昨年12月にミニアルバム『NUMBER SEVEN』でメジャーデビューを果たして以降、これまで以上の加速度で上昇を続けてきたTHE PINBALLS。その勢いとバンドとしての状態の良さを閉じ込めたような気迫みなぎる傑作を、彼らが創り上げた。メジャー1stフルアルバム『時の肋骨』は、時の流れを軸に構成された全12編の物語のような作品となっている。Vo.古川貴之によるファンタジックな詞世界が冴え渡り、独自の世界観をより一層深めた今作を手に4人は、かつてない高みへと駆け上がっていく。
「我々は神を研究するのではなく、神と一緒に踊っているんだなということを最近は感じています。どうせなら神様と議論するよりは、一緒に踊りたいじゃないですか」
●今回のメジャー1stフルアルバム『時の肋骨』は、“時の流れ”を軸に構成された作品ということですが。
古川:前回のフルアルバム(『THE PINBALLS』/2015年)も12曲入りで“季節”をテーマにしていたんですけど、今回は“1日”の時間の流れをアルバム全体で表現したいという気持ちがあったんです。やっぱりアルバムは、12曲入りというのが好きなんですよね。“12”というのは美しい数字だなという感覚が自分の中にあって。
●“12”が持つ美しさとは?
古川:“12”というのは人間の生活の中で“時間”にすごく密着した数字で、たとえば1年は12ヶ月だし、1日の時間も12進法で数えるじゃないですか。きっと人間の生活と切っても切り離せない数字なんだろうなと思うんですよ。太陰暦もそうですけど、月が12回満ち欠けしたらまた同じ季節が巡ってくるとか、たぶん人間は経験的にそのことを昔から知っていたんだと思います。
●古代からずっと受け継がれているものですからね。
古川:音楽と数字ってすごく密接な関係にあると思うので、俺らは今までの作品タイトルにも数字を入れてきたんです。でも『PLANET GO ROUND』(5thミニアルバム/2016年)でタイトルに数字を入れなかったのは、今思えば太陰暦とか月の満ち欠けといった時間の流れを無意識に考えていたからなんだろうなと思うんですよ。
●直接的に数字は入っていなくても、タイトル自体が“12”とつながる言葉になっている。
古川:だから今回も人間の生活に密着した“12”という、時間の流れを表すアルバムにしたくて全ての曲を書き下ろしたんです。
●今作には“回る”という言葉や宇宙に関する言葉が出てきますが、それは『PLANET GO ROUND』からつながっているように感じていたんです。
古川:自分でもそう思っていて。フルアルバムって“集大成”みたいなものにしたくなっちゃうので、結局は自分が一番語りたいテーマを選ぶんだなと思いました。
●今の自分が一番語りたいテーマを選んだ結果、自然と“時の流れ”というテーマに辿り着いた。
古川:今回“時の流れ”を意識したのは、音楽と時間に共通するところがあるからだと思うんです。今まで『NUMBER SEVEN』(メジャー1stミニアルバム/2017年)や『ten bear(s)』(1stミニアルバム/2011年)のようにタイトルに数字を入れてきたのは、それが音楽に辿り着くためのキーワードになるということを直感的にわかっていたからなんだろうなっていう。自分の中で数字を使うことが、音楽を表現するための手段になっていたんだと思います。
●直感的に理解していたことを、ちゃんと言葉で表現できるようになってきたのかなと。
古川:作品を作ってきた中で、数字と音楽の関係性がだんだんわかってきたというか。たとえば耳で聴いた時にその音が高いというのは、瞬時に脳が何kHzかというのを勝手に計算してくれて、そういう音に聞こえているわけじゃないですか。それって“神様”みたいな存在ともつながるものだと思っていて。
●“神様”?
