とわかってくれるからこそ、メンバーからも自然と色んなフレーズが出てきたのかなと。そういうことをわかってくれているというのを今までよりも強く感じた時に、“ボーカリストって、こうやって守られているんだ”と思ったんです。
●“守られている”というのは?
ヒデヲ:自分はボーカリストとしてバンドに関わるのは初めてなので、“背中を支えられているというのはこういう感じなんだな”というのを初めて知ったんです。その時にやっぱり、すごく“バンド”だなと思って。そこでQUADRANGLEでやりたいこととやるべきこと、リスナーが求めているものと僕自身が吐き出していきたいものというのが何となく見えたような気がしたんですよね。
●そこで見えたものが、カップリングのM-2「TWILIGHT DREAMS」のほうにも活かされている?
ヒデヲ:そうですね。カップリングって、シングルの中では自由度が高いほうじゃないですか。よりバンドの世界観を出せるというか。だから時によりマニアックになったり、時によりシンプルになったりもすると思うんです。でも今回のカップリング曲に関しては、自由に作れるはずなのに自然と「PARADOX」や『RErideDー刻越えのデリダー』という作品に引き寄せられた感じがあって。それも結果的に自分たちがやりたいことだったので、本当に全てが上手くいったんですよね。
●確かに今回の2曲は、どこか雰囲気が通じている気がしました。
ヒデヲ:「PARADOX」が大人になってからの現在・過去・未来に対する考え方を描いているとしたら、「TWILIGHT DREAMS」は幼少期やもっと青くさい頃の(そういうものに対する)感じ方を描いているんです。子どもの頃って“未来”は自分の想像の中にしかない夢の世界で、逆に過去に対してはちょっと怖いものだったりするじゃないですか。でも大人になってからの“未来”はもっと現実的で目指す“目標”のようなものだったり、“過去”は自分の“経験”だったりもして。
●どちらも同じものに対する考え方を描きながら、捉え方は全く違っている。
ヒデヲ:どちらも自然とそういう歌詞の世界観になったので、2曲ともつながっている部分があるなと思って。自分でも後から気付いて、面白いなと思いましたね。『RErideDー刻越えのデリダー』という作品があって「PARADOX」が生まれて、その2つがあったからこそ「TWILIGHT DREAMS」も生まれたっていう。結果的に2曲とも、よりQUADRANGLEらしくて、自分らしい作品になったかなと思います。
●今作で得た感覚が、今後に出るであろうアルバムにも良い影響を与えるのでは?
ヒデヲ:次はフルアルバムを出したいと思って、既に制作には入っていて。そこに向けて作るものに対しては、もう“無心”というか。ある意味ではより好き放題になったんですけど、決して色んなジャンルがゴチャ混ぜになっているわけではなく、より“ヒデヲ節(ぶし)”がナチュラルに出ているんですよ。次作では自分の軸にあるゴリゴリのオルタナティブな部分が、より前面に出てくるのかなっていう予感はありますね。
Interview:IMAI