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Drop’s

新しい季節を迎えたDrop's、その進化は止まらない。

4th フルアルバム『DONUT』から約2年半、メンバーチェンジや上京などを経たDrop'sが、満を持してスタジオレコーディングアルバム『organ』を完成させた。作曲家・多保孝一と共作した「Cinderella」では新境地を切り拓き、新体制の4人で組み上げたロックンロールはよりタフになり、音楽的な幅を更に拡げた新生Drop's。結成10周年イヤーを目前に控え、バンドとして大きく進化しようとしている4人に、新作『organ』のことはもちろん。今の心境と現在のバンドについて話を訊いた。

 

「自分たちだけで“もっと同世代に聴いてほしい”と考えたとしても、こういう道は絶対に思いつかなかったでしょうし、仮にもしやりたいと思ったとしてもやり方がわからなかった」

●今回は約2年半ぶりの新作リリースとなりますが、その間にメンバー脱退&加入があったり上京したりと、色々と慌ただしかったようですね。石川さんは2017年4月に加入されましたが、どういう馴れ初めだったんでしょうか?

石川:私は新宿red clothで働いていて、Drop'sも高校生のときからred clothによく来ていて。お互い顔見知りというか、じっくり話したことはなかったですけど知っている仲だったんです。

●なるほど。

石川:それで去年1月にメンバーが北海道から上京してきて、私はNOSというバンドもやっているんですけど、新宿red clothのライブに3人が来てくれて声をかけられたんです。

●あ、その日に。狙ってたんですか?

荒谷:はい(笑)。狙っていて、調べたらちょうどライブがあったので「行こう!」と。それで一緒にスタジオで合わせてみたら手応えがあって。

小田:“高め合っていけそうだな”というか。

中野:最初に演奏したときからしっくりときて。ミナ子さんの好きな音楽やルーツもすごく共感できるしかっこいいなと思ったので、「一緒にバンドやってください」とお願いして。

●石川さんはそれまでDrop'sに対してどういう印象を持っていたんですか?

石川:それまで何度もライブを観てて、きっと好きなものが似ているんだろうなっていう空気感は感じていて。きっとロックンロールが好きなんだろうなと思っていて、私もロックンロールが大好きなので、誘われたときは即答でOKしました。一緒にロックンロールが出来るメンバーだなと思って。

●3人は、東京での生活はどうですか?

荒谷:刺激的ですね(笑)。北海道でもずっとバンド活動はしていましたけど、東京は周りのバンドの数も違うし、気持ちの面の刺激っていうか、“このままじゃいけないな”とか“もっと真剣にバンドやらないとだめだ”っていうことは東京に来てすごく思いました。札幌でも本気でやってましたけど、気合を入れ直すいいタイミングになったというか。

中野:北海道にいた頃は実家に住んでいて生活に困ることはないので、その分音楽にかけることができる時間はいっぱいあったんですけど、東京に来ると音楽以外でも自分にやらなきゃいけないことがいっぱい増えたし、その中でさっき荒谷も言ったみたいに、周りにはたくさんバンドがいて、その中で“音楽をやっていく”ということの大変さをすごく感じました。

小田:“どう私たちはやっていくのか?”ということはすごく考えましたね。

●石川さんは加入して、3人に対する印象は変わりました?

石川:ライブを観たイメージとしては、すごくしっかりした鋼のような心を持っている人たちだなと思っていたんですけど…。

●…けど?

石川:でも加入してじっくり話してみたら、みんな普通の女の子で。私は神奈川生まれの新宿育ちで、高校生のときからred clothに出入りしていたんですけど、バンドマンはみんなギラギラしてるんですよね。Drop'sに加入して彼女たちはすごい憧れを持って東京に来たということを知ったんですけど、東京で周りのバンドを見て「バンドってみんなこんなにギラギラしてるんだ」みたいな、ちょっとビビっているような感じがあって。だから「それを一緒に乗り越えたい」「道を示してあげたい」と思いながら、ここ1年半くらいDrop'sのメンバーとして過ごしてきたというか。

●石川さんは年上だし。

石川:はい。だから尻を叩くみたいな。でも最近はやっぱり強くなってきたというか、私が最初に抱いていた鋼の感じに近づいてきたと思うので(笑)、私が引っ張るというよりはみんなでがんばろうっていう感じですね。

●なるほど。新しい体制になって初の作品『organ』が12/21にリリースとなりますが、M-1「Cinderella」は多保孝一さんとの共作らしいですね。

中野:はい。

●多保さんの名前を見て思い出したんですけど、Drop'sは結成当時、オリジナル曲をやる前にSuperflyのコピーバンドをやっていましたよね?