古川:“神様”というとどうしても宗教的なイメージになっちゃうんですけど、実はこの世に隠れている“法則”や“真理”のことなんじゃないかと思うんですよ。そういう“隠された真理”みたいなものを、人間はキャッチできるように元々できているんだなと気付いて。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・)ライプニッツという人が“音楽は人間が無意識に数を計算することで得られる魂の快楽である”と言っているのを本で読んだんです。つまり音楽というのは、無意識に神を感じられる“装置”なんだなと。
●音楽を通じて、この世の隠れてた法則や真理に気付けたりもする。
古川:そういう意味で『時の肋骨』というのは、まさに“神”のことを言っていて。人間の肋骨が片側12本なのも偶然ではないんじゃないかと思うんですよ。片側12本で、それが対になって24本ある。1日も12時間が2回繰り返して24時間で次の日に進むというのは、偶然ではない気がするんです。
●そう考えるとギターの弦も基本的には6本で、12の半分なわけですよね。
中屋:“12”という数字に関して言えば、俺らがやっているロックンロールというものにもつながっていて。ロックンロールは元々、ブルースとカントリーがクロスオーバーしてできたもので、根本にあるものはブルースなんです。ブルースの曲って基本的に全て12小節で構成されていて、3段の詞があってという繰り返しになっているんですよね。俺はすごくブルースが好きなので、その“3”とか“12”という数字をすごく大事にしているんですよ。
古川:きっと気持ち良いものというのが元々、決まっているんですよね。それを解析していくと、“12だったんだ”ということがわかるというか。“黄金比”とかもそうですけど、そういう安定する数があるんだと思います。音楽は遊んで楽しんでいるうちに、無意識にそれを勉強できるものなんだなっていう。
●研究して真理に辿り着くのではなく、音を楽しむ中でそれを知ることができる。
古川:我々は神を研究するのではなく、神と一緒に踊っているんだなということを最近は感じています。どうせなら神様と議論するよりは、一緒に踊りたいじゃないですか。そういうイメージを『時の肋骨』というタイトルには込めているんです。みんな、神の国で踊っているというか。そういう意味では、“生命の賛歌”みたいな感覚もあって。
●“生命の賛歌”というのは?
古川:音を聴いたら勝手に脳が計算してくれるということは、俺らは神の言葉を聴くデバイスを持っているということで。人間は元々そういうものを楽しむことができるものを持っているんですよね。だから“神と踊ろう”というのは、“生命を大いに楽しみなさい”ということだと思うんですよ。
●なるほど。
古川:だからM-1「アダムの肋骨」の中でも、“どんな種類のネズミも、身分の違う王様も奴隷も、どんな人種もみんな一緒に踊ろう”ということを歌っているんです。
●歌詞の中で“フランク人だろうが サラセン人だろうが”という例をあえて出しているのは、どういう理由から?
古川:これは十字軍をイメージしたんです。争っていたイメージが一番強いかなと思って。簡単に言うと“戦争をやめて、みんなで遊ぼう”ということを言い方を変えて言っているだけなんですよね。
●そういう意味だったんですね。M-5「BEAUTIFUL DAY」に出てくる“weather vane”も風見鶏のことですが、M-8「風見鶏の髪飾り」という曲もあって。“風見鶏”という言葉も何かキーになっているんでしょうか?
古川:その2曲は対(つい)になっているんですけど、実は今回のアルバム全体がシンメトリーな構造になっているんですよ。夜に始まって朝から午後に向かっていって、また夜に向かっていくという時間の流れが全体にあって。たとえば「アダムの肋骨」とM-12「銀河の風」はどちらも夜中の歌なので、対になっているんです。M-2「水兵と黒い犬」とM-11「COME ON」も両方とも夜の歌なので対になっていて、M-3「DAWN」とM-10「DUSK」も“朝焼け”と“夕暮れ”で対になっているという。
●2曲ずつ、何らかで対になっているんですね。
古川:M-4「失われた宇宙」は朝で、M-9「回転する宇宙の卵」は夕暮れの前くらいということで、対になっていて。だから「失われた宇宙」を逆回転させたものを、「回転する宇宙の卵」の中にくっつけたりもしているんですよ。
●そういう仕掛けもあると。
古川:それで先ほどの「BEAUTIFUL DAY」と「風見鶏の髪飾り」はどちらも風見鶏の話というところで、対になっていて。CDのブックレットを見て頂くとわかるんですけど、デザイン上で対になっていたりもするんです。
●M-6「CRACK」とM-7「ヤンシュヴァイクマイエルの午後」は、どういう意味で対になっているんですか?
古川:この2曲は歌詞の内容的にリンクしているわけではないんですけど、時間的には対になっていて。「ヤンシュヴァイクマイエルの午後」はタイトル通り午後のことで、「CRACK」はお昼前のちょっとバタバタした時間帯なのでちょっと激しい曲になっているんです。
●曲調にその時間帯の雰囲気が反映されていたりもすると。「CRACK」の歌詞に出てくる“Cretaceous radio”というのは“白亜紀のラジオ”という意味ですが、これはどんなイメージから?
古川:一番最初にリリースした「アンテナ」(1stシングル『アンテナ』/2011年)という曲のサビで、“白亜紀のラジオ”と歌っているんです。
●そことつながっていたんですね!
古川:昔から俺らのことを好きな人から見ると、色々と変化しているところはあるだろうし、“あなたたちが思っていた姿から100%変わらなかったわけではないよな”とは思うんです。それでもし傷付けたり失望させたりすることがあったとして、俺らのことを嫌ってくれても良いんだけど、俺はあなたたちが愛してくれたことを絶対に忘れたくないし、今でも感謝しているというか…。要するに“俺たちは昔と変わっていないぜ”ということを言いたいだけなんですよね。“いつだって最初に戻るからな”っていう。
●だから“Get back to Cretaceous radio”と歌っているんですね。これは今のお話を聞かなければ、わからなかったです。
古川:絶対にわからないことだと思いますね。ただ、そういう想いをTwitterとかで“お前たちをいつも愛しているから”と言うよりは、作品の中に入れたほうが自分らしいかなと思って。このインタビューを読んでくれた人に、文字から愛情が伝われば良いなと思います。
●全体の構造も作り込まれている上に1曲1曲にも想いが込められていて、自分たちでも本当に良いアルバムができたと実感できているのでは?
古川:やっぱり完璧とは言えないし、これからもっと良い作品を作っていきたいという意志はあるんですけど、作り終えた時に“このままやめたほうが良いんじゃないかな”と思えるくらいの手応えはありました。美しい作品ができたし、自分にとってすごく意味のある作品ができたので“これで終わっても良い”と思えたんですよね。できあがってみて喪失感があるくらい、意味のあるものが作れたという実感はあります。
●現時点でやれることはやりきったというか。
中屋:現状この4人でできることの精一杯というか。この先も活動していく中で変わっていくんだろうけど、今このタイミングの4人がこれなのかなっていう気はします。
●これから変わっていく可能性もある?
中屋:この4人でやっている以上、大本は変わらないと思います。小さい頃から好きだった音楽や映画とか、そういうものってずっと変わらないじゃないですか。大本は変わらないけれど、たぶんその中でも時期やメンバーの気持ちの違いによって、色んな表情みたいなものは出るんじゃないかなと。
●それこそ時間は常に流れているわけですからね。
古川:CDって、盤の中に時間を封じ込められる芸術じゃないですか。本当にテーマとして“時の流れ”を意識しながら作ったからこそなのかもしれないですけど、今回のアルバムは時を超えて楽しめる作品になっているというか。たとえ今すぐ爆発的に広がったり受け入れられたりしなくても、100年後に聴いた人に“これはすごい作品だな”と絶対に思ってもらえるような、意味のあるものが作れたという自負はあるんですよ。そこが『時の肋骨』というタイトルともリンクしていて、自分でも面白いなと思います。
●全てがつながっている。
古川:『時の肋骨』って一見よくわからないタイトルだと思うんですけど、要約すれば“お前らを愛している”っていうことなんですよね。ライブに来てくれたら絶対に楽しませるし、来なくたって愛しているから。俺らが本当に言いたいのは“I Love You”だったり“楽しもうぜ”ということだったり、“俺たち最高だぜ!”ということくらいなんですよ。
●これからツアーに向けて、自分たちの気持ちも高まっていくのでは?
中屋:今回のツアーは全てワンマンで今まで以上に本数も多いし、各会場のキャパも大きくなっているんですよ。キャパをどんどん広げられている状況というのはすごく幸福なことだと思うけど、そのぶんメンバー4人がやらなきゃいけないことも増えていて。“頑張らなきゃな”という気持ちはすごくあるので、今までで一番楽しいライブにできたらなと思っています。
古川:自分のケツを叩くためにも言うんですけど、“俺らは世界一カッコ良いと思ってやっているので、絶対に観に来て下さい。必ず幸福な気持ちにさせて満足させてみせます!”ということをここで明言しておきます。
Interview:IMAI