荒谷:そうなんですよ(笑)。

●この巡り合わせは偶然なんですか?

中野:今作はM-6「冬のごほうび〜恋もごほうび」を収録していますけど、CMでも歌わせてもらっていて、それを多保さんが聴いてDrop'sのことを知ってくださったみたいで、「一緒にやってみませんか」とお声をかけていただいて、こちらとしては「ぜひ!」と。

●すごいごほうび(笑)。

一同:ウフフフ(笑)。

中野:「Cinderella」は最初にコードとリズムを多保さんが作ってきてくださって、それで一緒にメロディを作って。歌詞も、私が書きつつ多保さんにも見てもらって、レコーディングも一緒にやって。

●ほぼメンバーみたいな感じですね。

4人:そうですね。

●高校生のときにコピーバンドをしていたくらいなので憧れも強かっただろうし、キャリアもある人ですし、実際に一緒にやってみてどうでした?

中野:最初に今の自分たちの足りない分っていうか、私たちの気持ち…「もっと自分たちと同世代の人たちに聴いてほしいんです」ということを多保さんに話したんです。多保さんはSuperflyをやっていたし、ルーツっていうか昔の音楽もすごく大事にされているんですけど、それだけじゃあ今のシーンに入っていけないと考えてくださって。だから「思い切ったことをしてみよう」という感じになって、最近の海外のチャートに入っているような曲を色々と聴かせてもらって。

●ほう。

中野:「Cinderella」はギターがジャーン! と鳴るロックンロールのような感じではないですけど、色々と相談しながら、楽しみながらすごく勉強になった経験でした。

●「Cinderella」はDrop'sの新境地だと思うんですが、おそらく自分たちだけではここまで大胆に出来なかったと思うんです。多保さんとの共作がいいきっかけになったんですね。

中野:そうですね。自分たちだけで「もっと同世代に聴いてほしい」と考えたとしても、こういう道は絶対に思いつかなかったでしょうし、仮にもしやりたいと思ったとしてもやり方がわからなかったでしょうね。パソコンの使い方とか…。

●そこからか(笑)。

中野:だから最初は「え? 大丈夫かな?」とたぶんみんな思っていたんですけど、多保さんが「みんなちゃんと芯があるから大丈夫」と言ってくださったし、自分たちのやりたいことや意見も出させてもらったし、いい感じでまとまったと思います。

●おそらく、多保さんが全部作ってきて「これやりましょう」と言われたら出来なかったでしょうね。実はDrop'sは頑固なバンドなので。

中野:よくわかってらっしゃる(笑)。多保さんも「アイディアあったらどんどん言って」と言ってくださったし、やりやすかったです。

●「Cinderella」はアレンジやレコーディングも一緒にやったということですが、各楽器はどうでした?

荒谷:ギターだけちょっと特殊で、この曲はギターを2本重ねているんですけど、結構な数で時間がかかるので、先にギターを録ったんです。それにこの曲はギターでプラック音を出しているんですけど、それも初めての試みで。初めてのチャレンジが多かったですね。

●ベースはどうでした?

小田:最初にギターを録っていることもあって、この曲はクリックを聴きながら録ったんです。今までもクリックを聴きながら録ることはあったんですけど、ここまで忠実にしたのは初めてで。だからリズム隊2人はかなり練習したんです。

●なるほど。

石川:小田が言っていたようにクリックに合わせてずっと練習していたんですけど、クリックに合わせるにしても速かったり遅かったりすることを再確認して、演奏自体がすごく難しかったですね。合わせればいいという問題でもないなということがだんだんわかってきたというか…世の中のミュージシャンはみんなわかっていることだと思うんですけど(笑)…クリックに合わせつつ音の雰囲気を出すことに向き合ういい機会になったんです。練習にもなったし刺激的でした。

●メロディのニュアンスも新鮮ですよね。

中野:細かい音符が詰まっていたり、今までにないメロディなので発音に気をつけたりとかして。歌に関しては結構苦労しました。

●「Cinderella」以外の4曲はこの4人になって以降作ってきた曲ですよね。新しい体制になって、曲作りのアプローチや視点に変化はありました?

中野:ミナ子さんが加入して、色んなリズムというか曲を教えてくれたんです。新しい音楽も古い音楽も。そういうところからインスピレーションを受けて、いろんな切り口から曲作りをするようになりました。ただコードを弾いて作るだけじゃなくて、例えばリズムから作るとか。そういう引き出しが増えたような気がします。

●ふむふむ。

中野:それにミナ子さんだけじゃなくて、みんながそれぞれ「最近こういう曲が好きなんだけど」って言って、そういう曲の要素を自分たちなりに採り入れてみたり。

石川:メンバー専用の“参考動画アカウント”っていうLINEグループを作っていて、そこで最近聴いている曲の動画URLをみんながひたすらアップするんです。そこでみんなが「これいいじゃん!」となったら、その曲からヒントを得て曲を作ったりしていて。

●そういうこともあって、音楽的な幅と視野が拡がっているんですね。M-2「新しい季節」は、まさに新体制になったDrop'sの心境を綴ったような曲ですが。

中野:「新しい季節」は上京してすぐに作ったんですけど、その時の不安なんかも含めてそのまま書いた感じですね。“本当に私たちはやっていけるのか?”とか思っていた時期もあったんですけど、でも「私は音楽を鳴らすために来たんだ! もっとがんばれ!」っていう感じで作ったんです。

●ふむふむ。

中野:今作はまず「Cinderella」があって、「新しい季節」は新しくなったDrop'sのことを歌っているので今作に入れたくて。その他の曲は冬に出す作品というところもありつつ、バランスを見つつ収録曲を選んでいったんです。

●作品タイトルは『organ』ですが、オルガンは「ふたりの冬」で使っているんですよね。

中野:はい。作品としては冬のイメージがあって、冬の朝の静かでキラキラした感じの言葉を探していて、“『organ』はどうだろう?”と思いついたんです。ちょうどそのとき「ふたりの冬」のオルガンを入れるか/入れないかの相談をしているときだったので、だったら作品タイトルを『organ』にして、「ふたりの冬」にオルガンを入れようということで。このオルガンは荒谷が弾いてるんです。

●あ、そうですよね。荒谷さんはもともと弾けるんですか?

荒谷:私はもともとピアノを習っていたんですけど、クラシックばかりでポップスとかロックはやっていなかったので、「ふたりの冬」でオルガンを入れようということになって、ちょっと勉強して挑みました。

●現体制になって新しい季節を迎えたDrop'sを存分に感じることができる作品が完成しましたが、さきほど「もっと同世代の人たちに聴いてほしい」という話がありましたよね。今後の目標はどういうところですか?

小田:近いところでいうと、来年結成10周年なんですよ。

●え! もう10周年なんですか?

中野:高校1年生のときに結成したので。

●こんなに若いのに。

一同:ハハハ(笑)。

小田:なのでライブもリリースも色々と予定していて、来年の10周年を充実あるものにしたいです。

●来年の10周年も楽しみにしてます。では最後に聞きたいんですが、今日初めて石川さんにインタビューさせていただきましたけど、すごくしっかりしている人のような印象があるんです。メンバーから見た石川さんはどういう人ですか?

中野:完全に…すごく頼ってます(笑)。私たちは札幌でぬくぬく育ってきたので、すごくありがたいです。

小田:お姉さんっていう感じですね。客観的に見てくれるし、そういう人が内側にいてくれると、バンドの雰囲気とかもガラッと変わりました。

荒谷:自分たちの周りにはいなかったタイプなんですよ。熱血というかストイックというか。私たちはずっと一緒にいるから、いい意味でも悪い意味でもお互いの意見を言い合うような感じはだんだんなくなってきて、空気で分かり合ってるような感じだったんです。でもそこに熱血でストイックな人が入ってくれて、すごく刺激的ですね。

interview:Takeshi.Yamanaka

 

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